東京パラノーマルポリス -水都異能奇譚-

右川史也

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第四章 正体

第32話

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 突然、佐也加が宣言した事に驚いたが、その口調がいつもと違う事にも動揺した。

「二人のためにその子が人質になるのは申し訳ないです。私が代わりに人質になります」

 毅然とする様は普段と変わらない。しかし口調のせいか、いつもと違い何処か柔らかな印象を受ける。

 中央の男は真偽を計るかのようにフードの奥で目を細めている――そんな気がした。
「〈サイコメトリー〉でも〈サイコリーディング〉でも、ご自由にかけて下さって結構です」
「姉か…………いいだろう。こちらへ来い」

 丸腰でTシャツにジーンズという格好が助けになったのか、犯人はあっさりと受諾する。

「そちらのその女の子をこちらへ、でないと――、」
「わかっている」

 中央の男は後ろの大男に指示を出す。大男は犯人たちと群衆たちとの間にできている緩衝地帯のような空間に、怜奈を共だって出てきた。

「少女を引き取るのは……そこの女、お前だ。『お姉さん』は一人で来い。『一、二の三』で、だ。下手な事をすればタダじゃすまない」

 選ばれた女性隊員と佐也加は静かに頷く。
「一、二の……三!」のタイミングで人質が怜奈から佐也加へと入れ替わった。
 怜奈は濁流に包まれるかのように、あっという間に群集の中ほどまで運ばれる。

 雪海はすぐ駆け寄る。その隙にも佐也加は捕まっていた。中央にいた男が腕を引き、サッと佐也加の首に氷でできた爪をあてがう。

「もしかして〈アイスゴーレム〉というのはあなたの能力なんですか?」
「教える義理はない……が、お姉さんの勇気に免じて答えてやろう。『その通り』だ。だが、俺一人じゃない」

 男が周りのフードたちに頷き掛ける――と、一瞬の事だ。
 氷の剣、氷の鎧、氷の鞭。各々が、顕現させた白き武具を身に付けていた。

「俺たちは一人一人が〈アイスゴーレム〉を生み出し、操れる。外の仲間たちも同じだ。一人二人やられたところで街が人質である事は揺るがない」
「…………なるほど」
「さあ、貴様ら治安組織の連中も解っただろ。街の無事を保証してほしくば、言われた通り、郡司冬鷹とぐん――ッ!?」

 一瞬、何が起きたか解らなかった。

 先程まで佐也加を拘束していた男が、次の瞬間には佐也加によって組み敷かれていた。

 それを合図に隊員たちが一斉に動き出す。犯人たちは氷の装備をより大きくし、迎えた。
 佐也加は、取り押さえた男の身体を調べ、ソフトボール大の白みがかった水晶をすばやく見付ける。時をほぼ同じく「こちらにもありました」と、近くで一人取り押さえた隊員が同じ様な水晶を掲げた。

「この男の話から、奴らは共通の異能を有している可能性が非常に高い。同様の異能具らしき物が見付かったのであれば、この水晶が最も怪しい。杉本・西部両隊員は至急これを研究班に渡し、効果と内臓魔素子と出力効率の分析、及びアイスゴーレムとの関連を優先して調べさせろ。前田隊員は私の装備をここへ。こちらの男は利賀とが隊員、そちらの男は蓮見はすみ隊員主動で取り調べ及び尋問にかけろ」

 周りの隊員に次々と指示を飛ばすなか、持って来させた軍服を身に付けた佐也加は、襟元の軍用通信で「郡司胤蔵たねくら総司令官。報告します」と父の名を呼んだ。

 佐也加は簡潔かつ、素早く、事態を伝える。すると胤蔵は全隊員に通信を繋ぐ。

『全支部全隊員に通達。状況を「第二級緊急防衛配備」から「第二級防衛配備及び第一級戦闘配備」へ移行する。各隊を戦闘班と防衛救護班に分け、アイスゴーレムを各個撃破。救護専門班及び防衛専門班は本部にて任務活動、新人は本部にてそのサポートに就け。尚、人命は何よりも優先される』

『了解、西区四番街。川島班、戦闘に入ります』
『宮部班、南東区三番街鎮圧。犯人らしき人物を三名確保。犯人護送と南東地区七番街に向かう班に分隊します』
『東区一番街、苦戦してます! 応援求む!』
『神崎班東区三番街終わりました』
『では神崎班東区一番街に向かってください』『了解』

「郡司冬鷹隊員」と佐也加が静かに近付いてきた。

「貴様は雪海と共に待機していろ」
「ですが郡司佐也加副本部長、」
「二度も同じ事を言わせるな」

 今現場に必要なのは高度な連携と迅速な対応だ――。

 敵の狙いである冬鷹が戦場に出ては守るものを増やす事になってしまう。
 事態はより切迫している。口答えする時間すら許されない。

「……わかりました」
「二ノ村隊員、貴様は冬鷹と雪海の事を知っているな?」

 冬鷹と雪海の身体の事を知っているな? ――そう問うているのだと判った。
 英吉も察したように「はい」と頷く。

「では、二ノ村隊員には冬鷹と雪海の護衛及び監視を任す」

 ……はい。英吉は冬鷹を一瞥いちべつし、はっきりとそう頷いた。

 佐也加が去り、すぐに行動に移す事になると、雪海が不安げな顔で訊いてきた。
「怜奈ちゃんは? 一緒にいちゃダメなの?」

 難しいところだった。佐也加には『雪海と共に』と言われている。だが、他の者の同行が許されてないわけではない。現に、普段は〝秘密〟が拡散する事がない限りでは、雪海の部屋への訪問に特別な制限はない。杏樹も英吉も過去に何度も訪れている。
 だがそれ以外の、事情を知らない人間が訪れた事は、冬鷹の記憶の限りではない。

「あ、あの、事情はよくわからないけど、部外者はダメなんでしょ? 私は普通の避難で大丈夫だから。気にしないで行って」
「いやだよ! ねえ、お兄ちゃん!」

 怜奈は優しく微笑みかけるが雪海は首を横に振り、頑として聞き入れない。

「……雪海はいいのか?」

 少し前の――少なくとも怜奈が人質になる前までの雪海は、秘密を明かす事になるだろうからと、自身の部屋に招く様な事はしなかった。だが今は――。

「……うん。平気。大丈夫」

 もしかしたら同じ傷を持つ者同士なのかもしれない――そんな想いが気持ちに変化を与えたのだろう。雪海は苦しい決断をしたかのように顔を強張らせ頷く。

「わかった。怜奈ちゃんも一緒に避難しよう」
「お兄ちゃん!」「え、い、いいんですか?」喜色と戸惑いの声が重なる。

「大丈夫。一緒に来てくれるか?」
「あ、えっと、はい。ありがとうございます!」
「やった!」
「それと杏樹も来てくれ。家が心配かもしれないけど、雪海の部屋なら安全だ」
「あー、良かった。仲間外れにされるかと思ったわ」

 棒読みな台詞と呆れた笑顔を浮かべる。だが、そう口にする杏樹の拳は堅く握られ、少し震えていた。

「まあ、確かに家は心配だけど、軍が全力で動いてるんだから――、」
「大丈夫だ」

 冬鷹はガシッと杏樹の手を掴んだ。

「え? はッ!? ちょ、ちょっと、なにッ!?」
「大丈夫。心配すんな。軍が全力で動いてる」
「はあ? それ私が今言ったセリフ! ってか、この手はなによ!?」
「えっと……震えてたから」
「はあ!? 震えてないし! あーもう、離せってのッ!」

 顔を真っ赤にして杏樹は手を振りほどく。その手はもう震えていなかった。

 はいはい。と手を叩く英吉は、こんな事態にも関わらず楽しそうに微笑んでいた。
「いつまでもこんな所にいたら、他の隊員の邪魔になる。さっさと移動しよう」

 英吉の言葉で、五人は雪海の部屋へと駆け出した。
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