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第九章 遠征討伐訓練
9-6 情報の扱いは慎重に
しおりを挟むオーディナル様が此方の世界へやってくるため、ベオルフ様はその間に【黄昏の紅華】を探してみることにしたようだが、なんだか不安になってしまう。
できることなら、オーディナル様がいない間は大人しくしておいて欲しいというのが本音だ。
しかし、絶滅したはずの【黄昏の紅華】がグレンドルグ王国のどこかで自生している、もしくは栽培されている可能性があるのなら、オーディナル様が近づくとマズイことになりかねない。
それを誰よりも理解しているからこそ、ベオルフ様は動くのだろう。
万が一にも、オーディナル様に何かあれば一大事である。
「一日で全てが決まれば良いのだがな」
「難しいかもしれません。何せ、今回はレシピの件もありますし、【黄昏の紅華】も関係してくる恐れがあります」
「完全に消滅させたはずが復活を遂げているとなれば、第三者の手が入っているに違いない。裏でコソコソしているヤツなのだろうが、面倒だな」
「そうですね……管理者であれば、父上が絶滅させた物を復活させるのも可能でしょう」
「しかし、ユグドラシルのメインシステムに一度干渉しないと、絶滅した種は復活させることが出来ないはずだ。調査しても痕跡が残っていないとなれば、絶滅させる前に確保して持ち出していた可能性もある」
オーディナル様と時空神様と紫黒の会話を聞きながら、事態は思わぬ方向へ転がっていっているように感じた。
【黄昏の紅華】を復活させた理由は、神族に危害を加えるためではないかと考えられる。
しかし、それほど危険な物を隠し通せるものだろうか。
オーディナル様と同じくらいの実力を持つ者が敵になっていたら……そう考えるだけでも恐ろしい。
むしろ、そんな相手に狙われている事実に頭痛を覚えた。
「大丈夫! ベオルフのフォローは私とノエルがやるから!」
「それが一番心配だ」
「酷い!」
間髪入れずにツッコミを入れるベオルフ様と、すかさず言い返す真白は良いコンビだなぁと考えながらも、嫌な予感は離れてくれそうにない。
こういう時の勘は当たるが、言ったところで調査をやめないだろうベオルフ様のことも理解している。
困った……どうしたら良いかと考えていると、彼の大きな手が私の頭を撫でた。
「大丈夫だ、心配はいらない。私も馬鹿では無いから無理はしないし、真白とノエルがいるのだから、大事にもならんだろう……と、思う。真白がヘタなことをしないかぎりは、大丈夫だろう……たぶん」
「なんでそこで大丈夫だって言い切らないのっ!? 私の名前を出したあとの自信の無い返答はどーいうことなのっ!?」
「大丈夫だよ、ベオ。ボクもいるから!」
「そ、そう……だな」
うん。確実にベオルフ様の心労が増えている感じがする。
もしかしたら、【黄昏の紅華】とか関係無く、真白とノエルコンビに精神をすり減らして倒れるのではないだろうか。
い、胃薬とか準備しておいた方が良い感じでしょうか……
本当に心配になってきたが、このコンビにアーヤリシュカ第一王女殿下が加わったらと考えようとしてやめた。
考えるまでもなく、カオスだ。
ベオルフ様の胃に穴が空く日も近いような気がしてならない。
意外と苦労人ですよねベオルフ様って……大丈夫なのでしょうか、本当に心配です。
「最長三日か四日だな。それ以上は無理だ。此方の世界がマズイことになる」
スケジュール調整をしていたオーディナル様の言葉に、時空神様は渋い顔をしていたが、仕方が無いと溜め息をつき、それで何とかするべく動き出すようだ。
陽輝との約束がぁ……という泣き言は聞かなかったことにする。
大丈夫、兄ならわかってくれます。
「ルナティエラ嬢、すまんが……私にも癒やしをくれ」
「えっと……エナガになりますか?」
「いや、そのままでいい」
そういって、私を抱っこしたかと思うと、頭の上に顎を乗せて深い溜め息をついた。
私に抱き枕かぬいぐるみ代わりになれということだったのでしょうか。
オーディナル様がいない間の留守を任されていることを察知されてはいけませんし、探し物もしないといけませんし、大変ですよね……よしよし。
やんわりと抱きしめる腕を撫でながら心の中で労っていると、私の肩に紫黒がぴょんっと飛び乗った。
「ベオルフ、無理はいけない。やはり、私も残ろう」
「いや、お前は主神オーディナルのサポートに回った方が良いだろう。【黄昏の紅華】のことを一番理解しているのはお前だ。いま、ルナティエラ嬢がいる世界にアレがあったら、被害は甚大だし、対処にも困るだろうからな」
「……わかった。だが、もしも無理だと思ったら、すぐに報告してくれ」
「ああ、その時は任せる」
「真白がいるって言っているのにー」
「だからこそ不安になるのだろうが」
「紫黒まで! 酷い!」
ぶーぶー文句を言っている真白の頬を指先で突き、お願いしますよ? と声をかけると、胸を張って「任せて!」という力強い返答があった。
しかし、何故か任せるのが不安だなぁという気持ちが芽生えてしまう。
これはこれで、特性……のような気もする。
「しかし、【黄昏の紅華】とカオスペインやメノスウェーブに密接な関係を持つ黒い結晶……どちらも、厄介な物であることに間違いは無いな。僕の妻が動けない状態であるにも関わらず、奇妙な現象が次々に起きてくれるものだ……」
オーディナル様の低い声を聞きながら、私とベオルフ様は顔を見合わせる。
【黒結晶】は私。
【黄昏の紅華】はベオルフ様。
どうやら、お互いに担当がわかれたようであると感じ、静かに頷き合う。
「視る力はルナティエラ嬢の方が上だからな」
「探索はベオルフ様がお得意でしょう?」
「この件はリュートにも協力してもらったほうが良い」
リュート様に迷惑をかけてしまうことが心苦しくはあるが、ここで内密にしてしまえば、あとで怒られるのは目に見えていた。
内密にして良いことと悪いことがある。
今回の件は、1人で対処できない事態であることに間違いは無いのだが……
「お父様の件を知ったら……ショックを受けそうですね」
「人を魔物に変えるかもしれない危険性については話をしたほうが良いだろう。そうしなければ、黒の騎士団や魔物と戦った者たちが警戒することも出来ない。全てをルナティエラ嬢が見て回るわけにはいかないのだからな」
「そう……ですよね」
「だが、言い方は少し変えても良いだろう」
「言い方……ですか?」
「リュートには、ありのままを話せばいい。だが他の者たちには、『毒性があり、体調不良や精神に害を及ぼすおそれがある』と説明すれば、何らおかしな話でもあるまい」
「そ、そうですね。危険性があるということを報せなければなりませんから、そこは重要ですよね。それに、いきなり魔物になる可能性があるなんて言われたら、パニックを起こしそうですし……慎重に話を進めた方が良い気がします」
「人はそれほど強く無い。ならば、情報を一気に開示することなく、まずは注意喚起をして調査させれば良いのだ。自分たちである程度情報をまとめたところで、新たな事実として教えても問題無い段階になれば、こういう危険性があると判明した……などと、それらしく伝えれば良い」
迷いを一切感じさせず、この先のことを考えて助言してくれるベオルフ様の言葉を聞きながら、さすがだな……と感じてしまう。
彼は、こういう情報操作や駆け引きが上手なのだ。
貴族の間にあるいざこざなどには一切の興味を示さないが、一般人に悪影響を及ぼす噂や情報の対処法は良く知っていた。
「……ベオルフ様って、情報操作や心理操作というか……そういうことが得意ですよね」
「良い手本が身内にいるからな」
騎士団長もやり手だと聞いたことがあるけれども、どことなく系統が違う気がする。
人心を掴むのは得意だが、こういう情報戦は苦手とするタイプではなかっただろうか。
ガイセルク様も、同様のタイプだ。
そうなると……母親……?
ま、まさか……ですよね。
「ふむ……【黄昏の紅華】については、母に聞けばある程度絞り込めるかもしれん。あの方は、情報家が真っ青になるほど掌握されているからな」
「まさかのお母様最強説……」
「うちでは常識だ」
あ、でも、リュート様の家もある意味お母様が最強な気がするので、どこでも母は強しなのだろうか。
前世の母もそういえば強かったな……と思い出していると、真白がぽすんっと私の胸へ飛び込んできた。
「難しい話ばっかりで、真白はギブアップー!」
「情けないぞ」
すぐさまベオルフ様につまみ上げられた真白は、不満げにジタバタと暴れだす。
ぽんぽんの羽毛のせいで、さらに丸くなる体は可愛らしいのだけど、ベオルフ様と真白のやり取りは可愛らしくてほのぼのしてしまう。
「ふふっ、ベオルフ様ったら、真白のお父さんみたいですね」
「こんなじゃじゃ馬が娘だったら気苦労が絶えんな。それでなくとも1人抱え込んでいるのだ」
「……誰のことを言っているのでしょう」
「さてな」
「ベオルフ様?」
「心当たりがあるのなら、自覚があって良いことだ」
「もーっ!」
ぺちぺちぺちと腕を叩いて抗議するのだが、今回は真白も参戦し小さな翼でぺちぺち叩いている。
呆れたような表情をしたベオルフ様が「変なことを教えるな」と疲れたようにぼやくのを見つめながら、私の気持ちが落ち込みすぎないように気を遣ってくれている彼に、心から感謝した。
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