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第五章 意外な真実と助っ人
専門用語はわかりません
しおりを挟む「あれ?お母さんの『スパイスからカレーを作ってみよう、日曜のチャレンジ料理会』の時は結月も居たよね?参加出来なかったのは、出張中だったお父さんだけだったと記憶しているんだけど……」
当時は父が忙しく、日曜日に帰れなかった父から謝罪の電話を受けていた母を見ながら「今日はどうするのかな」と考えていたら、電話を終えた母がいきなり「スパイスから作るカレーって市販のルーと違うの?」と言い出したので驚いたなぁ……と、兄の言葉を切っ掛けに結月の記憶が蘇る。
電話越しの父との会話でカレーの話が出た結果、母の無茶振りリクエストが発生し、私たち兄妹揃って急きょ作戦会議を開き、買い物へ出かけたという……懐かしくも苦笑いが浮かんでしまう思い出でした。
お母さんは現在も変わらず父と兄にリクエストして困らせているのかしら。
そのうち、綾音ちゃんも参加して大変なことになりそう……頑張れお兄ちゃん!
「あの時は、お兄ちゃんがスパイス担当だったでしょう?買い物のときに必要だったスパイスは覚えているつもりなんだけど……分担作業だったから、配合を覚えていないの」
「あ……そうだったね。具の準備をしてもらっていたから、こっちの作業を見ていなかったのかぁ」
そこで兄は、紙に懐かしい日本語で必要になるスパイスを書き出し始めました。
ターメリック、チリペッパー、コリアンダー、クミン、ナツメグと書かれた文字の下に、ディル、フェンネル、ジンジャー、カルダモン、タイム、セージ、スターアニスという文字が続きます。
「上の段に書かれているスパイスだけで基本的な物が出来るよ。あとはお好みかなぁ……他にも色々なスパイスを使ってみたら良いと思う」
「い、いっぱい……なんだね」
「綾ちゃんがね、『兄はお子様舌で、カレーが大好きだったの。ハルくんのカレーを食べたら絶対に驚くよー、もちろん私も大好き!』って……だからさ、頑張って研究しちゃった」
兄に惚気られた……と思っていたら、「やっとお兄さんの話が日常で気軽に出来るようになった綾音ちゃんに、ささやかでも何かしてあげたいんだよね」と笑う兄の様子を見て、本当に好きなんだなと心がじんわり温かくなる。
「ここに書かれている物だけではなく、その世界にしかないスパイスなんかもチャレンジしてみたら良いんじゃないかな。日本料理と結月がいる今の世界の食材をミックスしたら、それはきっとその世界の人の口にも馴染みやすいはずだよ」
「うん、頑張って探してみる。スパイスは要相談だけど、食材なら……コカトリスの肉とか?」
「むしろ、魔物の肉が美味しいなら味わってみたい感まであるなぁ」
さすがは日本人。
美味しいものに関して貪欲ですよね。
そんな兄妹会話をしている私の隣で話を聞いていたベオルフ様は、こちらへ意味深な視線を投げかけてきます。
あ……これは……いじる気ですねっ!
身構える前に、彼の口が動き出してしまいました。
「この前のように料理をはじめないのか?」
「え?結月ったら、ベオルフの夢でもお料理しているの?」
何を思い出したかはわかりませんが、楽しそうに目を細めるベオルフ様の言葉に反応したのはお兄ちゃんで……な、なんだか悪いことをしたみたいな感覚に陥ります。
悪事を働いたわけではありませんよっ!?
「そ、それは、ベオルフ様が魔力欠乏症を患ってしまったからで!ほ、ほら、魔力補給が出来るようなお料理を探していたの!私がそばにいて作れるのなら良いのだけど……できないから、覚えていただくしかないのですもの」
「あー……そっかぁ、じゃあ、ベオルフも料理が出来るんだ?」
「ある程度ならな。旅をしている者としては、水と食料の確保は最優先事項だ」
プロ意識がスゴイなぁ……と呟いた兄は、思いついたようにベオルフ様に提案し始めます。
そんなに目をキラキラ輝かせている兄を見るのは久しぶりのような気がしますが、何を思いついたのやら……
兄の隣にいる時空神様は、「陽輝が楽しそうで何よりだよ」と微笑ましいものでも見るかのような感じですね。
本当に気の合う仲間……友人的な感じなのでしょうか。
「じゃあ、3人で今からカレーを作ってみる?」
「でも、ベオルフ様の環境でスパイスが揃うかどうか……」
「ヘルハーフェンやエスターテなら手に入る物ばかりだな」
黙って話を聞いていたオーディナル様が、そんなことをしれっと暴露され、私は驚き目を丸くして言葉も出ません。
あ、あれ?
もしかして……考えている以上に、元いた世界に食材やらスパイスがあったということですか?
どうせ引きこもるなら、お料理研究でもしていたかったですっ!
ただし、貴族の令嬢が料理をしていたら、奇異の目で見られるか下品だと罵られるだけでしょう。
それに……あの頃の私に、それだけの気力も知恵も体力もありませんでしたよね。
「そういえば、似通った形の物が多いようですね」
兄がベオルフ様の作った応接室を見渡し、地球にあってもおかしくない品々を見てそう問いかけます。
「世界を作る時に、僕の愛しい妻とルゥの三神でよく相談やシミュレーションをしていたから、共通項が多いのは仕方がない」
「管理者が事前に相談していると世界が似るっていうのは、単なる噂ではなく事実なのですね」
「まあ、管理者同士の仲が良いと、同じか真逆か両極端な事例が多いな」
時空神様の言葉に頷いたオーディナル様は、創世神ルミナスラ様の世界は知能を持つ種族が多いのに対し、地球は人間のみが支配する世界だと、簡単な例を上げてくださいました。
相談していても、管理者独自の色が出てくるということで、似通った生命や大地や空があっても、全く同じ世界は存在しないようです。
「創生理論の中でも度々論議を呼ぶ【多種族主義】と【単一種族主義】は、どちらにもメリットとデメリットが存在する。多種族主義の世界は『カオスペイン』にかかりやすいが『メノスウェーブ』を発生させることが少なく絶滅しづらい。単一種族主義は『カオスペイン』にかかりづらいが、『メノスウェーブ』を大量に発生させてしまい、病気などが主な原因で絶滅してしまうことがある』
え、えっと……専門用語っぽいものが出て来ていて、意味がわかりませんでした。
困惑している私の表情から理解した時空神様が苦笑して、補足説明をしてくださいます。
まず、『カオスペイン』というものは世界がかかる病気の一つで、代表的な症状としては管理者やサポートをしてくれる分身とも言うべき神族が干渉することのできない魔物というモノを生み出し、人から絶対だと思われていた神を喰らい『メノスウェーブ』の生成を活性化させる。
次に、『メノスウェーブ』とは世界に巡るマナの光とは相反する存在で、いわゆる人の負の感情などから生み出される暗い影のことを言うようです。
適度に存在する分には世界の熟成に一役買っているようなのですが、過剰になれば世界が腐り落ちてしまうこともあるのだとか……
しかし、文明を飛躍的に進歩させる結果にもなるそうで、とても管理が難しいとのことでした。
「まあ、ユグドラシルが浄化しているから、余程のことがない限り世界が腐り落ちることは無いから安心すると良い」
「それでも限界はありますから、増やしすぎないように注意してくださいね」
「……お前は最近、僕の愛しい妻に言動が似てきたのではないか?」
「父上よりも母さんに会う機会が多いですからね」
それを言われるとつらいと言わんばかりに顔をしかめたオーディナル様が、少しだけ可哀想です。
でも……こ、これって……私達が知っても良い情報だったのでしょうか。
そこにツッコミを入れたら駄目ですよね。
ベオルフ様なんて無心……といった表情ですし、私も聞かなかったことにしましょう。
「そういえば、以前は『母上』と呼んでいたのに、いつの間にか『母さん』だしな」
「兄の言い方に似ているそうですよ。とても嬉しそうに語ってくださったので、それからはそう呼ぶようにしています」
「そうか。きっと会いたいのだろうな」
「そうですね……母だけではなく、俺たちだって会いたいですよ」
前時空神様のお話をしている時に見せる現時空神様の表情はとても穏やかで、心の底から尊敬していることが伺えます。
私が知る十神様たちは、本当に仲が良いですよね。
だからこそ、大地母神様の問題が気がかりなのでしょう。
これはできるだけ早く解決出来るように努力しないといけませんね!
しかし……オーディナル様と現時空神様が優しい表情で語る前時空神様はどんな方なのでしょう。
機会があったら会って───と考えていた私の脳裏に、フッと誰かの姿が見えたような気がしました。
一瞬だけ声が……聞こえましたよね。
耳朶に柔らかく響く優しい声は、リュート様に似ているようですが、少しだけ低くて雰囲気がちょっぴり違う感じがしました。
そしてその優しい声の主は、私の名を呼んでいた……ような?
でも、それは本当に私の名前だったでしょうか。
結月でもルナティエラでも無かったように感じたのですが、気の所為?
「それじゃあ、結月。三人で今からカレーを作ろうか」
え?
思考の渦にどっぷりつかっていた私は、兄とベオルフ様が決めてしまった話の内容が全く理解できませんでした。
でも、今の言葉から察するに……
「お料理をするの?」
「実際にやらないとわからないでしょ?文面やイラストだけでわかるなら良いけど、料理ってそういうモノじゃないじゃない?実際に作って、触って、見て、経験して学ぶことが多いのだからさ」
そう、それは当たり前ですよね。
だけど、そうではない世界、今いる世界のみんなを思い出します。
楽しそうにパンを作っているリュート様やテオ兄様やロン兄様、黒騎士の皆様、歌を歌っちゃうくらい上機嫌なチェリシュ、私の手元を真剣に見ていたカフェたちを思い出しました。
「そっか、私が今いる世界でやったほうが良いことが……わかったような気がする」
「へ?」
キョトンとする兄と時空神様、それとは対象的に私がやりたいことを理解しているようなオーディナル様とベオルフ様。
ノエルもわかっているのか「楽しみだねー」と尻尾を大きく揺らします。
「まだその時ではないので、いずれ……だけど、頑張らないと!」
むんっと両拳に力を入れて気合を入れた私の周りをノエルが嬉しそうにぴょんぴょん跳ね、お料理をしている時には危ないかもと考えていたら、察したベオルフ様が簡単にノエルを取り押さえオーディナル様に預けているのを見て、大分遠慮がなくなってきたようだと苦笑が浮かびました。
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