どうやら婚約者の隣は私のものではなくなってしまったようなので、その場所、全てお譲りします。

皇 翼

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18.

血と焦げ跡にまみれながら、私は立ち上がり、周囲を見渡す。
それなりに長い間、魔物たちの巣窟となっていたのだろう。周囲は戦闘の跡もあり、酷いありさまだった。
塗りたくられた赤、魔物の紫色の血痕。
救えなかった人間や動物たちの命の残骸――。

結果だけを見れば、完全な勝利だったかもしれない。だが、それと同時に、遅すぎた勝利でもあった。

「……終わった。街に戻ろう」

レオンハルトが沈んだような声で発した第一声はそれだった。
彼が暗くなっているのも分かる。私も同じ気持ちだった。こんなに後味の悪い『勝利』があるだなんて。今まで知らなかった。
私はレオンハルトの隣に立つ。その心に寄り添うように。セルジュもレオンハルトを挟んで並んだ。
三人で、卵による支えをなくして、崩れゆく洞窟を背にする。

外へ出る頃には、夜が明け始めていた。
空は白み、全てがいつも通りだ。世界は何事もなかったかのように静かだった。この場所での出来事なんて、この世界には何も影響がない、進んでいくんだ――とでも言うように。

けれど、私達は知ってしまった。
この世界には、まだ『こういうもの』が潜んでいると。
そして――普通に生きていても、私たちは前に進むだけでまたこの『異変』に遭遇していくのだろう。

***

ハートリアに帰っても、私たちは何も言わなかった。
ただ、街の中で治療したり、襲われそうになっていたところを助けた人たちだけには、改めてお礼を言われて、謝礼をもらった。正直、あまりの罪悪感にレオンハルトは受け取るのを嫌がったが、押し付けられるようにして受け取ってしまった。
街の中には、家族や恋人を攫われたらしい人たちが私達の話を聞いて、攫われた者たちの奪還を直接頼み込んでくる人もいたが、それだけは断った。しかし、あまりにも数が多く、早めに発つことに決めた。
本来であれば、全員が満身創痍で精神的にも追い込まれていたこともあり、もう一泊して休みたかったのだが、その気持ちを抑えて、夜になる前にハートリアの街を離れた――。

******

「今後ですが、ジョルカ共和国の西端まではあと二都市。そこを抜ければ国境です」

乗り物に揺られている間の、セルジュにふられた何気ない会話。それは私達の旅の終わりを匂わせるものだった。
ジョルカ共和国。
身分証明がなければ自由に動けないこの国。
当初は『国境までの同行』の約束だった。
そろそろこの3人での旅も終わる。その事実に、少しもの悲しさを感じていた。当初はあんなにも警戒して、相手を怪しんでいたというのに、今は居心地のよさすら感じていた。

「ミアータは、この国を出た後はどこに行くんだ?」
「……どこに、行くんでしょうね。分からないんです、自分のことなのに」

結局、旅を続けても、私の目的地は決まっていなかった。
このジョルカ共和国に留まるつもりは毛頭ないが、目的地と聞かれると、何も言えなくなる。
しかし、これだけは変わらない。

「でも、誰も私のことを知らない場所……ですかね」
「そう、か」

そもそも正体を明かしていない人間から、『誰も私のことを知らない場所』なんて言われても困るだろう。聞かれたこととはいえ、少し申し訳ないことをしてしまったかもしれない。

「俺の目的地――アストラディア帝国はどうだ?俺たちは……元々のミアータのことを何も知らないし、ここからもまだまだ遠く離れている」

思わぬ提案だった。
そもそもがこのジョルカ共和国の国境までという割り切った関係性だったが、今はまた事情が変わってきている。
でも、今提案してみると、それも悪くないかもしれないと思うし、その未来を考えると、少しワクワクする。なによりも、私のことを考えてくれたであろう、その提案は、とても有難いと感じた。

「……考えてみます」

不愛想な返事しかできなかったが、先の全く見えない中、少しだけ希望の光が一条差したような気がした。

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