17 / 26
16.
※かなり気持ち悪い描写があるので、グロ系苦手な方は注意してください。(表現はかなり柔らかめにしていますが)
******
「……何も、できなかった」
セルジュが悔しさからだろう、唇を噛んだ。彼であれば、ある程度の傷は治療できるが、そもそもその治療対象自体が連れ去られている状態だ。襲われかけて怪我をした街の住人の手当は終わった。だから、この場ではこれ以上は何もできることがない。
しかしながら、すでに連れていかれた者の方が人数的には多いだろう。
「辿ってくれるか?魔物たちの魔力の残滓を、どこに行ったのかを」
『お願い』という形だったのは、もしかしたらレオンハルトも多少の恐怖心を感じていたのかもしれない。彼らが行くというのであれば、私も共に行こう。
私は頷いて、地面に残る魔力の残滓に触れた。
「――辿ります」
街から出て、峡谷の方面へ。昨日通った通りとはまた別の――途中にある分かれ道を左に進み、岩の間にある補足小さな道を身体を縮めながら通り抜けていく。
そして、洞窟のような場所に着いた。二人がこちらを見る。
「魔力の残滓の先はこの中です。濃度が高い。……巣はきっとこの中でしょう」
レオンハルトが立ち上がる。灰青の瞳には、怒りが灯っていた。
「行くぞ」
その声は、言葉は、決意そのものだった。これから向かうは、何が起こるか分からない、敵の巣窟――有利な場所なのだ。
***
川と岩場の境目。
そこに、異様な雰囲気を放つ空洞が口を開けていた。
中に漂うのは、独特な臭いの腐臭、そして血の匂い。
その『濃さ』に、私は思わず息を止める。この空間にいるだけで、吐きそうだった。それくらいに酷い臭い。
セルジュが周囲に風魔法を掛けて、洞窟内の空気を分散させる。少し回るようになった頭で観察してみれば、洞窟内部は、赤黒く濡れていた。壁も床も――人間の血であろうもので。
「……遅かったか」
レオンハルトの声が震えているのが分かった。その言葉に反応したのか、奥からかすかな呻きがこちらに訴えるように出された。
「生存者です!」
セルジュがすぐに駆け寄る。
繭のような白く細い粘液に包まれた人間が、数人壁に貼り付けられていた。
喋れないようだが、まだ息があるようだ。
「切り離します!」
私は刃状の風魔法で、人間の方は切らないように注意を払いながらも、その粘液を断ち切った。
一人、二人と引き剥がれて、解放される。
3人で保護しようと駆け寄ったその時――。
――ぐちゅり。
嫌な音。
救い出した男が痙攣し、その腹部が、まるで内側から突き破ろうとするかのように不自然に動き、膨らんでいることに気が付いた。くちゃくちゃ、ぐちゃぐちゃと嫌な音が男の中身から聞こえてきていた。
耳を塞いで、目を完全に閉じたくなる。何が起こるのか、敵の攻撃の特徴と今の現状から、嫌でも予測ができたから。
「……まさか」
私と同じように気が付いたのだろう。セルジュの顔が青ざめる。
私達が駆け寄る途中で足を止めたと同時に、捕獲されていた男の腹が裂ける。
内側から、小さな黒い脚がたくさん出てきて、一気に腹を突き破る。そうして、あの魔物の小さいバージョン――幼虫のようなものが這い出てきた。
「うわあぁぁああああああああ!!」
今更意識が醒めたのだろう。男が叫ぶと同時に、新しい魔物が、男の血と臓物を撒き散らしながら産まれ落ちた。
私は凍りつく。
あの時、レオンハルトに向けられていた攻撃。
あれは――これだ。
「……孵化、だと」
レオンハルトの声が、震えを帯びる。自分が同じ攻撃を受けそうになっていたことを思い出したのかもしれない。見ただけの私ですら、想像して今、途轍もなく気分が悪い。
生きた人間を、苗床に。なんて恐ろしい魔物なのだろうか。
「下がってください!!」
私は炎を叩き込む。
産まれたばかりの個体を焼き払う。孵化元の男はもう、既に絶命している。一瞬のことだった。内臓のほとんどを出てくると同時に食い散らかされているのだから、当然と言えば当然なのかもしれない。
死んだ男には申し訳ないが、周囲にいる幼虫ごと全てを焼き払わせてもらった。
だがまた、繭の中の別の一人が痙攣を始める。
「……もう、間に合わない」
セルジュの声が、かすれる。
次々と裂ける。産まれる。私達が焼き払う。
血が、床を流れる。
結局、連れていかれた人たちは、誰も救うことができなかった。
叫び声、そして魔法を使っていたせいだろう。魔力の探知をしなくても、巣の奥から無数の気配が蠢くのを感じ取ることが出来た。
レオンハルトが大剣を握り直す。
その横顔は、これまで見たことのないほど冷えていた。
「……俺のせいだ。俺が責任を取って片付ける」
「いいえ。貴方のせいではありません」
私は即座に否定する。
「確かに時期は早めたのかもしれない。でも、私達がいなくてもきっと起きていました。だから自分を責めないでください」
治療しながら、ここに来る前に街の人達にも聞いていた。最近、この街で多数の行方不明者が出ていたことを。
それでいて、人間が原因だと思っていたようで、誰も国に依頼を出そうとしておらず、街の人間だけで対処しようとしていたようだった。これは、きっとどこでも起こりうる不幸な事故というやつだ。
「……ありがとう。だとしても――俺が終わらせる」
怒り。罪悪感。後悔。そして、遂げるという覚悟。
「一匹残らず、殲滅する」
巣の奥で、無数の赤黒い瞳が瞬いた。
中に途轍もない数が潜んでいる。街の住人よりも多いかもしれない。それでも――。
レオンハルトは、一歩も引かなかった。
私は隣に立つ。セルジュが後方でサポートをするためだろう、魔力を高める。
三人で、今度こそ。根源全てを終わらせるために、この血塗れの洞窟の――巣の奥へと足を踏み入れた。
******
「……何も、できなかった」
セルジュが悔しさからだろう、唇を噛んだ。彼であれば、ある程度の傷は治療できるが、そもそもその治療対象自体が連れ去られている状態だ。襲われかけて怪我をした街の住人の手当は終わった。だから、この場ではこれ以上は何もできることがない。
しかしながら、すでに連れていかれた者の方が人数的には多いだろう。
「辿ってくれるか?魔物たちの魔力の残滓を、どこに行ったのかを」
『お願い』という形だったのは、もしかしたらレオンハルトも多少の恐怖心を感じていたのかもしれない。彼らが行くというのであれば、私も共に行こう。
私は頷いて、地面に残る魔力の残滓に触れた。
「――辿ります」
街から出て、峡谷の方面へ。昨日通った通りとはまた別の――途中にある分かれ道を左に進み、岩の間にある補足小さな道を身体を縮めながら通り抜けていく。
そして、洞窟のような場所に着いた。二人がこちらを見る。
「魔力の残滓の先はこの中です。濃度が高い。……巣はきっとこの中でしょう」
レオンハルトが立ち上がる。灰青の瞳には、怒りが灯っていた。
「行くぞ」
その声は、言葉は、決意そのものだった。これから向かうは、何が起こるか分からない、敵の巣窟――有利な場所なのだ。
***
川と岩場の境目。
そこに、異様な雰囲気を放つ空洞が口を開けていた。
中に漂うのは、独特な臭いの腐臭、そして血の匂い。
その『濃さ』に、私は思わず息を止める。この空間にいるだけで、吐きそうだった。それくらいに酷い臭い。
セルジュが周囲に風魔法を掛けて、洞窟内の空気を分散させる。少し回るようになった頭で観察してみれば、洞窟内部は、赤黒く濡れていた。壁も床も――人間の血であろうもので。
「……遅かったか」
レオンハルトの声が震えているのが分かった。その言葉に反応したのか、奥からかすかな呻きがこちらに訴えるように出された。
「生存者です!」
セルジュがすぐに駆け寄る。
繭のような白く細い粘液に包まれた人間が、数人壁に貼り付けられていた。
喋れないようだが、まだ息があるようだ。
「切り離します!」
私は刃状の風魔法で、人間の方は切らないように注意を払いながらも、その粘液を断ち切った。
一人、二人と引き剥がれて、解放される。
3人で保護しようと駆け寄ったその時――。
――ぐちゅり。
嫌な音。
救い出した男が痙攣し、その腹部が、まるで内側から突き破ろうとするかのように不自然に動き、膨らんでいることに気が付いた。くちゃくちゃ、ぐちゃぐちゃと嫌な音が男の中身から聞こえてきていた。
耳を塞いで、目を完全に閉じたくなる。何が起こるのか、敵の攻撃の特徴と今の現状から、嫌でも予測ができたから。
「……まさか」
私と同じように気が付いたのだろう。セルジュの顔が青ざめる。
私達が駆け寄る途中で足を止めたと同時に、捕獲されていた男の腹が裂ける。
内側から、小さな黒い脚がたくさん出てきて、一気に腹を突き破る。そうして、あの魔物の小さいバージョン――幼虫のようなものが這い出てきた。
「うわあぁぁああああああああ!!」
今更意識が醒めたのだろう。男が叫ぶと同時に、新しい魔物が、男の血と臓物を撒き散らしながら産まれ落ちた。
私は凍りつく。
あの時、レオンハルトに向けられていた攻撃。
あれは――これだ。
「……孵化、だと」
レオンハルトの声が、震えを帯びる。自分が同じ攻撃を受けそうになっていたことを思い出したのかもしれない。見ただけの私ですら、想像して今、途轍もなく気分が悪い。
生きた人間を、苗床に。なんて恐ろしい魔物なのだろうか。
「下がってください!!」
私は炎を叩き込む。
産まれたばかりの個体を焼き払う。孵化元の男はもう、既に絶命している。一瞬のことだった。内臓のほとんどを出てくると同時に食い散らかされているのだから、当然と言えば当然なのかもしれない。
死んだ男には申し訳ないが、周囲にいる幼虫ごと全てを焼き払わせてもらった。
だがまた、繭の中の別の一人が痙攣を始める。
「……もう、間に合わない」
セルジュの声が、かすれる。
次々と裂ける。産まれる。私達が焼き払う。
血が、床を流れる。
結局、連れていかれた人たちは、誰も救うことができなかった。
叫び声、そして魔法を使っていたせいだろう。魔力の探知をしなくても、巣の奥から無数の気配が蠢くのを感じ取ることが出来た。
レオンハルトが大剣を握り直す。
その横顔は、これまで見たことのないほど冷えていた。
「……俺のせいだ。俺が責任を取って片付ける」
「いいえ。貴方のせいではありません」
私は即座に否定する。
「確かに時期は早めたのかもしれない。でも、私達がいなくてもきっと起きていました。だから自分を責めないでください」
治療しながら、ここに来る前に街の人達にも聞いていた。最近、この街で多数の行方不明者が出ていたことを。
それでいて、人間が原因だと思っていたようで、誰も国に依頼を出そうとしておらず、街の人間だけで対処しようとしていたようだった。これは、きっとどこでも起こりうる不幸な事故というやつだ。
「……ありがとう。だとしても――俺が終わらせる」
怒り。罪悪感。後悔。そして、遂げるという覚悟。
「一匹残らず、殲滅する」
巣の奥で、無数の赤黒い瞳が瞬いた。
中に途轍もない数が潜んでいる。街の住人よりも多いかもしれない。それでも――。
レオンハルトは、一歩も引かなかった。
私は隣に立つ。セルジュが後方でサポートをするためだろう、魔力を高める。
三人で、今度こそ。根源全てを終わらせるために、この血塗れの洞窟の――巣の奥へと足を踏み入れた。
あなたにおすすめの小説
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳
ロミオ王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました
Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、
あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。
ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。
けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。
『我慢するしかない』
『彼女といると疲れる』
私はルパート様に嫌われていたの?
本当は厭わしく思っていたの?
だから私は決めました。
あなたを忘れようと…
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。
婚約者は妹のような幼馴染みを何より大切にしているので、お飾り妻予定な令嬢は幸せになることを諦めた……はずでした。
待鳥園子
恋愛
伯爵令嬢アイリーンの婚約者であるセシルの隣には『妹のような幼馴染み』愛らしい容姿のデイジーが居て、身分差で結婚出来ない二人が結ばれるためのお飾り妻にされてしまうことが耐えられなかった。
そして、二人がふざけて婚姻届を書いている光景を見て、アイリーンは自分の我慢が限界に達そうとしているのを感じていた……のだけど!?
【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~
黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。
【完】ある日、俺様公爵令息からの婚約破棄を受け入れたら、私にだけ冷たかった皇太子殿下が激甘に!? 今更復縁要請&好きだと言ってももう遅い!
黒塔真実
恋愛
【2月18日(夕方から)〜なろうに転載する間(「なろう版」一部違い有り)5話以降をいったん公開中止にします。転載完了後、また再公開いたします】伯爵令嬢エリスは憂鬱な日々を過ごしていた。いつも「婚約破棄」を盾に自分の言うことを聞かせようとする婚約者の俺様公爵令息。その親友のなぜか彼女にだけ異様に冷たい態度の皇太子殿下。二人の男性の存在に悩まされていたのだ。
そうして帝立学院で最終学年を迎え、卒業&結婚を意識してきた秋のある日。エリスはとうとう我慢の限界を迎え、婚約者に反抗。勢いで婚約破棄を受け入れてしまう。すると、皇太子殿下が言葉だけでは駄目だと正式な手続きを進めだす。そして無事に婚約破棄が成立したあと、急に手の平返ししてエリスに接近してきて……。※完結後に感想欄を解放しました。※
誰からも必要とされていないから出て行ったのに、どうして皆追いかけてくるんですか?
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢ミリーシャは、自身が誰からも必要とされていないことを悟った。
故に彼女は、家から出て行くことを決めた。新天地にて、ミリーシャは改めて人生をやり直そうと考えたのである。
しかし彼女の周囲の人々が、それを許さなかった。ミリーシャは気付いていなかったのだ。自身の存在の大きさを。
お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ
Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。
理由は決まって『従妹ライラ様との用事』
誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。
「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」
二人の想いは、重なり合えるのだろうか ……
※他のサイトにも公開しています。
病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。
鍋
恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。
キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。
けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。
セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。
キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。
『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』
キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。
そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。
※ゆるふわ設定
※ご都合主義
※一話の長さがバラバラになりがち。
※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。
※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。