悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

月代 雪花菜

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第七章 外から見た彼女と彼

異様な雰囲気を放つ女性たち(キュステ視点)

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 チェリちゃんが気にするほど良い雰囲気の二人の時間を邪魔することもはばかられるが、誰か来てしまっても問題なくらい、ヤバイことになっていても困る。
 最近のだんさんは、正直に言うと、かなりマズイ。
 まあ、奥様がもともとそういう面で無頓着というか、男をわかっていない事が原因なのだろう。
 これは、あちらにいたときに人との関わりが少なかったことと、自慢の兄がとんでもなく過保護であった為だと思っている。
 だんさんの場合は、聖なる文字を称号に持つ家の者であり、愛の女神様の呪いが一番濃く出ているせいで、運命の相手以外に情欲を感じることは無い。
 人が感じる欲求を全く感じないとか、本当に恐ろしい呪いだと言えるが、本人は微塵も気にしていないどころか、そういう物が煩わしいとすら感じていたようである。
 しかし、奥様───運命の相手を目の前にしただんさんは奥様にとって、そういう面では、とても危険な存在だと言えた。

 今まで呪いの効果で抑圧されていた欲求が解放され、一点集中で向かっているような状態である。
 腹をすかせた獣の前に差し出された子兎……しかも、美味しそうに飾り付けまでされている状態なのだ。
 だんさんの精神力で色々と抑え込んでいるようだが、いつまで持つのか皆目見当もつかない。
 爺様が対策として変化の指輪を渡したのも、これを理解していたからである。

 愛の女神様の呪いも善し悪しやな。
 いざというときには、僕が止めんと……

 殴られても蹴られても、奥様が泣くようなことにだけはならないよう、だんさんが一生後悔することにならないように、彼と本気でやりあっても死なない僕が気を配らなければ───
 
「あ、そういえば、リュート様にお説教をするのを忘れておりました」
「……えっと……こ、ここで? このタイミングでっ!?」
「はいっ」

 とっても良い奥様の返事を聞き、これはチェリちゃんに聞かせてはいけないと、僕は踵を返す。
 お説教モードに入った奥様に悪戯が出来るほどのツワモノではない、初なだんさんだから安心して離れられる。

「リュート様は、お仕事を詰め込みすぎです。どうして、自分のお体のことを考えずに、次々と仕事を見つけてしまうのですか」
「そ、それは……ルナに喜んでほしくて……つ、つい……」
「便利なものが増えたら嬉しく感じますけど、リュート様の健康を害してまで欲しいとは思いません。私にとって、一番はリュート様なのですよ?」
「は、はい……すみません」

 あー、これは完全に尻に敷かれているヤツやわ……

 普段は人々から『魔王』などと言われるほど恐ろしいだんさんも、奥様の前ではコレである。
 しかも、叱りつけるというより、自分を心配するが故に出てくる言葉だから、何よりも身に沁みるだろう。

 ちゃーんとお説教されて、少しは自重してくれへんと、いま倒れられたら困るんやわ。

 どうやら、二人の会話がチェリちゃんにも聞こえているのか、此方を見上げたあと、視線をウロウロと彷徨わせる。
 聞いてはいけないことを聞いてしまったという様子に、僕も苦笑を浮かべて「あっちへ行こうかぁ」と提案すると、無言でコクコクと頷かれてしまった。
 まあ、だんさんにシッカリと釘をさせる相手は、今のところ奥様と爺様しかいないので、この辺りで言い含めておいてくれないと、仕事の面でも暴走しかねない。
 普通の人間よりはタフなだんさんは、すぐに無茶をする傾向があるため、良いタイミングだと思う。

 しかし、愛娘同然のチェリちゃんに聞かれたと知れば、精神的ショックもあるだろうから、この場には誰も近づけないように惑わしの魔法を施しつつ、カフェとラテに頼まれた食材を持って厨房へと戻った。

「遅かったですにゃ」
「何かありましたかにゃっ」
「な、なんでもないのっ」

 チェリちゃんの焦りようと、姿が見えない二人に何かを察したのか、カフェとラテは何事もなかったかのように食材を受け取り、オーダーされた料理を作り始める。
 そんな時だった、ヨウコがひょっこり顔を覗かせ、神妙な面持ちで僕の袖を引っ張った。

「なーなー、あそこのお客さん、何か様子が変なんだよー。オイラじゃダメみたいだからさ、様子を見て欲しいんだけど……」

 そう言われて気付かれないように様子を伺うと、数人の女性がヒソヒソ話をしながら周囲を伺っている様子が見て取れた。
 だんさん狙いの女性だろうか。
 あの角度からだったら、従業員通路にいただんさんは見えなかっただろうし、来ていることに気づいてもいないはずだ。

「チェリちゃんは、ここにおる?」
「あいっ、お手伝いしているのっ」
「あんまり無理せんといてね」
「弟子同盟なの、大丈夫なのっ」

 ねーっ! と言って、カフェやラテと笑い合う姿を見て安堵した僕は、皆の頭を順々に撫でたあと、件のお客さんたちに近づいていく。
 どうやら、クロとマロも気になっていたようだし、爺様もそれとなく此方を伺っていた。
 近くのテーブルの空いたグラスに水を注ぎながら、女性たちの会話に耳を傾ける。

「でも……これだったのかしら……」
「いえ、これかも……」
「あのバカ、もっと情報は正確に言ってくれないとわからないじゃない」
「本当よね……確認したくても、今は任務中でしょ?」
「どれもこれも美味しいんだけど、アイツが言っていたのがわからないと……」

 窓際の席で頭を突き合わせて相談をしている3人の女性は、別々の料理を一皿ずつ頼み、味わいながら、ああでもないこうでもないと話しているようだ。

「オベントーってなんなのよ……」
「リュート様がいらっしゃれば、直接お伺いできたかもしれないけれども……」
「ダメよ。こんなことで手を煩わせて、普段から迷惑をかけているバカな弟と同じと思われたら……」

 はぁぁ……と、深いため息をつく3人の女性は、どうやらだんさん狙いではなく、関係者のようだと察する。
 そして、海浜公園で奥様が作ったお弁当について調べているらしい。

「見た目が華やかって言っていたけど、どれもこれも華やかよね……」
「彩りがキレイだし、盛り付けも凄いって感動しちゃうもの。他の店ではありえないものね」
「リュート様が絶賛するわけよ……しかも、美味しいパンが作れたっていう自慢話みたいな連絡が入ったけど、多分、このパンのことよね」

 ベリリ酵母で焼いたパンを食べながら、んーっと唸り、幸せそうにしている姿を視野の端で捉え、思わず口元に笑みが浮かびそうになる。
 素直な感想と、料理をシッカリ味わってくれていることが嬉しい。
 しかし、彼女たちは異様な雰囲気を醸し出し、僕の耳だからこそ拾えるくらいの音量で話し合っているのだから、ヨウコたちが怪しく感じるのも仕方がないだろう。

 どうしたものか……接触するのは簡単だが、彼女たちの質問に答えられる自信はない。
 実際にそれを見たわけではないし、作ったわけでもないのだ。
 とりあえず、問題はないと視線で全員に告げたら、ホッとしたように仕事へ戻った。

 空いたグラスに水を注ぎ終えてから厨房へ戻り、それとなくチェリちゃんに尋ねてみる。

「チェリちゃんは、海浜公園のお弁当のこと知ってはる?」
「知っているのっ! タコさんだったのっ」
「た、タコさん?」

 どうやら、ウィンナーに細工をしてタコに見えるようにしていたらしい。
 本当に、奥様は手先が器用である。

「ポテトサラダとー、卵焼きとー、お野菜とー、唐揚げとー、トルティーヤなのっ!」

 デザートは、僕たちの分も作ってくれたロールケーキだったらしい。
 チェリちゃんが教えてくれた料理を、箱の中に見栄え良く収めていたというのだから、一見の価値はあっただろう。
 きっと、奥様のことだ。
 とんでもなく美しいお弁当であったに違いない。
 ヨウコも言っていたが、絵で表現するには限界がある。
 カメラのこともあるし、いつか見たままの景色を写し取るような技術が発明されないだろうか。
 きっと、奥様の作った料理は、どこの店よりも見栄えが良く、美味しそうに見えるだろう。
 それをメニュー表にして、至るところに飾れば、お客さんがもっと増えるに違いない。

 個室も増やし、神族が来る可能性も考えると、専門の従業員を増やすことも考えなければならない。
 フロアは、奥さんたち三姉妹とヨウコでなんとかなるだろう。
 神力や上位称号持ちの力に臆することがないサラさんは、個室を受け持ってもらうのが一番だ。
 問題は、神族が使う別棟のスタッフである。
 第一条件が、神族の力に抵抗力がある人……あ、あれ?
 それが意外と難しい……かも?

 だんさんや奥様のように、神力に抵抗力が……むしろ、全く通用しない人など存在しない。
 奥様のことがあるから、いきなり時空神様が現れても平気な人───って! そんな人材おるわけないやんっ!
 自分の考えに全力でツッコミを入れながら、増築されている神族専用の別棟と、そろそろ解放される一般客用の中庭にあるテラス席、予約が多すぎることから増室する予定の個室を考え、キッチンとフロアを合わせても、5人ほど新たにスタッフが欲しいかもしれないと本気で考え、激しい頭痛を覚えた。

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