悪役令嬢の次は、召喚獣だなんて聞いていません!

月代 雪花菜

文字の大きさ
451 / 558
第十一章 命を背負う覚悟

11-23 甘えるチャンス?

しおりを挟む
 
 
 ゆっくりと瞼を開く。
 急に意識がボンヤリとしてベオルフ様にもたれかかったら、優しく頭を撫でられたところまでは覚えている。
 その手があまりにも優しかったから、抵抗する暇も無く眠ってしまったようだ。
 ……ベオルフ様のナデナデは危険ですね。
 薄明かりの中でボンヤリとしていると、隣から「むにゃむにゃ……もっと食べたい~」という真白の寝言が聞こえてきた。
 まさか、まだカレーパンを食べているのだろうか。
 油断すれば再び閉じてしまいそうな瞼を擦り、包み込んでくれているぬくもりから抜け出そうとしたのだが、いつも寝ている籠の中では無かった。
 あれ?
 もしかして……視線だけ動かしてみたら、黒いアンダーシャツが見えた。
 こ、これは……!
 少しの期待を抱きながら視線を上げた先には、眠る姿も絵になるイケメンのリュート様が――
 目覚めてすぐにリュート様の寝顔を拝めるという贅沢! ――というか、何故……何故こんなにもカッコイイのですか、リュート様!
 興奮しすぎたのか羽毛がぽんっと膨らむが気にしていられない。
 目を閉じて眠っているだけだというのに、凄まじい破壊力を秘めたリュート様の寝顔をじっくりと眺めてしまう。
 たっぷりと寝顔を堪能していたら、彼の瞼がピクリと震えた。
 起きたのかと思って息を潜めていたのだけれども、それ以上の動きは無い。
 先日は見張りがあったから先に起きていたので、今日は眠っていても大丈夫なのかと心配になる。
 しかし、リュート様が寝坊するはずがない。
 朝も強いし、タイムスケジュールをシッカリ管理するタイプの人だ。

「むぅぅ……それは……チェリシュのなのー……」

 ゴロゴロと転がるチェリシュがリュート様の方へ突進してくるのが見えた。
 その勢いに驚いて身を固くしたのだが、ある一定のラインから入ってくることは無かったので安堵する。
 空気の層をクッションにして、チェリシュを包むように守護しているから怪我をすることもないし、寝相がどれほど悪くても大丈夫だと教えられていたことを思い出す。
 お母様と一緒に考え出した対処法らしいが、さすがというか……お母様はもしかしたら経験者だったのかもしれないと考えたら、少しおかしかった。
 お母様が手を焼くほど暴れたのはリュート様だろうか、いや、ロン兄様やテオ兄様という線も捨てきれない。
 ……それにしても、相変わらずの暴れっぷりに冷や汗が出る。
 暴れて良い範囲も指定しているらしいので問題はないはずだが、エナガの時は私の方が小さいので潰されないか心配になってしまう。
 小さな私と真白を守るように、リュート様が腕でガードしてくれているので安全なのだが、少しだけ焦ってしまった。

「ルー……カレーなのぉ」

 むにゃむにゃと寝言を呟き、抱っこしているもーちゃんに顔を擦り付けるチェリシュ。
 その天使のような寝顔は可愛らしくて、自然と笑みがこぼれた。
 真白もまだ眠っているし、リュート様も起きる気配が無い。
 つまり――
 こ、これは……リュート様に甘えるチャンス!
 起こさないようにコッソリと移動して、リュート様の胸元へ額をこすりつける。
 まあ、額というか……この大きさなので体ごとになってしまうが、それは大した問題では無いだろう。
 えへへーと、笑いながらスリスリしていたら、すり寄せている体が動いた気がした。
 ……あ、あれ?

「……朝から可愛いことしてんな」
「ぴゅぁっ!?」

 クククッと普段よりも低くかすれた笑い声が聞こえてくる。
 どうやら寝たふりをしていたらしい。
 それに気づいて慌てて距離を取るが、リュート様は寝起きでは無いシッカリとした視線を私に向けていた。
 しかし、目覚めてそれほど経っていないのだろう。
 少しだけ気怠そうな表情をしていたかと思ったら、「んー」と言いながら体をグッと伸ばす。
 はぁ……と息をついたあと、指先を伸ばして私の頬を軽くくすぐった。

「おはよう、ルナ」
「お、おはようございます……見張りは……」
「ああ、皆が不安がっていたから、悪先とオルソ先生と俺の交代制で見張りをすることにしたんだ。昨晩遅くまで俺が見張っていたから、朝は時間がある」
「お疲れ様でした。まだ眠っていても……」
「いや、俺たちは応援が到着するまで仮眠程度で良い。ここが正念場だからな」

 一日や二日の徹夜でも平気だと笑うリュート様は元気そうだが心配だ。
 タフなのは知っているけれども、それとこれとは別である。

「リュート様……本当に大丈夫ですか?」
「ルナが作った朝飯を食ったら元気になるよ」
「今朝はピザを予定しておりますので、沢山食べてくださいね」
「楽しみだな……カレーバージョンも作るんだろう?」
「はい。具材を沢山トッピングして、チーズもたっぷりにしましょう」
「聞いているだけで旨いって判る……腹が減りそう……」

 ガックリ項垂れて言うリュート様に笑っていたら、彼が急に私の体を手のひらで包んで距離を詰めた。
 ジッと見つめられて、なんだか落ち着かない。

「ど、どうか……したのですか?」
「充電して欲しいなぁって思ってさ」
「充電? 何の充電ですか?」
「ルナ不足だから、ぎゅーってさせて欲しいってこと」
「……っ!?」

 言葉にされた破壊力にくちばしをパクパクさせていると、「ダメ?」と甘えた声で尋ねられてしまう。
 ううぅぅぅ……こ、このギャップに心臓が持たないので、出来れば予告などしてから行動してくださると嬉しいのですがっ!?

「今の俺には、『睡眠』や『飯』より『ルナ』が一番足りません」
「わ、私もエネルギー源になるのでしょうか」
「なるよ。俺の一番のエネルギーだ」

 そこまで言われたら断れない――いや、断るつもりも無かったのだが……
 とりあえず、真白を潰してしまわないように枕元へ移動するようにリュート様へお願いしてから、私は指輪の力を発動させて変化を解除する。
 私が元の姿に戻ると、今まで余裕のあった空間が、少しだけ窮屈になったように感じた。
 距離が近い上に、リュート様の腕の中にすっぽりと収まっているような状態である。
 元の姿に戻った私を見たリュート様は、とても嬉しそうに目を細めてぎゅっと抱きしめてきた。
 首筋に顔を埋めているので、少しだけくすぐったい。
 暫く無言で私を抱きしめていた彼は、そのままの態勢をキープして「夢で何かあったか?」と尋ねる。
 こ、このまま報告するのですかっ!?
 少しだけドキドキしながらも、夢の中の出来事を思い出す。
 彼に報告しなければならないことが多かったからだ。

「えっと……まずは、聖泉の女神ディードリンテ様の件をお願いしましたが、そちらはオーディナル様が自らの手で、泉だけでは無く、聖泉の女神ディードリンテ様とキャットシー族の方々も移動させてくれると約束してくださいました」
「へぇ……さすがはルナのお願い効果。大盤振る舞いだな」
「おそらく移動が大変だろうから……と」
「ありがたいことだ。ちゃんと礼を言わないとな……他には?」
「直接関係していることでは、怪しい人が夢の扉前で張っていて、その内の一人はリュート様に関係する竜人族だという話でした」
「ん? 夢の扉前?」
「はい。実は真白と紫黒が共鳴したようで、王太子殿下の夢に招かれてしまったのです」
「……は? え? それって、あっちの王太子の話か? 大丈夫だったのかっ!?」

 それは聞き捨てならないと言わんばかりの様子で、リュート様は私の首筋から顔を上げて顔を近づけ、真っ直ぐに目を見た。

「大丈夫です。ベオルフ様も一緒だったので……」
「そっか……それなら安心だ。あっちも大変だったのか? ベオルフが困っていたりしなかったか?」
「グレンドルグ王国の王族はオーディナル様から与えられた神器があったようで、それを介してベオルフ様と今後は連絡が取れるようになったようです」
「それは良い事だな。手紙を運んでいる間に強奪されたり、違う内容の物にすり替えられたりする危険性が減る」

 さすがはリュート様……すぐにそういう危険性に気づくところが素直に凄いと思う。
 此方の世界は進歩していてイルカムのような魔法道具があるから、そういう危機管理に関しては疎いのでは無いかと思っていた。
 日本に居た頃は基本的にメールやSNSでやり取りをすることが多かったけれども、郵便物を取り扱うことも多かったので、その経験が生きているのかもしれない。

「ある意味、イルカムで繋がっているようなものか」
「音声通話は出来ませんが、手紙を直接送ることは出来るようです」
「まあ、さすがにSNSみたいなものでやり取りをするワケにもいかねーか」
「文字を打つのに時間がかかりそうですよね」
「確かにな」

 慣れている私たちなら別だが、王太子殿下の場合はそこからだ。
 怖くてヘタに触れないと言い出しそうだし、イルカムやスマホのような便利機能は搭載されていない。
 実際に書いた手紙を直接郵送出来るだけでも助かる……というか、そちらの方が何気に凄いのではないだろうか。
 何せ、『物を相手に送ることが出来る』のだから……

「手紙が送れるなら、他のも送れそうだよな」
「同じ事を考えていました」
「いいなぁ」
「そうですよねぇ」

 顔を見合わせて笑い合う私たちに、枕元の真白が「うぅぅ」と唸る。
 どうやら、うるさかったようだ。
 慌てて口元を押さえて首をすくめる。
 騒いでしまった気恥ずかしさから上目遣いで彼を見て「えへへ」と笑っていたら、何故かリュート様が一瞬フリーズした。
 リュート様?
 そう思ったのも束の間、彼は笑みを深めて顔を近づけてくる。
 え、あ、あの……リュート様っ!?
 焦る私をよそに、彼は「ちゅっ」と音を立てて、私の頬に口づけた。

「ひゅぁっ!?」

 流れるように……当たり前のようにされた行為に驚き、普段では出せないような声が出てしまった。
 そのことも相まって恥ずかしさに身もだえしていたのだが、彼は楽しげに笑っているだけだ。
 しかも、真白に配慮してか声を潜めて笑っているので、なんだかとても……いけないことをしている気分になってしまう。

「可愛いかったから……つい」
「つ、つい……ですか」

 どういう反応したら良いのだろうかと悩む私は、耳まで熱くなっていることに気づかないふりをして、「困ったリュート様です」と呟く。
 わざとか、それとも意図せずなのか――彼は、私の頬にかかる髪を指先でくるくるもてあそび、熱を持っている耳へかけてくれた。
 その瞬間、ニッと笑みを深めるのだが、それがまた魅惑的で言葉にならない。
 心臓が大きな音を立てているのを気づかれてはいけないと、出来るだけ平静を装う。
 これって……効果……ありますか?
 先ほどよりも魅惑的に目を細める彼には、全て筒抜けになっているのでは無いかと感じながらも、激しく脈打つ心臓の音が彼に届かないように祈った。

しおりを挟む
感想 4,347

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

谷 優
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

【完結】留学先から戻って来た婚約者に存在を忘れられていました

山葵
恋愛
国王陛下の命により帝国に留学していた王太子に付いて行っていた婚約者のレイモンド様が帰国された。 王家主催で王太子達の帰国パーティーが執り行われる事が決まる。 レイモンド様の婚約者の私も勿論、従兄にエスコートされ出席させて頂きますわ。 3年ぶりに見るレイモンド様は、幼さもすっかり消え、美丈夫になっておりました。 将来の宰相の座も約束されており、婚約者の私も鼻高々ですわ! 「レイモンド様、お帰りなさいませ。留学中は、1度もお戻りにならず、便りも来ずで心配しておりましたのよ。元気そうで何よりで御座います」 ん?誰だっけ?みたいな顔をレイモンド様がされている? 婚約し顔を合わせでしか会っていませんけれど、まさか私を忘れているとかでは無いですよね!?

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。