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第四章 心を満たす魔法の手
いろいろと報告がありました
しおりを挟むテオ兄様がまだご飯を食べていないという事実を知ったカカオとミルクは、急ぎ料理を作るために厨房へ戻りますが、その後姿を見送りながら私が考えていたことを察したテオ兄様が、「大人しくしていなさい」と強めに一言申されました。
う……ば、バレてます。
「あのなぁ」
「つ、つい……」
リュート様の呆れた声を聞いて首をすくめて言い訳じみた言葉をこぼすと、腕の中のチェリシュが楽しそうに笑い声を上げます。
「ルーは、お料理が大好きなの。仕方ないの」
「はぁ……まあ、そういうところがあるからこそ、カフェやラテだけじゃなく、あのカカオまでルナを師事しちまうんだろうけどな」
はて?
師事……って……え?
「カカオは普段、他の人に助言を求めたりしねーんだ。ひねくれ者な上に意地っ張りだからな。それがどういう風の吹き回しか、ルナに助言を求めた。実は俺たち家族が一番驚いたのはそこだ」
「そうだね。カカオにしては珍しかったよね」
「あの子が素直に話を聞いているのも珍しいけど、やっぱりお料理が好きなんだってよくわかったわ」
ロン兄様とお母様が楽しげに話す内容を聞きながら、テオ兄様も「それは珍しい」とテーブル席について、セバスさんが淹れた紅茶を飲みながら呟きました。
カカオが料理に対して真剣なのは、皆様ご存知なのですね。
カフェとラテもそうですが、人間の舌に合わせて作るのはキャットシーには難しいはずなのに、本当に頑張ってます。
基本、塩こしょうの味付けを好み、焼くか煮る料理しかしてこなかった種族ですもの。
私が作る揚げ物なんて、考えたこともなかったでしょう。
そう考えると、本当に日本の食文化がどれだけ進んでいるのか実感できて驚かされます。
あの時は、当たり前のように食べてましたものね……
そんなことを考えながらも、リュート様が考え、チェリシュが一生懸命カカオとミルクと一緒に作ってくれた柔らかいうどんを完食し、セバスさんが淹れてくれた紅茶を飲みました。
あ……いい茶葉を使ってますね。
香りが良くて、美味しいです。
「さて、ルナの食事も終わって落ち着いたようだし、報告だけしておかないとな」
「……な、なんの……報告でしょう」
「そう身構えるなって。えーと、さっき言ってた作りかけの物の回収報告もそうだったんだけど、ほら、ルナがクズ鉱石……えーと、シルヴェス鉱だっけ?使えるように塩に漬けていたアレの様子を見てたら、色が変わってスゲー安定した鉱石に変化していた。それをボリスに見せて、ゴーレムの体にならないか相談してみたんだ」
ベオルフ様の領地で採掘される鉱石が、この世界にもあったのが驚き……いえ、オーディナル様はもともとこちらにいらっしゃったのですから、両方の世界に存在しても不思議ではありませんよね。
つまり、シルヴェス鉱もオーディナル様が創り出したということですか。
鉄よりも丈夫な鉱石ですし、黒狼に太刀打ちできる素材であれば良いのですが……
「相談の結果、どうなりました?」
「結論から言うと、魔力伝達に優れて丈夫だから素材として申し分ないそうだ。試しに、今日小さいゴーレムを作ってくるらしい」
「そんなに簡単に出来るものなのですか?」
「小さくて、単調作業をこなすだけなら、それほど時間はかからない。……とはいえ、ボリスだったらという前提つきだけどな」
なるほど……ボリス様だからこそ、短時間で小さなゴーレムを作成できるということなのですね。
調理器をリュート様に頼むと、とんでもないスピードで作成しちゃいますけど、それと同じと考えれば納得です。
さすがは従兄弟。
放っておいたら、二人で何かとんでもないものを作ってしまいそうな予感がします。
間違えても、二人にプラスしてギムレットさんを入れてはいけません。
確実にやらかすような何かを創り出しそうです。
「ゴーレムは、一応制作段階に入ったというお知らせだな」
「ボリス様の負担にならなければ良いのですが……」
「嬉々として引き受けていったぞ」
それなら良かったと言っていいのか迷いますね。
睡眠時間を削って、研究に明け暮れていそうで怖いです。
「あと、ロヴィーサからは追加のハーブ。ギムレットからはウコンを預かってる」
「ウコン!」
「これで間違いないか?」
アイテムボックスから取り出された保存容器の中に入っていたのは、既に粉末状になっている黄金色のウコンでした。
一応、念の為に確認しておきましょう。
神石のクローバーと新米時空神のルーペが一体化したペンダントを手に取り、レンズ部分を通して粉末を見ると、説明文が浮かんでおりました。
地球では、ショウガ科に属する多年草で、インド料理や染料や薬など幅広く用いられる。
中でも、日本ではカレーのスパイスの一種として有名であり、カレーの黄色はこのウコンによるところが大きい。
グレンドルグ王国には生産も栽培もしておらず、エスターテ王国では南の地域で染料として栽培しているようだ。
という……まるで、前世の兄のうんちくを聞いているかのような説明文が並び、エスターテ王国にもウコンが存在していたことに驚きです。
「ルー、クローバーに何かくっついてるの」
「あ、これは、時空神様から頂いたのです。新米時空神のルーペっていうそうですよ」
チェリシュが不思議そうに目を丸くして私の手元をみていたので説明すると、リュート様が「ルナ……」と何故か低い声をあげて私の方をジトリと見つめました。
「みんなの前はマズかったかもな」
「え?……あ……あっ!」
さすがに驚いたのかテオ兄様がピシリと固まり、お母様とロン兄様は同じような笑みを浮かべたまま、説明してねというようにリュート様を見つめます。
や、やってしまいました……まずかった……ですよね。
さすがに神器が私の手にあるなんて知られたら、いろいろと……あれ?でも神石のクローバーもかなりレアな物ですし、今更感もありませんか?
「ほう、それをそなたに渡すとは……随分と気に入られたものじゃな」
背後から耳元に聞こえた声に驚き、悲鳴をあげそうになりましたが、もうこういう遊びをする方が誰だか知ってます!
「愛の女神様、いきなり背後に現れて声をかけるのはおやめください。心臓がバクバク言ってますっ」
「ばっくんばっくんなの!」
「そうか、ならば成功じゃな」
コロコロ愛らしい笑い声を響かせた愛の女神様は、角度を幾度となく変えて私の様子を見てからホッと胸を撫で下ろしたように息をつき、ソッと優しく頭を撫でてくださいました。
あ、相変わらず麗しくも神々しいお姿です。
突然の愛の女神様降臨に、お母様をはじめテオ兄様たちは席を立ち礼の形をとっていて……わ、私も!と慌てて立ち上がろうとしたのですが、無言で制されます。
「父上の愛し子ならば、みな兄弟姉妹である十神と同じ、妾の妹も同じじゃ。そのように他人行儀な態度は寂しいではないか」
い、いえ、さすがに十神の妹という立場はいただけませんよっ!?
この世界では、とんでもないことになりますから!
チェリシュの母親代わりも、そう変わらぬと言われてしまいましたが……た、確かに、そうなのでしょうか。
チェリシュも春の女神様ですものね。
「それに、リュートを見よ。礼も無しに『おはよう』じゃぞ?」
「ん?頭下げて『おはようございます、愛の女神様』のほうが良かったか?」
「やめよ。そのように他人行儀な挨拶をされたら、妾はショックで暫く寝込むぞ」
「それくらいでショック受けんなよ……」
リュート様は相変わらずですね。
相手が神であっても、全く態度を変えません。
それを見て、愛の女神様は嬉しそうに目を細め、リュート様に極上の笑みを浮かべました。
女性でも頬を染めてしまいそうな麗しい笑みなのに、やっぱりリュート様は感覚がズレているのか、親しげな笑みを返すだけで頬を赤らめたりもしません。
愛の女神様を崇め奉る方々から恨まれますよ?
さっきは見事なベリリを見せてくださったのに……
何がスイッチになっているのかイマイチわかりませんが、今後もチェリシュのようにしっかりと観察しましょう。
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