黒柴犬召喚

第一章 増える黒柴犬

39話 信玄の皮算用

　7日目。
　海の人が【体術】のオーブをゲット。
　おめでとうと黒柴犬たちが拍手する。
　随分出遅れたけど、海の人も10階層に移動する。

　彼は黒柴犬の弟子なので、22日間の合宿以外でもたまに連れ出し育成する予定。上司の許可も得ている。
　四皇は無理でも、海軍中将くらいまでは育てたいねぇ。

　治安組織の強化と友好は、俺の望むところでもある。
　けれど深すぎる関係はよろしく無い。
　ゲームで言うなら攻め込まれない程度の友好度は欲しいけれど、戦争に巻き込まれるような同盟はしたくないって感じ。
　とんでもない化け物が日本に攻めてきた時に矢面に立たされるのはノーサンキューなのよ。
　なので今のところ、黒柴犬には特別扱いするのは治安当局内で5人までと制限をかけた。
　そのくらいでちょうどいい塩梅に収まると思う。

　特殊な訓練を受けてそうな精鋭たちは弟子化を禁止。
　あいつらは多少利を与えたくらいでは感謝しないし、お国の為なら自分すらも捨てそうなんだよな。
　国家存亡の危機になったら、断りにくい感じに黒柴犬を巻き込んで来るだろう。まあ俺は断るけど、弟子を見捨てると名声が下がっちゃうから、最初から弟子にしないのが一番だ。

　俺としてはやっぱり小町ちゃんを弟子に欲しいんだけど。
　正義感があってスター性があって、芯があるけど弱さがあって。
　好きなタイプだし見ていて飽きないってのもあるけど、彼女のそばに黒柴犬が居て、師匠として遇されて彼女を助け続けて。彼女が成長し、さすれば黒柴犬のスター性もぐんぐん上がっていっただろう。
　この師弟関係はお互いにメリットがあると思うけど、仲間に引き込むハードルが高いから諦める。
　俺自身が顔を見せて信頼を積み重ねれば、真面目な彼女は受け入れてくれるかもしれないけれど、それでは関係が深くなりすぎるし、俺が師匠になってしまう。
　俺ではなく、黒柴犬が師匠じゃないと、映えないんだよ。
　彼女が黒柴犬の先にいる男を意識する限り、黒柴犬の弟子には出来ない。悲しいなぁ。

　黒柴犬の特別扱い5人は、今のところ3人が決定。

　1人目はもちろん弟子の海の人。
　2人目は自衛官のバイクの女性で、ツーリング友達。
　3人目は爺で、任侠友達。

　バイクの人は、封印ダンジョンで黒柴犬とツーリングするために、闇属性の魔法を習得した。上司の指示は気配察知だったらしく、ガン無視である。
　属性魔法を使いこなすにはMPが少し低めだが、オーブ集めで補強は可能だ。現在も黒柴犬が少し優遇してゴブリンを運んであげている。

　封印ダンジョンでのツーリングは、許可を求めても下りないかもしれないので、組織に秘密でやるらしい。
　モラルのない人である。
　まあそういう人だから自衛隊内での階級も影響力も低いみたいだけどね。

　実はダンジョン経験もなく、祝福もこの合宿で取得したそうだ。

　なんでそんな人が優先育成冒険者制度のリストに名を連ねていたかと言うと、美人だから。

　黒柴犬は男性の護衛依頼は有料でも大半を断ってるけど、女優やアイドルの護衛依頼は無料で沢山受けてるからね。
　各組織とも育てて欲しい人とは別に、美人をリストに追加して持ってきたんだよ。美人を混ぜれば俺が受けると思ったんだろうな。舐めやがって。その通りだけど。
　なので断腸の思いでメンバー選考は黒柴犬にゆだねた。
　俺の好みで選んじゃうと、俺の望むバランスから大きく外れちゃうので。いい感じに謎めいていた黒柴犬の飼い主のイメージが、スケベボーイで塗りつぶされてしまうから。

　結局黒芝犬が美人枠から選んだのはこのバイクの姉ちゃんと海上保安庁のお姉ちゃんの2人だけ。小町ちゃんは警察の育成して欲しいリストのトップだったので、実は美人枠ではない。

　保安庁の美人お姉さんはすごく真面目で、下手に弟子にするとめっちゃ説教してくるタイプと見たので、一切のちょっかいを掛けてない。黒柴犬にもすごく真面目にオーブ集めを手伝わせている。

　で、85歳の任侠友達の爺さんだが。
　警察組織をとっくに定年退職していて、外部指導員でしかないこの人が、なんでリストに入ってたかと言うと、本人が強く要求したからだ。相当強くゴネたらしい。リストに載せるだけならと、かつての部下たちは折れた。
　ちなみに俺のもとに届いた部外秘のリストには、小さく健康に問題ありと手書きで追記されていた。
　選んで欲しくないんだろうなって俺も気づいたけど、黒柴犬が顔見て気に入っちゃったからね、しようがないね。
　そんな立場なのに、孫を押し込もうとしたわけで、ほんとこの爺さん、マジ老害。

　この老害とは、孫の双子ちゃんを1年24時間最低でも1匹ずつ付けて護衛する約束を交わした。
　爺さんは孫にこの交渉結果を伝えて、好感度アップ。
　その条件で、爺さんは俺の望むように警察組織内で立ち回るスパイの役割を請け負った。
　剣道強いだけのクソ野郎だが、歳の割には実際すごく強い。
　セカンドシーズンがもし過酷になるなら、強さが地位に影響していく。爺さんを強くして影響力を高めるのは悪くない。
　今は正直影響力ないけどな、この爺さん。
　双子という弱点があるから、裏切られないのはすごく良い。
　警察内部に更にパイプが必要になれば、爺さんの教え子からモラルの足りない人を紹介して貰おうか。

　全員が10階層のオーブを複数拾って、合宿は良い感じに終わった。

　精鋭たちは実働12時間では余裕綽々だったので、後半からは10階層のオーブが落ちてない日は、活動の延長を許可。
　他人のオーブは見えないので正確な数は分からないが、精鋭たちは全員が二桁以上のオーブを獲得できただろう。一番多い人は20個に達してるかもしれない。

　ぶっちゃけ当初の予定よりもたくさんゲットさせすぎた感はある。
　黒柴犬が集まってきちゃって、サポートしすぎたんよなぁ。

　なのでこの後、育成依頼が凄い熱量で増えたけれど、全部断ってます。
　フレンドリーになりすぎた距離を離さなきゃな。