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第十章 森の泉に住まう者
10-11 警戒する子猫と泉の女神?
しおりを挟むとりあえず、話を聞くために簡易テーブルと椅子を設置して座らせ、朝の空気はまだ冷え込むので、温かい紅茶を人数分準備することにした。
しかし、すぐに私がやろうとしていることに気づいたマリアベルのフォローが入る。
本当によく出来た弟子だ。
お茶ならお任せくださいと、レシピを習得していたらしいマリアベルが、紅茶を淹れてテーブルへ運んでくれた。
こういう気遣いが出来るマリアベルに感謝しかない。
おかげで、私は時空神様とカツサンドとフィレオフィッシュの大量生産に集中することが出来た。
包丁でザクザクという小気味よい音を響かせながらカットしたカツを挟み、ソースやタルタルソースをたっぷりとかけていく。
匂いが気になって集中できないのか、キャットシー族の子供は此方をチラチラ見ながらも、アクセン先生とリュート様の質問に答えていた。
「ということは、モカは……その女神を回復させるための食材を探すために、集落の外へ出てきたってことか?」
「そうだにゃ~、早く元気ににゃってほしかったにゃ~……」
話を聞いているうちにわかったのだが、キャットシー族の子供はモカという名前らしい。
300年ほど前に集落に訪れた異世界の召喚術師が、世話になった礼に異世界の料理にちなんだ名前を教えてくれたのだという。
時空神様の方を見ると、何とも言えない表情をしていたので、おそらく……いや、十中八九、ヤマト・イノユエのことだ。
リュート様もそれは察したらしく、「今回はまともだったな……」と安堵した様子を見せた。
そうですよね……ネーミングセンスが皆無だったヤマト・イノユエにしては、奇跡的なくらいまともでしたね。
「女神様が元気ににゃるはずの果実は、あまり効果がにゃくて……パパやママも一生懸命考えてるけどダメにゃんにゃ~……」
しょんぼりとした様子で語るモカに、誰もかける言葉が見つからない。
一族総出で考え、女神をなんとか元気づけようと必死になっているのに、その糸口すら見つからないのだ。
赤い果実ということだから、ベリリと同じ系統なのだろうか。
それなら、私の知識が役に立つのではないだろうかという考えすら浮かんでしまう。
私の持つ【神々の晩餐】というスキルは、神族に効果的なのだから……
「どういう状況か、一度見てみないとわからねーし……安易なことは言えないが……」
チラリとリュート様が私の方へ視線を送ってきた。
その視線だけで「ルナならできそうか?」と尋ねられているのだと察することは出来るが、先ほどリュート様が言ったとおり、状況がわからない上に情報も少ない。
期待させておいて出来ませんでしたなんて言いたくは無いから、返答も慎重になってしまう。
「やはり、一度状況を見ないことには何とも言えないかと……私のスキルは、神族の方々に有効ではありますが、万能では無いと思いますので……」
「そうだよな」
「ルナは素直だよねー。そこで、出来る! って言っちゃってもいいのにー」
「出来なかったときに困りますし、変に期待させるのは可哀想です」
「そういうものなのー?」
「そういうものですよ。ベオルフ様も確証が無いことは言葉にしないでしょう?」
「……そっか、そうだよねー。うん、そっか、そういう考え方で言わないのかぁ……真白ちゃんは理解した!」
リュート様の頭の上で胸を張る真白に、リュート様の膝の上に座っていたチェリシュが立ち上がり、背伸びをして「まっしろちゃん、えらいえらいなのっ」となで始める。
真白の扱いは大体わかってきた。
どうやら、ベオルフ様を例に出して説明するとイメージしやすいらしい。
本当にベオルフ様になついているのですから……
だけれど、それだけではない。
神獣であり、鳳凰の後継者である真白と紫黒には、出来ないことが……ほぼ無いと言っても良い環境の中にいた。
その気になれば、全てを無にすることさえ簡単なのだ。
閉鎖的な空間で二羽だけの世界に生きてきたのだから、少々世間知らずな幼子の一面を持っているのが普通だと考えている。
おそらく、リュート様もそれを理解しているのだろう。
一つ一つ丁寧に駄目なことは駄目だと教えているし、良いことは良いと褒めている。
圧倒的に怒られている回数が多いのだが……それでも、真白は楽しそうであった。
外の世界に出て、様々なことを体験していることが嬉しいのではないか――そう感じるのだ。
かつての私たちのように……
「……え? あれ?」
「どうしたんだい、ルナちゃん」
「あ、いえ……えっと……な、ナンデモアリマセン」
おかしなルナちゃんだねーと言いながらも、おそらく私の考えなどお見通しだったのだろう。
時空神様は目を細めて安心してイイヨというように、私の頭の上にポンッと手を乗せた。
こういうとき、事情を知っている方がそばにいると安心する。
いつもはベオルフ様の立ち位置ではあるが、兄の親友でもある時空神様には感謝しか無い。
「とりあえず、何を司っている女神かだけは聞いてもいいか?」
「うー……それくらいは大丈夫かにゃ~? この森の泉を守護していたみたいだにゃ~」
「泉の女神か……」
リュート様が時空神様を見るが、私の頭の上に手を乗せたまま首を捻る。
「確かに昔は大きな湖はあったケド……泉を守護する女神はいないはずダヨ」
「女神様は嘘ついてにゃいにゃ~っ!」
「うーん……嘘では無いケド、真実でも無いって感じダネ。やっぱり、一度会ってみないとわからないヨ」
神族の全てを把握しているわけではないから……と、時空神様は苦笑を浮かべるのだが、確かにそうだろう。
八百万の神だと言っていたので、途方もない数の神が存在するのだ。
それを外の世界へ赴いていることの多い時空神様が、把握しているはずがない。
こういう場合は、社交的で情報通のアーゼンラーナ様に聞くのが一番だろうか。
そんなことを考えながら、出来たばかりのフィレオフィッシュを皿に盛り付ける。
たまごサンド、野菜サンド、カツサンド、フィレオフィッシュが皿の上に並ぶだけで豪華だ。
個人的には、全種類制覇したらお腹がはち切れそうになるだろう。
しかし、彼らにはこれでも足りないくらいである。
遠くでは、野菜スープがそろそろいい感じに仕上がってきたのか、同じクラスの料理担当者たちが此方へ向かって歩いて来る。
運んできた大きな鍋に気づき、すぐさま問題児トリオたちが回収へ向かった。
焚き火にでもかけて温め直すのかと思いきや、私のところへ持ってきて、「味の確認と微調整をお願いするっす!」と頼んでくるのだが……そ、それでいいのだろうか。
そう考えているとリュート様がチェリシュを抱えたまま、此方へやってくるのが見えた。
「ルナ、アイツの分も準備できるかな」
「え? あ、はい、問題ありませんし、そのつもりで作っておりました」
「サンキュ、助かるよ。色々聞き出したいけど警戒してるし……まあ、アレだ。キャットシー族だしルナの料理を食べたら、考えも変わるだろ」
アクセン先生達と話をしているモカへ視線をチラリと送ったリュート様が、ニッと魅惑的に笑う。
私の料理は、そんなに効果があるのだろうかと疑問を感じるが、リュート様がそれほど美味しいと考えてくれていることが素直に嬉しい。
「料理で落として、いうことを聞かせるワケだー?」
「言い方が悪いぞ、真白。格の違いを見せつけるだけだ」
「どっちもどっちだと思うの……」
珍しくチェリシュにツッコミを入れられたリュート様は、アハハッと軽やかに笑いながらも内緒話をするように、真白を抱っこしているチェリシュに顔を寄せる。
「でも、ルナの料理が旨いのは知ってるだろ? きっと大丈夫だ。キャットシー族なら、ルナの料理は絶対に無視できねーよ。カフェ達を見ていればわかる。心に響く料理だからな」
「あー、確かにわかるかもー」
「とーってもうまうまで、ほっこりで、あんしんあんしんなの!」
父娘で「ねー」と言っている姿は可愛らしく、思わず私は口元を押さえて作業台に手をついた。
この父娘が可愛すぎて辛い……って、そうではありませんよ、私っ!
女神様の為に独りで外へ出てきたモカのために、優しく美味しい朝食に仕上げよう。
とりあえず、気を取り直してスープの味を調整して火にかける。
サンドイッチと野菜たっぷりなスープが完成すれば、ようやく朝食だが……リュート様は久しぶりのカツサンドやフィレオフィッシュを喜んでくれるだろうか。
朝食を食べるためのセッティングは、レオ様たちを筆頭に滞りなく行われている。
朝食を作り始めた頃は静かだった周囲も、今では活気に満ちあふれていた。
「カツサンド、本当に楽しみだ。チェリシュも真白も、シッカリ食べろよ。すげー旨いからな」
「楽しみなのっ!」
「期待がふくらむー!」
「羽毛まで膨らませてんじゃねーよ」
全くコイツは……と、リュート様が笑い、チェリシュも真白をつついて「かわいいの」とご満悦だ。
可愛い父娘の背後では、せわしなく動いているクラスメイトたちを尻目に、どこか落ち着かないモカを見つめる。
少しでも力になれたら……
そんな思いを胸に、皿に盛られたサンドイッチを見つめるのであった。
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