悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

月代 雪花菜

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第八章 海の覇者

嗅覚が鋭いというレベルではありません

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 朝食の準備が整い、長テーブルの席に着いた私たちは、いつものように「いただきます」と手を併せてぺこりと頭を下げた後、フォークを手に取ります。
 朝食は、カカオとミルクが中心となって作ってくれた料理が並び、彩りに注意して料理を作るようになったという二人の言う通り、彩りが綺麗で美味しそう。

 隣のリュート様は、今朝の鍛錬を振り返り見て、ランディオ様と問題点を洗い出している様子でした。
 テオ兄様は問題ないとおっしゃっておりましたが、ランディオ様は、リュート様が利き腕に頼りすぎている感があると指摘し、リュート様は思い当たる節があったようで項垂れてしまいます。

「やっぱり……右手がなぁ」
「あとは、スピードがあるから対応しきれない者は多い故に気づいていないのかもしれないが、抜刀から斬りかかるタイミングと角度が同じで、速度負けする相手だと防がれるだろう」
「単調すぎるってことか……」
「相手による。防ぐことをメインにする者や、お前よりも速い者には通用しないことが多いということだ」
「なるほど……タイミングと角度……か。クセみたいなものになっているってことか」

 うぅーんと唸っているリュート様は、テオ兄様の方を見て、そんなにわかりやすい? と尋ねますが、「その速度について行ける者のほうが珍しいだろうな」と呆れ口調です。

「それなら、キュステに頼めば良かろう。防御も速度も、キュステ以上の者は、ここにはおらん」
「その手があった! キュステ、今度やろーぜ」
「今日は無理やけど、遠征帰ってきてからでええ?」
「おう、頼んだ。……てかさ、なんか……キュステとルナ……疲れてねーか?」
「そ、そないなことあらへんよ?」
「だ、大丈夫ですっ」
「んー?」

 暢気にスクランブルエッグを頬張りながらお話を聞いていた私は、慌てて返事をしますが、リュート様は納得していない様子で此方を見ます。
 ひぃぃぃっ!
 ですから、か、顔が……近いですううぅぅぅっ!

「リュー、チェリシュ、トマトが食べたいなの」
「ん? ああ、あの奥のヤツか。ちょっと待ってろ」

 保護者モードが発動し、ボウルに取り分けているリュート様を確認したあと、私の膝上でにぱーと笑っているチェリシュに、小さな声でお礼を言いました。
 気の利く娘で、本当に助かります。

 あのあと、魔力を注ぐ作業は大変で、かなり時間はかかってしまったのですが、何とかリュート様が戻ってくる前に隠すことが出来ました。
 ただ……ナンの仕込みができなかったのは残念です。
 しかし、キュステさんのお話だと、打ち合わせの時に私が同席する必要はないだろうし、海中作業のお話であるから、時空神様が参加するということになり、全員が「何故?」と首を傾げる中、事情を知っている私とアーゼンラーナ様は、それなら安心だと頷きました。
 元は、海を統べる神様ですもの。
 誰よりも詳しいはずです。
 今度兄に会ったら、時空神様のお好きな料理を作ってあげてとお願いしておきましょう。

 つまり、リュート様たちが海中調査の話を詰める間、私は厨房にこもることが出来ると言うことです。
 お母様がそれとなく人払いと口止めをしてくださっているし、執事のセバスさんが現在手に入るだけの香辛料を手配してくださっているようで、まだまだかき集められるとのことでしたが……む、無理はしないでくださいね。
 ポーションを作るために必要な分もありますし、ターメリックも染料の素材なのですから、各方面に負担がかからないか心配になります。
 まあ……リュート様が求めている物であるという言葉が、お母様の耳に入ってしまったのが原因ですけれど……こ、こればかりは仕方ありませんよね?
 滅多に頼ってくれない子を思う母の気持ちなのですし……

 ということもあり、ナン作りに関して心配はしておりません。
 それに付け加え、ヨーグルト酵母で作るパンを気に入っていたカカオが、パンの種を仕込んでくれていたので、そこまで時間はかからないでしょう。
 むしろ、遠征討伐訓練のことを考えての下準備に時間を使えるかも?
 スパイスは、できるだけ調合しておきたいです。
 あ、あと……その間、アーゼンラーナ様もご一緒してくださるそうで……
 どうやら、飛び出しそうになっている知識の女神様を、天上と地上で食い止めているようで、神界と地上を結ぶ扉の通行許可を出さないように手を尽くしてくださっているのだとか。

 実際、その扉を通らずに行き来できるのは、オーディナル様と創世神ルミナスラ様と時空神様と大地母神マーテル様くらいで、アーゼンラーナ様は王宮に専用の扉が存在しており、そこから来られているようでした。
 しかも、その専門の扉を作ったのがオーディナル様のようで……本当にオーディナル様は万能ですよね。
 さすがは創造神です。

「……何かさ……ルナの匂い……いつもと違うな。料理の後ということもあるだろうが、気になるんだよな」
「は、はいっ!?」
「なんの匂いだ?」

 え、えっと……えーと……?
 冷や汗をかきながらキュステさんとアレン様に視線を走らせますが、二人は首を小さく左右へ振っておりました。
 アーゼンラーナ様は、可愛らしく小首をかしげております。

 だ、だって、お三方に確認していただきましたもの!
 何も変なところは無かったのですよっ!?
 リュート様の指摘に、チェリシュは「ぴゅぁっ」と奇妙な声を上げて私の膝の上で小さく飛び跳ねました。
 だ、ダメです、チェリシュ!
 反応してはいけませんっ!

「なーんか怪しいな。ルナ? またなんか沢山作ってんじゃねーだろうな」
「い、いえ、あの……パンの仕込みを少ししたあとに、アップルローズタルトとタルトタタンを、追加で作っただけですよ?」

 本当は、カカオとミルクが作ったのですが、二人はそれを作ったことにしておいた方が良いと助言してくれたのです。
 カレーを仕込んでいる時間に私が何もしていないのは、リュート様からしたら、あまりにも不自然すぎて反対に疑うということでしたので……

「でも……なーんか匂いがするんだよなぁ……」
「べ、ベオルフ様の匂い……かも? ほ、ほら、リンクしておりましたし」
「あー、そうか。でも、すげー……なんつーか……そういう匂いか? ベオルフって、もっと良い匂いがしそう」
「あ、とっても良い匂いですよ! お日様みたいにあたたかくて、優しい匂いがするんですっ、とーっても落ち着く香りですから、腰にしがみついて離れなかったら、困った顔をして引きずられました」
「お兄ちゃんはいろんな意味で大変だな……」

 どうして哀れむような顔をなさっているのでしょう。
 大人になってからはやっておりませんし、ベオルフ様は慣れているから大丈夫ですよ?

「んー、この匂いは明らかに違うだろ。薬品に近い感じが……」
「え? 薬品?」

 あ、そうか……リュート様は、ポーションの匂いに近いと感じているのかも?
 キュステさんたちが消してくれた匂いを嗅ぎ分けるなんて、普通ならありえませんが……何故わかるのでしょう。
 し、しかも、異様に近い気がするのですが……

「ポーションでも作っていたのか?」
「私に調合のスキルは発現しておりません」
「ルナだったら、何が発現してもおかしくねーと思う。背後にいるのがオーディナルだから不可能じゃなさそうで……」

 リュート様の発言を聞きながら、全員が黙りこくります。
 オーディナル様が魔改造をした発酵石の器を、脳裏に思い描いているからでしょう。

「それよりも、リュートくん。君、アイギスの具合はどうダイ」

 パンに切れ目を入れて、生野菜とソーセージを挟み、ケチャップをのせて食べている時空神様が、気をそらすように質問をしました。
 あ、これがしたかったから、ケチャップを用意して欲しいと頼んでいたのですね。
 さすが……現在進行形で日本にいるだけはあります。
 あまりにも自然にアレンジしていて、リュート様がソレを見て口をもごもごさせました。

「えっと……そういう挟むのってさ。料理のアレンジになってアウトかな」
「ん? ああ、コレか。あっちのクセで、ついついやっちゃうヨネ。えーと、現時点の判定はアウト。だけど、次からはセーフになる可能性があるヨ」
「どういう判定基準になるのかわかんねーけど、かなり緩くなるんだな」
「神族がそれだけ、人間にとっての『食と飲料』が重要であると考えていなかったってことダヨ。でも、ルナちゃんの料理カラ、様々なことを学び、俺がいまいる世界での食文化を見守ってきた結果。必要以上に縛ることは、発展の妨げになるって理解したんダ」

 日本を見ている時空神様にとって、それはとてもわかりやすかったのかもしれません。
 異世界の神である時空神から見た日本の食文化は、とても不思議なものに感じたことでしょう。
 他国の食文化を受け入れ、自分たちの口に合うようにアレンジし、更においしさを求めて日々努力する。
 その中には、変わった物や突き抜けてしまっている物も存在しますが、それだけ味を探求していると言われたら、そうかもしれません。
 それは料理だけではなく、食材も同じです。
 味にこだわり、農作物も品種改良をされて、より味が良く、気候や病虫害に強い品種を研究しております。
 ここまで来ると、神々も驚くほど途方もない努力ですよね。
 本当に、頭が下がる思いです。
 飽食の時代と言われていた日本から来た私だからこそ、それが、どれだけ恵まれていたことなのか理解できました。
 きっと、私よりもリュート様の方が身に染みて理解しているとは思いますが───

「まあ、ポーションとか扱いが難しい物ハ、現状維持になるだろうケド」

 どうやら、扱いが難しくて危険物に分類する物を扱うスキルは、そう簡単にはいかないようです。
 そうですよね……
 日本だと国家資格が必要な物もありますし、毒物が簡単に生成されたら、それはそれで怖いです。
 さすがに、緩めて良いところと、そうではないところの判断はしているということのようでした。

「あ、えっと、話をそらして申し訳ない。アイギスだけど、違和感は無いかな。今のところ、暴走することもなく大人しいし協力的だと思う」
「それなら良かっタ。まあ、変だなって思ったら、ルナちゃんに言うコト。一度、父上にメンテナンスしてもらった方が良いだろうからネ」
「そうなのですか?」
「うーん、ちょっと時間が経ちすぎているシ、ベオルフのアイギスとの兼ね合いもあるからネ。まあ、あっちの核になっているのは、父上とルナちゃんの力だカラ、暴走はしないけどサ」

 お二人の話を聞きながら、私はパンに切れ目を入れて、野菜を綺麗に並べ、そこへソーセージをのせてケチャップをかけます。
 完成したパンをソッと彼の皿にそれを乗せてみると、チェリシュも小さな手で一生懸命作っていたのか、同じようにソッと置きました。

「え……あ……二人とも、ありがとう……すげー旨そうっ」
「一緒に作ったの!」
「ありがとうな。俺もできることなら、お返しに作ってやりてーんだけど……」
「もし、こうしてサンドをすることが大丈夫になったら、その時は期待しておきますね」
「ああ、任せてくれ」

 楽しみなのーっと大はしゃぎのチェリシュの頭を撫でながら、みんなが好きな具材を挟んで頬張ることができる未来が、すぐそこまで来ているのでは無いかと思うと、とても幸せに感じるのでした。

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