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8.
荷馬車の方に戻ると、御者の腕は再生されていたが、ショックと精神的負担が大きかったのか気絶してしまっていた。今日はここで野宿することになりそうだ。
暫くの間、足止めされる覚悟をしなければならない。
荷馬車の方では家族が無事の喜びを伝えあっていたが、そこから見える範囲くらいの場所で少し一人になる。
初めてあんな魔物と戦ったこともあり、精神的に疲労していた。
そこにフードを被った男の大剣を背負った方が近付いてきて、話しかけてきた。
「お前、勇敢なんだな。この国の騎士とかか?」
「いいえ。ただの一般人です。それに、私は勇敢なんかじゃありませんよ。ただの臆病者です。何もかもから逃げ出した臆病者」
さっきだって荷馬車から出て戦ったのは、逃げることができないと悟っていたから。ラミア―の移動速度、獲物を狙う執拗さを知っていたから。
文字通り死に物狂いで戦った。
そして、ここに来る切っ掛けも、国から、立場から、家から、婚約者から逃げて来た結果だった。私は逃げ続けている。これからもそれは変わらないのかもしれない。
「でも、生きることからは逃げなかっただろう。必死で戦って生きているのがその証左だ。それに、別に逃げても良いだろう。お前の人生だ。自由に生きればいい」
その言葉に顔を上げる。
まさか肯定されるとは思っていなかったからだ。むしろ、失望されると思っていた。私を『勇敢だ』と称して、期待した彼に。
それと同時に、その言葉に少し救われたような気持ちになる。自由に生きていいのだ。逃げても良いのだと肯定してもらえたことは大きかった。
「そういえば、まだ名前を聞いていなかったな。俺はレオンハルト。訳があって、家名は言えないが。お前は?」
「……ミアータ」
「そうか。ミアータか。よい名前だ。では、ミアータ。この旅が終わるまで、よろしく頼む」
手を差し出されたので、軽く握手を交わす。
彼の手にはタコが潰れた後が複数あり、端正な顔とは見合わずゴツゴツしていた――。
******
「夜ご飯の準備はできていますよ。一緒に食べましょう」
家族の父親が全て用意してくれていたようで、荷馬車の方に戻ると声を掛けてくる。
パンと温かいスープを手渡された。ご飯の準備を頼んでいたわけではないが、完全に好意でやってくれたらしい。まだ罪悪感は残っていたが、受け取らないのも不自然なので、差し出されたそれを受け取った。
レオンハルトもセルジュと呼ばれていた医療魔法の使い手も同じように受け取っていた。
「僕らは、親戚の家族の家に移住するためにこの荷馬車に乗っているんですよー。この国も、王都から離れれば離れるほどに、最近は治安が悪くなっていますからね。僕の実家にこれからはお世話になる予定です。騎士の叔父がいるので」
家族は楽しそうに、これからの未来について語っている。
そこで、家族を守れる強さを手に入れるために、鍛えてもらいたいとも彼は語っていた。貴女たちのように強くなりたいと言い切り、強い決心があるようだった。
「貴方がたはどこか目的地があるのですか?って、あ!その、守秘義務とかがあるのであれば、答えなくても全然――」
目的地と言われて、私は何も決めていなかったことに気が付く。ただ、誰も私を知らない土地へという抽象的な考えしかなかったのだ。
「俺達二人はアストラディア帝国に帰る途中だ」
アストラディア帝国。
立憲寄りの皇政政治で統治されている国。首都はルクシオン、人口は3000万程の大国だったはずだ。ジョルカ共和国よりももっと大陸の西側に位置している。
彼らの度はまだまだ長いということだ。
これ以降はレオンハルトが家族たちとずっと話を振って喋っていたので、助かったような思いになった。
だって、私には話せることなんて何もなかったから。過去を捨て、未来も何も見えていない。暗闇の中にいるような人間なのだと改めて、不安な気持ちになってしまった。
暫くの間、足止めされる覚悟をしなければならない。
荷馬車の方では家族が無事の喜びを伝えあっていたが、そこから見える範囲くらいの場所で少し一人になる。
初めてあんな魔物と戦ったこともあり、精神的に疲労していた。
そこにフードを被った男の大剣を背負った方が近付いてきて、話しかけてきた。
「お前、勇敢なんだな。この国の騎士とかか?」
「いいえ。ただの一般人です。それに、私は勇敢なんかじゃありませんよ。ただの臆病者です。何もかもから逃げ出した臆病者」
さっきだって荷馬車から出て戦ったのは、逃げることができないと悟っていたから。ラミア―の移動速度、獲物を狙う執拗さを知っていたから。
文字通り死に物狂いで戦った。
そして、ここに来る切っ掛けも、国から、立場から、家から、婚約者から逃げて来た結果だった。私は逃げ続けている。これからもそれは変わらないのかもしれない。
「でも、生きることからは逃げなかっただろう。必死で戦って生きているのがその証左だ。それに、別に逃げても良いだろう。お前の人生だ。自由に生きればいい」
その言葉に顔を上げる。
まさか肯定されるとは思っていなかったからだ。むしろ、失望されると思っていた。私を『勇敢だ』と称して、期待した彼に。
それと同時に、その言葉に少し救われたような気持ちになる。自由に生きていいのだ。逃げても良いのだと肯定してもらえたことは大きかった。
「そういえば、まだ名前を聞いていなかったな。俺はレオンハルト。訳があって、家名は言えないが。お前は?」
「……ミアータ」
「そうか。ミアータか。よい名前だ。では、ミアータ。この旅が終わるまで、よろしく頼む」
手を差し出されたので、軽く握手を交わす。
彼の手にはタコが潰れた後が複数あり、端正な顔とは見合わずゴツゴツしていた――。
******
「夜ご飯の準備はできていますよ。一緒に食べましょう」
家族の父親が全て用意してくれていたようで、荷馬車の方に戻ると声を掛けてくる。
パンと温かいスープを手渡された。ご飯の準備を頼んでいたわけではないが、完全に好意でやってくれたらしい。まだ罪悪感は残っていたが、受け取らないのも不自然なので、差し出されたそれを受け取った。
レオンハルトもセルジュと呼ばれていた医療魔法の使い手も同じように受け取っていた。
「僕らは、親戚の家族の家に移住するためにこの荷馬車に乗っているんですよー。この国も、王都から離れれば離れるほどに、最近は治安が悪くなっていますからね。僕の実家にこれからはお世話になる予定です。騎士の叔父がいるので」
家族は楽しそうに、これからの未来について語っている。
そこで、家族を守れる強さを手に入れるために、鍛えてもらいたいとも彼は語っていた。貴女たちのように強くなりたいと言い切り、強い決心があるようだった。
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目的地と言われて、私は何も決めていなかったことに気が付く。ただ、誰も私を知らない土地へという抽象的な考えしかなかったのだ。
「俺達二人はアストラディア帝国に帰る途中だ」
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