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第15話 五十里優梨子の秘密
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「ちょっと、壮ちゃん! あんな綺麗で楚々とした彼女候補が出来たんなら、何で報告しないのよ。少し変わってるけど、イイ子じゃない! 」
リビングを離れ、事務所兼休憩室に入るなり、姉貴は興奮した面持ちでオレに尋ねてきた。
「そう言うのとは、かなり違うんだよ」
やっぱり誤解されている。
「何が違うよ。話からすると帰省したアナタを追っかけて横浜から来たんでしょ? しかも、壮ちゃんがコッチにいる間は、箱ヶ原にいるつもりだって言ってたわよ。アンタにゾッコンじゃない! 色々あるのは分かるけど、壮ちゃんの気持ちが落ち着くまでキープしておくのもアリだとお姉ちゃんは思うな」
ゾッコンだとかキープなんて言葉を久々に聞いた気がした。6つ歳が違うと多少の感覚のズレはあるのだろう。
「いや、あの子にもオレにもその気が無いのはホントなんだ…… 」
「ホントに? 」
「あぁ、それにオレは今、冗談を言える気分でもないんだよ。姉貴『てんぷら五十里』の五十里優梨子が今日、交通事故で亡くなった」
「ウソでしょ!? だって、あの子…… 」
オレの言葉に姉貴の顔が見る間に青ざめていく。その表情が尋常ではない。
「壮、アンタ、今から私が聞く事に正直に答えなさい」
人を呼び捨てにすることのない姉貴がオレを『ちゃん』付けで呼ばなかったのは、手のリハビリが上手く行かない時期に、お袋に当たり散らして本気で怒らした時だけだったと記憶している。
「『てんぷら五十里』の優梨子ちゃんとアンタはどういう関係だった?」
「はぁ?」
姉貴の質問の意図がまるで見えなかった。
「だから、あの子と付き合っていたのかって聞いてるの!」
「付き合っている訳ないだろ? オレはこの間まで東京にいたんだから」
「じゃあ、身体の関係はあった? 東京とココなら電車で2時間もあれば行き来できるわ。アンタだってヤリたい盛りでしょ? 」
良識がある姉貴からのあまりにも下衆な質問。
「ふざけるな! 身体の関係なんてある訳ないだろ! 姉貴は何が言いたいんだよ」
聞きようによってはオレのみならず、亡くなった五十里優梨子の品位を貶めるような言葉にオレは怒りを覚えた。
「その分だと嘘はついていないようね」
姉貴はひとつ息をついた。
「ごめんなさいね、試す様な言い方をして。あのね、壮ちゃん。あの子、妊娠していたハズなのよ」
一気に血の気が引き、吐き気を覚えた。全身を嫌な汗が流れ、オレは首にかけたままのタオルで口元を一度だけ拭った。
「姉貴、それって何か根拠が・・・・・・
「私がお世話になっている扇《おうぎ》町の産婦人科で、あの子を何度か見かけた事があるのよ。帽子とマスクで顔を隠していたケド、まず、間違いないと思うわ」
オレの質問が結ばれる前に姉貴が言葉を挟む。
妊娠している状態での交通事故。
それは軽い接触であっても、母体へのダメージは計り知れないものになっていた筈だ。そして、おそらくはそれが死因へとつながったという事は想像に難くない。
顔を隠しつつ、産婦人科を訪れていたと言う姉貴の話からすると、そうしなければならない、何らかの事情もあったはずだ。
「確か、あの子、結婚の話は出ていないわよね」
結婚話が出ていれば、あっという間に街に広まったはず。そして、この噂も遅かれ早かれみんなの耳に入る。姉貴はそう言いたいのだろう。
口の中が嫌な乾き方を仕始めた。
「茜音ちゃんに続いて、優梨子ちゃんまで亡くなるなんて…… 壮ちゃん、アンタ、気持ちを平静に保たなくては駄目よ」
オレは姉貴の言葉にどう返してよいか分からず、ただ、黙って頷いていた。
リビングを離れ、事務所兼休憩室に入るなり、姉貴は興奮した面持ちでオレに尋ねてきた。
「そう言うのとは、かなり違うんだよ」
やっぱり誤解されている。
「何が違うよ。話からすると帰省したアナタを追っかけて横浜から来たんでしょ? しかも、壮ちゃんがコッチにいる間は、箱ヶ原にいるつもりだって言ってたわよ。アンタにゾッコンじゃない! 色々あるのは分かるけど、壮ちゃんの気持ちが落ち着くまでキープしておくのもアリだとお姉ちゃんは思うな」
ゾッコンだとかキープなんて言葉を久々に聞いた気がした。6つ歳が違うと多少の感覚のズレはあるのだろう。
「いや、あの子にもオレにもその気が無いのはホントなんだ…… 」
「ホントに? 」
「あぁ、それにオレは今、冗談を言える気分でもないんだよ。姉貴『てんぷら五十里』の五十里優梨子が今日、交通事故で亡くなった」
「ウソでしょ!? だって、あの子…… 」
オレの言葉に姉貴の顔が見る間に青ざめていく。その表情が尋常ではない。
「壮、アンタ、今から私が聞く事に正直に答えなさい」
人を呼び捨てにすることのない姉貴がオレを『ちゃん』付けで呼ばなかったのは、手のリハビリが上手く行かない時期に、お袋に当たり散らして本気で怒らした時だけだったと記憶している。
「『てんぷら五十里』の優梨子ちゃんとアンタはどういう関係だった?」
「はぁ?」
姉貴の質問の意図がまるで見えなかった。
「だから、あの子と付き合っていたのかって聞いてるの!」
「付き合っている訳ないだろ? オレはこの間まで東京にいたんだから」
「じゃあ、身体の関係はあった? 東京とココなら電車で2時間もあれば行き来できるわ。アンタだってヤリたい盛りでしょ? 」
良識がある姉貴からのあまりにも下衆な質問。
「ふざけるな! 身体の関係なんてある訳ないだろ! 姉貴は何が言いたいんだよ」
聞きようによってはオレのみならず、亡くなった五十里優梨子の品位を貶めるような言葉にオレは怒りを覚えた。
「その分だと嘘はついていないようね」
姉貴はひとつ息をついた。
「ごめんなさいね、試す様な言い方をして。あのね、壮ちゃん。あの子、妊娠していたハズなのよ」
一気に血の気が引き、吐き気を覚えた。全身を嫌な汗が流れ、オレは首にかけたままのタオルで口元を一度だけ拭った。
「姉貴、それって何か根拠が・・・・・・
「私がお世話になっている扇《おうぎ》町の産婦人科で、あの子を何度か見かけた事があるのよ。帽子とマスクで顔を隠していたケド、まず、間違いないと思うわ」
オレの質問が結ばれる前に姉貴が言葉を挟む。
妊娠している状態での交通事故。
それは軽い接触であっても、母体へのダメージは計り知れないものになっていた筈だ。そして、おそらくはそれが死因へとつながったという事は想像に難くない。
顔を隠しつつ、産婦人科を訪れていたと言う姉貴の話からすると、そうしなければならない、何らかの事情もあったはずだ。
「確か、あの子、結婚の話は出ていないわよね」
結婚話が出ていれば、あっという間に街に広まったはず。そして、この噂も遅かれ早かれみんなの耳に入る。姉貴はそう言いたいのだろう。
口の中が嫌な乾き方を仕始めた。
「茜音ちゃんに続いて、優梨子ちゃんまで亡くなるなんて…… 壮ちゃん、アンタ、気持ちを平静に保たなくては駄目よ」
オレは姉貴の言葉にどう返してよいか分からず、ただ、黙って頷いていた。
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