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9.
御者の目が覚めて、最初はあの腕を斬られた出来事がフラッシュバックして叫び続けていたが、セルジュが精神安定魔法をかけてくれたので、落ち着いてくれたようだ。
しかしながら、まだ精神的に不安定ということでセルジュが時々隣に付きながら、休み休みでの旅となるらしい。
そして御者から聞いたことだが、いままでこの道を何度も使ってきたが、こんな風に魔物に襲われるようなことはなかったらしい。だからこそ、用心棒なども特に雇わずに平和ボケした状態で仕事を続けていたと。
最近急に魔物が狂暴化している影響からこのような急襲が起きたのだと個人的には考察していた。
いくつか通りがかった途中の街でも、魔物の狂暴化は市民の話題に上がっていた。そのどれもが、国が守ってくれるだろうからなんとかなるだろうと他力本願な結末に至っていたが。
これ以上襲われるのはまずいとのことで、私、レオンハルト、セルジュで周囲を交代制で警戒して次の街、次の街へと進みながら、結局当初の予定とは違い、1週間ほどかかって、やっとジョルカ共和国に到着したのだった。
「本当に、皆さん有難うございました。こちら、僕たちの新しい住居の住所なので、もし何かあったら気楽に頼ってください」
最後までぺこぺこと頭を下げられながら、家族連れと別れる。御者、レオンハルト、セルジュは何かを3人で話していたようだが、特に何も言うこともなかったので、私もそのままその場を離れた。
そうして苦労する旅が一時的に休息を迎えた私は、流石にジョルカ共和国に到着したのが夜だったこともあり、今日の宿を探すことにした……のだが。
「お客さん、ダメダメ!身分を証明できるものがない人は、危ないから泊められないヨー」
「その、フレストブルグから来たのですが、身分証は紛失してしまって――」
「それは気の毒ネー。でもダーメ。魔物が化けている可能性だってあるんだから、私だって他のお客さんの身を危険にさらせないんダヨー」
断られたのはこの宿で10軒目だ。
しかも、高級宿も、このクーレンという街で一番安いらしい宿も、どこも同じ理由――身分を証明しろとの理由で断られてしまっている。このまま野宿か歩いて次の街を目指すかと考えながら、街の中心地にある噴水広場のベンチで座っていたところで、思わぬ再会があった。
「先程ぶりだな、ミアータ」
「うえ……」
正直、この旅ではあまり知り合いは作りたくない。その気持ちから、私と同じように事情を持っていそうなこの人たちとはあまりこの人たちとは深く関わり合いになりたくないのだが、声を掛けられてしまった。
「うえ、とはなんですか。このレオンハルト様に失礼では?」
「セルジュ、やめろ」
「不快な反応をしてしまったことは申し訳ありませんでした。でも、疲れているし、考え事もあるので放っておいてもらえると助かります」
私はここでただボケっとしているのではない。
どうにかしてどこかで身体を休めたくて仕方がなかった。荷馬車での旅で、身体はもうあちこちが痛くて仕方がない。柔らかいベッド――いや、贅沢は言わないからせめてスプリングが多少はあるベッドで眠りたかった。
「……貴女、とても体調が悪いですが、動けないのですか?であれば、宿までお送りしますよ?」
「宿はとれな――いえ、なんでもないです。とにかく、体調についても放っておいてもらって大――」
「宿が取れなくて、困っているのか?この国は、最近魔物対策で国策として身分証明に対して厳しくなったらしいからな」
酷い疲労感から、口を滑らせてしまった自分を恨む。
自身の身分が証明できず、怪しいからという理由で宿にすら泊まれない。なんて滑稽なのだろうか。しかし、もうどうでもいい。笑いたければ笑えばいい。哀れだと思うなら、勝手に思っていてくれ。そう自暴自棄になるほどに起きているだけでしんどかった。
だって、この国に到着したら、ゆっくり休めるということを心の支えにして、あの今までの立場では考えられない程に悪辣な空間に耐えてきたのだ。少し、心も休ませてほしかった。
「何やら事情があるようだしな。その魔道具からしても」
「え……なんで魔道具のことを?」
「?今、俺たちに見えているのは、君の本来の姿じゃないんだろう。言っておくが、別に詮索はする気はない。ただ、荷馬車での移動中も助け合った仲だ。俺たちの泊まる予定の宿に別室を取ろう。そこに泊まると良い」
そう。私は自身の身分を隠すために、光魔法の屈折と少しの幻覚魔法を使用して、見る人によって違う容姿に映るようにしている。できるだけその人の印象に残らないものを直接脳から抽出し、誰にも声を掛けられないような姿を取っているはずだった。
それを見破っている上に、宿を代わりに取ってくれて泊めてくれるという。あまりにもこちら側に都合が良すぎる提案だったが、正直今はあまりの疲労感に疑っている余裕すらなかった。
それに1週間程を同じ空間で過ごしたこと、そして同じように事情を抱えているようなところがあるという一種の親近感のようなものもあったのかもしれない。
私は何も言わずに頷き、その提案を有難く受けることにした――。
******
あとがき:
月末までに5万文字以上更新予定なので、恋愛大賞の投票など応援いただけると嬉しいです。よろしくお願いいたします。
しかしながら、まだ精神的に不安定ということでセルジュが時々隣に付きながら、休み休みでの旅となるらしい。
そして御者から聞いたことだが、いままでこの道を何度も使ってきたが、こんな風に魔物に襲われるようなことはなかったらしい。だからこそ、用心棒なども特に雇わずに平和ボケした状態で仕事を続けていたと。
最近急に魔物が狂暴化している影響からこのような急襲が起きたのだと個人的には考察していた。
いくつか通りがかった途中の街でも、魔物の狂暴化は市民の話題に上がっていた。そのどれもが、国が守ってくれるだろうからなんとかなるだろうと他力本願な結末に至っていたが。
これ以上襲われるのはまずいとのことで、私、レオンハルト、セルジュで周囲を交代制で警戒して次の街、次の街へと進みながら、結局当初の予定とは違い、1週間ほどかかって、やっとジョルカ共和国に到着したのだった。
「本当に、皆さん有難うございました。こちら、僕たちの新しい住居の住所なので、もし何かあったら気楽に頼ってください」
最後までぺこぺこと頭を下げられながら、家族連れと別れる。御者、レオンハルト、セルジュは何かを3人で話していたようだが、特に何も言うこともなかったので、私もそのままその場を離れた。
そうして苦労する旅が一時的に休息を迎えた私は、流石にジョルカ共和国に到着したのが夜だったこともあり、今日の宿を探すことにした……のだが。
「お客さん、ダメダメ!身分を証明できるものがない人は、危ないから泊められないヨー」
「その、フレストブルグから来たのですが、身分証は紛失してしまって――」
「それは気の毒ネー。でもダーメ。魔物が化けている可能性だってあるんだから、私だって他のお客さんの身を危険にさらせないんダヨー」
断られたのはこの宿で10軒目だ。
しかも、高級宿も、このクーレンという街で一番安いらしい宿も、どこも同じ理由――身分を証明しろとの理由で断られてしまっている。このまま野宿か歩いて次の街を目指すかと考えながら、街の中心地にある噴水広場のベンチで座っていたところで、思わぬ再会があった。
「先程ぶりだな、ミアータ」
「うえ……」
正直、この旅ではあまり知り合いは作りたくない。その気持ちから、私と同じように事情を持っていそうなこの人たちとはあまりこの人たちとは深く関わり合いになりたくないのだが、声を掛けられてしまった。
「うえ、とはなんですか。このレオンハルト様に失礼では?」
「セルジュ、やめろ」
「不快な反応をしてしまったことは申し訳ありませんでした。でも、疲れているし、考え事もあるので放っておいてもらえると助かります」
私はここでただボケっとしているのではない。
どうにかしてどこかで身体を休めたくて仕方がなかった。荷馬車での旅で、身体はもうあちこちが痛くて仕方がない。柔らかいベッド――いや、贅沢は言わないからせめてスプリングが多少はあるベッドで眠りたかった。
「……貴女、とても体調が悪いですが、動けないのですか?であれば、宿までお送りしますよ?」
「宿はとれな――いえ、なんでもないです。とにかく、体調についても放っておいてもらって大――」
「宿が取れなくて、困っているのか?この国は、最近魔物対策で国策として身分証明に対して厳しくなったらしいからな」
酷い疲労感から、口を滑らせてしまった自分を恨む。
自身の身分が証明できず、怪しいからという理由で宿にすら泊まれない。なんて滑稽なのだろうか。しかし、もうどうでもいい。笑いたければ笑えばいい。哀れだと思うなら、勝手に思っていてくれ。そう自暴自棄になるほどに起きているだけでしんどかった。
だって、この国に到着したら、ゆっくり休めるということを心の支えにして、あの今までの立場では考えられない程に悪辣な空間に耐えてきたのだ。少し、心も休ませてほしかった。
「何やら事情があるようだしな。その魔道具からしても」
「え……なんで魔道具のことを?」
「?今、俺たちに見えているのは、君の本来の姿じゃないんだろう。言っておくが、別に詮索はする気はない。ただ、荷馬車での移動中も助け合った仲だ。俺たちの泊まる予定の宿に別室を取ろう。そこに泊まると良い」
そう。私は自身の身分を隠すために、光魔法の屈折と少しの幻覚魔法を使用して、見る人によって違う容姿に映るようにしている。できるだけその人の印象に残らないものを直接脳から抽出し、誰にも声を掛けられないような姿を取っているはずだった。
それを見破っている上に、宿を代わりに取ってくれて泊めてくれるという。あまりにもこちら側に都合が良すぎる提案だったが、正直今はあまりの疲労感に疑っている余裕すらなかった。
それに1週間程を同じ空間で過ごしたこと、そして同じように事情を抱えているようなところがあるという一種の親近感のようなものもあったのかもしれない。
私は何も言わずに頷き、その提案を有難く受けることにした――。
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あとがき:
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