Re:鮫人間

マイきぃ

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本編

第九話 林道アタック

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 ──そして────
 ────目が覚めた──

 戻ってきた。
 俺は京谷の車の助手席に座っている。
 また振り出しからやり直しだ。

 本当に俺たちは、ここから先へ進めるのか。
 逃げることはできないのか。
 もし逃げたら、さっきのようにタイヤがパンクするのだろうか。
 この先もまた、鮫人間に食われ続けるのだろうか。

 あの少女からもらったブレスレットはもう9個も黒くなった。
 これが全部黒くなるまで俺は食われ続け、そして最後に本当に死ぬのだろうか。

 だが、一つだけわかったことがある。
 俺たち、人間は弱い。

 あいつと戦うのなら、最低でもアサルトライフルが必要だ。
 だが、この日本で一般人がそんなものを入手できる可能性は低い。
 それに、今すぐ手に入れることは困難だ。

 もう……帰りたい……。
 俺はさりげなく今の気持ちを京谷に告げる。

「なあ、京谷……俺、帰りたい……」
「ん……どうした……もしかすると、人魚に会えるかもしれないんだぞ」
「馬鹿を言うな……人魚なんか……」
「いるわけがない……か?」
「違う、人魚なんか、比べ物にならないほどやばいんだ」
「ん……なんだ隆司。オカ研魂に火が付いたのか?」
「聞いてくれ、京谷。これから先、俺たちは林道に入る。その後、林道の途中でエンストするんだ。プラグがかぶってな。そして、俺たちは、この世のものとは思えない鮫人間に食われて死ぬんだ」

 それを聞いた京谷は、不機嫌な顔をした。そして、怒鳴るように声をまくし立てる。

「ああー、ふざけんじゃねえよ。プラグがかぶってエンストだあ? おまえ、俺の本気の運転、見た事ねえだろ。免許とってから、しばらく走り屋やってたんだぜ」
「いや、必ずそうなるんだよ(でも……実際にエンストした……)」
「よし、わかった。もしエンストしなかったら、お前のおごりで焼肉食い放題だ。窓閉めて踏ん張ってろ」

 京谷はいきなりアクセルを開けた。
 車は少しいじってあるので、加速が凄い。一気に加重がかかり、俺の体はシートに埋まる。
 
 俺は、すぐに窓を閉め、ドアの上に付いているアシストグリップを強く握った。

 車は速度を上げ、細い林道に突っ込んだ。
 車体が激しく揺れる。まるで、地震が起きているかのような揺れだ。

 だが、その割には、舌をかみそうになるような大きい揺れがこない。
 おそらく、スピードが速いため、タイヤが地面の凸凹の頭を蹴って走っているのだろう。

「こういう車は、アクセル開けてた方がプラグかぶらねえんだ。たしかに低速でいちいち助手席を気にしながら運転してたんじゃ、かぶっちまうかもな」
 京谷が減らず口を叩く。
 だが、もしその減らず口が本当になるなら、好都合だ。

 たまにガツンと、岩にでもぶつかったような振動がくる。
 俺は、舌をかまないように、しっかりと歯をかみしめる。
 もし、舌をかんで血を出したら、奴がきてしまう。
 それだけは避けなければならない。

 それにしても、速度が速すぎる。
 一歩間違えれば、即、茂みに突っ込んでお陀仏だ。
 それでも、京谷は車をコントロールしきっている。こんなに車の運転が上手いとは、夢にも思わなかった。

 そして、あっという間に、問題の場所が近づく。
 何度も何度も、車が止まり、異臭と死がやってくる、魔の領域だ。

(ここで……エンストが……)

 だが、その予想は外れた。
 車はエンストせず、何事もなかったように問題の場所を一気に通過した。

(うそ……だろ……)

 その後も相変わらずの速度と振動で、ラリーのように車は走り続ける。

(いけるのか……)

 早く、この緊張感から解放されたい。
 もし、生き残ることができるのなら……。

 車はきついカーブを車体を滑らせながら曲がる。
 その後、周囲が明るくなった。
 揺れもなくなり、安定した走行もどる。
 周囲を取り囲んでいた森林は消え、太陽が見える。

「ほら、どうだ。エンストなんかしてねえぞ」
「林道、抜けたのか」
「あったりめえだ!」
「そうか……」

 俺は、あまりの嬉しさに、目に涙をにじませた。

「おい、俺に焼肉おごるのが、そんなに嫌なのか?」
 俺の泣きそうな顔を見た京谷は、呆れた声で話す。

「違うよ。うれしいんだよ……お前のおかげだ。焼肉? いいぜ、そんなもので命が買えたんだ。焼肉だろうが寿司だろうが、なんだっておごってやるぜ!」
「なんだよ、気前いいじゃねえかよ。命がどうとかはよくわからねえけどよ。まあ、焼肉だけで勘弁しといてやるよ」

 京谷は、わかっていない。自分がどれだけの奇跡を起こしたかを。
 だが、それでいい。知らない方が、幸せかもしれない。

 俺たちは、生きている。
 生きて、林道を抜けることができたのだ。
 早く、部長たちに会いたい。
 そして、棗の顔を見たい。

 疲れた俺は、そのまま目を閉じ、少しだけ眠りについた。



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