20 / 58
第三章 妹
第19話
しおりを挟む
簡単な聞き取りなのでそう時間はかからないと思っていたが、根本がちょくちょく脱線した質問をしたので思いのほか時間がかかってしまった。しかし、脱線したおかげでだいぶ打ち解けた空気になったのも事実だ。
日を開ければ、何か思い出すかもしれないと、次の日取りも決め、聞き取りは終えた。
「それじゃあ、家まで送ってくよ」
「いえいえ! そんなイイですよ! それに、これから中央区に行こうと思ってるんで」
「遊びに行くのぉ?」
「いえ。転校したからノートなんかを一斉に買い換えようって思ってたんですけど……」
「あー、そっかぁ。西区の文房具や壊されちゃったもんねぇ」
「はい。まあでも、家を出たついでなので、足を延ばす良い機会ですし、久しぶりの中央区をゆっくり見て回ろうと思います」
「一人で大丈夫? もし良かったら案内しようか?」
重陽町は川が多い。だがその割に橋は決して多くはない。
対岸に気になる店を見つけても渡る橋が見当たらないという事が、土地勘のない者には往々にしてある。また、船を利用する交通網も慣れない者にとってはハードルが高いように思えた。
怜奈は数年前に住んでいたと言っていたが、当時は初等部の一、二年生程度。街の変化や記憶の齟齬など故に、初めて訪れた街と考えても差支えないのでは、と冬鷹は心配になった。
「いえ。お仕事があるでしょうし、申し訳ないです。大丈夫です。もう中一ですから」
怜奈は強気に微笑む。だがその言葉が、却って冬鷹を余計に心配させた。
すると根本が――。
「遠慮しなくていいよぉ? 僕らも軍本部に戻るとこだしぃ。それに着く頃にはちょうどお昼休みだし、案内なら冬鷹君に任せて大丈夫だよぉ。冬鷹君、街のこと結構詳しいからぁ」
「えっと、その……本当に、良いんですか?」
怜奈の目に輝きが灯る。
異能界では、百貨店や量販店というものを全くと言っていいほど見かけない。
流通の関係で薄利多売が向かない経済市場だというのが専門家の見解らしい。だが、冬鷹は単純に『市民に求められていないからないのではないか』と思っている。
〝N〟の物は、少し〝N〟に足を伸ばせば、安くて良い物が買える。異能界の物は、個人店同士が意識し合い、時には協力し合い、良い商品を揃えてくれている。百貨店や量販店がなくて困ったという人は見かけないし、あっても冬鷹は恐らく行かないだろう。
「懐かしい。なんか昔とあまり変わりませんね。町の産業だからか、相変わらず異能具系の店が多い。さすが、全国で一番異能具工房と異能具販売店が多い街ですね」
『長崎ライフアイテム』の前を過ぎたあたりで怜奈は目を細めてそう口にした。
アクセサリー系異能具店・洋服店・小物雑貨店・生活系異能具店・旅行代理店・喫茶店・小物雑貨系異能具店・魔道書専門店・魔石専門店・武具系異能具店・靴屋・精肉店・八百屋・異能具も置いてある雑貨店――といった具合に少し歩けば異能具店にぶつかる頻度だ。
町を歩きながら冬鷹は利用した事ある店については簡単な説明を加えていき、怜奈はそれを熱心に聞く。根本は冬鷹の肩に手を置き半分眠りながら後ろを付いて歩いていた。
「ちょくちょく区画整理されたり、橋が増えたり、川幅を広げたり細くしたり、巡行船のルートが変わってたりするんだけどね。雰囲気はそのままなのかも」
「はい。『帰ってきた』って感じますね。――あ、文房具屋さんありました」
『文具店SHIBATA』と書かれた看板を見つけ、怜奈は立ち止まった。
「ありがとうございました。もう大丈夫です。帰りは一人でも平気ですから」
「いやいや、別に。それに、この後も街案内するよ?」
「あ、いえ、その、明日から学校なので、準備とか色々あって」
「あー、ごめん。そうだよね」
そういうところが気が回らないっていうのっ!
――と、頭の中の雪海と杏樹が声を上げ、冬鷹は項垂れてしまいそうになった。
「そ、それじゃあ、俺たちこの変で。帰りに気を付けてね」
「あ、あのッ!」
去ろうと伸びた足が止まった。
「あの、もし良かったらでいいんで、また街の案内、頼んでも良いですか?」
まっすぐな怜奈の瞳が、冬鷹の胸にかかる雨雲を少しだけ晴らしてくれた。
日を開ければ、何か思い出すかもしれないと、次の日取りも決め、聞き取りは終えた。
「それじゃあ、家まで送ってくよ」
「いえいえ! そんなイイですよ! それに、これから中央区に行こうと思ってるんで」
「遊びに行くのぉ?」
「いえ。転校したからノートなんかを一斉に買い換えようって思ってたんですけど……」
「あー、そっかぁ。西区の文房具や壊されちゃったもんねぇ」
「はい。まあでも、家を出たついでなので、足を延ばす良い機会ですし、久しぶりの中央区をゆっくり見て回ろうと思います」
「一人で大丈夫? もし良かったら案内しようか?」
重陽町は川が多い。だがその割に橋は決して多くはない。
対岸に気になる店を見つけても渡る橋が見当たらないという事が、土地勘のない者には往々にしてある。また、船を利用する交通網も慣れない者にとってはハードルが高いように思えた。
怜奈は数年前に住んでいたと言っていたが、当時は初等部の一、二年生程度。街の変化や記憶の齟齬など故に、初めて訪れた街と考えても差支えないのでは、と冬鷹は心配になった。
「いえ。お仕事があるでしょうし、申し訳ないです。大丈夫です。もう中一ですから」
怜奈は強気に微笑む。だがその言葉が、却って冬鷹を余計に心配させた。
すると根本が――。
「遠慮しなくていいよぉ? 僕らも軍本部に戻るとこだしぃ。それに着く頃にはちょうどお昼休みだし、案内なら冬鷹君に任せて大丈夫だよぉ。冬鷹君、街のこと結構詳しいからぁ」
「えっと、その……本当に、良いんですか?」
怜奈の目に輝きが灯る。
異能界では、百貨店や量販店というものを全くと言っていいほど見かけない。
流通の関係で薄利多売が向かない経済市場だというのが専門家の見解らしい。だが、冬鷹は単純に『市民に求められていないからないのではないか』と思っている。
〝N〟の物は、少し〝N〟に足を伸ばせば、安くて良い物が買える。異能界の物は、個人店同士が意識し合い、時には協力し合い、良い商品を揃えてくれている。百貨店や量販店がなくて困ったという人は見かけないし、あっても冬鷹は恐らく行かないだろう。
「懐かしい。なんか昔とあまり変わりませんね。町の産業だからか、相変わらず異能具系の店が多い。さすが、全国で一番異能具工房と異能具販売店が多い街ですね」
『長崎ライフアイテム』の前を過ぎたあたりで怜奈は目を細めてそう口にした。
アクセサリー系異能具店・洋服店・小物雑貨店・生活系異能具店・旅行代理店・喫茶店・小物雑貨系異能具店・魔道書専門店・魔石専門店・武具系異能具店・靴屋・精肉店・八百屋・異能具も置いてある雑貨店――といった具合に少し歩けば異能具店にぶつかる頻度だ。
町を歩きながら冬鷹は利用した事ある店については簡単な説明を加えていき、怜奈はそれを熱心に聞く。根本は冬鷹の肩に手を置き半分眠りながら後ろを付いて歩いていた。
「ちょくちょく区画整理されたり、橋が増えたり、川幅を広げたり細くしたり、巡行船のルートが変わってたりするんだけどね。雰囲気はそのままなのかも」
「はい。『帰ってきた』って感じますね。――あ、文房具屋さんありました」
『文具店SHIBATA』と書かれた看板を見つけ、怜奈は立ち止まった。
「ありがとうございました。もう大丈夫です。帰りは一人でも平気ですから」
「いやいや、別に。それに、この後も街案内するよ?」
「あ、いえ、その、明日から学校なので、準備とか色々あって」
「あー、ごめん。そうだよね」
そういうところが気が回らないっていうのっ!
――と、頭の中の雪海と杏樹が声を上げ、冬鷹は項垂れてしまいそうになった。
「そ、それじゃあ、俺たちこの変で。帰りに気を付けてね」
「あ、あのッ!」
去ろうと伸びた足が止まった。
「あの、もし良かったらでいいんで、また街の案内、頼んでも良いですか?」
まっすぐな怜奈の瞳が、冬鷹の胸にかかる雨雲を少しだけ晴らしてくれた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる