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第二章 外堀はこうして埋められる
ロン兄様に説明していただきました
しおりを挟むルナフィルラの精霊とは一体なんでしょう……いえ、お花の精霊って存在してもおかしくはないでしょうが、私ではないです。
首を傾げてリュート様を見ると、彼は苦笑して私の隣に腰をおろしたかと思うと、チェリシュと名を呼び、慣れたように大きな手で頭を撫でた。
「ルナは創世神ルミナスラの守護花じゃねーよ」
「んぅ?人間さんと違うもん。精霊さんに近いもん」
「へぇ、ルナのマナは精霊に近いのか……だが、ルナはこの世界とは違う世界から召喚されてきた、俺の召喚獣だ」
「リューの召喚じゅー?……だから……ちかい?」
「多分な」
「うー、でもー、ルナフィルラみたいだもん。綺麗でふわんふわんなの」
そりゃそうだろうな……と、リュート様がジトリと春の女神様を睨みつけていますが、幼子にその視線は怖がられてしまいますよ?
「まあまあ、リュート。ルナちゃんが困惑しているから、説明から先にしようか」
「それもそうだな」
「創世神ルミナスラの守護花であるルナフィルラの精霊のことや、家紋のことは話したの?」
「いや、まだだ」
「じゃあ、そこからだね」
これはちょっと聞かれるとマズイからと、リュート様が近くにいる人に会話を聞かれないよう何やら魔法を使ったようで、ロン兄様が「さすが」と笑っていらっしゃいます。
認識阻害魔法の1つで、時空間魔法と風魔法をかけ合わせ発動させ、会話の内容をわからなくする魔法なんだよと教えてくださいました。
サラ様も使ってましたから、魔法を使える方ならある程度使える物なのだと考えていたのに、かなり高度な魔法に分類されるようで、ホイホイ使える物でもないのだと認識を改める。
やっぱり、リュート様はとんでもない魔法適性の持ち主なのですね。
ということは、サラ様もそうなのでしょうか。
「ほら、チェリシュ。ルナはロン兄と話があるから、俺と一緒に飯を食おう。それ1つ食ったら他が食えなくなるぞ。色んな味が楽しめるように小さく切ってやるよ」
「んっ!リュー、ありがとうなのっ!」
私の膝の上からヒョイッと持ち上げられて、リュート様のお膝の上にうつった春の女神様は、小さく切り分けられた唐揚げを頬張って、嬉しそうに目を輝かせています。
「チェリシュは俺が面倒見ておくから、ロン兄に説明頼んで良いか?」
「リュートの膝の上なら大人しくしているだろうし、こちらからお願いするよ。説明し足りないところは補足をお願いするね」
「わかった」
二人は仲が良いんですねぇ……と、思っていたら、リュート様がこちらを見て苦笑した。
「チェリシュとは、付き合いが長いんだ。十四歳の頃、野外討伐訓練の最中に大きな魔獣に遭遇して戦闘になったんだが、その魔獣の上にコイツが落ちてきて……本当に焦ったよ」
どうやら、春の女神様が眠っていた木の下で戦闘が行われたらしく、大きな魔獣が勢い余って木に体当たりした衝撃で落ちてしまったようで、魔獣が下敷きになったから良かったものの、そうでなければ大怪我になりかねない事態であったという。
「ダメですよ?下手なところで寝たら怪我しちゃいますからね?」
「あいっ!」
うん、いいお返事です。と頭をよしよし撫でていたら、嬉しそうに春の女神様が笑ってくださいました。
やっぱり、お人形さんみたいで可愛いですね。
「ほら、ルナ。ロン兄に説明してもらってくれ。こっちは気にしなくていい」
「ですが……」
「大丈夫だよ」
「リュー、あれはぁ?」
「アレな。ポテトサラダっていってサラダの一種なんだ」
説明しながら器に取って食べさせてあげている姿は、どこからどう見てもお父さんです。
な、なんだか……素敵なお父さんになりそうですよね。
ということは、「面倒見ておくから」って膝の上からうつした光景を第三者目線から見れば……ふ、夫婦……っぽかったのでしょうか。
りゅ、リュート様と夫婦っ!?
い、いけません、頬が赤くなってしまいます!
真っ赤になってオロオロしている私が落ち着くのを待っているのか、ロン兄様は私達を交互に見て、微笑ましそうに目を細めている。
見守られているような優しい微笑みに、心が違う意味でむずむずします。
あたたかい……ですよね。
ロン兄様は、リュート様だけではなく、彼が大事にしているものを全て含めて大事にしている感じがして、すごく優しい方です。
そんなことを考えていたら心が落ち着きを取り戻したので、ひとつ息を吐いてから、居住まいを正してロン兄様に頭を下げた。
「お待たせしました。お願いいたします」
「焦らなくても良いのに。俺も微笑ましくてついつい眺めちゃったよ」
ニッコリ微笑まれてしまい、なんて言っていいかわからずにいると、ロン兄様はお茶をコクリと飲んで喉を潤してから説明に入る。
「そうだね、まずは『称号』を持つ家について、詳しく説明しようか」
『称号』とは、それぞれの家に加護を与えた神により与えられたモノで、人間種族しか持っていない。
それだけ、人間と神は親しい者であり、持ちつ持たれつの関係であるという。
『称号』は、誰にでも与えられる物でもなく、その一族が受け継いでいくマナの性質により神々との相性が発生する。
相性が最高に良く、なおかつ神の与える加護の力をその体に宿しても、魔力暴走を起こすことなく耐えられるだけのマナを持つ家だけが、称号を得ることが出来るということであった。
ラングレイ家に『聖騎士』としての守護を与えているのは『創世神ルミナスラの守護花』であり、花の精霊とも言われているが……事実、そんな者は存在しないのだと、ロン兄様は言い切った。
「え?いないの……ですか?」
「うん。だって、聖騎士の家に加護を与えているのは、創世神ルミナスラ本人だからね」
「はい?」
そ、それって大丈夫なのですかっ!?
創世神ルミナスラってこの世界で一番偉い神様ですよね?
その方が、加護を与えた一族がいるというだけでも問題に……
「あ……だから、ルナフィルラの精霊……?」
「そういうこと。表向きは創世神ルミナスラの守護花の精霊が加護を与えた。という話にしておいたわけなんだよ」
もちろんそういい出したのは、創世神ルミナスラだけどね?とロン兄様は笑った。
しかし、どうしてそこまでして創世神ルミナスラは加護を与えたかったのでしょう……
「次に、上位称号についてかな」
初めて聞く単語に目を瞬かせていれば、ロン兄様は朗々とある言葉を語りだす。
それは、この国の者なら知らない者はいないほど有名な『創世神ルミナスラの言葉』であるらしい。
国民の頂点に立ち国を治める『王』に必要なのは『愛』
王と国を支える『宰相』に必要なのは『秩序』
全てを『守るべき騎士』に必要なのは『盾』
癒やし浄化する『聖女』に必要なのは『月』
魔物を討ち滅ぼす『聖なる拳』に必要なのは『太陽』
叡智の詰まった書物を管理する『司書』に必要なのは『知識』
不可思議な『魔法の力を使役する者』に必要なのは『知恵』
好奇心の赴くままに走る『研究者』に必要なのは飽くなき『探究』
異世界の者を仲間として様々な恩恵をもたらす『召喚師』に必要なのは『絆』
「そして、俺たち……全てを飲み込む闇を打ち払う聖なる騎士に必要なのは『奇跡』なんだそうだよ」
そこは……剣ではないのですか?
守護騎士と対と考えたら、剣……というのが妥当だと思ったのですが───
「いまの言葉に該当する称号を持つ家が、上位称号持ちと言われてね。特に力が強いんだ。守護している神々も、普段はお目にかかれない十神になり、春の女神様たちは、かの神々の子供にあたる」
「パパは太陽で、ママは月なの」
「こら、しゃべるか食べるかどっちかにしろ」
「ごめんなしゃーい」
口の周りをべとべとにして食べている春の女神様の口を、アイテムボックスから取り出した大きめのハンドタオルで拭い、手も拭いてあげています。
リュートパパ……頑張ってください!お話が終わるまで耐えてくださいね!
……でも、なんだか、全然平気そうです。
な、慣れているのでしょうか。
春の女神様も、一生懸命大人の口真似をしているのですが、素が出てしまうと途端に幼い言葉遣いになって可愛らしいですね。
こうして見ると、親子に見えてしまいます。
さ、さびしくないですよ?
リュート様のお膝の上をとられたからって、すねていません。
私は物分りの良いオトナですから!
で、ですから、すねてませんってば……ロン兄様、意味ありげに微笑まないでください。
私が拗ねてるって思われちゃうじゃないですかっ!
「あとでな?」
急に耳元に聞こえた甘く低い声と、耳朶にかかる熱い吐息を感じて「ひゃっ!」と声を出してしまい、慌てて耳と口を押さえましたが時すでに遅く、リュート様は魅惑的に微笑み、ロン兄様はニッコリと笑って「よかったねぇ」と言わんばかりである。
も、もう!
お話の続きをお願いします!
「まあ、そういうことで、奇跡なんて司っている神は創世神ルミナスラしかいないんだけど、表立ってそれを言うのは問題が生じかねなかったので、先程も言ったように守護花ルナフィルラが守護しているということにしたっていうわけ」
だから、色の違いはあるけれどもルナフィルラの花には『奇跡』という意味合いもあるのだということでした。
これは、一部の神々と上位称号持ちの家しか知らない事実だよと笑って教えてくださったけど……す、すごいですね。
つまり、創世神ルミナスラの加護を持つ家ってことですもの。
いままで知らなかった春の女神様も目を丸くして、そーだったんだーっと、愛らしい声で驚きの声を上げた。
リュート様に「内緒な?」と言われ、「内緒なの!」と楽しそうに頷く姿が愛らしい。
いらない争いの種になるのは困りますから、本当に内緒にしておいてくださいね?
「それと、称号持ちの家には、それぞれ守護する神々にちなんだ花をモチーフにした紋章があってね。うちはコレだから、リュートに髪飾り作ってもらっておいてね」
ロン兄様は自らのマントを止めている金具の部分に施された、ルナフィルラの紋章を見せてくださったのだけど、これが家紋ですか……綺麗です!
盾の後ろで交差する剣と左右に広がる翼、そして中央のルナフィルラがとても繊細ですね。
美しい紋章ですが……髪飾り?
「えっと……どういう意味でしょう?」
「もう手配した」
私が疑問を口にしているのに、リュート様は当たり前というようにロン兄様に「作っている」宣言をしてしまいますが……初耳ですよっ!?
「そっか、なら安心だ。登城するのにドレスという風習は随分前に廃れてね。代わりに、男性はマント、女性は髪飾りをつけるようになったんだけど、家の紋章にちなんだものという制限があって、ルナちゃんはリュートの召喚獣だけど見た目が女の子だから、念には念を入れておかないとね」
それに髪飾り、とっても似合いそうだからと言って笑うロン兄様と、「にあうにあうー」ときゃっきゃ手を叩いて笑う春の女神様。
あの綺麗な花を模した髪飾りが似合うでしょうか。
そうだとしたら……すごく嬉しいですね。
「どんなに美しい細工の髪飾りでも、ルナのほうが綺麗だから霞んでしまいそうで怖いな……大丈夫だろうか」
真剣な顔をしてそんなことを仰るリュート様に、ロン兄様が「仲が良くて嬉しいよ」と微笑みましたが……えっと、すごいこと言われた気がします!
火照ってくる頬を隠しながら、リュート様はどうやって髪飾りをくださるのかしらと考えたら、じんわりと広がる甘く優しい幸福な胸の苦しみを感じて、ほんの少しの気恥ずかしさと同時に感じる喜びに口元をほころばせた。
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