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第二章 外堀はこうして埋められる
検証してみましょう
しおりを挟む「ルー、マール美味しかったの!いっぱーいとろうねー」
「いっぱいですか?」
「そうなの!リューがいっぱーいとるって!」
え?
会議って、マール対策だったのでしょうか。
だから、リュート様が意気揚々と戻っていった……?
ということは、何か思いついたということですね。
「アレには困らされておったからのぅ。マールが厄介なのはあの外殻と爪じゃ。それが無効化できるのであれば、問題ない。地元の者とリュートの知恵が合わされば、とんでもないことになるのじゃな……しかし、今回はルナの知恵や行動も大いに役立ってくれた」
知恵や行動?
知恵は料理のことでしょうが、行動とはどういうことだろうと首を捻っていたら、リュート様がコチラを見てニッと笑う。
あ、その笑顔素敵です……じゃないです!
「さっきのマール。ルナの力でも簡単にさばけたからおかしいと思ったんだ。俺の一太刀でもかなりの手応えを感じたのに、非力なルナがどうして抵抗もなくできたのか……」
「殻の軟化……ですね?」
「ああ。やっぱり気づいてたか」
先程こちらで疑問に感じていたことを、リュート様は既に理解していたということですか?
さ、さすがです!
前から思っていましたが、頭の回転速すぎませんかっ!?
元日本人だからというだけでは無いような気がします。
「でも……ナナトが言うには、普通に死亡した場合と硬さが違うというのです。これほど柔らかくなるのには何か理由があるのかな……と」
「ルナの見解は?」
目を細めてたずねてくるリュート様に、私の頭の中にある1つの考えを恐る恐る口にした。
「氷締め……ですね」
「俺もそう思った。氷締めで、冬眠状態にしたことによる効果ではないかと考えている。実際に検証してみないとわからないが、十中八九間違いないだろう」
よくわかったなと、リュート様が私の頭を優しく撫でてくださいます。
ルーすごいね!とチェリシュも喜び、自分の考えがリュート様と同じであったことが嬉しくなってしまいました。
ふふっ!リュート様と同じなのですっ!
でも、気になっていることがあったことを思い出しました。
「マールって冬眠するんですか?」
「それは間違いないらしい。テオ兄が漁師に聞き込みをしていてくれたから確かな情報だ」
「テオ兄様凄いです!さすがです!」
手放しで褒めると、驚いた顔をしたテオ兄様は、目元を緩めて私の頭とチェリシュの頭を撫でてくださいます。
嬉しかったのでしょうか。
すごく優しい空気を感じます。
リュート様とテオ兄様に頭を撫でられて、子供扱いかなって感じることもあるのに、何故かとても嬉しくて口元が緩んでしまいました。
「というわけで……用意させたぞ」
愛の女神様がそういうと、気配を感じさせないくらいひっそりとそばに控えていた従者の方が、マールを二体出現させる。
体格は同じですが色に若干濃淡の違いがあり……あ、右のマールは爪が大きいですね!
パン粉が欲しい……です。
エビフライ!絶対にタルタルソース作ってエビフライですよ!
あ、でも、天ぷらもいいですね。
抹茶塩って言ってましたし、天ぷらにしましょう。
今晩は、アサリの酒蒸しに天ぷらに、ジャガイモのニョッキにマールのビスクを絡めていただきましょうか。
わぁ……和洋折衷ですね。
大きな爪で、いつかエビクリームコロッケを作りたいです!
普通にフライにしても美味しいでしょうね。
はぁ……作りたいものがいっぱいあるのに、パン……パン粉とソース……やっぱり、ソースが欲しいです。
しかし、ソースは作ったことが無いんですよね。
ケチャップも作りたいですが、実は材料を知っているだけで、作ったことがないので少し自信がなかったりします。
兄と一緒に作る予定だったけど、作った記憶が無いということは……そういうことなのでしょう。
ごめんね、お兄ちゃん───
「ルー?」
「あ、何でもないですよ。大きなマールですねぇ」
「いっぱーい、マールマヨつくれるねー」
「ねー」
子どもはこういう時、敏感ですよね。
気をつけないと……チェリシュを不安にさせたいわけではありませんもの。
マールの検証をするために、会場横の何もないスペースを借りて準備しているリュート様を見ると、あとで簡単に撤去できるようにということで、石と土と砂を沢山使っているようです。
土魔法……ですか?
あ、その土はとても栄養たっぷり含んでそうですね。
畑の土みたいにいい色です。
あんなに沢山魔法を使っていたら、またすぐにお腹を空かせるのでは……そうだ、確保しておいたじゃがバターを……って、今は食べている雰囲気でも無さそうですね。
検証が終わったら出しましょう。
リュート様が検証フィールドを作っている間、マールがどういう魔物であるのか、ロン兄様が実物を見ながらナナトに説明を受けています。
マールはというと、愛の女神様の従者の方に押さえられているのか、とても大人しい状態……やっぱり、従者とはいえ神様なのですね。
これくらいの魔物では、相手にもならないようです。
「これくらいでいいか」
その言葉を待っていたのか、従者の方がマールをリュート様の検証フィールドへと移動させました。
ふわふわ浮いて移動するマールが驚いたように暴れていますが、全く気にならないというような感じですね。
あっという間に移動を完了させた従者の方は、いつもの位置に戻ってしまいました。
「さて、コレがマール避けね……って!もう反応してんじゃねーかよ!」
マール避けと言われる青色の石をリュート様が取り出した瞬間、マールたちがリュート様……いえ、青い石に向かって突進します。
え?よ、避けるどころか引き寄せていませんかっ!?
「一つ目の検証は、アレだけで十分じゃな」
「マール避け……どころか、マール寄せですね」
ロン兄様も呆れ顔で、マールに追いかけられているリュート様を見ていますが、これ……リュート様じゃなければ大怪我ですよ?
「魔物も突然変異を起こすことがあるからな……アレへの耐性をつけ、攻撃対象か好物へと変化させてしまったのじゃろう」
マールが凄い勢いでリュート様を追いかける姿を見ながら、愛の女神様が説明してくださいました。
しかし……あの子たち、どうしてあんな機敏に動けるのでしょう。
よくよくリュート様が走っている周囲を見てみると、先程作っていた検証フィールドには足首くらいまでの高さまで水がはられています。
なるほど、これをしたかったから石と土で作っていたのですね。
リュート様の属性魔法って、便利というか器用というか……他の方々もこういう使い方をされるのでしょうか。
「浅瀬を想定して作られたが……それでもあの速度か」
「少しの水があるだけで、アレだけ動けるというのも困りものだね。水のない陸地に引っ張り込めば動けなくなるだろうけど、今度はあの爪で攻撃してくるからね」
「マールは、あの足と尾びれが水に浸っている度合いで速度が変わるという、漁師の考察は正解じゃったな」
リュート様が簡易的に作った検証フィールドは砂で凹凸が作ってあり、水の深さもまちまちのようですね。
確かに、水深が浅い場所だとマールの動きは鈍くなります。
リュート様も、あんな場所でよく走り回っていられますね。
びっくりして見ている私の腕に抱っこされたチェリシュは、リュート様を見て「リュー、がんばれーなの!」と声援を送っています。
二匹のマール相手に逃げ回り、テオ兄様の方をチラチラ見ているということは、何らかの合図が決まっているのでしょうか。
そこでようやく、テオ兄様が手をスッとあげて見せ、リュート様の動きが一転しました。
逃げの一手だったのに、帯刀していた剣の柄に手をかけ振り返りざまに何かしたようで……私の目には全くわかりませんでしたけど、爪がぽろりと落ちたところを見ると、斬ったのですか?
「ルー、リューすごいの!」
「凄いですよね……全く見えませんでした」
「リュートの剣技は、他の者たちとは比べ物にならないほど素早い。神速の剣だ」
テオ兄様の言葉に、そうなんですか……と驚いている私とチェリシュを見て、ロン兄様がくすりと笑っていらっしゃいました。
な、何か笑われるようなことがあったかしら。
「ソックリだな」
テオ兄様の言葉で、どうやら私達二人同じ仕草をしていたようだと理解し、少しだけ照れてしまいました。
でも、チェリシュと一緒なのは嬉しいです。
検証フィールドでは、リュート様が氷の水槽のようなものを作り出し、その中に沢山の砕かれた氷が入っていて、マール避けをその中に投入しました。
すると、マールはマール避け目掛けて氷の中に飛び込み……動かなくなってしまいましたね。
「やっぱ、冬眠するから寒さに弱い。氷は有効だな」
「ふむ。船舶の海水を入れて魚を入れる場所に氷を入れておけば……」
「鮮度も落ちねーし、マールが混じってても無効化できる」
動かなくなったマールを確認したあと、落ちた爪を回収してコチラに戻ってきたリュート様がそういうと、テオ兄様も肯定するように頷く。
「製氷機の強化が最優先かな」
「アーゼンラーナ、王家のお抱え工房で何とかなりそうか?」
「勿論じゃ。それくらい作れなかったら話にならん。そなたに頼むのが一番確実ではあるが……何やら作るものが多いようであるからな」
「まーな。俺の最優先はルナのおねだり第一号だ」
誇らしげに、でも嬉しそうにそう語るリュート様。
わ、私のものが先なのですかっ!?
「それはいけません!後回しに……あ、でも……カフェとラテが……う、うーっ」
反射的に後回しにしてくださいとお願いしようとして、カフェとラテが大変になることを思い出して『後回しにしてください』と言っていいのかどうか迷ってしまう。
漁師の方々も困りますし……かといって、ここで優先順位を変更したらカフェとラテが可哀想なことになってしまいます。
「ルナ、心配しなくても大丈夫だ。彼らだって伊達に王家お抱えなんて言われているわけじゃない。ルナの考えた物は俺にしか作れないが、マール対策の罠や漁の準備に必要な物は、誰にでも作れる」
だから、大丈夫だよと笑うリュート様。
ほ、本当でしょうか。
リュート様にとっての簡単が、他の方々にとって簡単なのかどうかわかりませんもの。
「まあ、リュートが簡単な設計図を作ってくれたのじゃ。それを作らせるだけであるから問題ない。それに、これは王家の工房で作り上げねばならんじゃろう」
「一応、王の威信ってものもあるからな」
そういえば、この問題は漁師さんたちが国王陛下に直訴したのでしたね。
だったら、リュート様がするのではなく王家お抱えとまで言われる生産工房が、やるべき仕事なのかもしれません。
「マール避けの一時使用禁止令も出さなければな。今後、アレは罠に使える」
「そうだね。兄さんはこれをあちらに知らせるの?」
「現在、ここから西にある海岸一帯のマール討伐にあたっているだろう」
……そ、そこで倒されたマールは……どうなるのでしょう。
大切な食材が!
「食材になるということも知らせなければな」
私の顔色が変わったのがわかったのか、テオ兄様はそう付け加えます。
良かった……無駄にしてしまうのは勿体無いですもの。
「さて、最後の確認だ」
そう言うとリュート様は検証フィールドへ戻り、マール避けと冬眠状態のマールを一匹取り出し水の中へと戻します。
すると、今まで眠っていた状態であったマールが活発に動き出し、マール避けを持っているリュート様に向かって突進してきました。
神速……とは良く言ったものです。
あの速度に到達するまで、どれだけの修練を積んできたのでしょうか。
リュート様の努力の一端が伺えるような、美しいまでの剣さばき……こ、今回はちゃんと見えましたよ?
チェリシュも驚いたのか、目をキラキラさせてリュート様の動きを見ています。
こ、これは……カッコイイですよ。
何というか、剣を構える様もそうなのですが、何よりその……が、眼光が鋭くてゾクリとするものを感じました。
あんな目で見られたら、絶対に逃げられないです。
鋭い眼光で、しかもあの甘くも低い声で「逃さねーよ」なんて言われたら……ぜ、絶対にその瞬間、膝から崩れ落ちる自信がありますよ!?
何かを感じ取ったのか、チェリシュが不思議そうに見上げてきます。
い、今は……その純真無垢な瞳で見上げるのだけは勘弁してください。
なんだか、とても後ろめたい気持ちになります。
「ルー……ベリリ?」
言わないでくださいね。
内緒です。
妄想が過ぎたなんて口が裂けても言えませんから、内緒にしたいので、しーっ!でお願いします!
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