東京パラノーマルポリス -水都異能奇譚-

右川史也

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第五章 繋ぐ

第35話

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「冬鷹、アンタ本当にどこまでバカなのッ!? 私らが止めなきゃ二、三秒後には足が無くなってたわよッ!」

 眉間に皺を寄せた杏樹は、念を押すように指で冬鷹の胸を何度も強く突く。彼女の言う通り、あのまま続けていれば今頃は医務室で痛みに悶えているところだっただろう。

「すまん、完全に頭に血が上ってた。英吉もワリぃ」
「別に気にするな。まあ正直、ちょっとは痛いの覚悟したけどな」
「マジですまん…………だけど、ごめん。その『すまん』ついでにさ、もうちょっとだけ迷惑かけられてくれ」
「は? ……何するつもりだ冬鷹?」

 首を傾げる英吉に、冬鷹は黒い扉の前に立ち短く答える。

「扉を斬る」

〈黒川〉にリンクする。焦りのせいか心拍数は普段より高いが、扉を斬るにはまだ足りない。だが、何度も切り続ければすぐに心拍数は上昇するはずだ。

 パシッ――と頭を叩かれた。
 その拍子にリンクが切れてしまう。

「はいはい、またバカが発症してる」
「ってえな、杏樹! わるいけど、この件は目をつむって――、」
「少しくらい話聞きなさい」

 深く溜め息を吐くと、杏樹は扉の前に立ち、ガタガタと扉の具合を調べ始める。そして何かを見付けたのか、扉をスライドさせるように力を入れ始める。

「あー、やっぱりね。うんッ! んーっ! ――はぁ。ちょっとアンタたち代わって」

 冬鷹と英吉は場所を代わり、杏樹がしていたように扉に対して横方向に力を入れる。
 すると、ギギギ、と噛み合わせの悪そうな音を鳴らしながら扉が徐々に横へとずれた。

「部屋全体を凍らされたやら、天井が落ちたやらの影響で、歪んだか、施錠魔術がイカレたかしたんだと思うわ」
「よく気付いたな」

 驚きでそれ以上の言葉が浮かばなかった。

「別に気付いてはないわよ。ただそんな事も有り得ると思って試しただけ。まあ、駄目ならピッキングなり他の方法を試したわ。なんやかんやの影響で普段よりも簡単にできるかもしれないしね――というか、まずは穏便な方法から試すもんでしょ、普通。もしいろいろ試してそれでも駄目ならその時荒っぽい方法に移る。『斬る』なんて最終手段の類よ」

 何も言い返せないでいると「まったく」とため息交じりに杏樹が肩に手を置いてきた。

「とりあえず、落ち着きなさい。じゃないと、助けられるもんも助けられなくなるわ」
「……協力、してくれるのか?」

 冬鷹が抱いた疑問に、杏樹はこれでもかと目を剥く。

「はあ!? 今さら何言ってんの? 英吉、このバカ、どうにかしてよ」

 英吉はいつもの楽しげな笑みを浮かべる。
 そんな二人が寄り添ってくれる事に、冬鷹も自然と笑みが漏れた。



 雪海の部屋の扉は開いた。とすれば問題はもう一つの扉――郡司家居住スペースの出入り口の扉をどう突破するか。扉の前にはすでに根本と去川が何処か気怠そうに並んでいる。
「冬鷹、アンタ扉を斬って出た後どうするつもりだったの?」
「それはな……」

 全くのノープランだった――故に言葉が途切れる。

「はあ。まったく……まあ、そんなんだろうとは思ったけどね」
「んだよ、その呆れた目は! じゃあ杏樹には何か策があるのかよ!?」
「んなもんないわよ」
「んだよ、一緒じゃねえか」
「はあ? 一緒になんかしないでくれる。私は技術屋としての役割を十分果たしてるわ」

 杏樹はすました顔で、今し方こじ開けた扉をビシビシと指さす。

「まあまあ、落ち着け。とりあえず、二人とも案が無いんだよな?」

 英吉の問いに冬鷹と杏樹は少しバツが悪そうに頷く。

「英吉は何か案ないのか?」
「うーん……目を盗んだりして抜けるのはかなりキビシイかな」

 正直少し期待していた。三人でいる時、こういった頭脳プレイはもっぱら英吉の担当だった。

 しかし、英吉は穏やかな口調で続ける。

「だからさ、もう正面から行くしかないかな。幸い、トイレは入口近くにある。トイレ貸してくださいとか言って近づいて、隙を突いて奇襲をかける」

「え?」「は?」
 英吉らしからぬ思慮が浅げな案。冬鷹と杏樹は思わず声を重ねる。

「時間をかければ、仕掛けなんかも踏まえた良い案が他にはある。だけど、そんな時間はないからな。今は一分一秒がおしい。スマートにできるところはスマートに。出来なければ粗っぽくても仕方ないから最短ルートで。それが最善手だと思うけどな」
「……確かに」「……そうね」

 納得した。
 ――というより、他に案が無いのだから納得するしかなかった。
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