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錦木秋雪
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「なによ。黙ってないで、なんか言いなさいよ。あんた無関心を装っておいて、実はヒロインのことが大好きな忠犬キャラの後輩のはずでしょ。ツンデレ枠でしょ」
この瞬間、錦木秋雪は、生まれて初めて殺意というものを覚えた。何故だか知らないが、彼は訳の分からないことを叫ぶ、見ず知らずの少女に肩を持たれ、体を強く揺さぶられていた。
ああ、なんだっけ。こんなことになるのならば、過去に起きた毒殺事件の手口を真面目に勉強し、隅々まで本なりインターネットの情報なりを読み込んでおくべきだったのだ。興味本位でウィキペディアを見ながら、おっかないなあなどと暢気にひとり言を言っている場合ではなかった。人生において何が役に立つかわからないのだから、博学であるに越したことはないというのに。
揺れる視界によってもたらされる吐き気と戦っていた秋雪は、それを誤魔化すために必死で思考を巡らせた。ちょっと正気ではないからか、自分自身でも意味の分からないことを考えてしまっているけれども。それでも学校で嘔吐してしまうよりは、何倍もましだというものだ。
「ち、ちょっと。このサイコホラー女。なに自分より小さい男の子いじめてんの。可哀想でしょうが。アンタのせいでこの子も今、あだ名がゲロリになりそうになってんじゃん。勝ち組の生徒なのにゲロリは、本気でシャレになんないし」
その時だ。クズ組の制服を着た少女が、秋雪を助けるように、彼を揺さぶっていた少女の手首を掴んだ。
それに驚いたのか、今まで女ではあり得ないほどの強い力で秋雪の肩を掴んでいた手がようやく離れ、やっと解放された秋雪は安堵の息を吐いたが、三半規管はすぐに正常に戻るわけもなく、彼が感じている不快な揺れは治らず、額にはどっと脂汗がにじみ出ていた。
「あ、星ちゃん。やっと私のサポートをしてくれる気になったのね。いま秋雪君とお話ししてたの。でもなんだか様子がおかしくって。秋雪君はこんな無愛想で無口な子じゃないのに。星ちゃんからも元の秋雪君に戻って、私のことちゃんと好きになってもらうようにお願いして」
いや、誰だよそれは。生まれてこの方ずっとこの性格だけど。そもそもお前とは初対面だし、しかもとてつもなく無礼だし。そんな相手をどうやって好きになれっていうのか。更には傷害事件で訴ることが出来そうなくらいに強く揺さぶられて。嫌悪感は増しても好印象に思うことなど一つもありやしないのだが。
秋雪は襲い来る嘔吐感をやり過ごすため、口元を手で押さえ目を閉じたまま、心の中で意味不明なことを言う女につっこんだ。
いや、待てよ。実は自分の知らないところで双子の弟でもいるのじゃなかろうか。先祖を辿れば我が家は世が世なら、そこそこの禄がある一国の城主である本家筋だから。もしかして古すぎて化石のようになるくらいに廃れた慣習に則り、生まれた時に不吉だからと片割れは養子にでも出されたのだろうか。だとすれば申し訳ない。今すぐにでも我が家に戻ってきてもらって、これからは家族として過ごしていかなければ。
突然の出来事に混乱した秋雪は、普段の自分ならば鼻で笑うようなあり得ないことを真剣に考えていた。もう彼の頭の中は、居もしない双子の弟に今後どうやって償っていくかということでいっぱいだった。ここに茅でもいれば、アンタ馬鹿じゃないのという、簡単な一言で目を覚まさせてくれただろうが、残念ながら自由人の彼は、必要な時に限って居ないというのがデフォルトだった。
「なんで私がよく知らない子に、あんたみたいなサイコホラーを好きになってあげてねって、お願いしなきゃなんないの。むしろ全力で逃げてほしいわ。そもそもあんたね。まだ自分がヒロインだとか、そんな頭湧いたこと言ってんの。そんなにイケメンに好かれたいなら、まずいかれた性格をなんとかしな。顔だけはハル達と一緒で無駄にいいんだから、黙っとけば勝手に男が寄ってくるでしょうよ。今のままじゃ、あんたのいう攻略対象の男達は全員ドン引き。ちびなんてどうやって殺そうかなあとか、毎日言ってんだけど。こっちがチビリそうなくらい怖いから、ほんと止めてくんない」
星と呼ばれたクズ組の少女は、必死にいかれた女の視線を自分に集めるため、女の手首を離さずに話し続けている。その間に彼女は秋雪に対し、目で早く逃げろと訴えていた。いや、そんなことは出来ないと秋雪は首を振ったが、彼女はいいからさっさと行けと空いている手の平を、まるで犬でも追い払うかのように振ったのだった。
「……このご恩は、絶対に忘れません。必ずやお礼に伺います」
秋雪は恩人に一礼すると、彼女の思いを無駄にしてはならないと足早にその場を去った。
そうして自分の教室に無事戻った秋雪は、いかれた女の手首を必死に掴んでいた彼女の手が、僅かに震えていたのを思い出し、なんと自分は脆弱なのだろうかと嘆き、彼女をあの場に置き去りにしたことを後悔した。自身のあまりの情けなさを幾日か嘆き、深く深く後悔をし、そうして恩返しをするにはこれしかないと編み出した方法が、いま彼の手の中にあるものだった。
「え、ええっと。ス、スベスベマンジュウガニ。……え、なんで。なにそれ」
梅平睦月は、生徒会室にある自分のデスクに肘をつき頭を抱えた。彼は珍しく同じ生徒会役員である後輩の錦木秋雪から、相談があると言われ話を聞いていたのだが、ちょっと色々な話の流れと、この目の前の小さな水槽で蠢く艶々とした丸い甲羅を持つ数匹の蟹とが、何故結びつくのか理解出来ないでいた。
「毒殺と言ったら、やっぱりテトロドトキシンかなって思ったんです。クサフグとかだとありふれ過ぎてバレちゃうかなって思って。あの女馬鹿そうだから、スベスベマンジュウガニの味噌汁を食べたら好きになるとかなんとか適当なこと言ったら、十匹くらい殻ごとペロッと食べてあの世に行くかなって」
まだ中学一年生と言っても通じそうな。そんな幼いけれど、女の子のような可愛らしい顔をこてっと傾けながら、秋雪は唸る睦月を不思議そうに見ていた。
彼の表情は心底、意味がわからないと物語っている。こんなに良い方法を思いついたのに、なんで褒めてくれないのと。
「いやいや、意味がわかんないよ」
大人しくて可愛い後輩だと思っていたのに、知りたくない意外な一面があったようだと睦月は大きな溜息を吐いた。
彼のことをお約束で表現するならば、一度も染めたことのなさそうな濡烏色をしたサラサラの髪をワイルドツーブロックにし、セミウェットにスタイリングしたネープレス無造作ショートマッシュなのだけれど、なぜかビジカジでもあり、ジェントルマンでもあるという。どうしてそんなに対極にある言葉を選んでしまうのか。あなたは中高でちゃんと現文と英語の授業を受けてましたかと美容師に問い質したくなるような。字面だけ見るとかなりの難解な髪型だけれど。結局それって、ほんのちょっとスタイリッシュな坊ちゃん刈りですよね。そう言いたくなる髪型が、実に似合うイケメンだ。だって、ただの坊ちゃん刈りなのに彼がしているだけで、何故かお洒落に見えちゃうんだもの。
「このスベスベマンジュウガニは、学院の近くの浜辺で獲ったやつですし、あの女はあんな感じだから友達いなさそうだし。お腹すいて毒性があるのを知らずに食べて死んだっていう、悲しい事故に出来るんじゃないかと。どっちにしろ先輩と仲良しの悪魔さんの力を借りたらいけるかなって思うんです」
「色々と荒いよ。荒過ぎだよ。どこの金持ち校に、お腹が減ったからって、野生のスベスベマンジュウガニを獲って食べる女の子がいるのかな。あの子だってこの学校に通ってるんだから、それなりの家の子だよね。スベスべ……ええい、もう。いちいち長いな。マンジュウガニでいいや。そのマンジュウガニ食べないでしょ。食堂なり購買なり行くでしょ」
いや、まあ。白夜のバックボーンを利用すれば、絶対に事故で済まされてしまうだろうけれど。だからといって殺すのはよくない。
あれ、お前この間は社会的に殺そうぜとかいってキャッキャ、キャッキャとクズ組武闘派幹部とはしゃいでたじゃんとか思うかもしれないけれど、あれは冗談だから。本当にそんなことするわけないし。うん、するわけな……。え、しないよね。ええ、もしかしてあの人達、本当にやる気なのかな。やる気じゃなくて、殺す気と書いてやるきと読むっていう。あれ、本気だったの。ええ、うそお。
「だから悪魔さんの力を借りて、そこら辺の不合理な事実をなかったものに。ここら辺で獲れるスベスベマンジュウガニはテトロドトキシンに加え、ゴニオトキシンとサキシトキシンを持ってるみたいなんです。なかでもテトロドトキシンが強くて、この小さな一匹で約千マウスユニットあるんですよ。だから十匹も食べれば十分過ぎるくらいですし、更にこれで死ねば日本で初めてスベスベマンジュウガニを食べて死んだ人間としてウィキペディアにも載るし、ダーウィン賞受賞も待ったなしの名誉な死に方になるんです」
そんなキラキラした顔で言われても駄目なものは駄目だから。メッてしちゃうからね。ムーミンとか不名誉なあだ名付けられて意思が弱く見える僕だって、本当に駄目なものは駄目って言うんだから。だからマジで、お前ムーミン呼び嫌じゃねえの。俺だったら登校拒否になるわあとか言う、白夜の声が頭の中で幻聴として聞こえてきたが、睦月は無視を決め込んだ。
「それは名誉じゃなくて不名誉だよ。本当にそんな死に方したら、僕だったら恥ずかしくて化けても出てこれないよ。……とにかく一度落ち着こうか。本当に殺しちゃうのはダメだからね。ダーウィン賞受賞云々は、ちょっとそっとしておいてあげよう。ただでさえ自分をヒロインとか言って黒歴史を自ら作り出してるんだから、これ以上傷口に塩を塗りたくる真似もしちゃダメ」
睦月から注意を受けた秋雪は、両頬をハムスターのようにぷくっと膨らまし、眉を寄せると顔を俯けた。それから、もういいです。先輩が分かってくれないなら、直接悪魔さんと交渉してきますと言い残すと、捕まってたまるかとでもいうようにして、すたこらさっさとクズ組の校舎に向かい、スベスベマンジュウガニの入った水槽を横脇に抱えながら走り出したのだった。
「ええええ。ちょ、ちょっと待って。本当にあの人達やりかねないから。なんか怪しい薬とか用意したりして、キメちゃってたから、なんかこう硬い食感の甲羅が堪んなかったんじゃないっすかね。だからあえて蟹を獲って食っちゃたんですよ。とか言いかねないから。あれ、あのこ元々の言動がそれっぽいから完全犯罪出来ちゃうかもしれないんじゃ。え、ええええ」
待ってアッキー、思い止まって。
睦月は椅子が倒れるほどの勢いで立ち上がると、慌てて秋雪のあとを追いかけたのだった。
この瞬間、錦木秋雪は、生まれて初めて殺意というものを覚えた。何故だか知らないが、彼は訳の分からないことを叫ぶ、見ず知らずの少女に肩を持たれ、体を強く揺さぶられていた。
ああ、なんだっけ。こんなことになるのならば、過去に起きた毒殺事件の手口を真面目に勉強し、隅々まで本なりインターネットの情報なりを読み込んでおくべきだったのだ。興味本位でウィキペディアを見ながら、おっかないなあなどと暢気にひとり言を言っている場合ではなかった。人生において何が役に立つかわからないのだから、博学であるに越したことはないというのに。
揺れる視界によってもたらされる吐き気と戦っていた秋雪は、それを誤魔化すために必死で思考を巡らせた。ちょっと正気ではないからか、自分自身でも意味の分からないことを考えてしまっているけれども。それでも学校で嘔吐してしまうよりは、何倍もましだというものだ。
「ち、ちょっと。このサイコホラー女。なに自分より小さい男の子いじめてんの。可哀想でしょうが。アンタのせいでこの子も今、あだ名がゲロリになりそうになってんじゃん。勝ち組の生徒なのにゲロリは、本気でシャレになんないし」
その時だ。クズ組の制服を着た少女が、秋雪を助けるように、彼を揺さぶっていた少女の手首を掴んだ。
それに驚いたのか、今まで女ではあり得ないほどの強い力で秋雪の肩を掴んでいた手がようやく離れ、やっと解放された秋雪は安堵の息を吐いたが、三半規管はすぐに正常に戻るわけもなく、彼が感じている不快な揺れは治らず、額にはどっと脂汗がにじみ出ていた。
「あ、星ちゃん。やっと私のサポートをしてくれる気になったのね。いま秋雪君とお話ししてたの。でもなんだか様子がおかしくって。秋雪君はこんな無愛想で無口な子じゃないのに。星ちゃんからも元の秋雪君に戻って、私のことちゃんと好きになってもらうようにお願いして」
いや、誰だよそれは。生まれてこの方ずっとこの性格だけど。そもそもお前とは初対面だし、しかもとてつもなく無礼だし。そんな相手をどうやって好きになれっていうのか。更には傷害事件で訴ることが出来そうなくらいに強く揺さぶられて。嫌悪感は増しても好印象に思うことなど一つもありやしないのだが。
秋雪は襲い来る嘔吐感をやり過ごすため、口元を手で押さえ目を閉じたまま、心の中で意味不明なことを言う女につっこんだ。
いや、待てよ。実は自分の知らないところで双子の弟でもいるのじゃなかろうか。先祖を辿れば我が家は世が世なら、そこそこの禄がある一国の城主である本家筋だから。もしかして古すぎて化石のようになるくらいに廃れた慣習に則り、生まれた時に不吉だからと片割れは養子にでも出されたのだろうか。だとすれば申し訳ない。今すぐにでも我が家に戻ってきてもらって、これからは家族として過ごしていかなければ。
突然の出来事に混乱した秋雪は、普段の自分ならば鼻で笑うようなあり得ないことを真剣に考えていた。もう彼の頭の中は、居もしない双子の弟に今後どうやって償っていくかということでいっぱいだった。ここに茅でもいれば、アンタ馬鹿じゃないのという、簡単な一言で目を覚まさせてくれただろうが、残念ながら自由人の彼は、必要な時に限って居ないというのがデフォルトだった。
「なんで私がよく知らない子に、あんたみたいなサイコホラーを好きになってあげてねって、お願いしなきゃなんないの。むしろ全力で逃げてほしいわ。そもそもあんたね。まだ自分がヒロインだとか、そんな頭湧いたこと言ってんの。そんなにイケメンに好かれたいなら、まずいかれた性格をなんとかしな。顔だけはハル達と一緒で無駄にいいんだから、黙っとけば勝手に男が寄ってくるでしょうよ。今のままじゃ、あんたのいう攻略対象の男達は全員ドン引き。ちびなんてどうやって殺そうかなあとか、毎日言ってんだけど。こっちがチビリそうなくらい怖いから、ほんと止めてくんない」
星と呼ばれたクズ組の少女は、必死にいかれた女の視線を自分に集めるため、女の手首を離さずに話し続けている。その間に彼女は秋雪に対し、目で早く逃げろと訴えていた。いや、そんなことは出来ないと秋雪は首を振ったが、彼女はいいからさっさと行けと空いている手の平を、まるで犬でも追い払うかのように振ったのだった。
「……このご恩は、絶対に忘れません。必ずやお礼に伺います」
秋雪は恩人に一礼すると、彼女の思いを無駄にしてはならないと足早にその場を去った。
そうして自分の教室に無事戻った秋雪は、いかれた女の手首を必死に掴んでいた彼女の手が、僅かに震えていたのを思い出し、なんと自分は脆弱なのだろうかと嘆き、彼女をあの場に置き去りにしたことを後悔した。自身のあまりの情けなさを幾日か嘆き、深く深く後悔をし、そうして恩返しをするにはこれしかないと編み出した方法が、いま彼の手の中にあるものだった。
「え、ええっと。ス、スベスベマンジュウガニ。……え、なんで。なにそれ」
梅平睦月は、生徒会室にある自分のデスクに肘をつき頭を抱えた。彼は珍しく同じ生徒会役員である後輩の錦木秋雪から、相談があると言われ話を聞いていたのだが、ちょっと色々な話の流れと、この目の前の小さな水槽で蠢く艶々とした丸い甲羅を持つ数匹の蟹とが、何故結びつくのか理解出来ないでいた。
「毒殺と言ったら、やっぱりテトロドトキシンかなって思ったんです。クサフグとかだとありふれ過ぎてバレちゃうかなって思って。あの女馬鹿そうだから、スベスベマンジュウガニの味噌汁を食べたら好きになるとかなんとか適当なこと言ったら、十匹くらい殻ごとペロッと食べてあの世に行くかなって」
まだ中学一年生と言っても通じそうな。そんな幼いけれど、女の子のような可愛らしい顔をこてっと傾けながら、秋雪は唸る睦月を不思議そうに見ていた。
彼の表情は心底、意味がわからないと物語っている。こんなに良い方法を思いついたのに、なんで褒めてくれないのと。
「いやいや、意味がわかんないよ」
大人しくて可愛い後輩だと思っていたのに、知りたくない意外な一面があったようだと睦月は大きな溜息を吐いた。
彼のことをお約束で表現するならば、一度も染めたことのなさそうな濡烏色をしたサラサラの髪をワイルドツーブロックにし、セミウェットにスタイリングしたネープレス無造作ショートマッシュなのだけれど、なぜかビジカジでもあり、ジェントルマンでもあるという。どうしてそんなに対極にある言葉を選んでしまうのか。あなたは中高でちゃんと現文と英語の授業を受けてましたかと美容師に問い質したくなるような。字面だけ見るとかなりの難解な髪型だけれど。結局それって、ほんのちょっとスタイリッシュな坊ちゃん刈りですよね。そう言いたくなる髪型が、実に似合うイケメンだ。だって、ただの坊ちゃん刈りなのに彼がしているだけで、何故かお洒落に見えちゃうんだもの。
「このスベスベマンジュウガニは、学院の近くの浜辺で獲ったやつですし、あの女はあんな感じだから友達いなさそうだし。お腹すいて毒性があるのを知らずに食べて死んだっていう、悲しい事故に出来るんじゃないかと。どっちにしろ先輩と仲良しの悪魔さんの力を借りたらいけるかなって思うんです」
「色々と荒いよ。荒過ぎだよ。どこの金持ち校に、お腹が減ったからって、野生のスベスベマンジュウガニを獲って食べる女の子がいるのかな。あの子だってこの学校に通ってるんだから、それなりの家の子だよね。スベスべ……ええい、もう。いちいち長いな。マンジュウガニでいいや。そのマンジュウガニ食べないでしょ。食堂なり購買なり行くでしょ」
いや、まあ。白夜のバックボーンを利用すれば、絶対に事故で済まされてしまうだろうけれど。だからといって殺すのはよくない。
あれ、お前この間は社会的に殺そうぜとかいってキャッキャ、キャッキャとクズ組武闘派幹部とはしゃいでたじゃんとか思うかもしれないけれど、あれは冗談だから。本当にそんなことするわけないし。うん、するわけな……。え、しないよね。ええ、もしかしてあの人達、本当にやる気なのかな。やる気じゃなくて、殺す気と書いてやるきと読むっていう。あれ、本気だったの。ええ、うそお。
「だから悪魔さんの力を借りて、そこら辺の不合理な事実をなかったものに。ここら辺で獲れるスベスベマンジュウガニはテトロドトキシンに加え、ゴニオトキシンとサキシトキシンを持ってるみたいなんです。なかでもテトロドトキシンが強くて、この小さな一匹で約千マウスユニットあるんですよ。だから十匹も食べれば十分過ぎるくらいですし、更にこれで死ねば日本で初めてスベスベマンジュウガニを食べて死んだ人間としてウィキペディアにも載るし、ダーウィン賞受賞も待ったなしの名誉な死に方になるんです」
そんなキラキラした顔で言われても駄目なものは駄目だから。メッてしちゃうからね。ムーミンとか不名誉なあだ名付けられて意思が弱く見える僕だって、本当に駄目なものは駄目って言うんだから。だからマジで、お前ムーミン呼び嫌じゃねえの。俺だったら登校拒否になるわあとか言う、白夜の声が頭の中で幻聴として聞こえてきたが、睦月は無視を決め込んだ。
「それは名誉じゃなくて不名誉だよ。本当にそんな死に方したら、僕だったら恥ずかしくて化けても出てこれないよ。……とにかく一度落ち着こうか。本当に殺しちゃうのはダメだからね。ダーウィン賞受賞云々は、ちょっとそっとしておいてあげよう。ただでさえ自分をヒロインとか言って黒歴史を自ら作り出してるんだから、これ以上傷口に塩を塗りたくる真似もしちゃダメ」
睦月から注意を受けた秋雪は、両頬をハムスターのようにぷくっと膨らまし、眉を寄せると顔を俯けた。それから、もういいです。先輩が分かってくれないなら、直接悪魔さんと交渉してきますと言い残すと、捕まってたまるかとでもいうようにして、すたこらさっさとクズ組の校舎に向かい、スベスベマンジュウガニの入った水槽を横脇に抱えながら走り出したのだった。
「ええええ。ちょ、ちょっと待って。本当にあの人達やりかねないから。なんか怪しい薬とか用意したりして、キメちゃってたから、なんかこう硬い食感の甲羅が堪んなかったんじゃないっすかね。だからあえて蟹を獲って食っちゃたんですよ。とか言いかねないから。あれ、あのこ元々の言動がそれっぽいから完全犯罪出来ちゃうかもしれないんじゃ。え、ええええ」
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