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2巻
2-1
しおりを挟むプロローグ
「うーん……?」
目の前にある大量の記号……文字とにらめっこをしながら、私は頭を抱えた。
私はフィリス。日本人だった前世の記憶を持つ五歳の幼女で、生まれつき目が見えなかった。
私はアシュターレ伯爵である貴族の父が平民に産ませた子どもで、体裁ばかりを気にする家族に、かなり疎まれていた。
……私の母親は、私を産んだ直後に亡くなってしまっていたので、顔も声も知らない。
愛情を注いでくれたのは、長女のナディお姉さんと、お付きのメイドのエリーだけ。
それでも、それなりに幸せな生活を送っていたある日。
……私は事故に見せかけた父親の謀略によって、瀕死の状態で『深緑の谷』という場所に落とされてしまった。
そんな私を谷底で助けてくれたのが、ガル。
ガルは今、私の勉強を見てくれている。
「少し休むか、フィリス」
「……ううん、もうちょっと」
「そうか。無理はするなよ」
私が首を横に振ると、ガルは私の頭を優しく撫でてくれた。
今は渋いおじさんの姿をしているけど、ガルの正体は「風狼リルガルム」という、おとぎ話にもなるくらい有名な聖獣。
聖獣っていうのは、神様の使いといわれるほどすごい生き物のこと。
そんなガルに、私は「昔の友人に似ている」とか「放っておけない」とかって言われた。
そして、私の事情を知ったガルは、私がナディお姉さんたちと再会できるように、一緒に旅をしてくれたんだよね。
……でも、初めて会ったときは狼の姿をしていたから、ものすごく驚いたっけ。
つい一か月前くらいのことなのに、私が妙に懐かしい気分に浸っていたら、部屋の扉が勢いよく開いた。
「フィーちゃーん! おやつにしない?」
両手にお菓子を抱えて突撃してきたのは、アシュターレ伯爵家長女のナディお姉さん。
「あとで。いま、いそがしいの」
「フィーちゃんは真面目ねぇ……」
私に断られたナディお姉さんは、ものすごくしょんぼりしている。
頭もよくて、魔法の腕も一流なのに、私のことになるととたんにポンコツになる残念美人。
(そんなところも、大好きなんだけどね)
……これを言うと調子に乗ってしまうから、本人の前ではあまり言わないけど。
ナディお姉さんは私がガルと旅をしている間に家を飛び出して、貴族の地位を捨ててまで、エリーと一緒に私を捜しに来てくれた。
そのあと、ナディお姉さんとエリーに会えた私は、神様から特殊な能力――《ギフト》をもらう儀式、『選定の儀』を経て、視覚を得ることができた。
他にも、おまけみたいな感じで特殊能力をもらったけど、どれもチートと呼ぶにふさわしいトンデモ能力だった。
……結局、私の能力については、ずっと秘密にするということになったんだよね。
『選定の儀』を終えてから、私とガル、ナディお姉さんとエリーは、母国のエイス王国と、ダナーリオ公国の国境の街エルブレンに滞在して、今に至る。
(まぁ、それはさておき……)
目が見えるようになっても、字が読めなければ生活するのが大変ということで、こうやって勉強しているんだけど……これがまた難しい。
この世界の文字は、日本語と同じ文法で、ローマ字みたいに子音と母音の字を組み合わせてひとつの音にしている。
(それだけなら、簡単だったんだけど……)
五文字しかない母音はともかく、発音によって毎回違う組み合わせになる子音を覚えるのが大変。
そして何より、この超複雑な文字の書き方が恐ろしく厄介。
なんでひとつの文字に太い線と細い線があるの?
正しい書き順通りに書かないと、変な形になるのはなんで?
おまけに書き方には活字体と筆記体があって、筆記体のほうは書き手によっては癖が強く、もはやオリジナルの文字と化す有様。
だというのに、街で見かける文字の大半が筆記体。
……日本語と同じ文法だからって、簡単に覚えられると思っていた私が間違っていた。
(これは手ごわい……)
慣れれば読めるとガルは言うけど、まだまだ時間がかかりそうだよ。
でも、とりあえずこの宿の食堂にあるメニューくらいは、読めるようになりたい。
……食欲のためだろうと、覚えられればいいんだよ。
その日の夜。
みんなで夕食を食べていると、ナディお姉さんが何かを思い出したのかポンッと手を打った。
「そうだ、イタサに行ってもいいかしら?」
その言葉に、私とガルは顔を見合わせる。
ナディお姉さんが、急に何かを思いつくのはよくあること。
……けど、今回はちょっと考えないといけないんだよね。
社交界で顔が知られていないらしい私はともかく、超有名人だというナディお姉さんは、現在エイス王国内ではある意味お尋ね者。行方不明になってるはずのナディお姉さんが大きな街に行ったら、騒ぎになっちゃうかもしれない。
エルブレンは栄えているとはいえ辺境の街だから、ナディお姉さんの正体はバレていないみたいだけど……王都に近くなればリスクも高くなる。
「して、それはなぜだ?」
ガルも、私と同じことを考えたみたい。
それでもまずは理由を聞いてみることにしたらしく、ナディお姉さんに問いかけた。
ナディお姉さんは、私を優しく撫でながら話す。
「エリステラに、フィーちゃんと無事に会えたって、きちんと報告したいのよ。彼女には、いろいろとお世話になったもの」
エリステラさんは、ナディお姉さんの学生時代の友人で、大きな商家の娘さん。
私を捜索するために家を出たナディお姉さんとエリーが、エリステラさんを頼ったことは聞いていた。
ガルは、イタサに行きたい理由には納得したみたいだけど、まだちょっと渋い顔をしてる。
「……街に入るには、検問があるだろう。お主は通れまい」
確かに。私も何回も通ったから、どの街にも検問があるのは知ってる。
私とガルは余裕で通れたけど、有名なナディお姉さんは、正体がバレてしまうかもしれない。
「ふふふ、そこは、ちゃんと考えているわよ」
不安になっている私とガルをよそに、ナディお姉さんは得意げに笑って、自分のバッグから何かを取り出した。
それは、金属でできた鳥の置物みたいなもの。
よく視ると、うっすらと魔力をまとっているのがわかった。どうやらこの鳥は、魔道具の一種らしい。
「ほう、手紙鳥か。なるほど、それを使えば、街に入る必要はないな」
「でしょう? もうエリステラの魔力は登録されているから。街の近くに行ければ十分よ」
(手紙鳥……聞いたことない名前だね)
ガルとナディお姉さんのやり取りに、私は首を傾げる。
すると、ナディお姉さんは私に手紙鳥を持たせて説明してくれた。
どうやらこれは、離れたところに手紙を届ける道具らしい。
手紙鳥にあらかじめ魔力を登録しておくと、その魔力の持ち主のところに飛んでいって、手紙を届けてくれるんだとか。なんだか便利そう。
するとなぜか、ナディお姉さんが悪いことを企んでいるみたいな、黒い笑みを浮かべた。
「ふふふ……私が街に入れないのなら、エリステラを呼べばいいのよ」
(なんか、いやな予感がするなぁ……)
なんて思いつつも、私たちはイタサの街に向かうことを決めた。
第一章 運命はすぐそこに
ナディお姉さんがイタサに行きたいと言った翌朝、私たちは泊まっていた宿を発った。
そして、エルブレンから歩くこと、今日で四日目。
ナディお姉さんが見つからないように、森を突っ切って移動して……ついさっき、やっと開けたところに出た。
私たちの視線の先には、外壁に囲われた街がある。
その外壁よりも高い、塔みたいな建物も見えた。
あれがイタサ……あんなに大きい街だったんだね。
もちろん、視覚を得てから、私がイタサを見たのは初めて。やっぱり、想像するのと実際に見るのではだいぶ違う。
「うーん、やっと戻ってきたわ!」
「そんなに時間は経っていないのに、すごく懐かしく感じます……」
ナディお姉さんとエリーは、深呼吸をしている。
私はもうなんともないけど、二人は流石に野営には慣れていなかったらしく、ちょっとだけ疲れているように見えた。
「さてと。ここからなら、手紙鳥も届きそうね。早速飛ばしましょう!」
私が街を見て感動している横で、ナディお姉さんが魔道具の準備を始めた。
手紙鳥のお腹の部分を開けて、ここに来るまでに書いていた手紙を詰めてる。
……若干無理やり詰め込んでるようにも見えてたけど、やっぱりふたを閉めたときに、紙が潰れるグシャッていう悲しい音が聞こえた。
「あとは魔力を込めて、っと」
ぎゅうぎゅうに手紙を詰めた手紙鳥を動かすために、ナディお姉さんが魔力を込めていく。
すると、手紙鳥がまとっていた魔力の輝きが、どんどん強くなっていった。
「こんなものかしら?」
ナディお姉さんが魔力の供給をやめたときには、手紙鳥はまばゆい光を放っていた。
なんていうか、爆発寸前みたいな危うさを感じるんだけど。
「……込めすぎではないか? 恐らく半分でも、十分足りるだろう」
すると、じっと手紙鳥を見ていたガルが、顔をしかめながら呟いた。
(ガルも、私と同じ意見みたい……)
ところが、ナディお姉さんは気にした素振りもない。
「そうかしら? でも、一回込めた魔力は飛ばさない限りなくならないから、このまま飛ばすしかないわよ」
「どうなっても知らぬぞ……」
あっけらかんとしているナディお姉さんに、ガルは大きくため息をついた。
(あ、ガルが諦めた)
「さぁ! 行ってらっしゃ……い⁉」
「うわ⁉」
立ち上がったナディお姉さんが、力いっぱい手紙鳥を上に放り投げた……瞬間、ジェット機のエンジンのような爆音が響いて、私は思わず驚きで声をあげた。
余波なのか、白い魔力の光がふわりと辺りに広がる。
見上げた空には、一条の飛行機雲ならぬ、魔力の残像があった。
「「「……」」」
「あら……」
絶句する私たちと、口元に手を当てるナディお姉さん。
しばらくして、我に返ったらしいエリーが、じろりとナディお姉さんを睨んだ。
「どこかで見たことがありますね、この光景。なんで学習しないんですか?」
「うっ。返す言葉もないわね……」
ぷりぷりと怒っているエリー。ナディお姉さんはものすごく気まずそう。
「エリー、どうしておこってるの?」
「……二回目なんです。ナディさまが、手紙鳥を暴走させたのは」
「……え?」
私がなぜ怒っているのかを聞いてみたら、エリーは額を手で押さえながら教えてくれた。
エリーいわく、私を捜すためにイタサを訪れたときも、今と同じように手紙鳥に魔力を込めすぎて……暴走したそれは、エリステラさんのお部屋を破壊したらしい。
(ナディお姉さん……頭はいいのに、なんでこう、ちょっと残念なんだろう)
エリーに怒られて、小さくなっているナディお姉さんを見ながら、私はそんなことを思った。
黙っていれば超美人さんだから、なんかもったいない。
私がエリーのナディお姉さんに対するお説教に耳を傾けながら、街に続いている道の先をじーっと眺めていたら、うっすらと土煙のようなものが見えてきた。
(何かが、すごい速さでこっちに向かってる……?)
目を凝らすと、それは一台の馬車だった。
「だれかくる」
私の呟きに、近くにいたガルが反応する。
「ふむ……どうやらここを目指しておるようだな。とすると、あの馬車に乗っているのはエリステラ、もしくはその使いといったところか」
「そうかも」
私たちがいるのは、街から離れた人気が一切ない森にほど近いところ。だから、私たちに用がない人は、わざわざこっちを目指さないはず。
手紙鳥の発射ポイントを知っているのは、受け取ったエリステラさんだけだろうし、ガルが言う通りエリステラさんかその関係者が乗ってる可能性は高そう。
でも、別の人ってこともないわけじゃない。
万が一全く関係ない人だった場合に備えて、狼姿だったガルは完全な人に変身した。
(私も、フード被っておこう……)
私が顔を隠したのを確認したガルが、懇々と説教を続けているエリーを見る。
「エリーよ、そのくらいにしておけ。何者かが、こちらに向かっておる」
「あ、はい」
エリーはあっさりとナディお姉さんを叱るのをやめて、私たちのそばにやってきた。
そして、だんだん近づいてくる馬車を見たエリーは、「あ」と声を漏らす。
「あの馬車は……エリステラさまの馬車ですね」
「やはりそうか」
エリーには、すぐに誰の馬車なのかがわかったらしい。
ガルが予想した通り、エリステラさんのもので間違いなかったんだね。
すると、ガルが私を抱き上げて、一歩下がった。
「我はエリステラとは初対面ゆえ、対応はお主とナディに任せよう」
「わかりました!」
エリーは元気に返事をして、ナディお姉さんにエリステラさんが来ていることを伝える。
しょんぼりと肩を落としていたナディお姉さんは、それを聞いてパッと顔を輝かせた。
だんだん、ガラガラガラ……という馬車の車輪が回る荒い音が聞こえてくる。
馬車が近づいてくるにつれて、赤く揺らめくものが目に映るようになった。
(ん? ……炎? いや違う)
一瞬、森に火がついたのかと思って焦ったけど、私以外は誰も反応していない。
私にしか見えていないということは、私の《ギフト》……魔力や感情が視える能力がある、《祝福の虹眼》でしか捉えられないもの。
そう考えてよく視たら、炎のように辺りに漂っていたのは、どこか視覚えのある赤い魔力だった。
(これは……エリステラさんの魔力?)
私は《ギフト》で視覚を得る前も、生物の体を流れる魔力を視て、視力を補ってきた。
イタサの街でよくしてくれたエリステラさんの魔力反応は、しっかりと覚えている。
でもなんか、前視たときより、かなり荒れてるような……熱くはないけど、本物の炎みたいにメラメラと揺らめいて視える。辺り一面が、火の海になってしまったみたい。
「ナ~ディ~‼」
すると突然、聞き覚えのある声が響き渡った。
「うわ、おこってる……」
声から感じる確かな怒り。私が思わず呟くと、ガルもやれやれといった感じで首を横に振る。
「仕方あるまいな。手紙鳥に二度も命を脅かされては、穏やかではおれまい」
(ですよねー……)
私とガルがそろってため息をついたとき、私たちの目の前に、馬車がすごい速度で現れた。
そして、馬車ってこんなに急に止まれるんだ……ってくらい、車輪で地面をえぐりながら急停止する。
「またやったわね⁉ 今度はただじゃおかないわよ!」
馬車から飛び降りてきたのは、ドレスを翻して赤い髪を揺らす女性……エリステラさん。
きれいな顔は怒りの形相に歪んで、魔力は業火のように荒れ狂っている。
……目が見えていなかったら、私はどう感じたのかな。
人の表情がわからない【魔力視】だけじゃ、周囲の状況は把握しづらいから……怖くて直視できなかったかもしれない。
「〈煌け――華焔〉!」
エリステラさんは、ナディお姉さんを視界に捉えた瞬間、両手に特大の火の球を出現させた。
ナディお姉さん以外の私たちは、意識から外れているみたい。
「ちょっと待っ……〈逆巻け――水禍〉!」
エリステラさんに火の球を向けられたナディお姉さんは、慌てて魔法を使いながら駆け出す。
ナディお姉さんが作り出した水の柱に、エリステラさんの魔法がぶつかって、ズドォォォン! という爆発音が響いた。
もうもうと立ち込める水蒸気で、視界が真っ白に染まる。
(えぇぇぇぇ⁉)
突如始まった、怒れるエリステラさんとナディお姉さんのけんかに、私は心の中で絶叫した。
というか、衝撃的すぎて声が出ない。
「……一度ならず二度までもっ! お部屋、直したばかりだったのに! もう許さない!」
「違うのよぅ! 聞いてエリステラ! 聞いてったらぁぁ⁉」
「止まりなさい! 骨までしっかり焼いてあげるわ!」
「⁉ 私はステーキじゃないのよ⁉」
連続して響く爆発音に交じって、エリステラさんとナディお姉さんの、悲鳴みたいな言い合いが聞こえてくる。
(どどど、どうしよう……って、あれ?)
流石にヤバいから止めようかと思ったんだけど……ふと、違和感を覚えた。
その違和感の正体を確かめようとよく視てみると、エリステラさんは過激な言葉とは裏腹に、わざと魔力を霧散させているのがわかる。
あえて魔法を不完全な状態にして、ナディお姉さんが確実に防御できるくらいまで威力を抑えているみたい。
ガルも、すぐには動かなかった。飛び出そうとしたエリーを制して、二人の争いを静観している。一応、すぐに止めに行けるようにはしてるみたいだけど。
「……少々灸を据えるのが、エリステラの目的のようだな。見事に、直接は当たらぬように調整しておる」
ガルもどうやら私と同じことを思ったらしく、小さく呟いた。
私の認識は、間違ってないみたいだね。
顔を青くして震えていたエリーは、ガルの言葉を聞いてピクリと肩を揺らした。
「つ、つまり、エリステラさまは、ナディさまを害するつもりはないと……?」
爆発音がするほうをちらちらと見ながら、エリーが問いかける。
今にも倒れそうなエリーを安心させるために、私とガルはしっかりと頷いた。
「だいじょうぶ」
「脅かしておるだけであろうな」
「っ、はぁぁぁぁ……よかったぁぁ」
大きく息を吐いて、その場に崩れ落ちるエリー。
ナディお姉さんが危険な状態じゃないというのがわかって、腰が抜けたらしい。
すると、ガルは私を地面に下ろして、ぐるりと辺りを見回した。
「とはいえ、いつまでも騒いでおっては魔物を呼ぶ。そろそろ止めるとしよう」
そう言うと、ガルは鞘に入ったままの刀を地面に突き立てて、目を閉じて魔力を集めた。
まるで、高速で移動するナディお姉さんたちの動きを探っているみたいに、ガルの魔力が広がっていく。
そして、ガルを中心に魔力の輝きが強くなった瞬間、カッと目を見開く。
そのとたん、辺りを覆っていた水蒸気が、弾けるようにして消えた。
「「んなっ⁉」」
ナディお姉さんとエリステラさんの魔法も、同じように消えてる。
いきなり魔法を消されて驚いたのか、二人がそろって驚愕の声を漏らした。
一拍遅れて、周囲の木から伸びていた枝が、すっぱりと切断されたように落ちてくる。
(今のはガルの風……だよね?)
何をしたのか、私の《祝福の虹眼》でもわからなかった。
……聖獣、恐るべし。
「そこまでだ」
突然の出来事に動きを止めたナディお姉さんたちに、ガルが静かに告げる。
「ま、まぁ……今回は、このくらいで勘弁してあげるわ……」
「あ、ありがとう……」
ガルに睨まれたナディお姉さんたちは、ぎこちなく握手を交わして仲直りした。
……ガルから逆らっちゃいけないようなオーラが出てるからか、流石のナディお姉さんでも無視できなかったみたい。
「うむ」
二人が落ち着いたのを見たガルは、満足げに頷いた。
ガルが強制的にけんかを止めたことで、エリステラさんは私たちがいることにやっと気が付いたらしく、こっちを見て、驚いたように目を見開いた。
「うそでしょう⁉ 貴女……フィリス⁉」
なんですぐわかったんだろうと思って首を傾げたら、髪が何にも遮られずに動いた。
(あ、フード取れてる。いつの間に……)
ナディお姉さんたちの魔法の衝撃か、ガルの風か……いつ脱げたのかわからなかった。
まぁ、エリステラさん相手には隠す必要がないし、いいんだけど。
「はい。フィリスです」
「あ……な……」
私が返事をすると、エリステラさんは私を指したまま口をパクパクさせた。
驚きすぎて、言葉が出ないみたい。
「なんてこと……今度こそ、ナディがおかしな妄想を始めたとばかり……」
「失礼ね。私は至ってまともだわ」
「だって、こんなに早く……ありえないと思うのが、普通でしょ……」
ちょっと不服そうに口を尖らせるナディお姉さん。
エリステラさんは混乱しているらしく、うまく言葉を紡げていない。私とナディお姉さんを交互に、何度も何度も見て頭を抱えている。
確かに、私が行方不明になってから、まだひと月も経っていない。
生きているかもわからなかった私が、何食わぬ顔で目の前に現れたら、そりゃ混乱もするよね。
しばらくすると、エリステラさんは落ち着いた。
そして私のところに来て、しゃがんで視線を合わせてくれる。
ナディお姉さんとはまた違った美しさのある顔が、ぐっと近くなった。
真紅の瞳が、まっすぐに私に向けられて……エリステラさんは、フッと微笑んだ。
「いろいろと気になることはあるけど、おかえりなさい、フィリス」
「はい! また、きました」
私が元気に返事をすると、目に涙を浮かべたエリステラさんが、ぎゅっと私を抱きしめた。
「よく、生きていてくれたわね。本当に、無事でよかったわ」
エリステラさんも、ナディお姉さんやエリーのように、私のことを案じていてくれたらしい。
たった一日……というか、ほんの数時間しか一緒にいなかったのに、こんなにも大切に思ってくれていたなんて。
(嬉しい……)
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