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第五章 意外な真実と助っ人
戦士としての意識
しおりを挟む土煙が収まると、地面に這いつくばっている人が数名、他の方々はどうやら魔法系を防御するスキルでどうにかしのいだようです。
こうしてみると、やっぱりリュート様の魔法はとんでもない威力ですよね。
『最下級の魔法でやられてんじゃねーよ』
『リュート様の最下級が、一般的な宮廷魔術師団の最大攻撃魔法だって理解してくださいっ!』
『ムリムリムリムリ、今の魔法が土魔法の最下級に位置しているストーンアローとかありえねぇ……』
『あれ? 土魔法……って、もしかして……』
地面に倒れている人たちをセバスさんとキュステさんとアレンさんが移動させ、再度リュート様は術式を展開しはじめました。
問答無用ですね。
『ま、待ってくださいリュート様、ちょ、ちょっと話がっ!』
『敵や魔物は待ってくれねーだろ!』
鋭くそう言い放つと、第二弾の攻撃が炸裂しましたが、先程と形状が違うようです。
最初に放たれたその名の通り矢の形状をしていたのですが、いま放たれた魔法は石つぶて……というには大きな塊が何個も飛んでいきました。
そんなリュート様の強力な魔法が飛んできているというのに、何かにコーティングされた庭は全くダメージがないように見えるから不思議です。
もしかして、幼少期から三兄弟で魔法訓練などされていたのでしょうか。
お母様が魔法を得意とされていたので、有り得る話ですよね。
「ほう? 土魔法もあれほど巧みに操るか……あまり得意ではなかったはずだがな」
「他の属性と比べたら不得意な部類だろうけど、リュートくんが一番苦手なのは氷属性だよ」
オーディナル様と時空神様の言葉を聞いて、私は首を傾げてしまいました。
苦手なのですか?
だって、リュート様が一番使っている魔法は氷属性ですよね……私が驚いている様子を見ていたベオルフ様が私の耳のそばに唇を寄せて低い声で呟きます。
「近くに居ても苦手だとは気づかなかったか」
「は……はい……普段から使っている魔法は氷魔法でしたから……」
「何故それを使っているのか容易に想像がつく」
私の顔の近くに寄せられたままのベオルフ様の顔を見ると、彼は鋭い視線でリュート様の操る術式を見つめているようでした。
「戦士としての意識が高いのだろう。苦手ならば普段から使うことで慣れようと考えたに違いない。同じ騎士としてそういう相手がそばに居てくれたら、互いに高め合って良い効果が得られるだろうに……」
残念だなというようなベオルフ様の姿を見て、確かに二人が共に居たら、私をそっちのけで修行や鍛錬を行いそうですものね。
でも、それで強くなる実感を互いに得て満足できるのなら、最高の相棒とも言えます。
リュート様にもそういう相手が、本来は必要なのかも知れません。
鍛錬が終わったらお腹を空かせているだろう二人にお料理を振る舞うのも良いですし、鍛錬風景を記録と称してカメラに取り続けるのも良いかも……
二人だったら絶対に気が合うでしょうし、一度くらいは見てみたいものです。
「リュート様は自分に厳しい方ですから、それもあるでしょうね。それに、とてもお優しい方なので、周囲の人々や建物へ被害を出さないように魔法を使うよう配慮されているのでしょう。その点で、炎系の魔法は、建物に燃え移ったりするから使い勝手が悪いとおっしゃってました」
リュート様が以前話してくださった内容を思い出しながら語って聞かせると、ベオルフ様は『なるほどな』というように目を細め、兄も前に会話した内容を思い出したのか低くうめきました。
「あー、そういえば、ゲームみたいに周囲の被害を考えずに使用できないとか言ってたっけ」
「そうなの。だから、リュート様は人一倍気をつけて魔法を制御しているみたいなの」
基本的にリュート様って、1つの魔法を使うのに2つか3つほど多く術式が展開してますものね。
大きな術式がメインで、添えられたように少し小さめの術式が展開しているのを見ますので、小さくまとまった術式が制御系なのでしょう。
リュート様に詳しく説明していただいても良いのですが、私に覚えられるでしょうか。
自らが術式を構成して展開する魔法を使えないので、基本的なことがわかっていないような気もしますし……
「でも、それってリュートくんだけかもね。他の連中はそんなこと考えないでぶっ放すから」
時空神様の何気ない一言に兄妹揃って驚きの声を上げ、ベオルフ様はポカーンとしている私達を放って置いて話の続きを促します。
「彼以外の人たちが攻撃魔法を使うところを見たらわかるかもね。まあ、他の連中はそれほど大きな魔法を使えないから、被害を考える必要がないってところかな。多少被害が出ても、高々知れているって考えで動いているから向上心も無ければ、応用もきかない」
「つまり、相反する力を同時に制御することで、精度を高めているという解釈で良いのだろうか」
なるほど……被害を出していることに目を瞑って、炎だったら炎系魔法だけ使う人よりも、炎系魔法が被害を出さないように反対属性の魔法とそれを抑える対処、耐火だったり防熱などの補助系魔法を使っている人では大きな違いが出てくるということなのですね。
熱を逃さないようにするということは、内部温度が上がったりするのでしょうか。
そうなると、リュート様が使う魔法の威力が強い原因は、本人が持っている魔力だけではないということですね。
「うん、君も良いセンスを持っているね。さすがは父上から加護を与えてもらうだけの器ってことか……ベオルフくんの力、それも類を見ないほど貴重だから、扱い方を覚えればスゴイことになるかもね」
「……力」
「その辺りは父上の考えがあるだろうから、俺は口を出さないよ」
「そうしておいてくれ。お前は教えすぎる」
「父上だって人のこと言えないでしょう」
「この二人に関しては、僕が責任を持つ。何せ、僕の愛し子と守護者だからな」
柔らかな笑みを浮かべてそう言い放ったオーディナル様に、ベオルフ様は何か言いたげな表情をしましたが、ヤレヤレといった様子で肩をすくめると、こちらをチラリと見て「あの方はいろいろ大変だな」とおっしゃるので、そうですか? と首を傾げてしまいました。
彼はそんな私の反応を想定内だとでも言いたげに頭を優しく撫でてくれたので、まあいいかと問うこともせずにいたら、同じく撫でられていたノエルも「同じだねー」と嬉しそうに耳をピクピクさせます。
この子も本当に可愛らしいですよね。
チェリシュとは違う種類の愛らしさがあります。
気遣いができて優しく可愛らしいチェリシュと、わんぱくでやんちゃだけど優しいノエルでしょうか。
結論、どちらも優しい上に可愛いですっ!
リュート様が愛娘に甘い可愛らしい父娘をしているのに対し、やんちゃでわんぱくな息子に手を焼くお父さんなベオルフ様。
ふふっ、どっちの親子も和みますね。
「しかし、彼は本当に強いね……」
兄の言葉が気になり映像を見てみると、大半の黒騎士様たちが地面に倒れ伏し、意外にも失言くんが一番抵抗力を持っているのか、元気そうに皆に声をかけて仲間たちを元気づけているようでした。
もしかして、慣れすぎて抵抗力がついたのでしょうか。
あり得ますよね……あの頻度でリュート様に攻撃を食らっていたら、一番鍛えられていてもおかしくはないでしょうし……
『よし、グループ分け完了。テオ兄、ロン兄、そっちは任せていいかな』
『無論だ』
『リュートにお願いされたら、お兄ちゃん頑張っちゃう! 任せてっ』
腕まくりをして悠然と歩いてくるテオ兄様と、リュート様に満面の笑みを浮かべて返答しているロン兄様。
どうやら、リュート様の攻撃にどれだけ耐えられるかでチーム分けをされたようで、その為に、アレン様たちは地面に倒れた面々を運び出していたようです。
まあ、竜人族の方々でしたら人間の成人男性を担いで運ぶなんて朝飯前なのでしょう。
細腕のキュステさんでも、彼らを軽々と担ぎ上げていましたものね。
そういえば、キュステさんに抱えられていたはずのチェリシュはどこへ行ってしまったのかしら。
心配になって映像の中にいないか探していると、お母様のお膝の上で大人しくパンを頬張っている姿を発見しました。
ああ……また口の周りにジャムがっ!
リュート様から渡されたのか、お母様は私と色違いである翡翠色のハート型の洗浄石を手に持って使い勝手を試しておりました。
「先程も使っていたようだが、アレは何だ?」
どうやら私と同じところを見ていたベオルフ様が、お母様の持っている物に興味を持ったようです。
「洗浄石と言って、汚れなどを除去する魔法の術式が刻まれた魔石なのです」
「ほう……汚れ……な」
「つまり、アレがあれば、お風呂要らずなのです。まあ、私は気分的に嫌なので入りますけど……」
「便利だなぁ。それはお兄ちゃんも欲しいところ! ……あ、でも、お風呂は入りたいよね」
「お洗濯要らずですよ」
「それはすごく便利っ! 」
この一言には兄だけではなくベオルフ様も深く頷きました。
そうですよね……ベオルフ様なんて何日もかけて移動することが多いので、一番問題になっているはずですものね。
「ああそうか……ベオルフに渡そうと思っていた物の最後の1つが何であったか思い出した」
そう言ってオーディナル様は石鹸のように滑らかな形をしたブルームーンストーンを思い出す色合いの石をベオルフ様に手渡します。
話の流れから考えて……洗浄石……でしょうか。
「……こちらの世界に無いものだと思うのですが? 」
「お前が持っている分には問題がない。それに、まさか汚れた姿で私の愛し子に触れようというのか?」
「いや……そういうわけでは……」
「ボクの温泉があるよー?」
「アレは時間と場所が必要になるから、どこでも使えるわけではないだろう。まあ先程の言葉は半分冗談として、僕が懸念していることがあるとすれば、不衛生な状態が引き起こす病に他ならない」
「病……ですか」
「いくら鍛えていても、病で人は呆気なく死んでしまう。ソレは彼らが使っている物よりも効果が大きい。できるだけ清潔にしていなさい。特に、血などは早く洗い流すべきだ。病だけは、僕でもどうにもならないのだ」
血……そうですね。
感染症や病原菌はいつ何時体を蝕むかわかりません。
うがい手洗いを……なんて、綺麗な水を確保することが容易ではない世界には難しい話です。
まず、飲水の心配をしなくてはならないのですもの。
河川の水も汚染されている場合があり、下手をすれば、生活排水や下水もそのまま流されている可能性だってあります。
「日本は昔から、し尿を農業用に使用していたようだけど、海外だと道路に捨てたり河川に流したりすることも当たり前にあったみたいだし……衛生面で考えたら病気になりやすい不衛生な環境の中にいるんでしょ?」
「しかし……」
「その石が僕のところにあっても、少し楽になるっていう程度だよ。薬もあるし医療や衛生面に問題がない。ベオルフの世界では、どちらも難しいんだよね? だったら、絶対に持っておいたほうが良いよ」
兄も受け取りを渋るベオルフ様の説得に回ったようでした。
確かに、日本ではそういうアイテムがあったら便利でしょうけど、衛生面で問題があるわけでもありませんし、何より魔力を使って使用するため、兄は絶対に使えません。
それを考えたら、私が元いた世界でも使えるのはベオルフ様くらいでしょう。
他の方々にしてみたら、単なる石ころ。
しかし、ベオルフ様が持つからこそ意味のある物になる。
だったら、持っておいて欲しいです。
オーディナル様が良いとおしゃっておりますし、何よりも……病気になったら心配で夜も眠れなくなりますもの。
「わかった……そうだな。私が病気になったら、誰がアレを止めるのか……私一人の問題ではなかった。主神オーディナルが良いというのならば、そのご厚意に感謝します」
「素直に受け取っておいてくれ。お前が倒れたら僕も困るのだよ。今コチラの世界は、お前の行動1つにかかっているといっても過言ではないのだ」
ぷ、プレッシャーをかけてきますね、オーディナル様っ!
そう言われたら、胃痛を感じてしまいそうですが……ベオルフ様は、先程のリュート様を思わせるような不敵な笑みを浮かべます。
「アレの思い通りにはさせません」
「そうこなくてはな」
「ボクも一緒になってやってやるんだっ! 頑張ろうね、ベオっ!」
ふんふんっと鼻息荒く耳と尻尾をピーンッと立てているノエル可愛らしさと言ったら……もう、可愛いですねっ!
腕を伸ばしてぎゅーっと抱きしめると、ノエルは嬉しそうに頬ずりしてきてもっふもふでたまりませんっ!
「全く……お前たちは……」
ベオルフ様がぎゅーぎゅー抱きしめ合っている私達を見て、苦笑らしきものを浮かべますが、それがたまらなく懐かしく感じました。
オーディナル様も柔らかく微笑み、私達を見守ります。
「何か、アレが日常なのかな」
「たぶんね」
兄がこっそり時空神様に尋ね、二人してひそひそ話し合っている様子ですが、もふもふしているので今は気にする暇もありません。
ふわぁ……あったかもふもふですよっ!
「ところでさ、結月。アレって止める人いないの?」
アレ?
兄の指差す方向を見れば、黒騎士様たちが死屍累々……あ、あわわわわっ!
リュート様、やりすぎですっ!
あ、違う……リュート様じゃない、ロン兄様の部隊ですね。
テオ兄様担当のところも倒れています……リュート様担当のところが、一番元気よく……いえ、言い方を変えますね……死にものぐるいで防御魔法を展開して逃げ回っていらっしゃいました。
『リュート様、マジ無理、もう無理いいぃぃぃっ!』
『うるせーな。それだけ叫ぶ元気があるだろ?ほら、早く術式を展開しねーと次が来るぞー』
『こんなに魔法を立て続けに使える人間なんざいねぇっすよおおおぉぉっ!』
『ここにいるだろ。ほら、次いくぞー。次は光属性魔法だ』
そう言った瞬間、黒騎士様たちの動きがピタリと止まり、頬を引きつらせて一塊になります。
必死な様子に、これから襲いくるだろう攻撃の強大さが知れるというものですね。
『最大防御、全員で展開して幾重にも重ねて作り出せええぇぇぇっ!』
『もうやっているっすううぅぅぅっ!』
最初の光なんて目じゃないくらいに光り輝く防御膜みたいなものが幾重にも張られ、リュート様の攻撃に今まで耐えてきた黒騎士様たちを襲います。
鋭い槍のような光は、真上から彼らの防御膜を突き破ろうと迫り来るのですが、彼らも黙って耐えているだけではなく、闇属性での弱体化も図っているようでした。
それだけやって、ようやく消えた光の槍は、最後の防御壁を壊す寸前まで来ていたのですから……恐ろしい威力ですね。
『辛うじて……か。お前ら、俺との魔法訓練から離れて二週間でこの体たらくとか、話になんねーぞ』
『無茶言わないでくださいよ……リュート様の魔力がフルMAX状態だなんて、今までに無かった状況ですよっ!?』
『あ……』
忘れていた……と、リュート様は苦笑しましたが、彼らにしてみたら命に関わる大問題です。
黒騎士様たちのブーイングの中、さすがにマズイと感じたのか、リュート様は「悪かったって! 店の割引券で手を打ってくれ。マジで悪かった。ゴメンな」と手を合わせて謝罪していらっしゃいました。
半額割引ならーとか言っている元同級生の方々も、こういうことに慣れているのでしょうか。
何だかんだで仲の良いじゃれ合いみたいですよね。
「良い信頼関係を築けているようだ」
「はい。元は全員同級生だったみたいです。仲が良くて羨ましいです」
「それを言うなら、私と貴女も同級生だろう」
「ただの同級生は嫌なのです。ベオルフ様は頼りになる兄がいいのです」
「……そうか」
困った奴だと言って目を細めるベオルフ様を見て、ハッキリ顔すら思い出せない同級生たちとのつながりの薄さにため息が出る思いでしたが、コレで良いのだと思えます。
私は……リュート様がいる限り、あの世界に戻ることはないのだから───
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