どうやら婚約者の隣は私のものではなくなってしまったようなので、その場所、全てお譲りします。

皇 翼

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6.

荷運び用の馬車は、ありえないくらいに臭くて、ありえないくらいにお尻が痛くなる場所だった。そのうえ、私の他に五人ほど乗客がいるので、座ったまま眠るしかない。女が一人、子供と男連れできっと家族なのだろう。そして残り二人はフードを深くかぶった男。人間的な警戒心は家族連れがいるので多少は和らぐが、気は抜けない。常に、いつでも戦えるように準備しておく。
このフレストブルグから出るまで三日程この旅は続く。そのくらいの間であれば、警戒する体力はなんとか持つだろう。

家族連れが騒がしいだけで、私も二人組の男たちも身動ぎすらしない。
ただ、国境を越えて、別の国――ジョルカ共和国に到着することを待っていた。

そんな時間が1日と少し経った頃だろうか。馬車が急停車する。
そしてそれと同時に馬車全体に衝撃が走った。完全なミスだ。馬車の中ばかりに警戒して、外への警戒を怠っていた。

「あぁ、あ゛あ、た、助けてくれ!!!」

御者がこちらの貨物が乗っている方向に逃げてくる。
彼の身体は右腕が吹き飛び、重症だった。外に、『何か』がいる。それが明確に分かるほどの傷。

私は、自分の身を守るために外に出た。
同時に、周囲全方向に防御結界の魔道具を発動させる。周囲の木ガ倒れ、砂煙が舞う中で敵の姿をとらえた。
ラミアーだ。下半身は蛇、上半身は人間の女のような姿の魔物。しかし上半身にも明確に人間の女と違うところがある。それは、三対の腕。合計六本のその腕が、異形さを引き立てていた。
危険度レベルC。熟練の冒険者が一人で狩るレベル。一般人からすると、手のうちようがないだろう。
しかもその手には剣が握られており、そのままこちらに突っ込んできた。一撃、二撃と防御結界で自動的に弾き返される。しかしながら、流石は魔物と言ったところか。馬車から数十メートル程奥に弾かれた。
危なかった。何の訓練も積んでいない、騎士見習いとどっこいくらいの戦闘慣れレベルの元貴族の女には、前準備なしには防げなかっただろう。

だが、剣戟が弾き返されたのがラミアーは気に食わなかったようで、蛇の威嚇のような音を出してこちらを睨みつけていた。
正直とてつもなく怖い。死ぬのではないかと心から思っているし、少しでもミスをしたら私はすぐにでも魔物にミンチにされるだろう。
でもーー。

「私は、こんなところで死ぬわけにはいかないの!!!」

心の底からの叫び声だった。
せっかくあの場所から抜け出してきたのに、こんなくだらないC級レベルの魔物にやられるわけにはいかない。
魔道具はそのままに、自身の周囲に炎の魔法陣を展開させる。自分ごと燃やし尽くすくらいに、この場所から何もかもを消してしまうくらいに。

炎の禍嵐アグニス・ストーム

防御結界が壊れそうなくらいに激しく、強く、その炎は燃え上がった。今まで修練含めて出した中で一番強いものが出てきた。
1分ほど燃やしていただろうか。防御結界にもピシピシとヒビが入り、滝のような汗をかくくらいに周囲が熱い。この全てに於いて高い防御力を誇る結界の中にいる状態でも、だ。
流石に温度的にも限界を迎えたので、魔法を解いた。

「消し炭になってる……」

目の前には、中心まで炭になったラミアー。
こうして私は命を繋いだのだった。

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