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2章 おかしくなった世界⁉

第16話 『奇妙な違和感⁉』

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 そっと目を開けると、
 自分を抱きしめているスペスと、日のひかりに照らされた遺跡が見えた。

 さっき――スペスに名前をよばれたあと、目の前が真っ暗になった。
 なにが起きたのかはわからなかったが、それが収まった今も強く抱きしめられていることだけはわかった。

 一度落ちつこうと息をおおきく吸ったら、スペスの匂いを近くで感じて、心臓がドキンと鳴った。
 それを誤魔化すようにスペスに声をかける。
「な、なんだったの、今の?」
「わからない……、なんだったんだろう?」

「えっと――ゴメンちょっと痛いかも……」
「あっ、ああ……ごめん」
 腕の力がぬかれ、スペスがゆっくりと手をはなす。

 すぐそばに感じていた温もりがなくなって、アルマは思わず自分の頬をさわった。
――スペスは、今どんな顔をしてるんだろう? 

 そう思って顔をあげると、スペスは、いまにもだった!
「んんぅーーー!」
 口に手を当てて、うめくスペス。すでに限界が見えていた。

「きゃぁぁぁぁぁ! あっ……あっち! あっち向いてー‼︎」
 アルマが指した方へクルリと向いたスペスは――
「うぇぇぇぇぇ……」
 と昼食をすべて吐き出した。


「……大丈夫?」
 大分傾いた太陽に照らされながら、アルマはしゃがみ込んだスペスの背中をさすっていた。
「うん、楽になってきた……」
《酔い覚まし》の魔法はすでにかけていた。
「アルマは、なんともないの?」
 まだ青い顔のスペスが訊く。

「わたし? そうね、言われてみれば――」
 と頭を左右にふってみる。
「すこしクラクラする……かも? さっきの真っ黒いやつのせいかしら? 魔法とかで急に目が見えなくなると、船酔いみたいな症状が出るっていうからね」
「……それだけ?」
「そうだけど?」

「えーっ」と、スペスが不満そうな声をあげる。
「日頃の行いのせいかしらね?」とアルマは笑った。

「それよりも――」
 アルマが急に怪訝な顔をする。
 決定的におかしな事がひとつあった。

「さっきまで、曇ってたわよね?」
 上を見あげると、ひろがる青い空と、双子の山に沈みかける太陽が見えた。

「たしかに、そうだね」とスペスがうなずく。
「地面に影ができてたから、おかしいと思ったのよね……」
「ボクも明るいなとは思ってたんだけど」
 ふたりは辺りをきょろきょろと見まわす。

「遺跡が光ってから芋を取りにいくまでは曇っていたと思うのよ――たぶん」
「そうだね」と、スペスがうなずく。
「ねぇ、これってどういう事? あの黒いのが雲をどうにかしちゃったの?」
「うーん、よくわからないし、何が起きたのかもわからないな」
 スペスは腕を組む。

「アルマ、ほかにはおかしな事はない? 体は平気?」
「体は――」
 アルマはあちこちを見たり、ぺたぺたと触ってみたりする。
「平気みたい」

「そっか」とスペスが安心した顔をする。
「……まあ何が起きたのかはわからないけど、無事ならよかったよ。次からはもっと気をつけてやるからさ」
「うん――」
 と答えて、アルマはまた周りを見た。

「それじゃあ、遅くなるといけないし帰ろうよ」
 そう促すスペスに返事をせず、アルマは何度もあたりを見まわしている。

「アルマ?」とスペスが声をかけた。
「えっ? あっ……そうねっ、帰りましょ!」
 そう答えつつ、アルマはまだまわりを見て考えこんでいる。

「どうかしたの?」
「ねぇ、スペス――やっぱり、何かおかしな気がしない?」
「おかしい? どこが?」とスペスがあたりを見る。
「わかんないんだけど……、なにかがしっくりこないの。なんとなく居心地が悪いのよ」
「んー? なんだろうな?」とスペスは首をかしげた。

 ふたりは改めてあたりを見まわす。
 地面には、相変わらず石の寝床のような遺跡があって、いつも村の後ろにある双子の山も見えた。

 なのに――アルマには、違和感がぬぐいきれなかった。

「よくわからないけど、今日はもう戻って休もうよ。吐いたせいか、おなかも空いてきたし……」
「そうよね、なにかスッキリしないけど、遅くなっちゃうからもう帰りましょ」
 そう言ってふたりはすぐに遺跡を出た。
 が、そこで急にアルマがきょろきょろとしはじめる。
「あれ――おかしいわね、勘違い?」
「どうしたの、なにか無くした?」
「無いのよ――」とアルマが答えた。

「道が……、道が無いの!」
「ええっ⁉ そんなはず……」
 とスペスも行く先を見たが、すぐに『無いね……』と言った。

 何をどう見ようとも、そこに道はなかった。
 かわりに、道のあった場所には一本の木が生えている。

 まわりにある山の方向から考えて、ここが道だったのは間違いなかった。
 急に現れたその木は、そこまで大きくなかったが、それでも何年かの時間をかけて育ったもののように見えた。

「なに? なんなのよ、この木は! いったい……どういう事なの?」
 言葉にならない不安が襲いかかってきて、アルマの声は震えていた。

「ちょっと待ってて!」
 スペスが急いで反対側へまわりこむ。
「だめだよ、アルマ!」むこう側から、スペスの声がきこえた。
「――この先にも道は無い! ずっと木や草が生えてるだけだ!」

 その瞬間に、アルマはさっき感じていた違和感の答えをみつけた。

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なにかがおかしい……。

どうなる次回、
第17話 『スペスは強い⁉』
で、お会いしましょう!
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