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2章 おかしくなった世界⁉

第19話 『走って、走って、また走れ⁉』

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 小人たちは、突然現れたふたりに一瞬固まったが、すぐに奇声をあげて追いかけてきた。

 もしかしたら見逃してくれるかもしれない、というアルマの淡い期待は瞬時に消える。

 アレに追いつかれたらどうなるのか、アルマにはそれを考えるのも恐ろしかった。
 全身が恐怖でこわばって、足に力が入らなかった。

 それでも、しゃがみ込みたくなるのを必死にこらえて夢中で走る。
 つんのめるように遺跡を抜けてふり返ると、スペスの後ろに迫る小人達は、思ったよりも距離をつめていた。

――このままじゃ、すぐに追いつかれちゃう!
 アルマがそう思った瞬間、
 先頭の小人がなにかに足をとられ、ぐるりと地面を転がった。

 あとから来た小人達が警戒して足を止める。

――さっき、スペスが作っていた輪っか⁉
 気付いたアルマは、スペスに感心すると同時に、
 小人との距離が開いて、心に余裕ができた。
――今のうちに!
 と速度をあげると、うしろから声が飛んだ。

「アルマっ! ペースに気をつけてっ、追いつかれたらっ、コイツで追い払うからさっ!」
 スペスが、走りながら腰のムチを見せる。

――そうだった……。無理をしてバテたら――お終いなんだ。
 理解したアルマは、すこしだけ走る速度を落とす。

――きっと帰るんだから! わたしの村に! なにがあっても!
 そう考えると、少しだけ力がわいた。

 ふたりは前後に並び、暮れかけた丘を一目散に下っていく。

 丘をくだり始めると森に入り、木が増えた。
 先を行くアルマは、苦心しながら進路を選び、ひたすらに走る。

 山育ちのアルマでも、道のない森をこんな急いで下りたことはなかった。
 だが、何度草木が顔をひっかいても、決してスピードは落とさなかった。

 枝をくぐり。
 岩をかわし。
 木をつかんで強引に曲がる。

 沢を飛び越え。
 藪をつきぬけ。
 転がり落ちるように斜面を駆け下った

 こんな速度で走っていると、いちいち頭で考えては追いつかない。
 考えて進路を選ぶというよりも、変化する状況に、反射的に動いていた。

 そんなアルマの走りにも、スペスはしっかりついてきていた。
 扱いの難しいムチを数日で使いこなした事といい、体を使うセンスがあるのかもしれない……。
 そんなことを考えて後ろを気にしたアルマは、気づかずに踏んだ落ち葉のかたまりで滑り――
「……あっ!」と尻もちをつく。

――いま止まったらダメ!
 そう思って、座りこんだ姿勢でスカートを抱えると、そのままお尻で一気に斜面を滑りおりた。途中で、出っぱった木の根を蹴り、『やっ!』っと立ちあがったアルマは、またがむしゃらになって走る。


 どのくらい走っただろうか――
 ふたりはいつしか、丘のふもとの傾斜が緩くなるあたりまで下りていた。
「――止まって! アルマっ!」
 スペスの声で、木の陰に隠れるように止まったアルマは、ゼイゼイと荒く息をつく。
 追手の近づく音が、上からガサガサと聞こえるなか、スペスが静かにムチを構えた。

 藪の中から飛び出した小人へ向けて、ヒュッという音をあげながら、スペスのムチが飛びかかる。
 勢いよく斜面をくだってきた小人は、まともに躱《かわ》すこともできず、顔のあたりにムチを受けて『ギャッ!』と転がった。

 見ていたアルマは、バチンっと鳴るその音に、思わず目をつぶってしまう。


 ずっと逃げ続けていると、追手が自然に足の早いものと、遅いものに分かれた。
 ふたりは所々で立ち止まり、こうしていちばん先に来たものだけを倒すと、また走った。
 すでに、このやり方で二体を返り討ちにしている。

 地面に転がってもがく小人に、さらにスペスのムチが飛んだ。
 当たった所の皮膚が裂け、〝血〟ではない青い体液が流れ出す。

 連続でムチを受けた小人は悲鳴らしきものをあげ、気が動転したのか、後ろも見ずに逃げていった。
 そして、もう――それ以上、追いかけてくる音はしなかった。

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なんとか逃げ切れたものの、途方に暮れるふたりは村を目指す。

次回、
第20話 『たったひとつだけの灯⁉』
で、お会いしましょう!
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