悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

月代 雪花菜

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第二章 外堀はこうして埋められる

携帯食は今後考えるべき課題かも?

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 とりあえず、マールの殻は回収です。
 これは、あとで必要になりますから。

「マールの殻をどうするにゃ?」
「あとで使うんです」
「……本当に素材を無駄なく使う気だにゃ、尊敬するにゃ!」

 何故でしょう……『ナナトに尊敬される=ケチ』という認識になりそうで怖いですが、無駄なく使うというのは良いことですよね?
 ちゃんと美味しくなるんですもの!
 マールの殻を煮込んで良い出汁をとるんです。
 美味しいんですよね、あれって……
 ふふふっと笑っていたら、3人に訝しげな顔で見られてしまいました。
 リュート様なら理解してくださるでしょうに、この場にいないのが残念です。

「そうだ、参謀。言われていた楽器、優勝者に渡しておきましたが、納得してない様子でしたよ」
「まあ、あんな状況で言われても、そうなっちゃうよね。一応受け取ってくれたんだよね?」
「はい。リュート様のこと気にしてましたが、そういうことこだわらない人だから大丈夫だと伝えておきました。まあ、思うところがあるならリュート様に直接言いに来るでしょう」
「そうか、だったら後はリュート任せでいいかな」

 器を返しに来たついでと言わんばかりに報告していますが……だ、大丈夫ですか?
 心配になってジッと見ていたら、彼はロン兄様から私に視線を移し「聞きたいことがあったんだ」と言って、こちらに体を向けた。

「あの料理のレシピって、レシピギルドで売っているのでしょうか」
「えっと……フライドポテトはカフェとラテの物を売っているようですが、他の物はまだレシピにもおこしていないんです。すみません……」
「あ、いえ!じゃあ、初でアレ……マジかぁ……クオリティ高すぎだ」

 そうですか?
 ただ単に、ジャガイモ蒸したり揚げたりしただけなのに、何だか申し訳ない気持ちになります。

「実は、俺たち黒の騎士団は遠征が多いんです。ジャガイモだけであれだけの味が出せたら、魔力補給時の食事が楽しみになると思うんです」
「騎士団の携帯食は酷いと聞きますからにゃ」

 ナナトの言葉で、先程聞いたリュート様のポーション煮を思い出しました。
 そうですよね、そういう物を食べていたら、とんでもない味覚になってしまいそうですし、ある意味……討伐より苦行ではないですか?

「ハーブソルトという物がかかったフライドポテトの回復量は、かなり良い感じでした。魔力が豊富な魔物とルナ様が使われている調味料が合わされば、とんでもない回復量が見込めます。現に、マールマヨは過去最高だと思われます」

 魔物そのものには大量の魔力が含まれているといいますから、その肉をハーブソルトで調理するだけでも違いがあるでしょう。
 しかし、料理スキルがない方々では作ることができない。
 一度、私かキャットシー族の方々が同行する必要があるのですね。

「さすがに俺たちが作るのに、マールマヨは手がかかりすぎていて無理でしょうから、せめて、ルナ様のレシピで比較的簡単なものを、是非とも経費で落として支給していただけませんかっ!?」
「ハーブも、臭くないしマズくないし、美味しかったです。回復量も多いんですよ。これって、凄いことだと思うんですけど……」

 援護するように、後方にいたもう1人の黒騎士様も言葉を添えます。
 ハーブが臭くない……臭いというのがよくわかりませんが、ロヴィーサ様のハーブは全てとても良い香りがしますから、何かの組み合わせで美味しくなくなるものがあるのかもしれません。
 携帯食……ですか。
 日本の携帯食はとても充実していたように思います。
 しかも、あまり知られていないようですが、軍用のレーション、通称『ミリメシ』は、どこの国よりも美味しいようで、様々な国のミリメシを食べてレポートしている外国の方が作った動画を、兄と一緒に見たことがあるのですが、日本のレーションは大絶賛されておりました。
 その中でも一番驚いていたのは、海外の缶詰の温めは固形燃料であったのに対し、日本は水を入れて発熱させ水蒸気で温めるという画期的な方法をとっていたことです。
 材料は、ほぼ使い捨てカイロと変わらないようですが、それを食べ物に応用したというところが凄いですよね。
 現在の地球の状況はわかりませんが、そのうちどこの国も火を使わずに温められるレーションを食べているかもしれません。

 こちらの世界では便利な魔法があるから、その温め技術の必要を感じられませんが……そのこだわりを見習いたいです。

 聞くところによれば、黒の騎士団の方々でも時間停止型や遅延型のアイテムボックスを持っているわけではないようですから、少し考えたほうがいいかも知れません。

 保存食の定番、缶詰やレトルトや乾麺、クッキーやビスケットなどでしょうか。
 ですが、現地で狩る魔物が食べられる魔物であったら、それを材料にご飯を作ったほうが美味しいですよね。
 リュート様の魔力量では、保存食だけで持つかどうか疑問ですが、他の方々でしたら、なんとかなるかも知れません。
 缶詰だったら、シーチキンが欲しいところです。
 サバもいいですね、オイルサーディンも……海が近くて、海洋資源たっぷりなのですから、使わない手はありません。

 マール……マール缶。
 そういえば、日本で海老缶って聞いたことがありませんね。
 もしかしたら、あまり美味しくないのかしら……冷凍食品のほうが多い気がします。

「遠征食のレシピについて俺も考えていたところだよ。この件に関し、詳細を報告書にして提出しておくね。リュートとルナちゃんの協力も必要になるだろうから、タイミングを見て導入になる。しばらく時間はかかるかもしれないけど、大丈夫だと思うよ」

 あれ?もう導入確定みたいな言い方ですが……確実に通そうとなさってますね?
 ロン兄様の意味深な笑みが素敵です。
 さすがは、リュート様のお兄様!
 何かを含んだ笑みがソックリですね。

「何?今度はミリメシでもつくんの?」
「ひゃあぁっ!」

 耳っ!耳に、すごく低くて甘くてゾクゾクする声が流し込まれましたよっ!?
 慌てて耳を塞いでしゃがみ込めば、リュート様がククッと笑ってこちらを見おろしていらっしゃいました。
 驚かせるなんて趣味が悪いですよ、リュート様!
 しかも、耳!
 も、もうっ!

 真っ赤になって耳を押さえて、ゾクゾクゾワゾワした感覚を何とかしようとしている私に、チェリシュが飛びつきます。

「ルー、いいこと思いついたのー!」
「え?いいこと?」
「そなた、まさかあの厄介者を喰らおうとは、よく考えたものじゃ。しかも、とても美味しくて驚いた。大したものじゃ」

 リュート様の後ろから、愛の女神様とテオ兄様が歩いてこられました。
 どうやら、会議は終わったようです。

「黒の騎士団だけでは太刀打ち出来ない。ならば、海について詳しい者たちの手を借りるか……良い案だ」

 テオ兄様が、しゃがみ込んだままの私の頭を身を屈めてヨシヨシ撫でて、よくやったというように褒めてくださいますが、私は何も言ってませんよ?
 ただ、マールを料理しただけですもの。

「料理法は、まだあるのじゃろうか」
「あ……はい、まだ調味料ができてませんが、色々できます。簡単に出来る物でしたら、海老天や海老シュウマイや……あ、違いますね、マール天ぷらやマールシュウマイにマール団子」
「ルナ、ストップ……マジストップ!」

 慌ててリュート様が私を止めにはいりますが、どうしたのでしょう。
 ものすごく、必死な形相です。
 何か、マズイことでもあったのでしょうか。

「……食いたくなるからダメ。危険」
「なるほど……天ぷらは塩ですね」
「ソレ良いな。茶葉があるから抹茶塩作ろう。……じゃなくて、ルーナー?」
「人を驚かせる方が悪いのですよ?ねー?」
「ねーっ」

 私にしがみついていたチェリシュを抱き上げて一緒に「ねー」とやっていると、リュート様が目をパチパチ瞬かせたあと苦笑した。

「可愛い姿が見たかっただけなんだがな」
「か、かわっ!?」

 こんな沢山人がいるところで何を言って……本当にリュート様は困った方です!
 焦る私を見て魅惑的な笑みを更に深めていらっしゃいますが……い、色気がハンパナイので……そ、その辺りで許して頂けないでしょうか!
 周囲の方々に音が聞こえてしまいそうなほど、心臓が騒ぎ出しました。
 で、でも……その笑顔が素敵すぎますから、眺めていたい気もします。
 しかし、不意打ちはダメですよ?
 これ以上は私の心臓がもちませんから!

「あー、ルーがまたベリリなの!」
「うぅ……チェリシュ、言わないでください」

 私を見上げて嬉しそうに笑うチェリシュに指摘されてしまいました。
 熱を持った頬でわかります。
 顔が真っ赤なんですよね?
 耳まで赤くなっていることは、重々承知しております。

「ベリリみたいなルーもだぁいすきっ」

 むぎゅーっと抱きついてくるチェリシュに笑みをこぼしながら、「私も大好きですよ」と包み込むように抱きしめる腕に力をこめた。

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