悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

月代 雪花菜

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第五章 意外な真実と助っ人

本格派のカレーはスパイスの香りが段違いです!

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「まあ、変わり種のカレーということでイチゴカレーという物も販売されているから、変ではないかな」
「そうなのっ!?」

 これには私の方が驚いてしまいました。
 え、えっと……単なる思いつきというか、チェリシュが好きだから甘味が欲しくてという理由だったのですが、いちごカレーを製品化している企業があるなんて……

「ご当地食材をカレーにするという企画はよくあるしねぇ……だけど、かなり好みが分かれるからカレーにそのまま入れるのは個人的におすすめしないかな」

 酢豚のパイナップルも意見がわかれるところでしょ?と問われて、父と母で意見が別れたことを思い出します。
 母は好きだったけれども、父は無くても良い……って渋い顔をして言いましたよね。

「あ、えっと……か、隠し味程度……なら?」
「隠れているなら問題ないでしょ。隠れていない隠し味なら問題アリだけど……多少なら大丈夫でしょ」

 隠れていない隠し味って、それはもう日本語として間違っていませんか?

「結月は時々面白い発想をするよね」
「この前、チェリシュが『からいのやーの』って言っていたから……」

 あの小さな可愛らしい女の子かぁと兄がフライパンの中身を焦げ付かないように混ぜながらふにゃりと笑います。
 本当に子供には甘いですよね。
 でも、こういうところが兄らしくて好きです。

「なるほど、それで甘味を足す食材を考えていて、その子の好物を思い出したってところかな」
「そうなの。バナナやリンゴや蜂蜜も加えるつもりだけど……」
「他にもヨーグルトや生クリームもおすすめかな。イチゴは甘酸っぱいから酸味のあるヨーグルトよりも生クリームの方がカレーには合うかもしれないね、ヨーグルトでも問題はないと思うし、そこは試してみないと……かな」

 兄のアドバイスを聞きながら、私なりのカレーを頭の中で組み立てていく。
 ベリリのつぶつぶ感があまり強く出てしまうと舌触りが問題になってしまいますし、カレーの味はバランスが大事なので酸味が際立つのも避けたい。

「隠し味程度に入れておいて、イチゴのラッシーでも作れば良いんじゃないの?」
「それも良いかもっ」

 それならベリリをたくさん使えますし、万が一辛かったときの対策にもなります。
 ベリリをジャムにして隠し味……これなら食感に問題もないでしょうし、果肉をそのまま加えるよりたくさん投入できそうですよね。

「イチゴジャムを隠し味にするって変……かな」
「ん?イチゴジャム?」

 ピタリと動きを止めた兄は暫く沈黙していたかと思ったら、いきなりこちらを見て叫びます。

「あああっ!思い出した!それは綾音ちゃんがやっていたよ。一度だけご馳走になったんだけど『お兄ちゃんが唯一絶賛してくれた料理』だって教えてくれたことがあったなぁ」
「一度だけなの?」
「その後は、僕のカレーの方が好きだって言って作ってくれなくなっちゃった。きっと……思い出の味を食べるには、まだ時間が必要だったんだと思うよ」

 綾音ちゃんの気持ちを考えたら胸が痛くなる。
 それだけ大切に想っていた相手を亡くした喪失感を抱えるつらさを、本当の意味で理解できないでしょう。
 だって、私も与えた側ですもの。
 綾音ちゃんや大切な家族に深い傷を残してしまった罪悪感で、胸がズキリと痛みました。
 そんな私の様子を察し、横に寄り添うように並び立ったベオルフ様が無言で手を握ってくださいます。
 兄もハッとして何か言おうとこちらへ振り返りましたが、私達の様子を見て安心した様子で優しく微笑み、何事もなかったかのように料理をしておりました。
 暫く兄がフライパンを振るう音だけが響き、誰も言葉を発することのない沈黙の中であるというのに、包み込まれるような優しい兄たちのぬくもりを感じ、違う意味でも涙が浮かびそうになります。
 今の私の心に、この優しさは響きすぎますね。

「さて、ここで水を加えてコトコト煮ていこう。具材が大きめだから水は多めにしてね。とろみを出したいなら、肉を入れる時に小麦粉をまぶして炒めるのも良いし、具材に火が通ってからジャガイモをすりおろした物を入れるのも良いね」

 とろみを付けると焦げやすくなるから、鍋から離れられなくなっちゃうのが大変だと笑う兄に「なるほど」と頷くベオルフ様の声を聞きながら、リュート様はどんなカレーが好きなのかしら、チェリシュは?と考えている自分がいることに気づきます。
 綾音ちゃんが作るカレーの隠し味を参考にさせてもらいましょう。
 いつかきっと、綾音ちゃんもお兄ちゃんに食べて欲しいって思う時が来るのではないかと思います。
 大切な人が自分の作った料理を笑顔で食べてくれることは嬉しいですし、大切な人との思い出を共有できる喜びが、喪った悲しみに勝る日が必ず来るはずですもの。
 それによって忘れるということではなく、喜びの記憶と共に大切な人の記憶を焼き付けて思い出が増えていき、日常へ溶け込んでいくのではないかと感じました。

「カロリーは高くなるけど、コクを出すのならバターを入れるのも良いし、ナッツ類を水と一緒にミキサーにかけ液状にして加えるのも良いよ。ベオルフの世界では難しいだろうから、チーズをトッピングするのが良いかもね」
「チーズか……」
「口当たりがマイルドになるし、おすすめだよ」

 兄はそう言いながら味見というには少し多めのカレーを小皿にとってベオルフ様へ渡します。
 チラリと私の方を見るので「お先にどうぞ」と勧めると、彼は小皿に添えられていた小さなスプーンにカレーを掬って口に含んだ。

「っ!?」

 ピクリと反応したベオルフ様は言葉を無くしたように固まったかと思ったら、驚いた様子で瞬きを繰り返したあとに柔らかな笑みを浮かべました。
 え、えっと……なんですかその素敵な笑顔は!
 そんなに美味しいのですかっ!?
 私の様子を見ていたベオルフ様は苦笑して小皿を差し出すので、もう1本添えられていたスプーンを手に取りカレーを掬って口へと運んだ。
 最初は野菜の甘味と強いスパイスの香りが来て、そのあとに辛味が追いかけてくるけれども奥深いコクがあり次が欲しくなってしまうくらい美味しい。
 カレールーで作るカレーよりも本格的なスパイスの香りが強く感じられるカレーでした。

「牛などのブロック肉を使うときは、最初に肉の表面を油で焼き固めて取り出し、煮込む時に入れたらより美味しくなるよ。彼のためにカレールーに近づけるのなら、小麦粉やソースやケチャップをうまく使えば良いんじゃないかな。手軽に野菜の甘味を加えたいならトマトジュースや野菜ジュースも良いね」

 一晩寝かせた旨さを出すなら焼肉のたれなんかも効果的だけど……と、流れるように兄の口から出てくるアドバイスを聞きながら、頭の中で私がリュート様に作りたいカレーが出来上がっていくように感じます。
 こういったアドバイスが本当に助かりますよね。
 私はカフェたちに、こうしたアドバイスができるでしょうか。
 師匠という立場なのですから、兄のように『さり気ない心配り』を忘れないようにしましょう。

「でも、このカレーが美味しくて……手を加えるのも勿体ないって感じちゃう」
「そう?そこまで褒めてもらえると嬉しいな」
「兄妹揃って美味しいものを作るものだ。私にもこれだけの物が作ることができたら、家族は大喜びするだろうな」

 作ったカレーを褒められて嬉しかったのか、頬を緩める兄にもう一口カレーを食べたベオルフ様がしみじみと呟きます。
 きっと、彼の脳裏には家族の姿が描き出されていることでしょう。
 ベオルフ様と二人で美味しいねと言いながら食べていたら、真っ白な小皿の上にあったはずのカレーは綺麗に消えていて……なんだかソレが無性に嬉しくなってしまいました。

「私の世界の食糧事情が良くなれば、こういった料理が増えるのだろうか」
「その可能性は高いだろうね。現在、僕の国はそういう面で苦労をしていないかもしれない。でも、過去には食料を確保できないからこそ、貴重な食材を腐らせない保存という工夫をして、そのままでは食べられない物でもどうにか食べられないか研究をする人も多かったんだよ」
「工夫……か」

 工夫は大事だなと頷くベオルフ様と微笑みを浮かべる兄を交互に見ながら、どちらの世界の情勢も理解しているので納得できてしまいます。
 グレンドルグ王国は鉱物資源に恵まれた国で、肥沃な大地が限られており食料を確保することが難しい。
 日本は海に囲まれた島国であるから、土地が限られている。
 自国での自給自足は難しいですが、海外から輸入することにより多種多様な食材と豊かな食料資源を確保しています。
 グレンドルグ王国が食料資源を確保するには、隣国であり鉱物資源が乏しいエスターテ王国との友好関係を密に結ぶ必要があるでしょう。
 そういう意味でも、王太子殿下とエスターテ王国第一王女殿下の婚約は、両国にとって良い知らせといえました。

 ただ……そうなると困る人達がいることに間違いはありません。
 戦争をすれば儲かるという職業の方は、一定数ですが確実に存在するのです。
 問題なのは、そういう方ほど金に物を言わせて権力を握っているということでしょうか……

 悩ましい限りですね。

 こういう問題を、王太子殿下だけではなくサポートするはずのセルフィス殿下や第三王子殿下も理解していれば良いのですが……
 第三王子殿下はわかりませんが、セルフィス殿下が理解しているとは到底思えません。
 よく考えたら、どうしてあれほど評価が高かったのか理解に苦しみます。
 まるで、ベオルフ様の評価をそっくりそのままもらっていたような感じですよね。

「それは正しい推測だな」
「ひゃっ」

 いきなりオーディナル様から声をかけられ、私は驚きベオルフ様に抱きついてしまいました。
 だ、だって、いま……し、思考を読まれちゃいましたよっ!?
 私を難なく抱きとめたベオルフ様はオーディナル様を軽く睨みつけます。

「そういうことをなさっていると嫌われますよ」
「ソレは困るな。しかし、お前たちの考えは僕に流れてくる事が多いのだから、仕方がないだろう?」
「私の場合は意図的に読んでいるようですが?」
「お前は別だ」

 えっと……ベオルフ様にとって、こういうことは珍しくないのですか?
 苦労されているのですね……ベオルフ様は……
 思わず同情をこめた視線で見つめてしまいますが、彼の方は諦めにも近い感情があるのか、ため息をついただけでした。
 何でもそつなくこなしているように見えて、意外と苦労性ですよね。
 そんな彼を労るようにソッと腕を撫でていたら、オーディナル様が気まずそうに「必要なこと以外は読んでいないからな?」と付け加えたのですが、ベオルフ様だけではなく私もその言葉は信用ならないと感じたのは内緒にしておきましょう。

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