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第十三章 グレンドルグ王国
13-20 一方その頃―― (リュート視点)
しおりを挟むルナが眠りについてからというもの、忙しく時が流れていく。
普段は彼女が居るために気を遣ってくれている兄たちも、ここぞとばかりに仕事を回してくるのだ。
キュステとの連絡、黒の騎士団の補佐、黎明騎士団の指揮。
それに、あちらへ到着したディードたちの手続き関連の連絡。
他にも、未だルナに関係する書類や手続きの連絡も入ってくる。
あと、ルナには内緒にしているが、オーディナルがやらかしてくれたので、その事後処理も行っている最中だ。
「やべぇ……時間がいくらあっても足りねーぞ……」
ひっきりなしにイルカムが鳴り、黒の騎士団や各部署の責任者が俺のところへやってくる。
総指揮は父であるハロルドがやっているはずなのに、何故みんな此方へやってくるのか……と、頭を抱えていても仕方が無い。
できるだけ仲間に仕事を振りつつ、忙しく働く。
オーディナルと造ったノートパソコンのおかげで、簡単なスケジュール管理もできるようになり、とても重宝しているが、俺がキーを叩く手元を見ていた黎明騎士団たちは、揃って渋い顔をする。
「なんだよ」
「リュート様って……そういうところも、何か……すげーっすね」
「慣れるのが早いよな」
「その域に到達するのに、どれだけの時間がかかるのやら……」
モンド、ダイナス、ヤンの三人が溜め息交じりにそう言うが、これは昔取った杵柄だ。
伊達にシステムエンジニアをしていたわけではない。
「それよりも驚きなのは、リュート様の食事の量ですよ。戦闘規模から考えたら、圧倒的に少なく済みましたね」
「確かに! いつものリュート様だったら、他の連中の食事まで面倒見てらんねーし」
「全員分の食材をまかなっても余裕だったみたいですし……」
ジーニアスの言葉に、他の連中が頷く。
確かに、彼らの言う通りだ。
今回は魔力に余裕があったから、フィールド魔法まで展開できたくらいである。
アレは、俺の秘技中の秘技であり、使った後は俺自身がぶっ倒れるという代物だった。
しかし、ルナのおかげで、その後も難なく戦闘することができていたのだ。
「リュートは魔法主体の戦い方の方が強いから、本当に助かったよ」
ロン兄の言葉にテオ兄も頷く。
魔法だけで戦う事は無いが、どちらかと言えば魔法の方が強い。
そう考えると――
「ベオルフみたいな戦闘スタイルが理想だったんだけどなぁ」
「彼のアレは、敵の力を無効化することを前提にしているから真似しようとしても無理だよ」
ロン兄に諭されてしまうが、そういう意味ではない。
あの戦い方そのものがしたいという話では無いのだ。
「いや、相手の力を弱体化、および、無効化して追い詰めるのは魔法で応用できるからさ。ただ……持久力と耐久力が桁違いで……」
「そうだな。肉体強化しても、あの強度は難しい」
三兄弟で一番頑強なテオ兄も俺の意見には賛成のようだ。
正直に言えば、ルナの世界であれだけの力を持っていると言うだけで、桁外れなのだと思う。
言い換えれば、それくらいの力がなければ、ルナを長年苦しめてきた『黒狼の主ハティ』というヤツを倒せないのだ。
聞くところによれば、ベオルフ以外に、そんな力を持った者は居ないらしい。
ベオルフ自身は確実に黒狼の主ハティを倒せるから喜ばしい事なのだろうが、心配になってくる。
あまりにもベオルフの負担が大きいからだ。
ベオルフの負担が大きくなればなるほど、ルナが心配して不安定になる。
おそらく、俺とルナが召喚主と召喚獣という繋がりがあるからこそ理解出来ることなのだろうが、ルナとベオルフの繋がりは人のソレとは異なって見えるのだ。
神獣――いや、神族……どちらの感覚も持ち合わせた、ハイブリッド……か?
ユグドラシルが気にかけるのも、その辺が関係しているのだろう。
人間そのものであったルナが、召喚獣として召喚されたのには、必ず意味がある。
オーディナルの介入やそういったモノも考えたが、腑に落ちない点も多い。
何せ、召喚術とは元来、『同族は召喚されない』からである。
だからこそ、現在大騒ぎになっているのだし、未だにルナが人であるということに異を唱える者も多い。
しかし、そういうことがあるからこそ、『オーディナルの愛し子』だという事実を受け入れるのは容易だったのだ。
神に愛されし者が人だという認識を持たない者は一定数存在する。
神格化されてしまうからこそ、召喚術の理に反していないのだろうと結論づけ、納得しているのだ。
まあ……その召喚主が俺だということに納得はしていないようだが――
今までも人型の召喚獣はいたが、明らかに同族では無いモノばかりだ。
アクセンも、そのことが引っかかっているようで、何か問題があればすぐ相談するように言われている。
オーディナルが介入している時点で、そんなことは無いと思いたいが……
「真白ちゃんはお腹が空いたぞー!」
真面目なことを考えていた俺の頭上が、急に騒がしくなる。
ウトウトしていたのに起きてしまったようだ。
「うるせーな。まだ食事の時間には早いぞ」
「おーなーかーがーすーいーたー! ルナー!」
「馬鹿、起こすな!」
スヤスヤとポーチの中で眠っているルナの元へ降りてこようとする真白を捕まえ、片手で握って黙らせる。
問答無用でムニムニしていると、笑いなのか悲鳴なのか判らない微妙な声が上がり、周囲から生暖かい視線が真白へ向けられた。
「とりあえず、ルナの眠りを妨げるな」
「あ、真白様、試作品のパンを食べますか?」
そう言って近づいてきたのはヤトロスだ。
学園から神殿への転向が決まり、憑き物が落ちたように落ち着いた彼は、現在料理にはまっているのか、暇を見つけては黎明騎士団の連中にパン作りを教えて貰っているようで、なかなかの腕前になっていた。
むしろ……黎明騎士団のパン作りが、そろそろ職人の域に達していると感じているのは、俺だけではないような気がする……。
ヤトロスから貰った小さなパンを食べてご満悦の真白を見ながら、俺は何気なく呟く。
「お前……丸くなったか?」
「なぬ! 失礼な! 真白ちゃん知ってる! こういうのをノンデルって言うだよー!」
「ノンデリな」
「そうともいう」
「そうとしか言わねーよ」
俺と真白のやり取りを聞きながら、何を思ったのかチェリシュは取り出したベリリのジャム瓶から、たっぷりのジャムを真白のパンへつけてやる。
「ぷくぷくになるのは、幸せの証なの。チェリシュも物知りさんなの!」
「そっかー、真白ちゃんは幸せだから丸いんだ!」
「そうなの! もっと丸くなって良いの!」
「真白ちゃん、頑張るね!」
「いや、頑張る方向が違うし、お前ら、それを誰に教わったんだよ……」
どこか飄々とした時空神の顔を脳裏へ描いて力なく項垂れる中、視線を落とした先――ポーチの中でスヤスヤと眠るルナが見えた。
それだけで癒やされるのだが……その寝顔が少しだけ曇って見えるのは気のせいだろうか。
「うるさくしすぎたか?」
指先で苦しそうにしているルナの頭を優しく撫でると、すぐに安らかな寝息を立て始めた。
そこから感じるのは、俺へ寄せられる全幅の信頼だ。
それだけで、ついつい口元がにやけてしまう。
慌てて口元を手で覆うが、ロン兄とテオ兄には見られてしまったのか、ニヤニヤとした視線を向けられたが、知らないフリを決め込んだ。
賑やかな真白とチェリシュを眺めながら、指先でルナを撫でる。
至福のひとときだな――などと感じていたら、イルカムが鳴った。
通信相手はキュステだ。
若干の苛立ちを覚えながら「はい?」と通話を開始したのだが、何故かキュステに怯えられた。
まあ、こればかりは不運だったと諦めて貰おう。
ふぅ……と軽く息を吸い込んで吐き出す。
とりあえず、気持ちを切り替え、キュステの話に耳を傾けるのであった。
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