悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

月代 雪花菜

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第十章 森の泉に住まう者

10-26 プリンと一言でいっても……?

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 リュート様の方は道具がある程度揃ったのか、コフィーの実から種子を取り出して器に入れているようだ。
 手際が良いのは、元々器用だからだろう。
 どうして、私の周囲の男性は器用な人が多いのだろうか……もっと、不器用でも良い気がする。
 強いて言うなら、リュート様のお父様やテオ兄様が不器用な部類に入るくらいだ。
 チラリと横にいる時空神様を見るが、彼も兄に仕込まれたのかたたき込まれたのかわからないが、とても料理上手だし手際も良い。

「ねーねー、ルナ! プリンってぷるっぷるなの? 真白ちゃんのマシュマロボディと、どっちがぷるっぷるしてるー?」
「プリンの方がぷるんぷるんしてますね。真白はもちっとして良い感触ですから」
「そっかー、良い感触かー……それなら、仕方ないね!」

 何が仕方ないのかわからないが、上機嫌でうんうん頷いている姿を見たチェリシュが、頭をよしよし撫でている。
 力加減の練習らしい。
 恐る恐る指を伸ばして「そろーり、そろーりなの」と言っている姿が可愛らしいし、それを黙って受け入れている真白も愛らしくて笑顔になってしまう。
 私たちに必要なだけ卵を準備してくれるようで、ラエラエは時空神様からいただいた様々な物を口にしては輝きながら卵を産み落としている。
 あ……あの……大丈夫なのですか?
 少し心配になっていたのだが、体の構造的に全く問題は無いようだ。
 暫く食べる物にも困っていたのか、「もっとちょうだい!」というように翼をパタパタさせている。

「洗浄石で綺麗にしたものをボウルに入れてあるからネ」
「ありがとうございます!」

 仕事が早いです時空神様っ!
 ボウルいっぱいの卵を手に取り、リュート様から借りた棒のような物を卵のてっぺんに押しつけて穴を空け、細い棒を差し込んでかき混ぜてから、コップの上に裏返して置いた。
 中身がトロリと出てくるのだが鶏卵よりもオレンジ色が強いようで、とても美味しそうである。

「チェリシュもお手伝いしますなの!」
「真白ちゃんが、穴あき卵をコップにセットしてあげるー!」

 すぐさま仕事を見つけてお手伝いを開始してくれたチェリシュと真白に感謝しながら、私は冷蔵庫から牛乳を取り出したついでに、スープクッカーの保温スイッチを入れておく。

「今回は、炊飯器を使うのカイ?」
「一応、スープクッカー……です」
「大して変わらないと思うケド……保温機能を使うと時間がかかりそうダネ」
「温度設定が出来るので、心配するほど時間もかからないと思います」
「へぇ……そう考えると炊飯器より便利ダ……さすがは、リュートくん」

 感心している時空神様に同意して、鍋に砂糖と少量の水を入れて火にかけ、カラメルを作っておく。
 此方は粗熱を取るために暫く放置だ。
 その間に、別の鍋に牛乳と生クリームと砂糖を入れて火にかける。
 砂糖が溶けたら火を止めて、たまっている卵液を貰って、一度丁寧に混ぜてから鍋の牛乳を少しずつ加えて混ぜ込んでいく。
 プリンは大して難しいお菓子では無い――と言いたいが、火の通り具合で滑らかさが変わってしまう繊細なお菓子である。
 蒸し器やオーブンで火を通す場合もあれば、ゼラチンで固める方法もあった。
 その中でもお気に入り……というか、あまり失敗しないのは炊飯器だったのだ。
 炊飯器の保温機能を使って放置するだけで、滑らかなプリンができあがるのである。
 はじめて作った時に、兄と味見をして感動したものだ。
 調子に乗って豆乳バージョンを作った際には、分離してしまい美味しいとは言えない物ができあがってしまった。
 おそらく、卵一個に対しての水分量が多すぎたか、豆乳を温めずに追加したのが原因で分離してしまったのだろうという結論に達し、計量と温度管理が大事だと、その時に二人で肩を落として嘆いたのも良い思い出である。
 ちなみに、今回はシッカリと計量しているので問題無い。
 卵一個という単位が通用しない大きさであり、どれくらいの内容量がわからなかったからだ。
 計量してみると、だいたい鶏卵Lサイズ3つ分であった。
 お、大きい……さすがは、鶏よりも体が大きく、丸々としているだけはある。
 ボウルによって微妙に卵の量を変えてプリン液をきめの細かい茶こしを使って濾し、たまに浮かんでいる気泡を串の先端にペーパーをつけて潰していく。
 目の細かい茶こしで濾すと、殆ど気泡ができないので殆ど手間がかからずに助かった。
 滑らかなプリン液が出来たことに大満足していると、私の手元を見ていた真白とチェリシュが簡単だったと驚いている。
 いつの間にやってきたのか、モカも一緒になって覗き込んでいたのだが、その後ろには大人のキャットシー族の姿も見えた。
 ニッコリと微笑みかけると、おずおずと近づいてきて「見学しても良いでしょうか」と問いかけられたので笑顔で頷く。

「これでプリン液は完成です。次は、スープクッカーの釜にカラメルを入れてから、プリン液をゆっくりと流し込みます」
「ルナちゃん、卵の殻ハ?」
「そちらも使いますが、まずは大きいのを作ってデコレーションしようと思いまして」
「パフェを作るんじゃないんダネ」
「いえ、どうせならバリエーション豊富に作ってみようと考えております」
「ナルホド! ――ということは、プリンデコレーションケーキが見られるのカナ?」
「はい! ベリリやフルーツや生クリームでデコレーションします」
「うわぁ……見た目が華やかでイイネ」

 私が言った言葉だけで何をしようとしているかイメージが出来たらしい時空神様のテンションが上がる。
 何と言うか……すごく良い反応だ。
 もしかして――プリンが好き……なのだろうか。

「ルー、ベリリ……いっぱい……なの?」
「いっぱいですよー」
「はっ! チェリシュ、ベリリをいっぱい出すの!」
「ま、待ってくださいチェリシュ! 以前にいただいた物がまだありますから大丈夫ですよっ!?」

 そうなの? と目を丸くして可愛らしく首を傾げるチェリシュにあわせて、真白達も首を傾げている。
 お願いですから、その可愛い攻撃はやめてください、頬が緩みます!

「スープクッカーの方がケーキ。卵の殻を器にしてあるのはリュートくんが仕上げとして、パフェの方はどうするんダイ?」
「器に入れて焼きプリンにして、プリン・ア・ラ・モードを作ろうかと……リュート様が考えている卵の殻を器にしているタイプは、蒸して完成させようと思います」
「うわぁ……手法も様々ダネ」
「保温調理と蒸す方法では微妙に滑らかさが違いますし、焼きプリンはシッカリしていますから、フルーツと生クリームを添えたら美味しいと……」
「よし、早く作ろうカ!」

 待ちきれないとばかりに器の準備をはじめる時空神様にならい、チェリシュも同じように並べていく。
 興味深そうに此方を見ているキャットシー族の前を陣取っているのはラエラエで、その頭の上に移動した真白が、私の料理を説明してくれているようだ。
 もしかして……ラエラエと会話ができるのですか?
 二羽が目を輝かせてくわっくわっと鳴き出し、真白が「凄いでしょー!」と胸を張る。
 う、うん……会話が成立しているようですね。

「真白って……色々な意味で凄いよネ」
「激しく同意です」

 口ではそう言いながらも、手は動かしている。
 卵の殻の中にカラメルソースを漏斗みたいな物を簡易的に撥水性のあるペーパーで作って流し込み、続いて卵液を流し込んでいく。
 カラメルは冷え切ったら粘度が出過ぎて入れづらくなるので、少し温め直して流し込む。

「あー、ちょっと温度が高いから火傷しちゃうカモ? これは俺がやってついでに冷やしておくヨ」
「さすがに過保護では……」
「ダメダメ、リュートくんもそうだけど、陽輝が知ったら……殺サレル」

 最後の言葉を青ざめて呟く時空神様を見て、兄は何をやったのだろうかと心配になるが、そこまで酷いことをするとも思えない。
 オーディナル様を見ていてわかるが、神族は人の世界に疎い部分があるので何かやらかしたのだろうと考えたら、本気で怒っている兄の姿を思い出してしまい――私も震えた。
 温厚な兄が本気で怒るときは、洒落にならないくらい恐ろしい。
 人が怒ると怖いのはそうなのだが……兄の場合は素晴らしく素敵な優しい笑顔で怒ってくるのだ。
 そして、その口から発する言葉は鋭くて冷たくて心にグサグサ刺さる。容赦が無い。
 天使の微笑みから繰り出される言葉の刃ほど怖い物は無い。
 まあ……その恐怖を一番実感しているのは、兄を女性だと思って告白したことがある男性たちだろう。
 学生の頃によく聞いた「他校の生徒が再起不能にされた」という噂は、今でも学校の伝説として残っている。

「え、えっと……では、お願いします」
「お任せアレ……」
「ルー? ゼルにーに?」
「だ、大丈夫です。ちょっと怖いことを思い出しただけですから……あ、チェリシュ、此方が一段落したら、フルーツと生クリームを用意しましょうね。ベリリをいっぱい飾り付けましょう」
「わーい! ベリリなのー!」

 チェリシュの歓声を聞いて、何故かリュート様が頬を引きつらせて勢いよく走り込んで来た。
 どうしたのかと驚いていると、「えっと……ベリリ?」と呟くので、私とチェリシュは顔を見合わせて首を傾げてしまう。

「プリン・ア・ラ・モードにたくさん飾り付けようというお話を……」
「リュー! ベリリがいっぱいなのー!」
「え……あ……そ、そっち?」
「はい?」
「プハッ……リュートくん面白過ぎるヨ! あり得ないカラ!」
「わ、わかってるっつーの!」

 アハハハッと体をくの字に曲げて時空神様が笑いだし、リュート様は顔を赤くして狼狽えている。
 そのリュート様を見たチェリシュが「リューがベリリなのー!」と騒ぎだし、「なになになにー!」と真白がラエラエの頭から慌てて跳ねてリュート様の肩にとまって顔を覗き込む。

「ねーねー、どうして赤く……ベリリになってるのー? 理由はー? ねーねー、おーしーえーてーよー!」
「うるせーな! お前は少し黙ってろっ」
「ぎゃーっ! 真白ちゃんを『もにもに』する理由が八つ当たりのそれだー! 断固抗議するー!」

 一気に賑やかになったキャンピングカーのキッチンエリアをモカが楽しそうに見ていて、その後ろにいたキャットシー族たちも楽しげに笑っていた。
 私の作業を見たいと椅子を移動させてきた聖泉の女神ディードリンテ様は上品にくすくす笑い、彼女の周囲でくるくる回っていたラエラエたちも、くわっくわっ何かを言っている。
 リュート様と真白の大騒ぎは、ヤンさんと種子と果肉に分け終わった大量のコフィーの実を抱えたキャットシー族が迎えに来るまで続くのであった。

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