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第十章 森の泉に住まう者
10-9 カツサンドとフィレオフィッシュの完成と一騒動?
しおりを挟む豚カツを揚げ終わり、次は湿地帯の主からとれた身を揚げていこうと、下準備して置いた白身を確認する。
随分と水分が浮かんでいるが、これは臭みの元なので丁寧に拭っておく。
それから、両面に塩コショウをして下味を付ける。
あとは、先ほどの豚カツと同じように衣を付けていくだけだ。
違いがあるとすれば、パン粉が細かいというだけである。
早速、適温にしておいたフライヤーの中へ衣を丁寧に付けた白身を入れていくと、じゅわぁ……と、とても良い音がした。
「ルナちゃん、ゆで卵は出来ているヨ」
先ほど真白が見破れまいと隠れていた卵たちを見て頷き、時空神様と一緒に殻をむいていると、慌てたように帰ってきたチェリシュがお手伝いをしてくれる。
「キュウリのピクルスを作っておくべきでした……」
「まあ、予定外だったから仕方ないヨ」
「今回はキュウリを塩もみして、暫く酢に漬けておこうと思います」
「多少歯ごたえも残るし、キュウリの青臭さも軽減するからイイネ」
「ゼルにーに……詳しすぎ……なのっ」
褒められて嬉しいといわんばかりの様子で時空神様は微笑むが、ジトリとみているロン兄様に気づいて苦笑を浮かべた。
「ここまでやっていたんだカラ、もう言わないでネ?」
「……俺は何も見ていません」
「うんうん、そういう柔軟さは必要だよネ」
上機嫌な時空神様の返答に、ロン兄様が深い溜め息をつくのだが、隣のマリアベルはいつものメモを取り出して、私たちの様子を観察中である。
それも邪魔したくないのだろう。
黙って肩をすくめると、パンを受け取っていたリュート様が嬉しそうに「ありがとう」と言ったので、表情を緩めた。
さすがロン兄様。
リュート様の一言が何よりも効果的なのですね。
何故か、頭上の真白が胸を張っているのだが、それは見なかったことにしよう。
キュウリを輪切りにしてから塩をたっぷりふりかけてから揉み込み、暫く放置。
その間に、たっぷりのタマネギをみじん切りにしていく。
フードカッターのおかげで、目が痛くなることもなく細かいみじん切りが大量にできあがる。
ゆで卵を白身と黄身にわけ、白身もタマネギと同じくらいの大きさに揃えて切り、大きなボウルにマヨネーズと砂糖と塩とコショウ、そこにレモン汁を加えて混ぜ合わせた。
ゆで卵の黄身を加えて潰しながら混ぜこみ、大量のタマネギのみじん切りを加える。
そして、水気を切って酢に少しの間漬けておいたキュウリを細かく切って追加して混ぜ合わせた。
味見をしてみると、あまり水気を加えたくなかったので、キュウリの水気を切りすぎたせいか酸味が足りない。
やはり、ピクルスのようにはいかないようだ。
パンにはさむのだから、水分は大敵である。
そこで思いついたのが、ヨーグルトであった。
酸味を少し加えたいけれど、液体を加えるとダレてしまう。
レモンでも良いが、もっとマイルドに仕上げたいというときに、ヨーグルトは打って付けだ。
サッパリとしたタルタルソースができるので、フライとの相性も良い。
「ヨーグルトを加えるのカイ?」
「少々酸味が足りなかったので……」
「ナルホド」
「あとは、少しコショウをきかせて……これで良いと思います」
小皿にとって味見をして貰うと時空神様はニッコリと笑い、小さな声で「陽輝の味だ」と呟いた。
私にとって最高の褒め言葉では無いだろうか。
兄の腕前には到底追いつけないが、同じだと言われたら嬉しい。
自信作のタルタルソースをリュート様たちにも味見してもらったが、食感もあってクリーミーで美味しいとのこと。
リュート様は、前世の記憶にあったタルタルソースよりもサッパリとしていたことに気づき、驚きながら手に持っていた小皿のソースをもう一口食べた。
「これ……フライに合いそうだな。何個でも食べられるヤツだ」
「ああ……真白のお友達が……分身が……」
「ほら、お前も味見してみろ」
ゆで卵を友達認定していたらしい真白が打ちひしがれていたのだが、リュート様は頭上の真白をおろしてきて、小皿の中のタルタルソースを掬って食べさせてやる。
「……マイルド! 美味しい! え? これだけで食べちゃ駄目なのっ!?」
「いや、気持ちはわかるが白身フライの立場がねーだろ?」
「うぅぅー! これだけでもいけるー!」
「さっきまで友達とか言っていなかったか?」
「忘れた!」
切り替えの早い真白とリュート様のやり取りに、周囲は笑いを堪えるだけで必死だ。
そんな中、チェリシュと時空神様が同時に上に視線を向けた。
チェリシュはオロオロしているし、時空神様は呆れ顔だ。
ま、まあ……だいたいわかります。
マヨラーの女神様がご乱心ですね?
「ぱ、パパ……ママ……ファイト……なのっ」
「父上が来るんだカラ、少しはお淑やかにして欲しいよネ」
「オーディナル様は、すぐいらっしゃるのでしょうか」
「まだ時間はかかると思うヨ。例のアレがあるからネ」
「……紫黒は大丈夫でしょうか」
「まあ、何かあったらルナちゃんかベオルフのところへ転がってくるから、平気デショ」
それは平気と言いませんが……?
どちらにしても、転がってきたときに補給が出来るように何か作り置きをしておいたほうが良いだろうか。
「ルナちゃん、そろそろ白身フライが揚がるヨ」
「あ、はい!」
慌ててフライヤーへ近づき、カラカラと音が変化して揚げ頃だと報せる感覚に従って、次々に取り出していく。
良い色に揚がった白身フライの油をシッカリと切っていこう。
コッペパンのように仕上げてくれたパンの中央に切れ目を入れて、バターを塗り、キャベツの千切りと白身フライをはさみ、たっぷりのタルタルソースをかけた。
水気を切ったおかげでぽってりとした濃厚なソースが、キツネ色に揚がった白身フライを彩る。
「うわぁ……絶対に……旨い……見てるだけでわかるヤツだ……」
「あーあーあー! 真白も食べたいー! 早く食べたいー!」
「あの美味しいソースがたっぷりなの!」
リュート様と真白とチェリシュが目をキラキラ輝かせて、完成したばかりのフィレオフィッシュを見つめた。
さて、豚カツのほうも仕上げなければ!
まずは、厚切りの豚カツを半分に切る。
ザクッという音とともに、綺麗なピンク色の断面が見え、文句なしの出来映えに思わず笑みが浮かぶ。
この薄ピンク色……ジューシーな仕上がりにするのは難しいのだが、上手くいって良かったと胸をなで下ろす。
「見事な断面だネ」
「はい、上手に出来て良かったです」
続いて私が何をするのか理解している時空神様は、ボウルとスプーンを用意してくれた。
本当に先読みがすごい……とてもやりやすくて助かります!
ボウルの中にソースとケチャップ、砂糖とレモン汁を少量入れてシッカリと混ぜ、コッペパンのようなパンの横に切れ込みを入れてバターを塗る。
その間に千切りのキャベツと、ほどよい大きさに切っておいた豚カツを挟んで、作ったばかりのソースを上にかけた。
縦に切れ込みを入れたのがフィレオフィッシュ。
横に切れ込みを入れたのがカツサンド。
見た目でわかりやすいように仕上げてみたがどうだろうと、リュート様の方を見るのだが、彼は「我慢……まだ時間じゃ無い。我慢だ……!」と呟いていた。
真白と一緒になって「我慢、我慢」という姿は、あまりにも可愛らしくて頬が緩んでしまう。
「チェリシュも、我慢……なの!」
きゃーっ! と、リュート様と真白の間に飛び込んだチェリシュも一緒になって「我慢我慢」と言い出す始末で……本当に……もう……可愛いが渋滞していて辛いです!
『変わった匂いだにゃ~』
ん?
不意に聞こえた声に、私は驚き視線を向ける。
すると、カウンターの隅っこ。
時空神様のすぐ目の前に、昨日見たロシアンブルーのような子供のキャットシー族が居たのである。
相変わらず、誰にも姿は見えていないどころか、声も聞こえていない――いや、時空神様は目を丸くして首を傾げているから、見えているのだろう。
声も聞こえているのかな……?
そのことが気になって時空神様を見つめていると、キャットシー族の子供が動いた。
『コレを食べたら、元気になってくれるかにゃ~?』
そう言って、厚切り豚カツサンドを手に取ったキャットシー族の子供は、素早い動きで走り去る。
あ……あ、あーっ!
作ったばかりの厚切り豚カツサンドがっ!
驚きのあまり声も出なかった私の様子に気づいたリュート様は、前日は見えていなかったはずなのに、全く迷うことなくキャットシー族の子供を追いかける。
ぐんっとスピードを上げて、凄まじいスピードで追い上げるリュート様に気づき、キャットシー族の子供も慌てたようにスピードを上げた。
しかし、リュート様に敵うわけもなく、ジグザグに走ろうとも何をしようとも見えているように真っ直ぐ駆けてくる彼に、あっという間に捕獲されてしまったのだ。
す、すごく……速いです、リュート様……ポッケの中で見ていたときも思いましたが、遠目で見たら、より一層凄さがわかるというか……と、とても素敵でした!
「でも……どうして、リュート様に何もいわなくてもわかったのでしょう」
「カツサンドは一瞬で消えたけど……ネ」
時空神様と顔を見合わせて首を傾げていたら、ロン兄様が苦笑しながら「おそらく……」と前置きをして言葉を続ける。
「リュートは嗅覚が良いから……」
「ソースの匂いを追って、駆け抜けただけっすね」
「さすがはリュート様」
「匂いを追って走るなんて、そう簡単にはできませんが……リュート様ですし……」
ロン兄様の後に続き、問題児トリオたちが言うのだが……何となく納得してしまう。
リュート様は、味覚だけではなく嗅覚も良いのですね。
「食いしん坊なだけじゃないのー?」
いつの間にかリュート様から離れてチェリシュに抱っこされていた真白の言葉を誰も否定する事は出来ず、そういうところが可愛いのだと力説する私を、何故か周囲の人たちは生暖かく見守るのであった。
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