どうやら婚約者の隣は私のものではなくなってしまったようなので、その場所、全てお譲りします。

皇 翼

文字の大きさ
8 / 26

7.

「危ない!!右によけろ!!!」

気が高ぶっていたおかげだろう。反射的に身体が言われた通りの方向に動く。しかし、避けはしたが、こけて座り込んでしまった。
同時に身体から30センチほど離れた左側の地面に衝撃が走り、地面が抉れた。魔道具の魔法を解いていたので、あのままあそこにいたら、ミンチになっていたと寒気がした。
振り返るとそこにいたのは先程倒したのとは別のラミアー。この魔物は、基本的には単独行動のはずだが。生殖前の姉妹や親子だったのかもしれない。思い込みで完全に油断していた。
またラミアーがこちらに刃を振り下ろそうとしたのが見えたと同時に、目の前を大きな背中が遮った。

「下がってろ」

フードを深々とかぶっていた男のうちの一人が、ラミア―を縦に真っ二つにする。
悲鳴を上げることもできずに絶命するラミアーをただ茫然と眺めることしかできなかった。それくらいに一瞬の出来事。
あまりにも鮮やかだった。大剣を背中のホルダーに掛けながらこちらを振り向く。190近くあるだろうか。私が座り込んでいることもあり、威圧感がある。

「大丈夫か?怪我は?」
「ありません。転んで足を擦りむいたくらいです」
「セルジュ。治療を」

セルジュと呼ばれたもう一人のフードを被っていた男が駆け寄ってくる。
彼が私の足に手をかざすと、私の足にあった擦り傷は一瞬のうちに消えた。医療系の魔法を使ってくれたらしい。すんなりと、とてつもなくすごいことをされたことに驚く。医療系の魔法は一種の才能だ。使える者は、世界中でも限られている。そもそもが、魔法すら使える者が限られるのに、医療系の魔法を使える人間はもっと限られる。大体が王侯貴族お抱えの魔法使いになる故に、その辺にいるものではない。
改めて観察してみる。この二人組の男は戦闘、サポート面からして、かなりの実力者のようだ。果たして、何者なのだろうか。
少し、警戒してしまう。それに気付いているのか、気付いていないのかは分からないが、彼らは続けて話しかけて――こようとしたが、それを別の声が遮った。

「貴女!!私達家族を救ってくれて、どうもありがとう!!本当に、本当にありがとう!!この子に、怪我がなくて、生きていてよかった。言葉だけでは伝えられないくらいに感謝しています……!」
「本来であれば、一番身軽な僕が最初に立ち向かうべきだったのに……情けないことに身体が動かなかったんだ。僕たち4人の命を守ってくれて、本当にありがとう」

荷馬車の中にいた夫婦が話しかけてくる。女性、男性、子供の3人だったはずだとよくよく見てみると、女性は少しお腹が大きくなっていた。妊娠しているようだ。
なるほど、と思った。それと同時に、感謝されたことに対して罪悪感が湧いてくる。私は私自身の安全だけを考えて動いていた。だって、心に余裕なんてなかったから。それなのに、この二人はこんなにも感謝してくれている。
私は自分の身だけ守って、荷馬車に残されていた人たちなんて何も気にしていなかったのに――。

ありがとう、ありがとうと何度も伝えてくる夫婦に、私は何も言えなかった。

あなたにおすすめの小説

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

婚約者は妹のような幼馴染みを何より大切にしているので、お飾り妻予定な令嬢は幸せになることを諦めた……はずでした。

待鳥園子
恋愛
伯爵令嬢アイリーンの婚約者であるセシルの隣には『妹のような幼馴染み』愛らしい容姿のデイジーが居て、身分差で結婚出来ない二人が結ばれるためのお飾り妻にされてしまうことが耐えられなかった。 そして、二人がふざけて婚姻届を書いている光景を見て、アイリーンは自分の我慢が限界に達そうとしているのを感じていた……のだけど!?

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、 あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。 ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。 けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。 『我慢するしかない』 『彼女といると疲れる』 私はルパート様に嫌われていたの? 本当は厭わしく思っていたの? だから私は決めました。 あなたを忘れようと… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~

黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。

【完】ある日、俺様公爵令息からの婚約破棄を受け入れたら、私にだけ冷たかった皇太子殿下が激甘に!?  今更復縁要請&好きだと言ってももう遅い!

黒塔真実
恋愛
【2月18日(夕方から)〜なろうに転載する間(「なろう版」一部違い有り)5話以降をいったん公開中止にします。転載完了後、また再公開いたします】伯爵令嬢エリスは憂鬱な日々を過ごしていた。いつも「婚約破棄」を盾に自分の言うことを聞かせようとする婚約者の俺様公爵令息。その親友のなぜか彼女にだけ異様に冷たい態度の皇太子殿下。二人の男性の存在に悩まされていたのだ。 そうして帝立学院で最終学年を迎え、卒業&結婚を意識してきた秋のある日。エリスはとうとう我慢の限界を迎え、婚約者に反抗。勢いで婚約破棄を受け入れてしまう。すると、皇太子殿下が言葉だけでは駄目だと正式な手続きを進めだす。そして無事に婚約破棄が成立したあと、急に手の平返ししてエリスに接近してきて……。※完結後に感想欄を解放しました。※

誰からも必要とされていないから出て行ったのに、どうして皆追いかけてくるんですか?

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢ミリーシャは、自身が誰からも必要とされていないことを悟った。 故に彼女は、家から出て行くことを決めた。新天地にて、ミリーシャは改めて人生をやり直そうと考えたのである。 しかし彼女の周囲の人々が、それを許さなかった。ミリーシャは気付いていなかったのだ。自身の存在の大きさを。

『婚約者を大好きな自分』を演じてきた侯爵令嬢、自立しろと言われたので、好き勝手に生きていくことにしました

皇 翼
恋愛
「リーシャ、君も俺にかまってばかりいないで、自分の趣味でも見つけて自立したらどうだ?正直、こうやって話しかけられるのはその――やめて欲しいんだ……周りの目もあるし、君なら分かるだろう?」 頭を急に鈍器で殴られたような感覚に陥る一言だった。 彼がチラリと見るのは周囲。2学年上の彼の教室の前であったというのが間違いだったのかもしれない。 この一言で彼女の人生は一変した――。 ****** ※タイトル少し変えました。 ・暫く書いていなかったらかなり文体が変わってしまったので、書き直ししています。 ・トラブル回避のため、完結まで感想欄は開きません。

幼馴染の元カノを家族だと言うのなら、私は不要ですよね。

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
 実るはずのない初恋は、告白も出来ぬままに終わった。  私リュシカが恋をした相手は、十五歳年上の第一騎士団の団長。彼は亡くなった母の友人であり、母たちと同じ頃に結婚したものの、早くに奥さんを私の母と同じ流行病で亡くしてしまった。  それ以来独身の彼は、ただ亡くなった奥さんを思い生きてきた。そんな一途な姿に、いつしか私は惹かれていく。  しかし歳の差もあり、また友人の子である私を、彼が女性として認めることはなかった。    私は頑なに婚約者を作ることを拒否していたものの、父が縁談を持ってくる。結婚適齢期。その真っただ中にいた私は、もう断ることなど出来なかった。  お相手は私より一つ年上の男爵家の次男。元々爵位を継ぐ予定だった兄が急死してしまったため、婚約者を探していたのだという。  花嫁修業として結婚前から屋敷に入るように言われ赴くと、そこには彼の幼馴染だという平民の女性がいた。なぜか彼女を中心に回っている屋敷。  そのことを指摘すると彼女はなぜか私を、自分を虐げる存在だと言い始め――