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第七章 外から見た彼女と彼
いつか出会う約束と聖約(チェリシュ視点)
しおりを挟むチェリシュたちがジャレついていたら、じーじが「さすがはベオルフ」って言い出したの。
そうなの。
さすがなの!
体がじんわりぽかぽかして、空っぽだった神力が、ゆっくりと満ちていくの。
いっぱーいにはならなくても、明日はおねんねしなくても活動できるくらい回復しそうなのっ!
「ベオルフの回復は、僕の愛し子との間で力の譲渡が行われているから起こるようなものだが、今のように満ちている状態であれば、余剰分が外へ溢れ出てくる」
だから、ルーと似ているの?
魔力の色は違うけど同じ力を持つルーとベオにーには、本当に不思議な存在なの。
ノエルと一緒にぎゅーって抱きついたら、優しい大きな手がよしよししてくれて、むずむずして心が弾んで、うれしさいっぱいなのっ!
近くに居てくれるノエルのもふもふも柔らかいし、ルーの優しくて良い香りもするし、しあわせ空間なの!
「……それは、良いことばかりだとは言えないのでは?」
じーじの言葉を聞いたベオにーには、少しだけ声のトーンを落としたの。
チラリと見上げると、静かな目の奥に何かが見え隠れするの。
いっぱい考えている人の目なの。
「黒狼のことか? アレにとって、お前の力は猛毒だ。調子が良い時には、あまり近づかんだろう」
「それなら……良いのですが」
「あれだけ邪なモノに、お前の力は強すぎるのだ」
じーじの言葉ひとつで、ベオにーには、たくさんのことを察して考えている……
リューもそういうところがあるけど、ベオにーには、もっと広範囲に考えている感じがするの。
さすがは、ルーの保護者なのっ!
考え込んでいるベオにーにの横から、ルーがチェリシュの方を見て眉をぴくってさせたの。
ま、間違ったことは考えていないの。
ねーねたちも、チェリシュの保護者っていうから、ま、間違ってないの……視線をあわせないようにしているのは、偶然なの。
ノエルのもふもふ毛並みにぽふんっと顔を埋めると、「そういうところは、リュート様にソックリになってきて……」ってルーに言われちゃったの。
リューとソックリ……それはうれしいことなのっ!
「チェリシュも、完全とはいかずとも、少しなら回復できるだろう」
「ぽかぽかなのっ」
「わかるー、ボクもそうだよ!」
「やっぱり、わかるのっ」
じーじの言葉に頷いていたら、ノエルも一緒だって教えてくれたの。
それは、とーってもうれしいの!
ベオにーにの凄さを、チェリシュとノエルは実感できているという証拠なの。
うれしさを堪えきれなくなって、ノエルに抱きついたら、ノエルもぎゅーって抱き締め返してくれるの。
それが嬉しくて、一緒に笑顔になっちゃうの。
「ノエルは、もふもふなの、気持ちいいの」
「チェリシュはルナみたいにいい香りがするよねー、ボク、チェリシュにぎゅーってされるの好きー」
「チェリシュも、ノエルをぎゅーってするのが大好きなのっ」
不思議な感覚なの。
ノエルは、ベオにーにのお膝の上でお話してから、ずっと気になっていたの。
あの綺麗なねーねが言っていたノエルを見極めなさいっていう言葉の意味はわからないけど、一緒にいると心がぽかぽかしてくるの。
楽しいし、うれしいし、大好きなのっ!
ノエルは神獣だから、きっと長い間一緒にいられるの。
リューもルーもベオにーにも……いつかはいなくなっちゃうの。
でも、ノエルは一緒にいてくれるかな……
「ノエルが一緒にいてくれたらいいの……そうしたら、さびしくないの」
「さびしいの?」
「いつか……リューもルーもベオにーにも……いなくなっちゃうの」
「……そうだよね」
本当は、ルーやリューがいるところでは言いたくなかったの。
二人は優しすぎるから……残していく辛さを知っているから、言いたくなかったのに……
ベオにーには、チェリシュの気持ちも全て見透かしたような目をして、静かにこちらを見ていたの。
見つめ返していると、不思議なくらい心のざわつきが薄れ、悲しげに耳や尻尾を下げてしまったノエルへ顔を向けたの。
ノエル、違うの。
チェリシュが伝えたいのは、それだけじゃないの。
チェリシュはもう、昔みたいに嘆くだけの弱虫さんじゃないの。
変わったの。
リューとルーに会って、二人を見ていて変わったの。
だから、こう考えているんだってノエルに知ってほしいのっ!
「でも、きっとまた戻ってきてくれるの。チェリシュは、それをずーっと待つの。リューとルーとベオにーにが戻ってくるのを、チェリシュは信じているの」
「チェリシュ……」
ルーとノエルが同時にチェリシュの名を呼んだの。
だから、二人に心配しなくていいよって笑ってみせるの。
チェリシュも、日々成長しているのっ!
「だから、ノエルと一緒に待っていられたら良いなーって思ったのっ! 一緒なら寂しくないのっ」
「……うん、そうだね。そうだよねっ! ボクも、チェリシュと一緒に、みんなが帰ってくるのを待つよ! ベオもルナも、絶対に戻ってくるよね?」
ノエルがベオにーにとルーを見ると、二人はよく似た優しく穏やかな笑みを浮かべていたの。
「当たり前だ。死なないという約束は出来んが……帰ってくる約束は出来る。必ず、戻ってくる」
「そうですね。魂は巡るもの……この世界に必ず戻ってきます。絶望に染まらず、光を失わず、絶対に会いに来ます」
力強い声と言葉だったの。
必ず……なの。
ルーとベオにーには、約束したことを必ず守ってくれるの。
そういう人たちだって、もうチェリシュは理解しているの。
だから、自然と笑顔になっちゃうの!
「やっぱり、ルーなの」
「やっぱり、ベオだよねー」
ノエルの心配事は、チェリシュの心配事と似ていて……とっても似ていて、抱える寂しさも似ていて……
独りにしていたら、不安になっちゃうの。
じーじはいるけど、ノエルはきっと寂しさで毎日泣いちゃうかもしれないの。
チェリシュだって強くなったっていっても、リューとルーとベオにーにがいなくなったら、毎日泣いちゃうに違いないの。
何度も経験してきたけど、これだけは慣れなくて、いなくなるって考えるだけで胸がぎゅーって痛くなるの。
でも、信じて待つって決めたの。
だから、独りでは辛くても、一緒なら頑張れるって思ったの。
リューは、遠くを見つめている時にいつも言うの。
独りの力は大したことがないから、必ず他の人と手を取り合って、共に頑張るんだって……
その言葉の意味が、いまはとても理解できるの。
チェリシュは、独りじゃないの。
今は、リューがいて、ルーがいて……今日は、ベオにーにとノエルにも会えたの。
とても懐かしい感じがするから、本当はどこかで会っていたのかもしれないの。
そして、また会えたの。
だから、チェリシュは再会を信じることが出来るの。
記憶が無くても、チェリシュのことを忘れていても、また会える。
チェリシュが覚えていればいいのっ!
リューとルーとベオにーにの生き方を、優しい記憶をノエルと一緒に覚えておくの。
思い出し、語り合って、一緒に笑って刻んでいくの!
『人の死は、我々にとって永遠の別れではない。我々さえ覚えていれば、いつか出会う事ができるという約束へ繋がるのだ』
じーじが昔に言った言葉───
きっと、チェリシュよりも多くの別れを体験してきたじーじだから言える言葉なの。
ルーとベオにーにへ向ける視線は、家族への物と同じだから、じーじも辛い思いをするの。
その時は、チェリシュとノエルが一緒にじーじの傍にいるからね。
思い出して、いっぱいお話して、この日のことを思い出そうね。
『いつか出会う約束……それはとてもステキな言葉ですね。春の女神チェリシュ。貴女は───』
一瞬、綺麗なねーねの声が聞こえた気がしたの。
綺麗なねーねの姿を探そうと視線を上げた瞬間、チカチカする光を見たの。
それは、ルナフィルラの花びらみたいに散って、とーっても綺麗なのっ!
その間から、お星さまが流れ落ちてきて、チェリシュとノエルの額に当たった気がしたの。
あれ?
じわじわする力?
心がぽかぽかして、優しい感じがするの。
体の内側から、外へ向けてぱーっと光が広がって弾けていくみたい。
とーっても不思議な感覚なの!
「まさか……神族と神獣の間に取り交わされる聖約か……チェリシュ、ユグドラシルにノエルのことで何か言われていないか?」
「んと……見極めなさいって……言われたのっ」
「やはり……そういうことだったのか」
じーじは納得したように頷いたの。
綺麗なねーねが言っていたことは、こういうことだったの?
チェリシュとノエルが、ママとぴーちゃんみたいな聖約をしたってこと……なの?
でも、ノエルは、じーじの『御使い』って聞いたの。
じーじが、聖約をしているはずなのに……
「で、でも……ノエルは、オーディナル様の御使い……では?」
「僕は、神獣に自由で居て欲しかったから、聖約はしていないのだ」
じーじは、どこか寂しげにそう呟いて、遠くを見つめたの。
時々、じーじはリューが前の世界に置いてきた家族を思い出す時と同じように、痛みをこらえた顔をして遠くを見るの。
大切な何かを失ってしまったみたいな……
「あ、あの……オーディナル様。ボク……この世界にいちゃいけないの? ベオと離れなくちゃいけないの?」
はっ!
ノエル……そ、それは大変なのっ!
ノエルがベオにーにの傍を離れたくないって考えているのは、言われなくても分かるの。
チェリシュだって、リューと離れたくないし、パパやママやねーねたちと離れたくないの。
こっちに来たら、ルーには会えるかもしれないけど……確実に、リューには会えなく……な、なる……のか……ちょ、ちょっと疑問になっちゃったの。
ルーがこっちに来たら、リューはどんな手段を使ってでも追いかけてきそうなの。
だ、だったらチェリシュがこっちに───来ることも無理なの。
あっちの世界の春を管理する神族がいなくなっちゃうの。
こ、これは本当に困ったのっ!
「いいや。世界を隔てた聖約だから、互いの力を馴染ませるのには時間がかかるだろう。それこそ、100年、200年単位の時間が必要になるかもしれん。今すぐにチェリシュの元へ行かなければならないというワケではない」
「じゃ、じゃあ、ベオのところにいてもいいの?」
「ノエルがベオルフの傍から離れては困るな。力が完全に馴染むまで、暫くは何も変わらない。チェリシュは、毎日来ることはできないだろうが、週に一度は訪れることが可能だろう」
「その時に、ノエルはチェリシュといっぱい遊んだらいいよ。一週間に一度は連れてきてあげるからね」
ホッとしたの。
良かったの。
ノエルは、ベオにーにと離れる必要がないし、ノエルとの聖約を破棄する必要もないの。
ルーたちがいなくなってしまっても、ノエルと一緒にずーっと待つことが出来るの。
これで、あんしんあんしんなのっ!
独りは寂しいけど、ノエルと一緒なら寂しくないのっ!
「あ、チェリシュと一緒にいたくないって意味じゃないよっ!?」
ホッとしていたノエルはチェリシュの方を見て、慌ててそういうのだけど、それは当たり前の反応なの。
だって、大切な人の傍にいたいという気持ちは、誰にだってあるものなの。
「大丈夫なの。チェリシュもノエルと同じ立場だったら、いっぱーい焦っちゃうの! ベオにーにの傍にいられて、良かったの!」
そういうと、ノエルがチェリシュにぎゅーって抱きついてきてくれたの。
おひさまの匂いがするもっふもふが、ぎゅーぎゅーしてくれて、うれしいの!
「チェリシュが大好きなベオにーにを、お願いしますなのっ」
「ベオのことはボクに任せて! チェリシュにはボクの大好きなルナを、お願いするねっ」
「まかされたのっ! ルーは、チェリシュとリューが必ず守るのっ! ノエル、ありがとうなのっ」
「こちらこそ、ありがとう、チェリシュ」
優しいノエルだから、チェリシュは一緒にやっていけるって思うの。
寂しがり屋なところも同じだし、感覚がとっても似ているの。
だから、これからもずーっと一緒にいようね……なのっ!
「なるほど……この聖約を結ばせるのには、チェリシュの回復が間に合っていなかったために、ユグドラシルはベオルフの回復能力をアテにしたのだな」
「あの方のことですから、この聖約にも何らかの意味があるのかもしれませんね」
「きっと、そうなのだろう……」
じーじとゼルにーにが、そんな話をしている中、チェリシュとノエルがぎゅーぎゅーしていても落ちないように、ベオにーにとルーが支えてくれているの。
ベオにーにの回復があったから、ノエルとこれからも一緒にいようねっていうお約束ができたの。
とーっても感謝なの!
「ベオルフ様の回復の力は、それほど強力なのですか?」
「現状は、それほどでもない……とも言い切れない。神力を回復させる力を持つ者など、本来は存在しないからな」
「そ、そんなに効果があるのですか?」
ルーの問いかけに答えたじーじの言葉を聞いて、ゼルにーにが驚いたように目を丸くしているの。
あまり驚かないゼルにーにが、本当に驚いた様子なの。
確かに、ベオにーにの回復は貴重だってわかるの。
お膝の上に座っているだけで、じんわりあったか、ぽっかぽかーなの。
パパでも、こんなことは出来ないの。
じーじも出来ないことを、人間に出来るなんて不思議なの。
「お前も、ハルキを連れてきた時に、あまり疲れが残らなかっただろう? ベオルフの回復能力は近くにいるだけで、神族に影響を及ぼす。本来なら、妻のところへも行かせたいところだが、何分……此方の世界から引き離すことは難しい」
「連れて行くくらい可能ですが……」
はっ!
大ママを回復させられる……なの?
ベオにーには……ほ、本当に人間なの?
人の神秘なのっ!
大ママの回復が出来たら、きっとパパとママも喜ぶの!
でも……ベオにーにの負担にならないかな……それが心配なの。
じーじも、ベオにーにを世界から引き離すことをよく思っていないみたいなの。
「隠していても仕方がないことだが……正直に言えば、ベオルフの回復能力が、現在、この世界を支えているといっても過言ではないのだ」
これには、みんな驚いちゃったの。
ベオにーにも驚いて目をわずかに見開いた感じなの。
ノエルは知っていたのかな。
尻尾をゆらりと揺らしただけだったし、ルーは数回まばたきをしてからベオにーにと見つめ合っていたの。
「先程、話に出ていた封印だが……この世界の神族全てが、それぞれ決められた場所から、ずっと力を注ぎ、維持し続けている。僕の力を使い制御しているが、そのせいもあって、全盛期の半分くらいまで、力は落ちているだろう」
「……そんな。なぜ……なぜ今までそんな大事なことを黙っていたのですかっ!」
「言えるわけが無いだろう。あの封印がどれほど大事なものか、お前ならば知っているはずだ」
「しかしっ!」
「僕以外、誰があの封印を制御出来るというのだ。あの子達が命をかけて守り続けた封印を、破らせるわけにはいかん。それを……あの方も望まない」
じーじが言う『あの方』には心当たりが無いの。
綺麗なねーねとは違う、他の誰か……じーじが敬う相手は、綺麗なねーね以外にもいたの?
パパやママなら知っている……かもなの。
「すまないな。お前たちにはわからぬ話だっただろうが、コレだけは覚えておいて欲しい。ベオルフのその力のおかげで、僕も助けられているのだ。だから……ま、まあ……嫌かもしれんし、時々問題も起こすかもしれんが……あっちへ行けなど……言わないでくれるとありがたい」
じーじが珍しく視線を泳がせながら、弱々しくそういったの。
とても珍しい反応だったから、チェリシュもゼルにーにも驚いちゃったの。
今日は、いろんなじーじが見られて幸せなのっ!
「人の世に詳しくないのです。その都度、説明させていただきますし、そのようなことは絶対に言いませんので、ご安心を」
「あ、ああ。できれば、その説明も……お手柔らかに頼む」
若干ほっぺたを引きつらせたじーじが、そう言ったの。
アレは、リューと同じく「何かあったときの反応」なの!
きっと、ほかの神には言えないことをしてしまったあとなの。
じーじも、悪戯をしちゃったの?
あまりやりすぎると、ルーに怒られちゃうの。
あぶないあぶないなのっ!
「主神オーディナル……私のその回復能力は、どうすれば強くなるのでしょうか」
「ん? 簡単な話だ。僕の愛し子の傍にいれば良い。何も難しいことではない」
「それだけ……ですか?」
「お前たちが、心から共にいて良い感情を持っている……幸せを感じているのなら、より効果はあるかもしれんな」
「幸せ……ですか」
そう呟いたベオにーには、隣のルーを見つめるの。
ルーも何かを察したように小さく頷いて、二人は自然と手を握り合うの。
その瞬間、ぶわっと光が溢れたように感じたの。
静かに目を閉じて、意識を集中させているようなルーとベオにーには、この変化がわかっていないみたいなの。
じーじが驚いて、ルーとベオにーにの肩に触れるのだけど、見えない何かに弾かれちゃったの。
チェリシュとノエルみたいに、お膝の上に座っているだけなら問題は無さそうだけど……
二人は……ど、どうなっちゃったの?
ルーもベオにーにも黙っているし……光はどんどん強くなるし……ど、どうしようなのっ!
黄金の炎のような光は、周囲に広がっていくけど、燃えている様子はないの。
それどころか、ルーの髪がベオにーにのお目々のような色に染まりはじめ、ベオにーにはルーの瞳のような色に染まりはじめる。
ザーちゃんが暴走したときにルーの髪が一瞬染まったことはあったけど、その時と同じなのっ!
お互いの色を身にまとい、神族でも目が眩むような光を放つ存在───
人の域を超え、神の域を超えるような感覚……
ただ息を呑んで見上げるルーとベオにーにの背中には、燃え盛る炎のような翼が見えた気がしたの。
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