VR花子さんの怪

マイきぃ

文字の大きさ
15 / 16
第一部 VR花子さんの怪

第十四話 ろうそくの消えた後

しおりを挟む
 突然、稲妻のような光が障子戸を照らした。そこに無数の人影が映る。次の瞬間、障子戸が倒れる。すると、オチな音楽とともにVR花子さんの軍勢が……!

 ゾンビのような花子さん、幽霊な花子さん、這いよる花子さん、メカメカしい花子さん、植物姿? の花子さん、その他いろいろなデザインのVR花子さんが部屋の中を走り回る。ガオーと襲ってくるVR花子さんもいれば巨大ハンマーやチェーンソーを振り回すVR花子さんもいる……もう暴れたい放題だ。人数的には軽く100人を超えている。おそらくこのイベント用に観客側が用意した手作りVR花子さんなのだろう。

 まじめな座談会だと少しでも思ってしまった自分が恥ずかしい。このイベント主、住職シルキーは、実はこれがやりたかったのだと今確信した。こうなったらこの波に乗ってリアクションを決めるしかない。
 自分は両腕を上げて「た、たぁすけてぇ~」と棒なセリフを叫びながら逃げ回った。自分以外のゲストも騒ぎ楽しんでいる。まあ、メタバースならしょうがない……楽しんだもの勝ちだからね。

 しばらく逃げ走っていると視界がカクカクとし始め、突然フリーズした。無理もない……これだけの人数が動き回るのだからフリーズしないほうがおかしい。こうなったら一度アプリを落として再起動するしかない。
 ……と、アプリを落とす操作をしようとしたその時、一人だけフリーズした中で動くかわいいVR花子さんアバターを視界の中に捉えた。

 画面はフリーズしているのにその少女だけは動いている。これは通常ではありえない……まさか、百物語がVR花子さんを呼び寄せてしまったのだろうか……。ただ、アバターからはいつものような不気味さは感じられない。それでも、この状況で動くアバターがいるという不自然さは間違いなくVR花子さんそのものだ。

 いつもと違うVR花子さん……いったい何しにここへ……もしや、この百物語にお怒りになっているのでは……とうことではなさそうだ。VR花子さんはまっすぐこちらを見つめ、困った顔で話しかけてきた。
「あ……の……」
 女性の声の音声合成。雑音交じりでよく聞き取れない。
「……の……メタ……バーストを……更新……して……」と、その言葉を発した後、VR花子さんはその場で消えてしまった。
 ……メタバースト3Xのシステムバージョンを更新しろということなのだろうか……。

 一応メタバースト3X事自体を再起動し、公式サポートで最新バージョンかどうかを確認してみる……システムバージョンは3.03のまま更新はない。もちろん今装着しているメタバースト3Xは更新されているので最新だ。
 唯一更新していないのは……スペア用にとっておいたメタバースト3Xだ。VR花子さん目撃の件以来、メタバースには接続してはいない。まさか、VR花子さんはこれのことを言っているのだろうか……。

 ──と、その時ふと、ファントム・アイのことを思い出した。システムバージョン3.01……彼はそれを借りたがっていた。やはり、更新されていないメタバースト3Xに何か秘密がありそうだ。だとすれば……スペアはこのまま使わず保管しておいた方がいいだろう。VR花子さんが更新を促したということは、そのバージョンに知られてはまずい何かがある可能性があるということかもしれない。それと……今すぐとは言わないが、ファントム・アイへの協力も考えておいた方がいいだろう。もちろん、情報を共有するという前提条件付きでだ。

 一方イベントの方だが……動画で確認すると、やはりフリーズ画面になり、再起動をしている様子がうかがえた。まだイベントは続いているので自分も再接続し、元の部屋へと戻る。部屋では住職とゲストが壇上に並んでいた。何人かのゲストも落ちた様子……まあ、戻ってこれて幸いだ。

 住職が話をする。
「アクシデントがありましたが、無事百物語が終わりました。どうでしたか? VR花子さんとはいったい何なのか! それでは思うことをメッセージボックスに書いて投票してください!」

 視界にメッセージボックスが現れた。触れると文字入力モードに切り替わり、視界にキーボードが現れる。自分にとってのVR花子さんは──。

 投票を終えると、住職は自分のメッセージボードを確認し、発表に移った。

「それではぁ、投票を見てみましょう! ……仕様と書かれた方……1人! まあ、仕様の可能性もありますねぇ……。次に、ウイルスと書かれた方が2人! セキュリティーはしっかりしないといけませんねぇ。そして、霊と書かれた方が3人! 心霊現象はメタバースにも波及してしまったのかぁ! 最後に! ……電子精霊! 4人がほぼ一致の見解を示しました! 電子精霊の存在……本当に存在するならば、メタバースにおいての革新的な存在となるでしょう! これにより、VR花子さんは電子精霊だった説が有力ということがわかりましたぁ! けれども、これは今日集まった私たちの見解でぇす。ひょっとすると、また、別の、何かという可能性もあるのでぇす! メタバースの数だけVR花子さんがいるのでぇす! それではこれにて終了とさせていただきます。ありがとうございました!」

 お化け屋敷の音声に拍手が混じった不思議な喝采音とともに、百物語の幕は閉じられた。今回のイベントは住職シルキーの趣味が入ったようなイベントだ。本格的なイベントとは程遠いが、それでも情報についての収穫はあったのだ。イベント主には感謝したい。

 ──それから一か月後、メタバースト3Xのシステムバージョンが3.04に更新された。それにより、VR花子さんの出現率は低下したようだ。それでも、VR花子さんはメタバースの都市伝説……いや、メタ伝説としてこれからもずっと語り継がれるだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...