悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

月代 雪花菜

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第十章 森の泉に住まう者

10-46 鉄壁な守りで希望となる場所

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 この集落の人たちを……子供達を守るには大切なことがある。
 まず、それぞれの家族が自分の家に避難する状態は出来るだけ避けたい。
 ベオルフ様が以前、北の辺境の村人を守るときに「分散されると守りづらい」と言っていたのを思い出したからだ。
 彼の場合は、一人で全員を守らなければならなかったので、それこそ大変だっただろう。
 此方には現在、問題児トリオやヤンさんやオルソ先生がいる。
 彼らは普通の人よりも優秀なので守ってくれるだろうが、より守りやすい状況を作り出した方が良い。
 一人でも欠けたらすぐに判る状態が望ましいだろう。

「まずは、ご家族でチームを組んでください。そして、点呼をします。まずは、魔物の脅威が過ぎ去るまで、何かがあった際は自分の家族が揃っていることを確認してください」
「真白ちゃんがいっちばーん!」
「チェリシュが二番なの!」
「ヌルは三番ねー! ルナは四番! ゼルが五番! オーディナルが六番でー、リュートはラッキー7にしてあげるー!」

 真白が私の頭の上に乗って意気揚々とそんなことを言い出したのだが、リュート様がいたら確実に鷲づかみにされたのではないだろうか。
 家族全員の把握が出来るように固まっている彼らを、一列に整列させて点呼させる。
 このやり方がリュート様と同じだと、オルソ先生と問題児トリオに指摘された。
 主従は似るのかというオルソ先生の言葉に、問題児トリオも笑う。
 どうやら、この世界では一般的ではないらしい。

「俺の村では円陣を組んでやってたっす」
「そうなのですか……円陣が普通なのですか?」
「並ばない場合もありますし、円陣を組まない場合もあります。今考えると非効率なやり方ですね」
「確かにそうかもしれん。俺も以前のグループ単位では無く、一列に並ばせて点呼を取るようになったからな。しかも悪ガキ連中を相手にするのに、リュートのやり方は効果的だ」

 彼らの話を聞く限りでは、隊列を組む場合もチームで組むことが多いので、人が一列に並ぶことが少ないそうだ。
 そういえば、店の前に並ぶ行列も無かったので、そういう考えに行き着かないのだと納得できた。
 しかし、最後の悪ガキ相手に効果的だというオルソ先生の言葉の意味がわからずに困惑していると、オルソ先生が苦笑交じりに教えてくれた。

「先頭になるヤツは動けないから、動き回って邪魔をしそうな悪ガキに責任を持たせて任せるようにしたのだ。リュートがやっていたやり方だったが、これが本当に効果的でな。責任ある立ち位置になったからか、だんだんと真面目にチームメイトの面倒を見るようになっていくのだ」

 これを、まだ十代前半の若者がやったのだから頭が下がると言うオルソ先生に、私は曖昧に笑って見せた。
 オルソ先生が担任になった頃のリュート様は、前世の記憶が戻っていたので、十代前半の学生という枠に当てはまらない。
 日本に居たときの記憶や、それまでの経験が相まってそういう行動に出たのだろう。
 リュート様って……問題児の扱い方が妙になれている気がする。
 前世では、彼のそばに問題児でもいたのだろうか。
 点呼をしている間に、問題児トリオには疑似出入り口になりそうな物を、オルソ先生には集合場所の提示をお願いした。
 私の頭上で「そこ! 隊列が乱れてるー!」と声を張り上げる真白をチェリシュに預けると、チェリシュは真白を連れて走り回り確認している。
 実際に何かあったときは、こんな隊列を組んでいる暇はない。
 しかし、戸口に殺到して逃げられない状態になってパニックになることを防ぐためにも、こういう意識は必要だ。
 非常事態こそ冷静に判断して動くことが重要なのであると、学校や地域の避難訓練で教わったものである。

「魔物が襲ってきた際は、まず私たちのような非戦闘員は彼らの邪魔にならないように身を守るか隠れることが必要です。しかも、バラバラになっては守りづらいので、一箇所にまとまるようにしましょう」
「はいですにゃ~!」

 モカだけが元気よく返事をしてくれたが、他の人たちは困惑を隠しきれない様子であった。

「魔物が襲ってきたとき、時空神様の結界が常にあると考えないでください。万が一に備えて、自分たちで出来ることをしましょう。みんなが守ってくれるからといって、何もしなくていいわけではないのです。守られる側にも出来ることがありますから」

 まずは、冷静に、パニックを起こさず、彼らを信じましょうと語りかけた私に、キャットシー族の大人達よりも早く、子供達が元気よく「はいですにゃ!」と返事をしてくれた。

「大丈夫です。リュート様は、とーっても強いですし、オルソ先生や黒の騎士団の方々も強いのですよ? 焦らないことです。恐怖で体が動かなくなることはありますが、その時は声を出して助けを求めてください。決して一人にならないことを心がけてくださいね」
「は、はいですにゃ」
「任せてくださいっす! 俺たち、やれば出来る子なんっすから!」
「それって……普段は出来ないって言ってるみたいに聞こえるな……」
「まあ……深く考えないようにしましょう」

 問題児達の言葉で緊張がほぐれたのか、キャットシー族の間で笑いがこぼれた。
 良い傾向だ。
 彼らはこういう時に、ガス抜きが上手い。
 おそらく、リュート様のガス抜き担当をしていたからだろう。

「あまり難しく考えないでください。みんなを守るために動けば良いだけです。家族を守りたい。仲間を守りたい。緊急時でも他者を思いやる気持ちを忘れなければ、何とかなります!」

 震災が多かった日本という国で培った経験と知識だ。
 何事にも冷静に対応すること。
 ほんの少しの思いやりが、沢山の人を助けることになること。
 自分だけがという気持ちで動かないこと……など、まだまだ沢山ある。
 しかし、この場合は彼らが散り散りになって逃げないことと、その場で蹲って動けなくなる事を回避することが重要であった。

「では、オルソ先生のいる場所まで移動しましょう。出来るだけ急いで欲しいですが、無理をしてはいけません。お年寄りと小さい子が多い集落ですから、みんなで気遣いながら移動しましょうね」

 私の号令に合わせてオルソ先生が描いてくれた円へ全員が移動を開始する。
 さすがに慣れないのでもたつきはあるが、注意事項を守って移動していることは伝わってきた。
 途中、モンドさんたちが即席で創ってくれた狭い通路を通るのだが、混み合いそうになる場面も見られたが、焦ること無くなんとか通過していったようだ。
 皆が一致団結して、オルソ先生の円を目指す様子を眺めていた時空神様が私を見て目を細める。

「避難訓練ダネ」
「はい。いざというときに動けなくなると危険ですから、訓練をしようと思いまして……ただ……」

 私は無言で周囲を見渡す。
 正直に言うと、避難場所に困ってしまったのだ。
 彼らの家は、私の目から見ても丈夫とは言えない。
 そこに避難しても大丈夫なのだろうかと不安になって、ダイナスさんに尋ねる。

「ダイナスさん。この家の修繕ですが、全部の家の修繕は間に合いそうですか?」
「そうですね……材料が少ないので、最低限の修繕しかできません。リュート様がある程度置いていってくださいましたが、元々の土台の問題が……」

 そこまで言って言葉を止めたダイナスさんは、私に近づいて耳打ちをするように説明をしてくれた。

「おそらく、ランクの低いレシピしか購入できなかったのでしょう。品質がよくありません。修繕をしても、魔物に襲撃されたら倒壊する恐れがあります。できるだけ強固にしますが、土台が緩いので難しいです」

 一見して状態を把握してしまうダイナスさんも凄いが、ある程度のことを考慮して必要材料を置いていったリュート様も流石だ。
 つまり、ダイナスさんの力を持ってしても、満足な強度を確保出来ない――
 私のキャンピングカーに避難をさせる手もあるが、全員を収容しても大丈夫なのかという疑問もあったので時空神様に尋ねてみた。

「時空神様、キャンピングカーを避難所に使えますか?」
「中に入るのは難しいカナ。あの場所に長時間滞在するには、それなりに神力の抵抗力が必要にナル。人間なら上位称号持ちやリュートくんの元クラスメイトくらいなら問題は無いけれども、その他は厳しいだろうネ」

 オーディナル様と創世神ルミナスラ様が手がけた場所である。
 私たちにはわからなくても、彼らにとっては耐えられないほどの神力が作用しているのだろう。
 そうなれば、キャンピングカーほどの強固な建物が欲しい。

「ルナちゃんは、どんなモノが理想なんダイ?」
「理想……」
「ソウ。この場所に、どんなモノがあったら、皆を守れるカナ」

 皆を守るために必要なモノ……
 問われて私はオルソ先生の元へ集合したキャットシー族を見た。
 オルソ先生に褒められて嬉しそうに……どこか誇らしげにしている。
 そんな親の腕に抱っこされてウトウトしている子、ヌルと楽しげに遊んでいる子、それを見守る祖父母――
 皆を守りたい。

「目を閉じて、どういうモノが良いか考えてみてヨ」

 時空神様に促されるまま目を閉じる。
 私に様々な本を貸してくれたベオルフ様が、一冊の本を持ってきた時に、ある本のページをめくって見せて語ってくれた事があった。
 寒さを凌ぎ、深い森の中でも砦が目印になり、獣を寄せ付けず、人々を守る石造りの塁壁は外敵を遮断する。
 人々を物理的にも精神的にも救う、鉄壁な守りを誇る砦のことを――
 本には書かれていなかったのだが、堅牢な砦は獣の被害を受け、泣く泣く村を捨てなければならなくなった者たちを受け入れるために築き上げられた、最後の希望なのだ……と北の辺境伯であるタルジュ・ヒエムス卿が語ってくれたらしい。
 厳しい環境でも、生きようとする力が築き上げた象徴のようなモノが……この場所にも、そんな砦が欲しい。
 集落に居るキャットシー族の希望となる場所。
 この森の魔物を定期的に狩らなければならない黒の騎士団に必要な休息の地。
 森に迷った人たちの、疲れた心のよりどころにもなる。

 そんな砦が――

 目を閉じて長考していた私の耳に、誰かの声が聞こえた気がした。
 それは、「わかった」「協力しよう」というような声であったように思う。
 それと同時に、体から何かが抜けていく感覚がして急ぎ目を開いたのだが、一瞬だけクラリと意識が揺れる。
 私の体を支えた時空神様の顔を見ようとしたが、同時に周囲が妙に暗いと感じた。
 ここは開けた場所だったはずだ。
 一体何が……と数回瞬きをした私に、真白が突っ込んできたのである。

「る、ルナなにやってんのー! そんなに力を使って大丈夫っ!? 痛くない? 辛くないっ!?」
「力?」
「だって、ほら……こんなの創ったら、辛いじゃないー!」

 こんなの?
 真白が指し示す方向を見た私は、目の前にあるモノが理解出来ずに固まった。
 え……えっと……はいっ!?
 影が差すのも仕方が無い。
 そこには、先ほどまでイメージしていた巨大な砦がそびえ立っていたのだ。
 幻では無いのかと頬をつねるが……痛い。
 では、これは現実なのか……と、先ほどまで何も無かった空間に突如現れた砦を見上げた。
 石造りの見事な砦は、ちょっとしたことでは崩れないような堅牢な造りをしていて、集落を軽くすっぽりと覆い囲むような塁壁は歪みの一つも無い。
 石だと思っていたが、どうやら砦そのものは魔力に強い造りになっているようで、淡く輝いて見える。
 塁壁だけでも凄いのだが、中央の砦部分がこれまた凄い。
 塔のようにそびえ立っているのだ。
 これだけの広さがあれば、討伐訓練に参加している全員を収容することも可能だろう。

「随分と大きなモノをイメージしたネ」
「えっと……あの……時空神様の力では……」
「俺じゃないネ。神界にいる石の神と鍛冶の神が協力してくれたんダヨ。随分と大盤振る舞いだけどネ」

 神々が力を貸してくれたのは喜ばしいが……もしかして、それって……

「も、もしかして……このタイミングで【慈愛の祈り】を発動させたのですかっ!? 私は何と言うことを……!」

 絶対にタイミングを間違えている。
 この後、ラミアとの戦いが避けられない状態になるはずだ。
 その時に、もしかしたら必要になるはず……しかも、この【慈愛の祈り】はチャージに時間がかかる。
 簡単に何度も使える力ではない。

「まあ、とりあえずはコーヒーを飲んで落ち着こうカ」
「時空神様……私がスキルを発動させるように誘導しましたね」
「何のことカナ?」

 おそらく、時空神様はこうなるとわかっていたのだ。
 全員が言葉を無くして砦を見上げているというのに、時空神様だけがケロリとした顔をしているのだから間違い無い。

「何故止めてくださらなかったのですか」
「必要が無いからダヨ」
「必要が……ない?」
「ウン。そのために、色々仕込んであるんダヨ。陽輝から頼まれた結末のためにネ」
「頼まれた結末……?」
「犠牲を伴うがルナちゃんは傷つかずに問題を解決するカ。被害を出さずにルナちゃんには色々と頑張って貰うカ」

 何故その答えを兄に求めるのかはわからないが、それを聞いた兄が何と答えたのかわかる。
 間違い無く後者だ。
 兄なら……私が困難を乗り越えられると信じて、被害を出さないように立ち回れと発破をかけるだろう。
 手放しで守るようなことを、あの兄はしない。「だって、結月の為にならないでしょ?」といって笑うのだ。

「犠牲を出さないために、今、私がここで【慈愛の祈り】を使う必要があったのですね」
「どう思ウ?」

 優しく時空神様は微笑むが、一瞬だけ何かの痛みに耐えるような顔をした。
 痛みを……耐えている?

「ダメだよー! それ以上は、時空神でも倒れちゃうよー?」

 ぽむっと跳ねた真白が時空神様の頭上に着地をして、翼で数回頭を撫でる。
 そこでようやく息が出来るようになったのか、彼は胸元を押さえて冷や汗を流す。
 とんでもない状況に驚いて、今度は私が時空神様の体を支えた。

「大丈夫ですかっ!?」
「もー、無茶するなー」
「あはは……不安にさせたくないって思っちゃってネ……」
「だいじょーぶ! ルナにはベオルフがいるから!」
「ウン……彼にまた無理をさせちゃうネ」
「平気平気! ベオルフは無敵だもーん!」

 そう言いながらも「今晩あったら、全力でスリスリして謝っておくねー!」と言うが、スリスリして謝るというのはどうなのだろうか。
 ベオルフ様だったら、呆れながら真白を好きにさせてしまうだろう。
 なんだかんだ言って、ベオルフ様も真白に甘いのだ。

「ルー……大丈夫……なの?」
「まさか、こんなに力を使うことになるなんて……私が本来の力を持っていれば……すみません」

 チェリシュが心配そうに私の手を握り、聖泉の女神ディードリンテ様も眉尻を下げている。

「心配しないでください。おそらくですが、蓄積させている力を使用するタイプなので、思いのほか私にダメージはございません。今回は……凄く楽というか……あ、あと、声が聞こえた気がします」
「二神の声だろうネ。あ、ルナちゃん、唐揚げ……お願いネ」
「……はい。そういえば呑兵衛神として有名な方々でしたね」

 ああ、とうとう目を付けられてしまったのか……という気持ちもあるが、今回は助かった。
 唐揚げはどれくらい必要だろうと考えていると、此方へ移動してきた問題児とオルソ先生とキャットシー族が一緒に砦を見上げる。
 子供達は目を輝かせて大騒ぎ中だ。

「ルナ様すげー……っす」
「これも、ルナ様の力って……スケールが違いすぎだろ」
「それは、海浜公園の奇跡でわかっていたことでしょう? これもまた、奇跡ですよ」
「あの噂は本当だったのか……」

 呆然としているオルソ先生に、問題児トリオが揃って「マジです」と返答しているのを聞きながら、そうやって広めないで欲しいと泣きたくなってしまった。

「そうそう。これだったらリュートくんも迷う事無く帰ってくるだろうシ、この森で活動する時には黒の騎士団にとって、希望の砦となるだろうネ」
「その前に、リュート様が驚いて連絡してくるのに1赤金貨っす!」
「俺も」
「賭けにもなりませんよ……」

 彼らがそう言った直後、リュート様から通信が入り「ルナああぁぁっ!? 何がどうなったらそうなったんだああぁぁっ!?」という絶叫が聞こえてきて、私はしどろもどろになりながら、今回のあらましを説明することになったのである。


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