ふぁんたぢぃ勇者

マイきぃ

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ふぁんたぢぃ転生

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 ──わたしは物理林檎ぶつりりんご。この世界ではリンゴと名乗ってるっす。元は、日本の女子校生だったんすが、トラックにひかれてテンプレ転生というので、異世界にやってきたっす。

 転生者は、必ずチート能力を得るらしいんすが、わたしの場合は、魔法無効化、物理攻撃能力特化という、わたし好みのチート能力を得ることができたっす。

 基本的にわたしは魔法が嫌いっす。ゲームでもそうだったっす。男のくせに女キャラを使い、派手なエフェクトとキラキラなエフェクトが混ざったふぁんたぢぃな魔法を後方から撃つ芋なやつは、ブラックリストに入れていたぐらいっす。男なら黙って前衛で突っ込め! って言いたいっす。

 この世界は、魔法職以外にも戦士職などがあるので、少しは骨のあるやつがいたっすが、まだまだわたしを満足させる使い手はいなかったっす。そんな時っす。伝説の勇者に会ったのは…………。

──勇者邸宅前 青バラの園──

 やつは、青いバラの咲くフラワーガーデンの中央の噴水の前で、わたしを待っていた。

「このおれに、何か用か?」

 勇者はキザな声で、わたしの呼び出しに答えた。

「あんたが勇者っすか、一勝負してほしいんすけど」

「一勝負? 何のために?」

「わたしが、いや、物理攻撃が最強ということを証明するためっすよ」

「ほう、それでおれに戦いを挑んだ。そういうわけか。だが、おれは物理攻撃最強というわけではないのだが、それでもいいのか」

「まさか、勇者を名乗るなら、物理攻撃においても最強なはず……」

「リンゴ、とか言ったな。おれの耳にもおまえのうわさは届いている。魔法を嫌う、孤独の冒険者。いや、荒くれ者か。そして、わたしの経営する闘技場に乱入し、ワイバーンを倒た大剣使い。その強さ、認めよう」

「もう知られちゃってるんすねぇ。なら話が早いっす。やりましょう」

「ただ、やるんじゃあつまらないな。どうだ、賭けをしないか?」

「賭け?」

「おれに勝ったら、勇者のポストをやろう。勇者特権、これがあれば、この世界で自由を手にしたも同然だ。だが、負けたらおれの下僕になってもらう。どうだ、悪くない話だろ」

「あんた、正気か? 勇者特権っていったら……他人の家に勝手に入って好き勝手に荒らしても文句を言われない……それどころか、死んでも国王の目の前で小言を聞かされ復活できる……失敗しても、セーブしたところからやり直しができる……その他いろいろ!」

「よく知っているな。説明する手間が省けた。だが、勝ったらの話だ。負ければお前は下僕だぞ」

「どちらにしろ、あんたとは戦う運命なんすよ。わたしが最強という証をたてたいんでね」

「そうか、いいだろう」

 勇者は右手をかざす。すると、突然、空間が裂け、裂けた空間から立派な剣が出現した。

「我がエクスカリバーで相手をしよう。おっとこれじゃあフェアじゃないな。ならば、お前にも伝説の剣を使わせてやる」

 そう言って、勇者は左手をかざす。すると、とても強そうな剣が姿をあらわした。その剣は、わたしの目の前に突き刺さる。わたしは、その剣を握りしめた。

「おまえにぴったりの剣をチョイスした。破壊王の剣だ。それで戦うがよい」

「ふん、こんな剣を使わせて……あとで後悔するなよ!」

 ──なんだこれ……ものすごい力が湧いてくるんすが……。

 剣を振るたびに、激しい剣圧を巻き起こす。

 自分の力が倍化された気分っす。それに、初めて使った気がしない。まさに、わたしのために与えられた剣のようなきがするっす。わたしにこんなものを平気で与えるということは、この勇者はよほど力をもっているか、ただのばかのどちらか……。

「いくぞ! 勇者アキト! このわたしの剣のさびとなれ!」

 わたしは勇者に切りかかった。だが、勇者はその場で動かない。そのうえ、わたしの剣を受けようともしない。よけられなければ真っ二つになるだけ。

 ──それでいいんすか勇者! わたしは情けなどかけないっすよ!

 勇者を真っ二つにする意気込みで剣を振り下ろす。

 ────バシィッ!

 腕に激痛が走る。さらにその激痛は全身に広がり、気が付くと、わたしの体は吹っ飛んでいた。

 ──何が……起こった!?

 それを確認する暇もなく、アキトはエクスカリバーを振りかざし、剣から光のレーザーのようなものをとばしてきた。たぶん、あれは魔法じゃない。受けるのは危険だ! そう判断したわたしは必死でそれをよけた。だが、勇者は、わたしのよける場所へと次々と攻撃を繰り出してくる。

 ──この程度の連続攻撃なら……見切れる!

 タイミングをつかんだわたしは、再度間合いを詰め、勇者の頭めがけて剣を振り下ろした。アキトの攻撃後のすきを狙った攻撃だ。これは、かわせないはず。

 ────バシィッ!

 ──ああ、またっすか……勇者は動いていない。なのに……勇者の体が一瞬だけ変化したのを、わたしは見たっす……特有のスキルっすか? 固い金属のような……それよりもわたしの体力はもう半分以下っす……これじゃ、次にあんな攻撃をくらったら確実にアウトっす……。

 立ち上がって構えを取る。だが、視界には勇者の姿はなかった。

 ──勇者が……消えた……!?

「ああ、すきを見せてしまったね」わたしの耳元で声がした。「これで終わりにさせてもらうよ。速効アイテム『S印の痺れ粉』!」

 その声に反応し、わたしは振り向いた。だが、遅かった。わたしは、粉のようなものを体にふりかけられ、体が麻痺してしまった。さらに、動かなくなったわたしの喉元に、エクスカリバーの剣先を突き付けられた。

「どうやら、おれの、勝ちのようだ。じゃあ悪いけど、おれの下僕になってもらうことにするよ」

 そう言うと勇者は、怪しく光るリングを手にし、それをわたしの左腕にはめた。

「な……なにをした!?」

「それは、おれの下僕の印だよ。もし、わたしの命令に逆らうようなことがあれば、そのリングが魔物と化し、あーんなことやこーんなことをするだろう。まあ、わたしはむやみに命令をしたりはしないがな」

「く……教えろ勇者! いったいあの時、何をしたんだ! わたしは、きさまの攻撃を受けた覚えはない!」

「ああ、そうか。知りたいか。答えは簡単だ。その破壊王の剣が、呪いの武器だからだよ」

「呪い……!?」

「それと、それを外すのには魔法が必要になる。魔法嫌いの君が魔法の恩恵を受ける。これほど屈辱なことはないだろう。あ、そうそう、そのリングも呪いだから、魔法で解除できるからね」

「ひ……卑怯な……」

 ──これを魔法で解除したら……いや、そんなことはわたしのプライドがゆるさないっす……。

「油断した君が悪い。勇者になにか、特別な思い入れでもあったのか? 勇者とは、決して強いだけではなれないものなのだよ。それがわかるまで、わたしは5年を費やしたがね(いや、勇者の利点の利用方法がわかるまでだったかな)」

「5年……」

 ──なにもかもが、計算されていたんすか……だとしたら、わたしの勝てる要素なんて……元からなかったんすね。物理攻撃が弱いんじゃない……私が弱かっただけっす……。

「気が向いたら、君をわたしのパーティーに迎えよう。今後もさらなる修行をして、強くなってくれたまえ」

「は……はい……」

 ──完全にわたしの負けっすね……。

 わたしはこの場を去った。この破壊王の剣と、このリングは外さないでおく。これは、わたし自身への戒めだ。この敗北は絶対に忘れない。
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