彼の事はもう諦めようと思います 【完結済み】

皇 翼

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帰郷

魔馬車に揺られて3日ほど。ヴェスベール伯爵家の領地まで帰ってくる。


久しぶりに帰ってきたヴェスベールの屋敷は視線の高さが違うせいか昔よりも少し小さく感じた。蔦の絡まるレンガ造りの屋敷は古風さを湛えながらも上品さも内包している……見ていて落ち着く風景だ。

「姉様!」
「ユベール」

屋敷の外観を観察していると中から私が帰宅したことを聞きつけたのか、弟のユベールが出てきて私に抱き着いてきた。今年で12になるユベールは私の胸辺りまでの大きさに成長している。でも未だに甘え盛りの様で、嬉しくなると抱き着いて甘えてくるところは昔と変わらないようだ。私よりも色素の強い漆黒の髪を軽く撫でてやると嬉しそうに微笑むのが可愛い。

「ユベール、イリアが帰って来たなら抱き着いてないでさっさと家に案内しなさい」
「は~い」

何時までも外で時間をくっていたせいだろう。気づかぬうちに近くにいた母様が私とユベールに指摘する。それを聞いてユベールが素直に私の手を引いて室内に案内してくれた。

***

「それでイリア、早速縁談の件ですが――」
「はい」

リビングのソファに母様と対峙して座る。隣にはまだ私の手を握ったままのユベールが不思議そうな顔で緊張した面持ちの私を見つめていた。

「お見合いの日程は三日後です。貴女のドレスは既に発注してあるので、合わせておいてください」
「……わかりました」

もう決意を固めた私にそれを断る理由はなかった。正直今の私にとってはレイ以外の男はどれも大差がない……だって、彼以外の男性と言うものに興味を持ったことすらなかったのだ。だから母様が話す相手の情報など右から左に流していた。

「姉様……お見合いをするのですか?レイナルド様は?」

けれど母様の話が終わる直前、ユベールの口から出てきた言葉はまさに青天の霹靂だった。

「イリアの見合い相手は彼ではありません……別の人と結婚するのですよ」
「なんで?だって姉様はレイナルド様の事が好きなんじゃ?母様も結婚は好きな人同士でするって言っていました」
「…………」

その言葉に私は思わず言葉を失う。きっとユベールは純粋な疑問で言っているのだ。世の中には叶わない気持ちの方が多いことを彼は知らない……せめて私のこの可愛い弟には失恋なんていう気持ちは味わってほしくないなと思う。彼にはちゃんと好きな人と結婚してほしい。母様の私に対する気持ちはこの感情と似ているのだろう。
彼女は私の幸せのために最善の選択をしてくれたのだと思う。……今がどれだけ辛くても、きっと私は――――。

「そうよ、ユベール。私は結婚する人の事を”好き ”になるためにお見合いするの。だから母様のいうことは間違っていないわ」
「……そう、ですか」

ユベールはまだ納得していないようだったが、口から出まかせで誤魔化す。
弟に辛い現実を見せたくなかったの半分、これ以上惨めな気持ちになりたくなかったのが半分。私は誤魔化して偽ってばかりだな、と思う……自分の言葉も……気持ちも。

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