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第二章 外堀はこうして埋められる
3人でほんわかお弁当タイム
しおりを挟むリュート様が唐揚げを大きな口でぱくりと食べて、くぅっと一言唸ると、同じ様に唐揚げを食べたロン兄様が驚いた顔をして皿にまだ残っている唐揚げをじっくりと見つめた。
「美味しい……すごい、これ、どうやって作ってるの?この鶏肉、今までに食べたことがないほど美味しいね。外はパリッとしているのに、中はじゅわっと肉汁が溢れてパサパサしてない」
「別段特別なことはしてないと……下味をつけて揉み込んだくらいでしょうか」
「それで……変わるの?」
ビックリした様子のロン兄様は、目をまんまるにして私と唐揚げを見比べています。
「あとは、熱を通しすぎないことだと思います。油で揚げている場合、油を切っている間に余熱で中まで火が通るくらいが、一番いいタイミングだと思います」
「余熱……そこまで計算して作ってたら……そりゃ美味しいわけだぁ」
ぱくっ!と、もう一つお皿の上にあった唐揚げを頬張り、ロン兄様はふにゃりと笑ってくださった。
良かった、お口にあったみたいです。
「タコさんウィンナーも美味しいぞ」
「タコさん?あ……本当だ。タコだ。へぇ、可愛いなぁ」
「ポテトサラダもクリーミーだし、卵焼きがすっげーふわふわで旨い」
「ん……へぇ、これジャガイモなの?この味は初めてだけど……」
リュート様が嬉しそうにマヨネーズの説明をして、それを「ふむふむ」と真剣な表情で聞いているロン兄様。
何でしょう、この微笑ましい兄弟は……ほっこりしますね。
「じゃあ、この卵焼きって、うすーく焼いたのを巻いてるの?手間がかかってるねぇ……すごいなぁ」
「でも、納得の旨さだろ?」
「そうだね。この何とも言えないふわっとした卵の優しい味が、何とも言えないね」
ぱくっと兄弟で同じタイミングで卵焼きを頬張り、頬を緩めるタイミングまで同じという奇跡を見てしまったら、きゅんっとしちゃいます!
これは、可愛いものを見たときのきゅんですね。
それから「旨いだろ?」「美味しいね」とやっているのだから……はぁ、もう可愛すぎますよ、リュート様、ロン兄様!
そして、本日のメインとなるトルティーヤです!
お肉とお野菜たっぷりなのと、あたたかいハムとチーズバージョンと、たまごサンドバージョンですよ!
包まれた紙の中から出てきたトルティーヤは、リュート様が作った野菜とウィンナーとトマトソースとチーズの入った豪華バージョン。
うわぁ……美味しそうです!
パクリと一口目ではお野菜と皮しか食べられませんでしたが、皮が柔らかくお野菜もみずみずしくって美味しいですね。
樹木に実るというパプリカも、味が濃くて甘味があって美味しいです!
次に、レタスや人参や玉ねぎも一緒に、ウィンナーとトマトソースとチーズが見え隠れする、見た目からも美味しそうだとわかる部分を頬張る。
酸味のきいたトマトソースと塩味の濃いウィンナー、それを包み込むチーズのまろやかさ。
シャキシャキの野菜たちの甘味も素晴らしく、嫌味のないくらいささやかだけどピリッと辛い玉ねぎのスライスがいい仕事をしてますね。
「うまっ!トルティーヤ……やべぇ……」
「うわぁ……これは何?チーズがとろーっとして美味しい!」
「あ、ハムチーズ!俺も食べたいなぁ、でも……この卵とマヨのコラボも旨い」
「そっちも美味しそうだねぇ」
「次はこっちオススメ。ルナが食べてる物もいいけど、絶対コレ食べたほうが良い」
たまごサンド風を大絶賛してますね。
ロン兄様もリュート様も、実は卵料理好きですか?
あ……いえ、リュート様は卵料理ではなく、和食ですよね。
和食……いま、再現できる和食ってなんでしょう。
またたく間に1つ目を完食したリュート様とロン兄様は、次のトルティーヤに取り掛かっている。
食べ物1つで、これがこう美味しいね、あれがこう美味しいねと会話している兄弟を見ていると、なんだかもっと作りたくなってしまいます。
美味しい物、もっと食べて良いのですよ?
そして、二人で「美味しいね」と笑い合ってくださったら、とても嬉しいです。
リュート様が年相応に、ロン兄様に甘えている姿が嬉しくて、胸がいっぱいになってしまいました。
良かった……リュート様は、ちゃんと守られている。
少なくとも、ロン兄様は絶対にリュート様を見捨てたりしない。
その事実が、私にはとても嬉しかった。
和やかな食事をしている最中に、通信音が入ったのをきっかけに、今までふにゃりと笑っていたロン兄様の表情が引き締まる。
スイッチが入った瞬間を見てしまいました……お仕事モードです!
「食事中にごめんね。少し席を外すね」
申し訳なさそうに軽く頭を下げてガゼボの外に出たロン兄様は、難しい話をしているのでしょうか少し思案顔ですね。
リュート様にお茶のおかわりを差し出しながら、先程気になったことを質問しようと私は声を潜める。
聞かれてもいい内容かどうかわからなかったからであった。
「そういえば、リュート様」
「うん?」
「キュステさんはお弁当をご存知でしたのに、ロン兄様は知らなかったのは、どうしてです?」
「ああ、竜族には『お弁当』って名前ではないけど、似たような文化があるんだ。祝い事の時に、金属製の大きな箱に料理を詰めて、家の外に持っていって家族で食べるんだってさ。200年に一度くらいしかないから、他の種族にはあまり知られていないことなんだって」
200年に一回ですか……それは長いですね。
お弁当って学生の頃は毎日のイメージでしたし、社会人になってもできる限り作ってましたよ?
疲れたときや体調が悪いときなどは、コンビニに頼ることもありましたけど……
そういうときの菓子パンが妙に美味しくて、メロンパンを買って頬張っていたら、「一生懸命食べて可愛い」と、同僚にほっこりされた覚えがあります。
そんなに頬張っていませんでしたよ?
た……多分。
「そういうこともあって、俺がカフェとラテに作ってもらおうと説明していたら、すげー驚かれた。似たようなこと考えるんだなって」
それで、キュステさんたちはご存知だったというわけですか。
納得です。
ロン兄様が知らなかったことに、驚いてしまいましたもの。
会話の内容からもキュステさんより頭がキレる人だとわかりますし、知らないということが不自然だったものですから。
「この世界では、昼食をショートブレッドみたいな物や果実で済ませる人が多いんだ。手軽に食べることが出来て安価なものだからな」
「ショートブレッドと果物ですか……お野菜もお魚もお肉も無いのですね」
「最近になって、パンに肉や魚や野菜を挟んだものを昼食に取ろうかという人も出てきたけど、それだって学園の食堂や、ここのように人の集まる食堂くらいしか提供していないだろう。他の人達は今だってそういう昼食が普通なんだよな」
昼食はできるだけ手軽で簡単にというのは、わからなくはないです。
でも……なんだか、味気ないですね。
確かに、簡単に摂取できることは素晴らしいことですが、それを毎日はどうなのでしょう。
日本でも、栄養補助食品やそういうバランスを考えたショートブレッドタイプの物が出ていたりしますが、朝時間が無いときや、小腹が空いたときに食べる方が多かったように思います。
お昼は……コンビニがありましたものね。
イルカムで通信しているロン兄様の後ろ姿を見ながら、私はこういう文化も広まれば楽しいのに……と、思わずにはいられません。
ロン兄様は、とても喜んでくださいましたもの。
背中を眺めていたロン兄様が、いきなり振り向いたかと思うと、少しためらったあとリュート様に手招きをします。
何かあったのでしょうか……リュート様も首を傾げてから私を見て、ここで待っているようにと言い、ロン兄様の方に歩いていってしまいました。
二人して言葉を交わし、揃って難しい表情をします。
そういう表情も似てるんですね……と、思っていた私の視界に、何かが引っかかりました。
斜め前にあるガゼボの柱の影に、ふんわりしたピンクブロンド……?
ひょこりと顔をのぞかせたのは、3歳……4歳?くらいの女の子かしら。
ふわっ!お人形さんですよ!
肩までのピンクブロンドの髪はふわふわと風をはらんだ緩やかウェーブで柔らかそうですし、大きな新緑の瞳が澄んだ光を宿してキラキラ輝く。
愛らしいパステルブルーの膝丈ドレスに、ふんだんに使われた白いレースが可愛らしい。
小さなお姫様みたいですねぇ……っていうか、こんな小さなお子様が、どうしてこんなところに!?
「どうしたのです?迷子ですか?」
声をかけられ驚いたのか、女の子はビクリと体を震わせたあと、恐る恐る私を見つめて……にぱっと笑った。
可愛い!
ぱたぱたと危ない足取りでこちらにやってきて、よじよじと一生懸命よじ登り、私のお膝の上に到着です。
……ん?
どうしてこうなったのでしょう?
「おいし……そう……なの」
くぅ……と、可愛らしいお腹の虫の催促に、思わず口を開いてしまった。
「食べますか?」
「んっ!」
「しょうがないですねぇ、すこーしずつですよ?食べ過ぎたら、おなかが痛くなっちゃいますからね?」
「あいっ」
手を上げて元気にお返事する良い子です。
迷子ですよね。
親御さんは心配されているかもしれませんが……どうしましょう。
リュート様とロン兄様が戻ってきたら、お伺いしたらいいかしら。
下手に動くと危ないです……小さな迷子と大きな迷子のできあがり……なんてことになってしまいかねません。
ここは、この子のお腹を満たしてあげて、あるかわからないですが迷子センターに届けるのが一番でしょう。
できれば、保護者の方が「変なものを食べさせた」なんて言って怒りませんように……
女の子は、私のお膝の上が気に入ったのか、ニコニコ笑いながらたまごサンド風トルティーヤを食べて、驚いたように目を丸くした後、ぱくぱくはぐはぐっ!というように勢いよく食べ始め……って、ダメですよ、ポンポンイタタになりますよ!?
ダメですよと注意していたら、話が終わったのかリュート様とロン兄様がこちらへ戻ってきて、私を訝しげに見つめる。
や、やっぱり、見ず知らずの女の子がここにいるのは驚きですよね。
「あ、あの……」
「ルナ。そこに何がいる」
「はい?」
リュート様がとても警戒したように、私のお膝の上の女の子を見ている。
だけど……視線が合ってない?
「ルナちゃん。そこに誰かいる?俺たちには姿が見えないんだよ」
「え?……見えない?……まさか……幽霊ですかっ!?」
こ、こんな小さな子どもが……幽霊だなんて……可哀想すぎます!
しかも、お腹をすかせてさまよっている……なんてことなのでしょう。
うるりと目が涙をためだしたのを察したのか、リュート様が慌てて私の隣に来て、慰めるように頭を撫でる。
「ルナ。違う、大丈夫だから……多分だが、その子の髪色って、ストロベリー……ベリリブロンドだったりするか?」
「え、まさかっ!」
リュート様の言葉のあとに、驚いたようなロン兄様の声が響く。
でも、どうしてわかったのでしょう?
きょとりと目を丸くしてリュート様を見つめて頷けば、彼とロン兄様は盛大なため息をついて脱力し、私の膝の上に視線を向けた。
「おい。もうバレてんだから姿をあらわせ」
「勝手にいなくなったらダメでしょう?護衛の子たちが慌てふためいてますよ」
「だって……リューの……気配した……ロンいない……さびしかったの」
しょんぼりとしてしまった彼女の周りをよく見れば、薄く白い輝きが覆っていたのだけど、それがどんどん消失していく。
「すみません。俺は休憩中だったもので」
「てか、だからって勝手に動くんじゃねーよ。そして、何食ってんだ」
「おなか……すいたの、ちゃんとちょーだい、したの」
二人の視線を受けて、叱られた子供のように首を竦ませている姿は可哀想である。
「そうか。ならいいけど……勝手にお散歩はいただけねーぞ、チェリシュ」
「そうですよ。春の女神様がいなくなったって、あちらは大騒ぎのようですからね」
……ん?
春の……女神様?
え?
私のお膝の上でもぐもぐしているこの子が……春の女神様?
「あ、あの?」
「チェリシュなの、よろしくなの、ルナフィルラの……精霊さん」
にぱっと笑った愛らしい女の子に微笑み返したあと、私は首を傾げた。
うん?ルナフィルラの精霊さん?
ツッコミどころが満載で、誰か説明お願いしますっ!
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