最弱勇者のギリギリライフ

奇妙な海老

文字の大きさ
6 / 15

最弱勇者と大国

しおりを挟む
今まで全く見ていなかったが、周りの風景がガラリと変わっていることに気がついた。
さっきまでは鉄工所のようなガラクタだらけの荒んだところを歩いていたのだが、今は周りに草木が広がり、綺麗な花も咲いている。街が整備をしたのだろう。

目の前には大きな湖に囲まれてた煌びやかな街が見える。
とても神秘的で綺麗だ。
この街はアルティカーナ。
『自由な世界』に腐る程存在する都市の中でも特に巨大な都市、五大都市の一つに分類される大都市だ(もっとも、俺達が勝手に呼んでいるだけだが)。
この都市がある国の名前はシドラクトと言い、軍事力のある大国で、俺たちは今、その大国シドラクトにいると言うことになる。ということはマナーのいたあの街もシドラクトにあるということになるのだが、現状把握のスキル(有り体に言うと地図を作るスキルである)を持っていないため良く分からない。
同じく五大都市のある国、アダラクトと言う大国と冷戦状態が続いていて、現在、戦争に備えており、とても血の気づいているのだと言う。

ゲームをやっていた時代に一度、この戦争のイベントに上位プレイヤーとして参加したことがあったが、グラフィックが良すぎるせいか、地獄絵図にしか見えなかった。

もう体験したくないものだ。

と、前世の記憶を思い出しながら街に入ろうとした時、兵士に止められた。

「入街許可証を出せ」

「うそー……そんな入国許可証みたいな……」

「入国許可証?何それ」

マナーの質問が炸裂する。
疑問が尽きないのは良いことだね。

「無いのなら街には入れることは出来ないぞ」

「どうやったらそれが手に入るんですか?」

兵士は少し考えたような顔をした。

「ここに入る者は皆最初から持っているのだが?よくわからないが、貴族や、軍の幹部なら誰でも持っているんじゃないか?」

「えー…」

ここまできて街に入れないのかよ、と俺は大きくため息を吐き出す。
マナーのことも放っておけないので、どうにかして街に入りたいところだが……

そんなことを考えている時、チョンチョン、と、俺の肩を誰かがつついた。

「ん?」

振り向いた先には、以下にも貧乏そうなボロボロの服を着た、バンダナを巻いた真っ赤な髪の毛の男が立っていた。
結構若そうな顔立ちをしているが、少年と呼ばれるほどの年では無く、30台前半、と言った感じだ。

「お前さ、見たところ入国許可証が無くって街に入れないってとこだろ?」

「あ…おう、そのとうりだ」

男は「そうかそうか」と言ってボロボロのポケットから、謎の紙を取り出した。

「こいつは入街許可証だ、10000アースで売ってやんよ」

アースと言うのは『自由な世界』のお金の単位のことだ。1アース=1円。単純な話だ。
なんでこの男が入街許可証なんて物を持っているのかは知らないが、俺は一つ返事でそれを買った。
アースは転生した時になぜか全部無くなっていたのでメニューからそれなりの価値のある宝石をアース替りとして渡した。

男はニヤニヤしながら「ありがとさん」と言って何処かへ去っていった。

「さっきの誰?」

「さぁな……あんな服装だったし、お前と同じホームレスなのかもな」

「友達になれそう」

そんなことより、と俺は兵士に許可証を渡して街に入っていく。

後ろで何か兵士が騒いでいた気がするが、よく聞こえなかった。


「お、おい……さっきのって…」

「いや……こんなところにいるわけないだろう」

「だ、だが…」

「ありえん、だってあの方は…」









「ふぁぁぁあ……」

マナーが目を輝かせながら街を見ている。

街の中はまるで祭りのように騒がしくて、いろんな店があった。

前世のビルのような銀色の建物が立ち並び、それ以外の色々な建物や、空を飛ぶもの、奇抜なファッションをするもの、そして、見るからに冒険者、と言わんばかりの装備をする人々に思わずテンションがあがっているのだろう。

未来の世界にタイムスリップようにも思えるが、その中でも街の中心にある建物が群を抜いて存在感を示していた。
それはアルティカーナ要塞。
『自由な世界』でも最高峰の軍事力を持った超弩級の軍事施設である。
厳しく鍛錬を受けた兵士は皆、平均レベルが60を超えていると聞く。
これは途轍もないことで、実際、ゲームをやっていた時の俺は283レベルだったのだが、そんな超高レベルプレイヤーは極僅かで、何万人といる兵士達の平均レベル60なんてものは、本気でかかれば小国を一つや二つ潰すことなど簡単とも言える。
しかもこの軍の最高司令官は、何とレベルが300を超えていると言われていて、前世の命知らずがよく要塞を落とそうとして、ことごとく返り討ちにあった、と言う話を結構聞いている。
その時は俺のところにも誘いが来たのだが、俺はその時イベントに参加中だったので行けなかった。

「カグラ?何考えてるの?」

「ん?いや、しょうもないことさ」

マナーは絶対、戦争には巻き込みたくないな。

「カグラ!あっちってみようよ!」

「あぁ…そうだな!色々まわってみるか!」



ーーーーーーーーーーーーーーー



「雑貨屋か、いろんな物があるな…」

今俺とマナーは雑貨屋に来ていた。
異世界の雑貨屋はなんだか変な物を多く取り扱っているようで、ドクロや空を飛ぶ絨毯、惚れ薬なんて物もあった。
アクセサリーなんかも色々あるようでマナーに何か買ってやろうと、何が欲しいかマナーに聞いて見た。

「マナー?何か好きなもんあったら買ってやるぞ」

「食べ物!」

「何で雑貨屋に来た」

「食べ物ー!お腹すいた!」

「女の子なんだからもっと女の子らしく……つってもわかんないか」

しょうがないから軍資金としてちっちゃなルビーを3つほど渡して適当に買いに行かせた。

さて、じゃあ俺は前世に戻る方法を探してみるとするか。
…と言うか、前世だとまるで俺が一度死んでいるみたいじゃないか。
認めないぞ…俺は認めん…

よし、これからは現実に戻る=現世と呼ぼう。

「おーい、そこのお前さん?」

「ん?」

なんだ?と声のした方を向いてみると真っ黒なローブを着た、おばさんが立っていた。
よくゲームとかで見かける占い師みたいな見た目をしていて、顔はフードのせいでよく見えなかった。

「変な格好してるんだね?何だいそれ?」

「え?今俺どんな装備だったっけ?」

と、俺はメニューを開く。

ーーーーーーーーーーーーーーー

カグラ・タダヒロ

武器:なし
防具:ボロボロのジャージ

ーーーーーーーーーーーーーーー

「ボロボロに変わってる……」

「何のことだい?」

「いや、こっちの話」

そう言って俺は適当な防具をメニューから探して装備しようとするが、防御力の高い装備は重すぎて装備できなかった。
しょうがないので、比較的ジャージと同じくらいの重量の服で我慢しておいた。

ーーーーーーーーーーーーーーー

最弱勇者の服:最弱勇者専用装備

最弱勇者でも装備できるとても軽い藍色のローブ。
特殊効果無し。ステータスの変動無し。

ーーーーーーーーーーーーーーー

「脆そうなローブだねぇ…」

「至極失礼な説明だなおい……」

専用装備と聞いてあの頃の希望が一瞬舞い戻ってきたじゃねぇかこん畜生。

「どうしたんだい?そんな険しい顔して」

「最弱勇者の憂鬱さ……」

若干不機嫌になりながらも、俺は情報収集をしに街を散策して…

「あ、マナー大丈夫かな…」

俺を探しにここに戻ってくるかもしれないので店で待つことにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

二度目の勇者は救わない

銀猫
ファンタジー
 異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。  しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。  それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。  復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?  昔なろうで投稿していたものになります。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。

ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。 そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。 すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

処理中です...