どうやら婚約者の隣は私のものではなくなってしまったようなので、その場所、全てお譲りします。

皇 翼

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4.

首からかけていたペンダントに触れ、ドレスから男性にも女性にも見えるようなズボンシャツの軽装に服装を切り替える。いつもアクセサリーとしてつけている換装の魔道具だ。普段であれば、侍女に着替えを手伝ってもらうので、久々にこれを使った気がする。

そうして私は走り続けた。
ただ、前へ、前へと。進むこと以外は何も考えない。少しでも立ち止まってしまえば、これ以上動けなくなってしまう。捕まってしまうと思ったから。ただ逃げることだけに集中した。

王都のきらびやかな街並みが遠ざかるほどに、胸の奥の苦しさが増していく。足元の石畳がやがて硬い土へと変わり、やがて街道に出るころには、靴の底は擦り切れ、息も荒くなっていた。
それでも、止まるわけにはいかない。
普段は貴族の令嬢としてどんな移動も馬車であった。こんなに走ったのは初めてかもしれない。体力がないことは自覚している。それでも進むしかないのだ。足が膝まで擦り切れているのではないかと錯覚するくらいに痛かった。でも今までの辛さ、そしてこれからあそこにいたら感じていたであろう苦しさに比べたら耐えられる。それだけを糧に限界を超えてまで走り続けていた。

どこかで追っ手が迫っているかもしれない。いつ誰かに見つかるかもしれない。王族の婚約者として生きてきた私は、顔を知られている。立ち止まることは即ち捕まることと同じだった。
周囲が何も見えなくなるくらいの漆黒に包まれる頃、私は街道をずっと――眠ることなく走り続け、とある小さな街にたどりついた。

ユースべニアという初めて来た街。
息も切れ切れになりながら、服装を換装する前にとっておいた宝石のついた指輪や髪についていた装飾具、イヤリングを取り出す。
そして少し歩き回って見つけた質屋にそれのうちのいくつかを渡した。
貴族や王族の魔道具は宝飾品を使用して作ることが多い。魔道具自体の質を高めるためにも、自分で作成する際には自分で宝石などを選んでいたのが幸いした。そのおかげで大体の装飾の値段を知っていたのだ。だから、変に値切られたりせずに、正当な価格で売却することが出来た。

そうして手に入れたお金で、目についた宿に入った。
中は、今まで自分が住んでいた場所とは似ても似つかない。部屋全体に煙草のにおいが染みついていて、ベッドもなんだかかび臭い。それでも元の場所に比べれば、楽園にすら見えた。
最低限、雨風をしのげれば、今はなんでもいい。周囲の安全性は自分で守ればいいのだから。周囲に物理・魔法に対する結界と人間や魔物が入れないように厳重に防御を固めた。
魔力を使いすぎて、もうくたくただ。起きてから浴びればいいと、ベッドにそのまま倒れこんだ。

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