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第十二章 ラミア迎撃戦
12-12 オーバーキル
しおりを挟む「お前はどうして、そちら側にいるのだ?」
ベオルフ様がニグレド様を見て、不意に問いかけた。
彼の言葉の中には、「そういう場所にいるべき者ではないだろう」という言葉もこめられているように感じる。
確かに彼の性質上、ウルトルたちと行動を共にするべき人だとは思えない。
何か、弱みを握られているのだろうか。
私たちから真っ直ぐ見つめられた彼は、ベオルフ様の問いに対し、少しだけ考えたあと言葉を選んで答えた。
「探しものが見つかった。側に居ると誓ったから……側に居る。ただ、それだけだ」
探しもの……側に居るということから、彼が探していたのは人なのだろう。
でも、それなら「探し人」というはず……
こういう言い回しは、ベオルフ様に似ていると感じる。
言葉遊びのようだけれども、こういう言い方をする時は深い意味があるのだ。
直接言葉には出来ない何かが――
察するには難しく、理解するには情報が足りない。
しかし、私たちがその答えを見つけない限り、彼を真の意味で理解することは出来ないだろう。
現時点で敵では無い。
ただそれだけなのだと痛感した。
おそらく彼は、その側にいるべき相手にとって私たちの存在が不利だと感じれば、迷うこと無く刃を向けてくる。
敵では無いが味方でもない。
第三勢力のようだ……と、私とベオルフ様は同時に感じていたのだろう。
チラリと視線を交わして、同時に嘆息した。
「黒竜族のウルトルとリュートには、色々と因縁があることはわかったけれども、誤解もあるのだろう。時間はかかるが、話し合う機会を設ける」
「それは、準備ができたらお知らせいただけるのですか?」
「勿論、その時は知らせる。だが、今すぐとはいかない。アレは気性が荒いのでな……」
「気性が荒いというよりは、ルナティエラ嬢の語録で言うところの『瞬間湯沸かし器』というヤツだな」
ぷっと私が吹き出すと同時に、おそらく同じ反応をしているだろうリュート様を見ると、口元をモゴモゴさせていた。
動けないから吹き出すことはなかったが、大爆笑しているのかもしれない。
「とりあえず、その予定は了承した。リュートたちも聞いているから、問題無かろう。それと……良いのか? そろそろ来るぞ」
「そうだな。今は……まだ会えない。よろしく伝えてくれ」
何の話だろうと思っていたら、凄まじい力が近づいてくることに気づいた。
これは……
私が、そう認識するより早く、ニグレド様は闇の中へ姿を消してしまう。
痕跡を一切残さず消えてしまったニグレド様に驚きながらも、まずは動き出した魔物が先だと、ベオルフ様が動き出す。
魔物を攻撃するのかと思いきや、光の大槍でリュート様の頭をゴツンと叩く。
「痛ええぇぇっ!」
「いつまで、そうしているつもりだ。そんなことでは、ルナティエラ嬢を預けていて良いか不安になるのだが?」
リュート様に問答無用の一撃を加えたベオルフ様に驚き、慌ててリュート様へ声をかける。
「リュート様、大丈夫ですかっ!?」
一撃が見事に入った頭を押さえてしゃがみ込むリュート様が心配で、何とかベオルフ様の肩からリュート様のところへ移動しようとするのだが、それを察した彼の手に囚われてしまった。
両手でむぎゅぅと握られ、その絶妙な圧迫に心地よさを覚えてしまうのが悔しい。
いや、でも……この絶妙な力加減!
圧迫マッサージをされているようで、気持ちいいし、体がほぐれる感じなのですよ!
「怪我をするぞ」
手の中で大人しくなった私の顔を覗き込むベオルフ様に、ムッとした顔を向ける。
「怪我をしているのは、リュート様です! 酷いではありませんか!」
ベオルフ様はそれに対して言葉を発することなく、顎でしゃくってリュート様を指し示す。
なんですかっ!? と、いきり立って視線を向けると、リュート様が顔を上げて呆けたように呟いた。
「あ、動けた」
「他の連中は動き出すのに時間がかかる。お前はいけるだろう?」
「あ……ああ」
「魔物を排除するぞ」
「おう!」
どこか嬉しそうに返事をしたリュート様は、目を輝かせながら三日月宗近・神打を構えた。
それを横目に、私を肩へ移動させたベオルフ様も光の大盾と大槍を構える。
魔物も体が痺れてうまく動けないのだろう。かなり動きが鈍い。
ただ、私たちを敵と認識して威嚇している。
「ほう? 魔物というのは知能が低いのだな……どちらの方が上なのか、理解出来ていないようだ。これでは、獣と変わらん」
「いや、それはベオルフだから言えるんであってさ……普通は無理だから、本当に無理だからな?」
リュート様がツッコミを入れるが、ベオルフ様はシレッとした顔で「そうか」というと走り出す。
まだ動けない人たちの間を縫って走り出したベオルフ様が、短く「行くぞ!」と声をかけると同時に、襲い来る魔物に大盾を突きつけた。
大盾で魔物の物理攻撃を受け、魔法などの特殊能力を持ち前の能力で無効化してなぎ倒す。
そこへ、リュート様が魔法や三日月宗近・神打を振るい、確実にとどめを刺していく。
普段のリュート様にも敵わないだろう魔物達は、更にベオルフ様によって弱体化され、オーバーキル気味に滅されていた。
おそらく、元クラスメイトたちが話せたら「敵に同情する」や「相手が悪すぎだろ」と言い出しそうである。
そんなリュート様の次に動けたのは、キュステさんとアレン様だった。
さすがは、竜人族。
動けない人たちに被害が及ばないように、フォローに徹してくれているようであった。
「フォロー……せんでもよかろうな。あの調子では……」
「だんさん、生き生きしすぎやね。しかし……ほんまに強いお人やねぇ」
「うむ。あの無効化の力が厄介じゃ。あの男が使っている無効化の力より、ベオルフが使っている無効化の方が強力じゃな」
「アレは、竜化した僕らの力も封じてくるから厄介やね」
「普通は出来んはずじゃがな……力そのものを根本から封じるなんぞ、神の所業じゃぞ」
「神器すら無効化するんやから……」
「そうじゃった……本当にリュートとは違う意味で恐ろしい男じゃな」
フォローしながらも、呆れた様子で会話をしている。
しかし、視線はリュート様とベオルフ様に釘付けだ。
彼らの連係プレーは、その場にいた全員を魅了するほど凄まじく、目が離せないものであった。
私の体を使っているとは思えない戦いっぷりに驚きを隠せないが、さすがはベオルフ様だと彼の肩でパチパチ拍手をしていたら、思いっきり呆れられた。
「な、なんですか? そこまで呆れなくても……」
「悠長なものだ。これだけ動けば……まあいい、後で判るだろうからな」
「何がですか?」
「いや、先に謝っておこう。すまんな」
「……え?」
何の謝罪ですか? と問いかけようとした瞬間、空にポッカリと穴が空いた。
そこから、何かがポテッと落ちてきて、私たちは新たな敵の出現かと身構えたのだが……地面に落ちているソレは、どこかで見たことがあった。
ふさふさの毛並みはキジトラ模様。
尻尾がゆらゆら揺れているところを見れば、無事なのは理解出来た。
むくりと起き上がったキジトラ模様のキャットシー族は、場違いなくらい暢気な声を上げる。
「うぅ……酷い目にあいましたにゃ」
「ああああぁぁぁっ! なんや、ナナト! 一緒についてきとったんかい! せやから、調整が上手くいかんかったんか……全く、気づかへんかったわ」
どうやら、キュステさんの到着が遅れた原因は、ナナトにもあるようだ。
色々と調整したのに……と嘆く彼の苦労が伝わってくるようである。
変なところで不憫ですよね、キュステさんって……さすがは、不憫界の王。侮れません。
「奥様のところへ行くっていうから、ついてきましたにゃ! 勿論、目的は――レシピくださいにゃっ♪」
私の姿をしたベオルフ様に両手を出しておねだりポーズを決めたナナトに、私とリュート様とキュステさんは言葉も無く立ち尽くす。
「……ルナティエラ嬢には、奇妙な仲間が多いのだな」
「えーと……ま、まあ……楽しそうでしょう?」
「そうだな。楽しそうで何よりだ」
最後は、かなり棒読みであったが……ナナトは愉快な仲間ですよ?
とりあえず……魔物は全て排除され、新たに現れたのがナナトであったことに、全員がようやく終わった攻防戦にホッと一息つくのであった。
――――――
【お知らせ】
今年度の更新は、これにて終了させていただきます。
来年も、どうぞ、よろしくお願いいたします(* > <)⁾⁾
Twitterでお知らせしていた新しい話を、30日か31日にUPする予定ですので、年末の退屈しのぎにでもしていただけたら幸いです。
年明けには、更新スケジュールを告知させていただきたいと考えております。
今年も残すところあとわずか
本当に色々な事がありましたが、皆様の応援もあって、ここまで更新し続けることができました。
心から感謝しております。
来年も今年に負けないくらい頑張っていきたいと思いますので、これからも応援よろしくお願いいたします!
皆様、本当にありがとうございましたっ!
応援ありがとうございます!
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