悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

月代 雪花菜

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第七章 外から見た彼女と彼

今ならわかる、リューの言葉(チェリシュ視点)

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 お皿の上にある初めて見たつやつやなパン!
 すごいの……艶があるの。
 リンゴみたいに、キレーなつやつやなのっ!

「ん? その枝のようなものはあったか?」

 ノエルと一緒に「つやつやー!」と言いながらはしゃいでいたら、ベオにーにが不思議そうにパンに突き刺さっている棒みたいなものを指差していたの。

「オーブンに入れる前に、思いつきで焼き菓子を刺したのです。無くても良いのですが、リンゴみたいに見えるでしょう?」
 
 枝……みたいなの。
 このパンは、見た目もリンゴなの!
 甘い香りがいっぱいのリンゴのパン……食べてみたいの。

「ほう? パンの実と庭園のリンゴで作ったパンか……二人で作ったのか?」
「はいっ! 一緒に作ったのです」
「ならば、いただこう」

 じーじがルーに勧められて手にとったリンゴのパンを一口ぱっくんしたの。
 すぐに、リューと同じようないい笑顔が浮かんだの!
 チェリシュにはわかるの。
 あの顔は、間違いなく『美味しい!』の顔なの!

「ほう……僕の愛し子は器用なものだ。良い香りがする上に、艶が良い感じに出ているな」
「香りはシナモンを追加しました。艶は卵液のおかげです」

 詳しくルーが説明しているけど、じーじはそれを嬉しそうに聞きながら、そうかと頷いていたの。
 ルーが幸せいっぱいでお料理していることが、とーってもうれしかったみたいなの。
 じーじがルーを本当に好きだーってわかるくらい、いっぱーい柔らかな光が溢れていたの。

「あー、これは近くのパン屋でよく見る形だ。リンゴが丸々入っているタイプもあるよね」
「カスタードクリームを詰めたほうですか?」
「そうそれ!」
「兄が好きなパンですよね。もしかして、今でもよく買ってくるのでしょうか」
「パン屋に寄ると必ず買ってるよ。陽輝があまりにも美味しそうに食べているから、時々もらうんだけど、リンゴは色々と調理法があって美味しいよね」

 ゼルにーには、違う世界の事をよく知っているの。
 ルーの世界のことも知っているから、ルーは懐かしいお話ができて嬉しそうなの。
 リューもルーと懐かしい話をしているときに、うれしそうな顔をしているから、やっぱり共通の話題があることはステキなことなの。
 今は、あのどこか寂しそうな……遥か遠くを見る目をしなくなったから、あの時は前の世界の記憶を思い出していたのかな。
 チェリシュが知っていたら、リューは少しでも話せて、楽になったのかな……そう考えたら、少しだけリューに申し訳なかったの。
 リューはチェリシュを、いつも助けてくれるのに、チェリシュはリューの助けになっていないの。
 でも、リューは「バカなこと考えていないで、ルナが折角作ってくれたパンを味わって食え」とかいうかも……って思っちゃったの。
 作ってくれたお料理を、ちゃんと味わって食べること。
 これは、とても大切なことだってリューはチェリシュに教えてくれたの。

 何年くらい前か忘れちゃったけど、リューたち騎士科の学生が聖都の近くに現れた魔物を討伐して、そのまま野営をすることになった森の中で、リューが独り木の上に登って周囲を見下ろしていたの。
 みんなは、焚き火を囲んで、ごはんを食べていたのに、リューは手にあるお肉を、しかめっ面で食べていたの。
 魔力をたくさん使ったから、食べないとダメなのと声をかけたら、こんなところまで登ってきたことを先ずは怒られちゃったの。
 それはちゃんとごめんなさいして、食べないとダメなのと言うと、低く呻いてから観念したように食べ始めて……深い溜め息をついたの。

「なんで俺の肉だけ、ポーション漬けとか、わけわかんねー加工を施すんだよ……」

 興味を覚えたから一口ぱっくんしたら、すごい味だったの!
 にがにがで、しょっぱくて、すっぱくて、甘くて……緑色のパプリカをもっと苦くしたような渋いような味がしたの。
 何とか飲み込んだあと、「生きるために食べないとなの……でも、食べるのも苦行なの……大変なの」と言ったら、リューは苦笑したの。

「確かに人は、何かを食べないと死ぬ。他のモノの命を喰らって生きている。命をつなぐためには、贅沢なんて言ってらんねーよな」

 チェリシュがべーとしちゃったお肉を、リューは苦労しながら必死に食べていたの。
 そうしないと、魔力が回復しないの。
 でも……すごい味だったの。

「でもさ、作り手が自分の為に考えて作った料理なんてもんを、一度でも食べちまったら……しょーがねーよなぁ」
「しょうがない……なの? チェリシュにはむずかしくて……わからないの」
「そうだよな……いつか、チェリシュも、そういう料理と出会えたら良いな。心を満たしてくれる、優しくて旨い料理……俺は、いつかまた……」

 その時はリューが何を言っているのか、ぜんぜんわからなかったの。
 でも、今はわかるの。
 リューの食べたかった料理。
 求めていた料理。
 あの時の答えを持っていたのは、ルーだったの。

 ルーの作る料理は、優しくて……とーっても美味しいの!
 しかも、食べる人のことを考えているの!
 ベリリが好きなチェリシュのために、ベリリをいっぱい使ってくれたり、リューの求める美味しいを満たすために、いっぱーい考えていたり……
 本当に幸せそうにルーの料理を食べるリューを見ていると、チェリシュまで幸せになるの。
 だから、そんな優しい料理を作るルーのお手伝いを、チェリシュはいっぱーいしたいの!
 そして、ルーがしんどい時や大変な時は、チェリシュが代わりに頑張るの!

「はい、チェリシュ、ノエルも食べてみてくださいね」

 ルーが渡してくれたパンを見つめたあと、ノエルと顔を見合わせるの。
 つやつやして綺麗だから取っておきたい気分だけど、甘い香りがするから食べたいの。
 もったいない……たべたい……複雑なのっ!
 でも、意を決して……「食べる」を選択なの。
 ノエルと頷きあって、チェリシュはぱっくんとリンゴのパンを食べたの。

 ふんわりしたパンの生地の中には、甘くて柔らかくてトロっとしているのに、噛むとシャクっとした食感が残ったリンゴが入っていたの。
 この香りはなにかな……チェリシュは好きなの!
 リンゴとよく合うのっ!

「うわぁ……ルナのくれたリンゴが、すごくあまーいっ」
「シャクってするのに、トロッとして、あまあまなのっ」

 ノエルと同時に、感動の声が出ちゃったの。
 それを聞いたルーは、とってもうれしそうに笑ってくれたの。
 食べてわかったの。
 これは、ベオにーにとノエルのことを考えて作っている料理なの。
 だから、ノエルが喜んでくれるのがうれしいっていうルーの気持ちが、手にとるようにわかるの。
 ベオにーには……食べないの?
 ジッと見ていると、チェリシュとノエルのことを気にかけていて、食べる素振りを見せないの。
 これはいけないの。
 チェリシュとノエルが美味しいねって食べている間、落ちないように支えていてくれたから、ベオにーにが食べるタイミングを逃しちゃったの!
 どうしよう……
 はっ!
 良いことを思いついたの。
 もう一つ貰ってベオにーにへ渡したら良いのっ!
 そう考えていたチェリシュの耳に、ルーの声が聞こえてきたの。

「チェリシュは、本当にベオルフ様のお膝の上が気に入ってしまったのですね」

 お膝の上が気に入った……そうなのっ!
 ベオにーにのお膝の上は、とってもすごいってルーにも知ってほしくて、思いつくことを必死に伝えることにしたの。

「んとね……ルーと一緒なの。でも、パパにも似ているの。それだけじゃなくて、ここにいると、ふわふわで、ぽわぽわで、じーんわりなのっ」
「え……どういう……意味でしょう?」

 うぅ……うまく伝わらなかったの。
 ルーがベオにーにの方を見て説明を求めるけど、ベオにーにもわからないといった様子なの。

「お前たち二人の力が似ているということだろう。そして、相乗効果により、春の季節を発動させて消費した神力を徐々に回復していることを伝えたかったらしい」

 さすがは、じーじなのっ!
 じーじ、ありがとうなの。
 そんな思いを込めてじーじを見ると、よくわかったなっていうみたいに、チェリシュの方を優しく見ていたの。

「相乗効果?」
「二人が揃うことにより発動する力は多々ある。僕の愛し子にある浄化の力。ベオルフにある回復の力。これはどちらとも単体では弱いが、二人が揃っているところで発動させれば、比類なき力になる」

 ベオにーにの質問に、じーじが答えて……そうなの、いまチェリシュは───

「チェリシュは、回復ちゅーなのっ」
「その通りだ。チェリシュ、遠慮なくベオルフに神力を回復してもらうと良い」
「あいっ!」

 チェリシュは、リューよりも大きなベオにーにのお腹に抱きついたの。
 そしたら、ノエルも一緒になってジャレついて、我慢できないというようにルーも横から、ベオにーにとチェリシュたちを抱き締めたの。

「私も回復させてくださいっ!」

 ルーがこんな行動に出るなんて、とっても珍しいの。
 まるで、チェリシュがパパやママやねーねたちに甘えているみたいな感じなの。
 ベオにーには、横から抱きついてきたルーを難なく受け止めて、少しだけ呆れたような視線を投げかけたあと、小さく溜め息をついたの。
 迷惑だったかな……?
 ちょっぴり心配になって見上げると、優しい眼差しをルーへ向けて、柔らかく微笑むベオにーに……
 はっ!
 わ、笑ったのっ!
 すごく良い笑顔なのっ!
 ルーが自慢だというベオにーには、とっても優しくて強くて、あんしんあんしんな人だと心から感じたの。

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