5 / 6
ふぁんたぢぃ龍族
しおりを挟む
ここは闘技場。観客が集い、金を賭けあい、一喜一憂する場所。勇者の経営する施設の1つだ。おれはこの闘技場でナンバーワンを務めさせてもらっている邪竜ワイバーンの炎王。もちろん龍族だ。
アキトと戦って負けてから、おれはやつの下僕となった。だが、悪い気はしない。やつは、おれをさげすむわけでもなく、奴隷として扱うわけでもない。まるで、対等の友人のように接してくれている。
それよりも、やつに負けたおかげで竜族のしきたりから開放され、自由になったことのほうが、おれにとっては大きな出来事だ。もう、何も気にせず、自由気ままにこの世界を謳歌することができるのだからな。
ただし、それについてはいくつか制限がある。そのうちの一つは、人間の居住区ではドラゴンの姿にならないこと。わたしは人型になることができるので、その能力を使って人間たちのなかに溶け込んでいる。
人間界は楽しいことばかりで、本当に飽きない。それなのに、人間は寿命が100年もないなんて、もったいない気がしてならない。人間とは、なんて貴重な生物なのだろう。と、おれは思っている。
それともう一つ、アキトとの契約により、週に一度だけ、闘技場で戦うことを義務付けられている。それ以外は、自由だ。
闘技場での戦闘は、一度出場するだけで100万ペニカももらえるので、結構な金持ちになることができた。5000万ペニカ貯まったら、豪邸を立てて、おれの女、ワイアームの桜子と一緒に住む予定だ。
ともあれ、この収入を維持するには、ここで勝ち続けなければならない。おれは、そのために何度も死線をくぐった。
ドラゴンスレイヤーを持った剣士などとも戦ったことがあるが、あれはひどかった。剣士が弱くて助かったが、武器の威力は桁違い。触れただけで、体が焼き切れるような、恐ろしい武器だった。
実際、ここまで勝利できているのは、おれが龍族であるのと、マッチングに、何らかの手が入れられているおかげだ。おれは五体満足で戦うことができるのに対して、相手は疲弊した状態で戦うことを余儀なくされる。
強そうな参加者は、一番厳しい道のりを歩くようにトーナメントが決定され、シードや、不戦勝といったことは、ほとんどない。たいしておれは、その勝利者と戦うだけの簡単なお仕事だ。なので、勝って当然なのである。
ただ、今日は勝手が違った。相手は、どこからともなくやって来た乱入者だ。トーナメントの上位候補者を潰して、権利を乗っ取ったらしい。さらに、そいつは『転生者リンゴ』と名乗り、物理攻撃最強は誰だと騒いでいる。しかも女だ。
闘技場の運営側は、彼女の乱入を許可し、戦闘を続行させた。観客は、こういったアクシデントを望んでいる。こんな素晴らしい見せ物を取りやめては、面白みに欠けるということだ。
その乱入者は、トーナメントを軽々と勝利し、おれと戦う権利を有した。本当に厄介だが、戦わざるをえない。
運営の魔法使いが、大声を出して会場を沸かせる。
「さあ、この時がやってまいりました。帝国最強のグラディエーター『龍・炎王』! 対する挑戦者は、どこからともなく現れた、自らを転生者を呼ぶ、『リンゴ』! トーナメントに乱入し、ただひたすら強いものとの戦いを望むいかれた女戦士! 勝負の行方はいかにっ!」
──見た目は、どこにでもいるボーっとしている少女だ。だが、やつのオーラは他のやつとは桁違いだ。おれにはわかる! この状態では、勝てる気がしない……。
「レディーゴー!」
魔法使いの開始の合図で、戦いが始まった。おれは、バトルアクスを握りしめる。
リンゴは、大剣を手に取り、軽々と振り回す。そして、踏み込んで切りかかる。瞬間的な動きは、おれの3倍はある。
リンゴの容赦ないこうげきは、おれに反撃のチャンスを与えてはくれない。受ける一方だ。このままでは、いずれ、やられてしまう。
おれは、後ろに飛んで距離を取り、魔法を放つため、詠唱を開始する。使う魔法は周囲の重力を操作し、相手の動きを鈍くする魔法『グラビティーフィールド』だ。
「あ~あ、魔法なんて使っていいんすかねぇ。普通に戦ってれば、勝機はあったかもしれないんすけどねぇ。まあ、どちらにしろ、わたしが最強にはかわりないっす」
少女は、粋な口調で言い放つと、再度踏み込み、攻撃を仕掛けきた。さっきの踏み込みの5倍以上の速度だ。これでは詠唱が間に合わない!
「ぐ、グラビティー……」
「魔法に頼るなんざ、クズのすることっス」
リンゴの大剣が、おれの腹を横殴りにする。おれはそのまま、体をくの字にして吹き飛び、壁に激突して一時的に気を失った。その瞬間勝負は決まった。もし、おれが龍の姿に戻ってさえいればなどという言い訳はしない。それでもやつは勝っただろう。やつは、おれより強い信念を持った、本物の戦士だ。
おれが気が付くころには、やつの姿はなかった。強いやつを求めで、どこかへ行ってしまったのだろうか。それよりも、おれは負けた。最強の座を追われてしまうことになる。
運営の魔法使いが、おれにこっそりと紙きれを渡した。おそらく、それは解雇通知だろう。破り捨てるのも申し訳ないので、一度目を通した。その内容は……。
『「今日は負けてしまった! だが、おれは! 今日の屈辱を忘れない! もっと強くなってみんなの期待に応えよう!」 と、自信を持って大声で叫べ』
……とのことだった。
おれは、その通りに観客に向かって叫んだ。すると、観客はその声に答えてくれた。
「ああ、おれたちは、いつもお前を見に来ているんだ!」
「今度負けたら承知しねえぞ!」
「今日のは事故だ、気にすんじゃねー」
…………。
彼らは、おれのファンたちだった。ものすごい声援を返してくれた。ここまで言われては、まだ引退するわけにはいかない。
あとで聞いた話だが、乱入してきたリンゴは、不正参加のため、おれのナンバーワンの地位は守られたようだ。だが、世界は広い。まだまだ強いやつはいる。おれは、このことを教訓に、日々、鍛錬をするようになった。
「次、戦うことがあったら、必ずおれが勝って見せる!」
それが、俺の目標となった。(ついでに勇者にも勝ちたい※無理)
アキトと戦って負けてから、おれはやつの下僕となった。だが、悪い気はしない。やつは、おれをさげすむわけでもなく、奴隷として扱うわけでもない。まるで、対等の友人のように接してくれている。
それよりも、やつに負けたおかげで竜族のしきたりから開放され、自由になったことのほうが、おれにとっては大きな出来事だ。もう、何も気にせず、自由気ままにこの世界を謳歌することができるのだからな。
ただし、それについてはいくつか制限がある。そのうちの一つは、人間の居住区ではドラゴンの姿にならないこと。わたしは人型になることができるので、その能力を使って人間たちのなかに溶け込んでいる。
人間界は楽しいことばかりで、本当に飽きない。それなのに、人間は寿命が100年もないなんて、もったいない気がしてならない。人間とは、なんて貴重な生物なのだろう。と、おれは思っている。
それともう一つ、アキトとの契約により、週に一度だけ、闘技場で戦うことを義務付けられている。それ以外は、自由だ。
闘技場での戦闘は、一度出場するだけで100万ペニカももらえるので、結構な金持ちになることができた。5000万ペニカ貯まったら、豪邸を立てて、おれの女、ワイアームの桜子と一緒に住む予定だ。
ともあれ、この収入を維持するには、ここで勝ち続けなければならない。おれは、そのために何度も死線をくぐった。
ドラゴンスレイヤーを持った剣士などとも戦ったことがあるが、あれはひどかった。剣士が弱くて助かったが、武器の威力は桁違い。触れただけで、体が焼き切れるような、恐ろしい武器だった。
実際、ここまで勝利できているのは、おれが龍族であるのと、マッチングに、何らかの手が入れられているおかげだ。おれは五体満足で戦うことができるのに対して、相手は疲弊した状態で戦うことを余儀なくされる。
強そうな参加者は、一番厳しい道のりを歩くようにトーナメントが決定され、シードや、不戦勝といったことは、ほとんどない。たいしておれは、その勝利者と戦うだけの簡単なお仕事だ。なので、勝って当然なのである。
ただ、今日は勝手が違った。相手は、どこからともなくやって来た乱入者だ。トーナメントの上位候補者を潰して、権利を乗っ取ったらしい。さらに、そいつは『転生者リンゴ』と名乗り、物理攻撃最強は誰だと騒いでいる。しかも女だ。
闘技場の運営側は、彼女の乱入を許可し、戦闘を続行させた。観客は、こういったアクシデントを望んでいる。こんな素晴らしい見せ物を取りやめては、面白みに欠けるということだ。
その乱入者は、トーナメントを軽々と勝利し、おれと戦う権利を有した。本当に厄介だが、戦わざるをえない。
運営の魔法使いが、大声を出して会場を沸かせる。
「さあ、この時がやってまいりました。帝国最強のグラディエーター『龍・炎王』! 対する挑戦者は、どこからともなく現れた、自らを転生者を呼ぶ、『リンゴ』! トーナメントに乱入し、ただひたすら強いものとの戦いを望むいかれた女戦士! 勝負の行方はいかにっ!」
──見た目は、どこにでもいるボーっとしている少女だ。だが、やつのオーラは他のやつとは桁違いだ。おれにはわかる! この状態では、勝てる気がしない……。
「レディーゴー!」
魔法使いの開始の合図で、戦いが始まった。おれは、バトルアクスを握りしめる。
リンゴは、大剣を手に取り、軽々と振り回す。そして、踏み込んで切りかかる。瞬間的な動きは、おれの3倍はある。
リンゴの容赦ないこうげきは、おれに反撃のチャンスを与えてはくれない。受ける一方だ。このままでは、いずれ、やられてしまう。
おれは、後ろに飛んで距離を取り、魔法を放つため、詠唱を開始する。使う魔法は周囲の重力を操作し、相手の動きを鈍くする魔法『グラビティーフィールド』だ。
「あ~あ、魔法なんて使っていいんすかねぇ。普通に戦ってれば、勝機はあったかもしれないんすけどねぇ。まあ、どちらにしろ、わたしが最強にはかわりないっす」
少女は、粋な口調で言い放つと、再度踏み込み、攻撃を仕掛けきた。さっきの踏み込みの5倍以上の速度だ。これでは詠唱が間に合わない!
「ぐ、グラビティー……」
「魔法に頼るなんざ、クズのすることっス」
リンゴの大剣が、おれの腹を横殴りにする。おれはそのまま、体をくの字にして吹き飛び、壁に激突して一時的に気を失った。その瞬間勝負は決まった。もし、おれが龍の姿に戻ってさえいればなどという言い訳はしない。それでもやつは勝っただろう。やつは、おれより強い信念を持った、本物の戦士だ。
おれが気が付くころには、やつの姿はなかった。強いやつを求めで、どこかへ行ってしまったのだろうか。それよりも、おれは負けた。最強の座を追われてしまうことになる。
運営の魔法使いが、おれにこっそりと紙きれを渡した。おそらく、それは解雇通知だろう。破り捨てるのも申し訳ないので、一度目を通した。その内容は……。
『「今日は負けてしまった! だが、おれは! 今日の屈辱を忘れない! もっと強くなってみんなの期待に応えよう!」 と、自信を持って大声で叫べ』
……とのことだった。
おれは、その通りに観客に向かって叫んだ。すると、観客はその声に答えてくれた。
「ああ、おれたちは、いつもお前を見に来ているんだ!」
「今度負けたら承知しねえぞ!」
「今日のは事故だ、気にすんじゃねー」
…………。
彼らは、おれのファンたちだった。ものすごい声援を返してくれた。ここまで言われては、まだ引退するわけにはいかない。
あとで聞いた話だが、乱入してきたリンゴは、不正参加のため、おれのナンバーワンの地位は守られたようだ。だが、世界は広い。まだまだ強いやつはいる。おれは、このことを教訓に、日々、鍛錬をするようになった。
「次、戦うことがあったら、必ずおれが勝って見せる!」
それが、俺の目標となった。(ついでに勇者にも勝ちたい※無理)
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる