265 / 558
第七章 外から見た彼女と彼
今ならわかる、リューの言葉(チェリシュ視点)
しおりを挟むお皿の上にある初めて見たつやつやなパン!
すごいの……艶があるの。
リンゴみたいに、キレーなつやつやなのっ!
「ん? その枝のようなものはあったか?」
ノエルと一緒に「つやつやー!」と言いながらはしゃいでいたら、ベオにーにが不思議そうにパンに突き刺さっている棒みたいなものを指差していたの。
「オーブンに入れる前に、思いつきで焼き菓子を刺したのです。無くても良いのですが、リンゴみたいに見えるでしょう?」
枝……みたいなの。
このパンは、見た目もリンゴなの!
甘い香りがいっぱいのリンゴのパン……食べてみたいの。
「ほう? パンの実と庭園のリンゴで作ったパンか……二人で作ったのか?」
「はいっ! 一緒に作ったのです」
「ならば、いただこう」
じーじがルーに勧められて手にとったリンゴのパンを一口ぱっくんしたの。
すぐに、リューと同じようないい笑顔が浮かんだの!
チェリシュにはわかるの。
あの顔は、間違いなく『美味しい!』の顔なの!
「ほう……僕の愛し子は器用なものだ。良い香りがする上に、艶が良い感じに出ているな」
「香りはシナモンを追加しました。艶は卵液のおかげです」
詳しくルーが説明しているけど、じーじはそれを嬉しそうに聞きながら、そうかと頷いていたの。
ルーが幸せいっぱいでお料理していることが、とーってもうれしかったみたいなの。
じーじがルーを本当に好きだーってわかるくらい、いっぱーい柔らかな光が溢れていたの。
「あー、これは近くのパン屋でよく見る形だ。リンゴが丸々入っているタイプもあるよね」
「カスタードクリームを詰めたほうですか?」
「そうそれ!」
「兄が好きなパンですよね。もしかして、今でもよく買ってくるのでしょうか」
「パン屋に寄ると必ず買ってるよ。陽輝があまりにも美味しそうに食べているから、時々もらうんだけど、リンゴは色々と調理法があって美味しいよね」
ゼルにーには、違う世界の事をよく知っているの。
ルーの世界のことも知っているから、ルーは懐かしいお話ができて嬉しそうなの。
リューもルーと懐かしい話をしているときに、うれしそうな顔をしているから、やっぱり共通の話題があることはステキなことなの。
今は、あのどこか寂しそうな……遥か遠くを見る目をしなくなったから、あの時は前の世界の記憶を思い出していたのかな。
チェリシュが知っていたら、リューは少しでも話せて、楽になったのかな……そう考えたら、少しだけリューに申し訳なかったの。
リューはチェリシュを、いつも助けてくれるのに、チェリシュはリューの助けになっていないの。
でも、リューは「バカなこと考えていないで、ルナが折角作ってくれたパンを味わって食え」とかいうかも……って思っちゃったの。
作ってくれたお料理を、ちゃんと味わって食べること。
これは、とても大切なことだってリューはチェリシュに教えてくれたの。
何年くらい前か忘れちゃったけど、リューたち騎士科の学生が聖都の近くに現れた魔物を討伐して、そのまま野営をすることになった森の中で、リューが独り木の上に登って周囲を見下ろしていたの。
みんなは、焚き火を囲んで、ごはんを食べていたのに、リューは手にあるお肉を、しかめっ面で食べていたの。
魔力をたくさん使ったから、食べないとダメなのと声をかけたら、こんなところまで登ってきたことを先ずは怒られちゃったの。
それはちゃんとごめんなさいして、食べないとダメなのと言うと、低く呻いてから観念したように食べ始めて……深い溜め息をついたの。
「なんで俺の肉だけ、ポーション漬けとか、わけわかんねー加工を施すんだよ……」
興味を覚えたから一口ぱっくんしたら、すごい味だったの!
にがにがで、しょっぱくて、すっぱくて、甘くて……緑色のパプリカをもっと苦くしたような渋いような味がしたの。
何とか飲み込んだあと、「生きるために食べないとなの……でも、食べるのも苦行なの……大変なの」と言ったら、リューは苦笑したの。
「確かに人は、何かを食べないと死ぬ。他のモノの命を喰らって生きている。命をつなぐためには、贅沢なんて言ってらんねーよな」
チェリシュがべーとしちゃったお肉を、リューは苦労しながら必死に食べていたの。
そうしないと、魔力が回復しないの。
でも……すごい味だったの。
「でもさ、作り手が自分の為に考えて作った料理なんてもんを、一度でも食べちまったら……しょーがねーよなぁ」
「しょうがない……なの? チェリシュにはむずかしくて……わからないの」
「そうだよな……いつか、チェリシュも、そういう料理と出会えたら良いな。心を満たしてくれる、優しくて旨い料理……俺は、いつかまた……」
その時はリューが何を言っているのか、ぜんぜんわからなかったの。
でも、今はわかるの。
リューの食べたかった料理。
求めていた料理。
あの時の答えを持っていたのは、ルーだったの。
ルーの作る料理は、優しくて……とーっても美味しいの!
しかも、食べる人のことを考えているの!
ベリリが好きなチェリシュのために、ベリリをいっぱい使ってくれたり、リューの求める美味しいを満たすために、いっぱーい考えていたり……
本当に幸せそうにルーの料理を食べるリューを見ていると、チェリシュまで幸せになるの。
だから、そんな優しい料理を作るルーのお手伝いを、チェリシュはいっぱーいしたいの!
そして、ルーがしんどい時や大変な時は、チェリシュが代わりに頑張るの!
「はい、チェリシュ、ノエルも食べてみてくださいね」
ルーが渡してくれたパンを見つめたあと、ノエルと顔を見合わせるの。
つやつやして綺麗だから取っておきたい気分だけど、甘い香りがするから食べたいの。
もったいない……たべたい……複雑なのっ!
でも、意を決して……「食べる」を選択なの。
ノエルと頷きあって、チェリシュはぱっくんとリンゴのパンを食べたの。
ふんわりしたパンの生地の中には、甘くて柔らかくてトロっとしているのに、噛むとシャクっとした食感が残ったリンゴが入っていたの。
この香りはなにかな……チェリシュは好きなの!
リンゴとよく合うのっ!
「うわぁ……ルナのくれたリンゴが、すごくあまーいっ」
「シャクってするのに、トロッとして、あまあまなのっ」
ノエルと同時に、感動の声が出ちゃったの。
それを聞いたルーは、とってもうれしそうに笑ってくれたの。
食べてわかったの。
これは、ベオにーにとノエルのことを考えて作っている料理なの。
だから、ノエルが喜んでくれるのがうれしいっていうルーの気持ちが、手にとるようにわかるの。
ベオにーには……食べないの?
ジッと見ていると、チェリシュとノエルのことを気にかけていて、食べる素振りを見せないの。
これはいけないの。
チェリシュとノエルが美味しいねって食べている間、落ちないように支えていてくれたから、ベオにーにが食べるタイミングを逃しちゃったの!
どうしよう……
はっ!
良いことを思いついたの。
もう一つ貰ってベオにーにへ渡したら良いのっ!
そう考えていたチェリシュの耳に、ルーの声が聞こえてきたの。
「チェリシュは、本当にベオルフ様のお膝の上が気に入ってしまったのですね」
お膝の上が気に入った……そうなのっ!
ベオにーにのお膝の上は、とってもすごいってルーにも知ってほしくて、思いつくことを必死に伝えることにしたの。
「んとね……ルーと一緒なの。でも、パパにも似ているの。それだけじゃなくて、ここにいると、ふわふわで、ぽわぽわで、じーんわりなのっ」
「え……どういう……意味でしょう?」
うぅ……うまく伝わらなかったの。
ルーがベオにーにの方を見て説明を求めるけど、ベオにーにもわからないといった様子なの。
「お前たち二人の力が似ているということだろう。そして、相乗効果により、春の季節を発動させて消費した神力を徐々に回復していることを伝えたかったらしい」
さすがは、じーじなのっ!
じーじ、ありがとうなの。
そんな思いを込めてじーじを見ると、よくわかったなっていうみたいに、チェリシュの方を優しく見ていたの。
「相乗効果?」
「二人が揃うことにより発動する力は多々ある。僕の愛し子にある浄化の力。ベオルフにある回復の力。これはどちらとも単体では弱いが、二人が揃っているところで発動させれば、比類なき力になる」
ベオにーにの質問に、じーじが答えて……そうなの、いまチェリシュは───
「チェリシュは、回復ちゅーなのっ」
「その通りだ。チェリシュ、遠慮なくベオルフに神力を回復してもらうと良い」
「あいっ!」
チェリシュは、リューよりも大きなベオにーにのお腹に抱きついたの。
そしたら、ノエルも一緒になってジャレついて、我慢できないというようにルーも横から、ベオにーにとチェリシュたちを抱き締めたの。
「私も回復させてくださいっ!」
ルーがこんな行動に出るなんて、とっても珍しいの。
まるで、チェリシュがパパやママやねーねたちに甘えているみたいな感じなの。
ベオにーには、横から抱きついてきたルーを難なく受け止めて、少しだけ呆れたような視線を投げかけたあと、小さく溜め息をついたの。
迷惑だったかな……?
ちょっぴり心配になって見上げると、優しい眼差しをルーへ向けて、柔らかく微笑むベオにーに……
はっ!
わ、笑ったのっ!
すごく良い笑顔なのっ!
ルーが自慢だというベオにーには、とっても優しくて強くて、あんしんあんしんな人だと心から感じたの。
410
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
谷 優
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。
【完結】留学先から戻って来た婚約者に存在を忘れられていました
山葵
恋愛
国王陛下の命により帝国に留学していた王太子に付いて行っていた婚約者のレイモンド様が帰国された。
王家主催で王太子達の帰国パーティーが執り行われる事が決まる。
レイモンド様の婚約者の私も勿論、従兄にエスコートされ出席させて頂きますわ。
3年ぶりに見るレイモンド様は、幼さもすっかり消え、美丈夫になっておりました。
将来の宰相の座も約束されており、婚約者の私も鼻高々ですわ!
「レイモンド様、お帰りなさいませ。留学中は、1度もお戻りにならず、便りも来ずで心配しておりましたのよ。元気そうで何よりで御座います」
ん?誰だっけ?みたいな顔をレイモンド様がされている?
婚約し顔を合わせでしか会っていませんけれど、まさか私を忘れているとかでは無いですよね!?
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。