彼女は妄想の世界で生きている

まめ

文字の大きさ
2 / 6

桜庭幸春

しおりを挟む
「幸春、助けてくれてありがとう。もうすごい怖かった。初めてあんなやばい奴に出会った」

 あれからあかり達は南館には行かず、東館にあるクズ組御用達の食堂へと向かった。そこで幸春にプリンを奢ってもらったからか、まだ鼻をずびずびと鳴らしてはいるものの、星は随分と落ち着きを取り戻していた。

「一人のときは気を付けろって、前からあれだけ言ってんのに。お前、喧嘩っ早いのに弱いんだからさあ」

 幸春は自分で買ったソフトクリームを食べながら、落ち込む星に苦言を呈した。クズ組武闘派の上位三人と仲の良い星は常に危険と隣り合わせの学園生活を送っている。その割に本人にあまり自覚がないのは、幸春とその他の二名が、さり気なく彼女を守ってやっているからだ。
 主に敵対するクズ組他派から人質に取られそうになったり、無駄に顔だけは良い幸春達と一緒にいる星に嫉妬した女子に、階段から突き落とされそうになったり、幸春達に負けて恨みを持つ奴等が、腹いせに酷いことを星にしようとしたりと、まあ日々、彼女の周囲には危険が蔓延はびこっている。

「……だって別に幸春達に気がある感じじゃなかったし。か弱そうだったから、大丈夫かと思ったし」

 まさか自分よりも華奢な女の子に、どこから出たんだよ、その力って思うくらいに力強く体を揺さぶられるだなんて思わなかった。もはや、あそこまでいけば暴力に等しい。

「まあ、確かに。あんなに美人なのに、頭があそこまでいかれてるとは思わないよな」

 幸春は残念だというように溜息を吐き、ピンク色のソフトクリームを口に含んだ。
 あれ、そんな色のは知らないと、星は幸春の持つソフトクリームをまじまじと見た。彼女が知っているのは普通のものと、チョコレートとミックスのみだ。新商品だろうか。
 気になって何味か聞いてみたところ、桜餅味だと幸春は答えた。ええ、なにそれ美味しそう。

「幸春どこから見てたの」

「ええと。なんだっけ、ハーレムに導いてあたりから」

 一番強烈な場面を見られてしまったと、星の浮上しかけていた気分は再び沈み始めた。よりにもよってオシッコをちびりそうになっているところを見られるだなんて。これでも女子高生なのだからそれなりに恥じらいというものはある。ああ、最悪だ。

「つか、ハーレムに導けってなんだよ。お前で努力してハーレム築けよ。そもそもハーレムって、この現代日本にあんのかよ。どこの中東アジアの王族だよ」

 そもそも日本で女がハーレムを築こうとするには無理がある。日本では一夫多妻の歴史はあっても、一妻多夫はない。あるとすれば、それは漫画やゲームの中だけだ。

「……あ、ゲーム。ゲームって言ってた気がする」

「なんだよそれ」

 幸春が怪訝な表情で聞き返してきた。いきなりゲームだと言われても、それは意味が分からないだろう。現に星だってよく分かっていない。

「なんて言ってたっけ。……ええと、この世界は、なんとかシーズンズってゲームで、あのサイコホラーちゃんがヒロインだって言ってたかな」

「ヒロインねえ。ますます、なんだそりゃ。あいつ頭に虫でも湧いてんじゃねえの」

 本当に、なんだそりゃだ。
 星はサイコホラーちゃんの言動を思い出し、自分でゲームの主人公でヒロインだって言ってて恥ずかしくないのだろうかと考えたが、すぐに恥じらいなんて彼女が持っているはずがないという結論に至った。もしも彼女が恥じらいを一ミリでも持ち合わせていたならば、人前であんな狂ったような主張はしないだろう。

「そういえば攻略対象のイケメンには、名前に季語が入ってるとも言ってたような」

「……え、なんて」

 季語という言葉を聞き、幸春の表情が強張った。どうしたというのだろうか。

「だから名前に季語が入ってるイケメンの男の子が、ヒロインの攻略対象って。幸春、大丈夫」

 再び季語という言葉を耳にした幸春の額には急に脂汗がにじみ始め、小刻みに震えだした彼は、食べかけのソフトクリームを持ったまま自分の頭を抱えた。それから急に脱力してしまったのか、すとんとその場に腰を落とすと低い声で唸った。

「ちょ、星。お前さ俺の名前、言ってみ」

 そこでようやく星は、幸春が言わんとすることを理解した。

「……桜庭幸春さんです」

 桜と春。幸春には苗字と名前のどちらにも季語が入っていた。それでも彼が、いわゆるイケメンではなくフツメンであったならば救いもあるのだが、冒頭でも述べた通りで幸春は無駄にイケメンだった。
 ちなみに彼がどれだけのイケメンかというと、パステルピンクに染めた髪色の緩めのカールがかかったマッシュボブベースのソフトリーゼントのツーブロックで、ツーブロックの部分にはヤンキー御用達の剃り込みが入っているという、とても難しい髪型がよく似合うイケメンだ。なんだか接続詞ののが多すぎて、よく分からなくなってきたけれど、まあパステルピンクの髪色が似合うというだけで、彼がいかにイケメンかということが分かるだろう。

「ふざけんなよ。二つも入ってんじゃねえかよ。ビンゴだったら二列ビンゴだぞ」

 逆整形でもしない限り、彼がサイコホラーちゃんの攻略対象から外れることはないに等しい。

「ゆ、幸春さん。ファイト」

 せっかくのイケメンに生まれたのに逆整形などするはずがないし、そもそも高校生である彼はそんな大金を持っておらず、この学校に通い続ける限り逃げ場などありはしない。
 今の星にできることは、ただ彼を応援してやることと、攻略対象ではありませんようにと、あまり効果のなさそうな祈りを信じてもいない神に捧げることだけだった。

「やだやだやだ、怖すぎて頑張れない」

「ええと、そうだ幸春。教室に戻ろう。きっとシロちゃん先輩が解決してくれるって」

 困ったときは、泣く子も黙る白鳳学院の悪魔に頼るに限る。彼らが慕う先輩は、悪魔だなんて恐ろしい通り名を持っているが、一度懐に入れた者にはどこまでも優しい。きっと彼が持つ常識外れの経済力と権力で何とかしてくれるに違いない。

「……シロ先輩、やってくれるかな」

 不安げにこちらを見る幸春に、安心させるように星は満面の笑みで頷いた。

「大丈夫、大丈夫。先輩だって他人事じゃないんだから、絶対に何とかしてくれるって。だから幸春は全部溶けちゃう前にソフトクリーム早く食べちゃいな」

 星はこの食堂に来た時とは反対に、しょんぼりしたまま溶けかけのソフトクリームを食べる幸春の手を取り、自分達の教室へと向かったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

痩せすぎ貧乳令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 とあるお屋敷へ呼ばれて行くと、そこには細い細い風に飛ばされそうなお嬢様がいた。 お嬢様の悩みは…。。。 さぁ、お嬢様。 私のゴッドハンドで世界を変えますよ? ********************** 転生侍女シリーズ第三弾。 『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』 『醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』 の続編です。 続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。 前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。 髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は… 悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。 そしてこの髪の奥のお顔は…。。。 さぁ、お嬢様。 私のゴットハンドで世界を変えますよ? ********************** 『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。 続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。 前作も読んでいただけるともっと嬉しいです! 転生侍女シリーズ第二弾です。 短編全4話で、投稿予約済みです。 よろしくお願いします。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

モブが乙女ゲームの世界に生まれてどうするの?【完結】

いつき
恋愛
リアラは貧しい男爵家に生まれた容姿も普通の女の子だった。 陰険な意地悪をする義母と義妹が来てから家族仲も悪くなり実の父にも煙たがられる日々 だが、彼女は気にも止めず使用人扱いされても挫ける事は無い 何故なら彼女は前世の記憶が有るからだ

転生したら乙女ゲームのヒロインの幼馴染で溺愛されてるんだけど…(短編版)

凪ルナ
恋愛
 転生したら乙女ゲームの世界でした。 って、何、そのあるある。  しかも生まれ変わったら美少女って本当に、何、そのあるあるな設定。 美形に転生とか面倒事な予感しかしないよね。  そして、何故か私、三咲はな(みさきはな)は乙女ゲームヒロイン、真中千夏(まなかちなつ)の幼馴染になってました。  (いやいや、何で、そうなるんだよ。私は地味に生きていきたいんだよ!だから、千夏、頼むから攻略対象者引き連れて私のところに来ないで!)  と、主人公が、内心荒ぶりながらも、乙女ゲームヒロイン千夏から溺愛され、そして、攻略対象者となんだかんだで関わっちゃう話、になる予定。 ーーーーー  とりあえず短編で、高校生になってからの話だけ書いてみましたが、小学生くらいからの長編を、短編の評価、まあ、つまりはウケ次第で書いてみようかなっと考え中…  長編を書くなら、主人公のはなちゃんと千夏の出会いくらいから、はなちゃんと千夏の幼馴染(攻略対象者)との出会い、そして、はなちゃんのお兄ちゃん(イケメンだけどシスコンなので残念)とはなちゃんのイチャイチャ(これ需要あるのかな…)とか、中学生になって、はなちゃんがモテ始めて、千夏、攻略対象者な幼馴染、お兄ちゃんが焦って…とかを書きたいな、と思ってます。  もし、読んでみたい!と、思ってくれた方がいるなら、よかったら、感想とか書いてもらって、そこに書いてくれたら…壁|ω・`)チラッ

悪役王女に転生したのでお兄様達に媚を売る…のはちょっと無理そうなので聖女候補になれるよう頑張ります!

下菊みこと
恋愛
悪役王女が頑張ってみるお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

俺をフッた女子に拉致されて、逃げ場のない同棲生活が始まりました

ちくわ食べます
恋愛
大学のサークル飲み会。 意を決して想いを告げた相手は、学内でも有名な人気女子・一ノ瀬さくら。 しかし返ってきたのは―― 「今はちょっと……」という、曖昧な言葉だった。 完全にフラれたと思い込んで落ち込む俺。 その3日後――なぜか自分のアパートに入れなくなっていた。

処理中です...