7 / 21
1
帰郷
魔馬車に揺られて3日ほど。ヴェスベール伯爵家の領地まで帰ってくる。
久しぶりに帰ってきたヴェスベールの屋敷は視線の高さが違うせいか昔よりも少し小さく感じた。蔦の絡まるレンガ造りの屋敷は古風さを湛えながらも上品さも内包している……見ていて落ち着く風景だ。
「姉様!」
「ユベール」
屋敷の外観を観察していると中から私が帰宅したことを聞きつけたのか、弟のユベールが出てきて私に抱き着いてきた。今年で12になるユベールは私の胸辺りまでの大きさに成長している。でも未だに甘え盛りの様で、嬉しくなると抱き着いて甘えてくるところは昔と変わらないようだ。私よりも色素の強い漆黒の髪を軽く撫でてやると嬉しそうに微笑むのが可愛い。
「ユベール、イリアが帰って来たなら抱き着いてないでさっさと家に案内しなさい」
「は~い」
何時までも外で時間をくっていたせいだろう。気づかぬうちに近くにいた母様が私とユベールに指摘する。それを聞いてユベールが素直に私の手を引いて室内に案内してくれた。
***
「それでイリア、早速縁談の件ですが――」
「はい」
リビングのソファに母様と対峙して座る。隣にはまだ私の手を握ったままのユベールが不思議そうな顔で緊張した面持ちの私を見つめていた。
「お見合いの日程は三日後です。貴女のドレスは既に発注してあるので、合わせておいてください」
「……わかりました」
もう決意を固めた私にそれを断る理由はなかった。正直今の私にとってはレイ以外の男はどれも大差がない……だって、彼以外の男性と言うものに興味を持ったことすらなかったのだ。だから母様が話す相手の情報など右から左に流していた。
「姉様……お見合いをするのですか?レイナルド様は?」
けれど母様の話が終わる直前、ユベールの口から出てきた言葉はまさに青天の霹靂だった。
「イリアの見合い相手は彼ではありません……別の人と結婚するのですよ」
「なんで?だって姉様はレイナルド様の事が好きなんじゃ?母様も結婚は好きな人同士でするって言っていました」
「…………」
その言葉に私は思わず言葉を失う。きっとユベールは純粋な疑問で言っているのだ。世の中には叶わない気持ちの方が多いことを彼は知らない……せめて私のこの可愛い弟には失恋なんていう気持ちは味わってほしくないなと思う。彼にはちゃんと好きな人と結婚してほしい。母様の私に対する気持ちはこの感情と似ているのだろう。
彼女は私の幸せのために最善の選択をしてくれたのだと思う。……今がどれだけ辛くても、きっと私は――――。
「そうよ、ユベール。私は結婚する人の事を”好き ”になるためにお見合いするの。だから母様のいうことは間違っていないわ」
「……そう、ですか」
ユベールはまだ納得していないようだったが、口から出まかせで誤魔化す。
弟に辛い現実を見せたくなかったの半分、これ以上惨めな気持ちになりたくなかったのが半分。私は誤魔化して偽ってばかりだな、と思う……自分の言葉も……気持ちも。
久しぶりに帰ってきたヴェスベールの屋敷は視線の高さが違うせいか昔よりも少し小さく感じた。蔦の絡まるレンガ造りの屋敷は古風さを湛えながらも上品さも内包している……見ていて落ち着く風景だ。
「姉様!」
「ユベール」
屋敷の外観を観察していると中から私が帰宅したことを聞きつけたのか、弟のユベールが出てきて私に抱き着いてきた。今年で12になるユベールは私の胸辺りまでの大きさに成長している。でも未だに甘え盛りの様で、嬉しくなると抱き着いて甘えてくるところは昔と変わらないようだ。私よりも色素の強い漆黒の髪を軽く撫でてやると嬉しそうに微笑むのが可愛い。
「ユベール、イリアが帰って来たなら抱き着いてないでさっさと家に案内しなさい」
「は~い」
何時までも外で時間をくっていたせいだろう。気づかぬうちに近くにいた母様が私とユベールに指摘する。それを聞いてユベールが素直に私の手を引いて室内に案内してくれた。
***
「それでイリア、早速縁談の件ですが――」
「はい」
リビングのソファに母様と対峙して座る。隣にはまだ私の手を握ったままのユベールが不思議そうな顔で緊張した面持ちの私を見つめていた。
「お見合いの日程は三日後です。貴女のドレスは既に発注してあるので、合わせておいてください」
「……わかりました」
もう決意を固めた私にそれを断る理由はなかった。正直今の私にとってはレイ以外の男はどれも大差がない……だって、彼以外の男性と言うものに興味を持ったことすらなかったのだ。だから母様が話す相手の情報など右から左に流していた。
「姉様……お見合いをするのですか?レイナルド様は?」
けれど母様の話が終わる直前、ユベールの口から出てきた言葉はまさに青天の霹靂だった。
「イリアの見合い相手は彼ではありません……別の人と結婚するのですよ」
「なんで?だって姉様はレイナルド様の事が好きなんじゃ?母様も結婚は好きな人同士でするって言っていました」
「…………」
その言葉に私は思わず言葉を失う。きっとユベールは純粋な疑問で言っているのだ。世の中には叶わない気持ちの方が多いことを彼は知らない……せめて私のこの可愛い弟には失恋なんていう気持ちは味わってほしくないなと思う。彼にはちゃんと好きな人と結婚してほしい。母様の私に対する気持ちはこの感情と似ているのだろう。
彼女は私の幸せのために最善の選択をしてくれたのだと思う。……今がどれだけ辛くても、きっと私は――――。
「そうよ、ユベール。私は結婚する人の事を”好き ”になるためにお見合いするの。だから母様のいうことは間違っていないわ」
「……そう、ですか」
ユベールはまだ納得していないようだったが、口から出まかせで誤魔化す。
弟に辛い現実を見せたくなかったの半分、これ以上惨めな気持ちになりたくなかったのが半分。私は誤魔化して偽ってばかりだな、と思う……自分の言葉も……気持ちも。
あなたにおすすめの小説
【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く
紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?
【完結】裏切られたあなたにもう二度と恋はしない
たろ
恋愛
優しい王子様。あなたに恋をした。
あなたに相応しくあろうと努力をした。
あなたの婚約者に選ばれてわたしは幸せでした。
なのにあなたは美しい聖女様に恋をした。
そして聖女様はわたしを嵌めた。
わたしは地下牢に入れられて殿下の命令で騎士達に犯されて死んでしまう。
大好きだったお父様にも見捨てられ、愛する殿下にも嫌われ酷い仕打ちを受けて身と心もボロボロになり死んでいった。
その時の記憶を忘れてわたしは生まれ変わった。
知らずにわたしはまた王子様に恋をする。
いつも隣にいる
はなおくら
恋愛
心の感情を出すのが苦手なリチアには、婚約者がいた。婚約者には幼馴染がおり常にリチアの婚約者の後を追う幼馴染の姿を見ても羨ましいとは思えなかった。しかし次第に婚約者の気持ちを聞くうちに変わる自分がいたのだった。
立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
【完結】他の人が好きな人を好きになる姉に愛する夫を奪われてしまいました。
山葵
恋愛
私の愛する旦那様。私は貴方と結婚して幸せでした。
姉は「協力するよ!」と言いながら友達や私の好きな人に近づき「彼、私の事を好きだって!私も話しているうちに好きになっちゃったかも♡」と言うのです。
そんな姉が離縁され実家に戻ってきました。