ふぁんたぢぃ勇者

マイきぃ

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ふぁんたぢぃ龍族

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 ここは闘技場。観客が集い、金を賭けあい、一喜一憂する場所。勇者の経営する施設の1つだ。おれはこの闘技場でナンバーワンを務めさせてもらっている邪竜ワイバーンの炎王。もちろん龍族だ。

 アキトと戦って負けてから、おれはやつの下僕となった。だが、悪い気はしない。やつは、おれをさげすむわけでもなく、奴隷として扱うわけでもない。まるで、対等の友人のように接してくれている。

 それよりも、やつに負けたおかげで竜族のしきたりから開放され、自由になったことのほうが、おれにとっては大きな出来事だ。もう、何も気にせず、自由気ままにこの世界を謳歌おうかすることができるのだからな。

 ただし、それについてはいくつか制限がある。そのうちの一つは、人間の居住区ではドラゴンの姿にならないこと。わたしは人型になることができるので、その能力を使って人間たちのなかに溶け込んでいる。

 人間界は楽しいことばかりで、本当に飽きない。それなのに、人間は寿命が100年もないなんて、もったいない気がしてならない。人間とは、なんて貴重な生物なのだろう。と、おれは思っている。

 それともう一つ、アキトとの契約により、週に一度だけ、闘技場で戦うことを義務付けられている。それ以外は、自由だ。

 闘技場での戦闘は、一度出場するだけで100万ペニカももらえるので、結構な金持ちになることができた。5000万ペニカ貯まったら、豪邸を立てて、おれの女、ワイアームの桜子と一緒に住む予定だ。

 ともあれ、この収入を維持するには、ここで勝ち続けなければならない。おれは、そのために何度も死線をくぐった。

 ドラゴンスレイヤーを持った剣士などとも戦ったことがあるが、あれはひどかった。剣士が弱くて助かったが、武器の威力は桁違い。触れただけで、体が焼き切れるような、恐ろしい武器だった。

 実際、ここまで勝利できているのは、おれが龍族であるのと、マッチングに、何らかの手が入れられているおかげだ。おれは五体満足で戦うことができるのに対して、相手は疲弊した状態で戦うことを余儀なくされる。

 強そうな参加者は、一番厳しい道のりを歩くようにトーナメントが決定され、シードや、不戦勝といったことは、ほとんどない。たいしておれは、その勝利者と戦うだけの簡単なお仕事だ。なので、勝って当然なのである。

 ただ、今日は勝手が違った。相手は、どこからともなくやって来た乱入者だ。トーナメントの上位候補者を潰して、権利を乗っ取ったらしい。さらに、そいつは『転生者リンゴ』と名乗り、物理攻撃最強は誰だと騒いでいる。しかも女だ。

 闘技場の運営側は、彼女の乱入を許可し、戦闘を続行させた。観客は、こういったアクシデントを望んでいる。こんな素晴らしい見せ物を取りやめては、面白みに欠けるということだ。

 その乱入者は、トーナメントを軽々と勝利し、おれと戦う権利を有した。本当に厄介だが、戦わざるをえない。

 運営の魔法使いが、大声を出して会場を沸かせる。

「さあ、この時がやってまいりました。帝国最強のグラディエーター『龍・炎王』! 対する挑戦者は、どこからともなく現れた、自らを転生者を呼ぶ、『リンゴ』! トーナメントに乱入し、ただひたすら強いものとの戦いを望むいかれた女戦士! 勝負の行方はいかにっ!」

 ──見た目は、どこにでもいるボーっとしている少女だ。だが、やつのオーラは他のやつとは桁違いだ。おれにはわかる! この状態では、勝てる気がしない……。

「レディーゴー!」

 魔法使いの開始の合図で、戦いが始まった。おれは、バトルアクスを握りしめる。

 リンゴは、大剣を手に取り、軽々と振り回す。そして、踏み込んで切りかかる。瞬間的な動きは、おれの3倍はある。

 リンゴの容赦ないこうげきは、おれに反撃のチャンスを与えてはくれない。受ける一方だ。このままでは、いずれ、やられてしまう。

 おれは、後ろに飛んで距離を取り、魔法を放つため、詠唱を開始する。使う魔法は周囲の重力を操作し、相手の動きを鈍くする魔法『グラビティーフィールド』だ。

「あ~あ、魔法なんて使っていいんすかねぇ。普通に戦ってれば、勝機はあったかもしれないんすけどねぇ。まあ、どちらにしろ、わたしが最強にはかわりないっす」

 少女は、粋な口調で言い放つと、再度踏み込み、攻撃を仕掛けきた。さっきの踏み込みの5倍以上の速度だ。これでは詠唱が間に合わない!

「ぐ、グラビティー……」

「魔法に頼るなんざ、クズのすることっス」

 リンゴの大剣が、おれの腹を横殴りにする。おれはそのまま、体をくの字にして吹き飛び、壁に激突して一時的に気を失った。その瞬間勝負は決まった。もし、おれが龍の姿に戻ってさえいればなどという言い訳はしない。それでもやつは勝っただろう。やつは、おれより強い信念を持った、本物の戦士だ。

 おれが気が付くころには、やつの姿はなかった。強いやつを求めで、どこかへ行ってしまったのだろうか。それよりも、おれは負けた。最強の座を追われてしまうことになる。

 運営の魔法使いが、おれにこっそりと紙きれを渡した。おそらく、それは解雇通知だろう。破り捨てるのも申し訳ないので、一度目を通した。その内容は……。

『「今日は負けてしまった! だが、おれは! 今日の屈辱を忘れない! もっと強くなってみんなの期待に応えよう!」 と、自信を持って大声で叫べ』

 ……とのことだった。

 おれは、その通りに観客に向かって叫んだ。すると、観客はその声に答えてくれた。

「ああ、おれたちは、いつもお前を見に来ているんだ!」
「今度負けたら承知しねえぞ!」
「今日のは事故だ、気にすんじゃねー」
 …………。

 彼らは、おれのファンたちだった。ものすごい声援を返してくれた。ここまで言われては、まだ引退するわけにはいかない。

 あとで聞いた話だが、乱入してきたリンゴは、不正参加のため、おれのナンバーワンの地位は守られたようだ。だが、世界は広い。まだまだ強いやつはいる。おれは、このことを教訓に、日々、鍛錬をするようになった。

「次、戦うことがあったら、必ずおれが勝って見せる!」

 それが、俺の目標となった。(ついでに勇者にも勝ちたい※無理)
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