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その頃のナルサリス
しおりを挟む「クリス、おい、クリストフ」
「待てって、クリストフ=ディヴァン」
オルフェリア王国王立学園の学舎の廊下を急ぎ足で歩くクリスを引き止める者がいる。
「何かのご用ですか、ナルサリス先輩」
ナルサリス=ヘイレン。エレーニアより1つ歳上の17歳、黒髪、金茶瞳、眼鏡の似合う秀才風イケメン。【悠久のオルフェ】の攻略対象でありオルフェリア王国宰相、ヘイレン公爵家の子息である。
「新学年が始まったのに、エレーニアが学院に来ていない。それどころか王都にすらいない、どうなっているんだ」
ナルサリスはクリスに掴みかからんばかりの勢いである。
「姉がどうしたかなんて、貴方に関係ないでしょう」
冷ややかな視線がナルサリスを射抜く。
「春休み中、何度もディヴァン邸に面会の申し込みをしたがいつも『エレーニアは体調を崩し伏せっておりますので面会はご遠慮願います』と門前払い、見舞いの品を送ってもキースクリフ様は受け取っても下さらない。それでも新学期が始まればと待っていたのに全く登校する気配もない。心配するのは当然だろう」
ナルサリスの言葉にクリスは眉間に皺を寄せる。辺りにはママン譲りの冷気が立ち込め出した。
「なぜ貴方が姉上の事を気にかけるのですか。貴方はラインハルト王子の取り巻き、あの卒業記念式典で、王子と共にダイクン男爵令嬢についていたではないですか」
「違う!」
クリスの冷気に負けずナルサリスは声を張り上げた。
「誰があんな淫売、いや淫乱、う、サセ子…じゃない、ゴホン、淫らな令嬢に付くなどありえない。彼女の本性に気付いてないのはレオンハルト王子くらいな者だ」
「それを知っていてあの婚約破棄を止めなかったのですか」
クリスの冷気が少し緩む。
「当然だろう、エレーニアがレオンハルト王子から自由になれるのだぞ、煽りこそすれ止めるなどありえない」
「はあ?」
そう、ナルサリスは煽ったのだ。レオンハルトを、リリアを。あの2人が近付き、退っ引きならない関係になる事を。婚約破棄になるようにと。
「本来ならばラインハルト王子の浮気をエレーニアが断罪すべきなのだが、これまでもエレーニアはラインハルト王子の数々の浮気に眼をつぶって来た。ああ、エレーニアは寛大すぎる」
一瞬遠い眼をするナルサリス。
「だから、不本意だがレオンハルト王子から婚約破棄するように根回ししたのに、あんのボケがぁ、あんな公衆の面前でエレーニアを責めやがって、コロス!呪い殺してやる!」
クリスは一歩身を引いた。冷気もいつの間にか霧散している。
「えっと…」
ガシッと肩を掴まれたクリスはそれ以上下がれなくなった。
「僕は知っているんだ、クリストフ、君が同志だという事を!」
「な、何を!」
フッと、口の端を上げ暗い笑みを浮かべるナルサリスにクリスは悪寒を感じた。
「…君、女装して…エレーニアのふりをしてリリアに嫌がらせをしていただろう」
「なぜそれを…」
「この僕がエレーニアの周りで起こる事を見逃すとでも?ああ、しかし僕の眼も学院の外までは限度がある。あんな目にあってショックを受けているだろうエレーニアをっ!」
突然両腕を回し自分を抱きしめるナルサリス。
「しばらくそっとしてあげようと思ったのが間違いだった。エレーニアがどこにいるのか全くわからない!」
がくりと膝から崩れorz状態になるナルサリス。ジリジリと後ずさるクリスだが、ナルサリスが再びがばりと起き上がり、クリスの肩を掴む。
「落ち込む彼女を慰め、今度こそ僕が彼女に申し込むはずだったんだ!こ・ん・や・く・を!」
クリスの額からたらりと汗が落ちる、それは暑いからではない、反対に全身に悪寒を感じているくらいだ。
「僕の父はクリスハルト王の従兄、僕の代で爵位は公爵から侯爵に降爵するけれども、ディヴァン侯爵家とも十分釣り合っている。あんな浮気性王子より、僕の方がエレーニアにふさわしいんだ!」
クリスは恐怖する。下ゆる王子が義兄になるのは嫌だが、病んでいる男ももっと嫌だ。
姉上、逃げてーーっ、超逃げてぇぇぇ!
「ひっくしゅ」
「なに、エル姉、風邪?」
「ん~、なんだか背筋に悪寒が走ったわ」
「あったかくちてやちゅんだ方がいいでちゅよ」
「そうね、なんとなく《キュアディシーズ》で治らない気がするから、休むわ」
「うん、ちょの方がいいでちゅ」
(オネーちゃんを守らねばっ)
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