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19.
数日間、馬車で揺られて到着した次の街――リューネの街は、春祭りの真っ最中だった。
花で飾られた通り、甘い果実酒の香り、どこからともなく響く楽団の音色。
寒い冬の季節が終わり、温かい春の季節へと。花の開花の季節の喜びを祝う祭り。それが、この『花冠祭』である……と街の住人から、さっき聞いた。
ここでは、ハートリアの重い空気とは正反対の、明るいざわめきが満ちている。
「……騒がしいな」
私達は宿を探すために街の中を移動していたが、どこに行っても、人、人、人。今この場所で、人間がいないスペースなんてないんじゃないか?というくらいには、あちこちに列ができて、歩くのですら困難な状態だった。
そんな光景に、レオンハルトがわずかに眉をひそめる。
「祭りですからね。幸か不幸か、3日間の祭りの期間にかぶってしまったようで」
セルジュが冷静に周囲を観察する。彼は、レオンハルトに比べてこのような人ごみに慣れているのか、涼し気な表情を浮かべていた。
ちなみに、私はかなり気分が悪くなっていた。私よりも15センチ以上背の高いレオンハルトとセルジュは気にならないかもしれないが、160ほどしかない私の居る場所は、外なのに、空気が悪かった。ここが、アーケード型――天井がある道だからというのもあるかもしれない。その上、高頻度でこの人ごみの進行が進んだり止まったりを繰り返すせいで、顔を人間にぶつけたり、後ろからぶつかられたりなど。本当に酷い状態だった。
この場所に辟易として、だらっと身体を緩めながら進んでいたのがダメだったのだろう。身体に、正面――下の方から衝撃が走る。
「わっ、ごめんなさい!」
軽く人、しかも自分より低い位置にいる人間とぶつかった――と思ったのだが、目の前にはもう、誰もいない。
振り向くと、人の足の間をすり抜けて、走り去る小さな影。
子どもだ。その様子から、怪我はしていないようでよかったと一安心したのも束の間。なんだか周囲が騒がしいような気がした。ざわざわとこちらを見つめながら、私を見ているような。
そして、その理由はすぐに分かった。レオンハルトだ。一時的に停止していた私に、はぐれるなよと迎えに来たレオンハルト。彼が大声で私の名前を呼んでいた。しかし、彼の様子はおかしかった。
「ミアータ?どこに行った??ミアータ!!!」
正面にいるのに、私のことを大声で探すレオンハルト。
背が高く、目立つ容貌であることも相まって、とても目立っていた。なるほど、彼が呼んでいたから、近くに居た私が目立って、視線を受けているように感じたのか。
急に目でも見えなくなったのか、それとも誰かからの攻撃??などと疑って観察していると、正面からきた男に、思いっ切り強く肩を掴まれた。
「いっった――」
「お前、ミアータ=エスペランツァだな」
「え……」
「はは、見つけた。これで俺も億万長者だ!!来い!!!」
そのまま手が下りてきて、腕を魔道具で拘束しようとした男を――風の魔法で遠くに吹き飛ばした。
アーケードの天井を突き破り、思っていたよりも遠くへ飛んでいったようだが、こちらの危害を加えようとしたのだから、自業自得だろう。
そして、何故バレたのだろうと考えてみると、胸元につけていたブローチの魔道具がなくなっていることに気が付いた。
今までは、『印象に残らない顔』として認識されるように、光魔法の屈折と少しの幻覚魔法を使用して、見る人によって違う容姿に映るようにしていた、あの魔道具。
きっと私から奪っていったのは、あのぶつかってきた子供だろう。タイミングからして、ほぼ確定でそこのタイミングから、私の姿は元に戻っていたはずだ。
「ここから逃げないと――」
男を吹き飛ばしたから、この場ではかなり目立ってしまっている。顔を手で覆って、無理に通って走り抜ける。
でも、このままずっと顔を出したまま逃げることなんてできない。どこで誰に攻撃をされるのか分からない。
正直、私は侯爵令嬢というだけで、そこまで知名度はないはずだ。フレストブルグの貴族や、一部国民は知っているかもしれないが、この国で知られているはずがないのだ。こんな場所で知人だとしても、会うなんていうのは、かなり確率が低いだろう。
何故だ……と考えてみると、男は確か、『これで億万長者』だと言っていた。
もしかして私は――指名手配でもされているのか?
あの言動と捕まえようとしてきたところを鑑みると、ほぼ確実に指名手配されているで確定だろう。
ここにはレオンハルトたちもいるが、私の正体には気が付いておらず、孤立無援状態。
とりあえずは、道の端にうずくまるようにして、思考している間は顔を隠す。周囲が更にざわつくが、顔を見られるよりは体調が悪いと勘違いされた方がマシだろう。
大丈夫かと声を掛けてくる店主や通行人を『大丈夫』の言葉で退け、考える。
ここから切り抜けるには、盗まれたものと同じ魔道具を作り出すか、他の顔を隠せる何かで顔だけを覆いつくしてこの人ごみから逃げるのどちらかだろう。
レオンハルトとセルジュとの合流は考えない。そもそも気が付いてもらえないと思うから。
しかし、すぐに魔道具を作り出すことも難しい。ここでは、生成するために使う道具もないし、きちんと落ち着いた状態じゃないとあんな緻密なものは作り出せない。
けれど顔を隠すものを探して買うのも怖かった。どこの誰が自分のことを知って、追っているのかが分からないから。どのような理由で指名手配されているのかも、分からない。『生死を問わない』なんて条件だったりしたら、人間と戦わないといけないのだ。魔物ではなく、人間と。それが恐ろしかった。
「……ミアータ?」
「え……レオン、ハルト?」
「ん?その姿は――」
「魔道具が盗まれて!助けて欲しい……です」
その言葉で、私は彼に助けられた。
彼の羽織っていた服を頭からかぶせられて、手を引かれながら連れていかれる。
守られているようなその感覚に、私は先程まで抱いていた不安が全て消し去られて、とても強い安心感を覚えた。
花で飾られた通り、甘い果実酒の香り、どこからともなく響く楽団の音色。
寒い冬の季節が終わり、温かい春の季節へと。花の開花の季節の喜びを祝う祭り。それが、この『花冠祭』である……と街の住人から、さっき聞いた。
ここでは、ハートリアの重い空気とは正反対の、明るいざわめきが満ちている。
「……騒がしいな」
私達は宿を探すために街の中を移動していたが、どこに行っても、人、人、人。今この場所で、人間がいないスペースなんてないんじゃないか?というくらいには、あちこちに列ができて、歩くのですら困難な状態だった。
そんな光景に、レオンハルトがわずかに眉をひそめる。
「祭りですからね。幸か不幸か、3日間の祭りの期間にかぶってしまったようで」
セルジュが冷静に周囲を観察する。彼は、レオンハルトに比べてこのような人ごみに慣れているのか、涼し気な表情を浮かべていた。
ちなみに、私はかなり気分が悪くなっていた。私よりも15センチ以上背の高いレオンハルトとセルジュは気にならないかもしれないが、160ほどしかない私の居る場所は、外なのに、空気が悪かった。ここが、アーケード型――天井がある道だからというのもあるかもしれない。その上、高頻度でこの人ごみの進行が進んだり止まったりを繰り返すせいで、顔を人間にぶつけたり、後ろからぶつかられたりなど。本当に酷い状態だった。
この場所に辟易として、だらっと身体を緩めながら進んでいたのがダメだったのだろう。身体に、正面――下の方から衝撃が走る。
「わっ、ごめんなさい!」
軽く人、しかも自分より低い位置にいる人間とぶつかった――と思ったのだが、目の前にはもう、誰もいない。
振り向くと、人の足の間をすり抜けて、走り去る小さな影。
子どもだ。その様子から、怪我はしていないようでよかったと一安心したのも束の間。なんだか周囲が騒がしいような気がした。ざわざわとこちらを見つめながら、私を見ているような。
そして、その理由はすぐに分かった。レオンハルトだ。一時的に停止していた私に、はぐれるなよと迎えに来たレオンハルト。彼が大声で私の名前を呼んでいた。しかし、彼の様子はおかしかった。
「ミアータ?どこに行った??ミアータ!!!」
正面にいるのに、私のことを大声で探すレオンハルト。
背が高く、目立つ容貌であることも相まって、とても目立っていた。なるほど、彼が呼んでいたから、近くに居た私が目立って、視線を受けているように感じたのか。
急に目でも見えなくなったのか、それとも誰かからの攻撃??などと疑って観察していると、正面からきた男に、思いっ切り強く肩を掴まれた。
「いっった――」
「お前、ミアータ=エスペランツァだな」
「え……」
「はは、見つけた。これで俺も億万長者だ!!来い!!!」
そのまま手が下りてきて、腕を魔道具で拘束しようとした男を――風の魔法で遠くに吹き飛ばした。
アーケードの天井を突き破り、思っていたよりも遠くへ飛んでいったようだが、こちらの危害を加えようとしたのだから、自業自得だろう。
そして、何故バレたのだろうと考えてみると、胸元につけていたブローチの魔道具がなくなっていることに気が付いた。
今までは、『印象に残らない顔』として認識されるように、光魔法の屈折と少しの幻覚魔法を使用して、見る人によって違う容姿に映るようにしていた、あの魔道具。
きっと私から奪っていったのは、あのぶつかってきた子供だろう。タイミングからして、ほぼ確定でそこのタイミングから、私の姿は元に戻っていたはずだ。
「ここから逃げないと――」
男を吹き飛ばしたから、この場ではかなり目立ってしまっている。顔を手で覆って、無理に通って走り抜ける。
でも、このままずっと顔を出したまま逃げることなんてできない。どこで誰に攻撃をされるのか分からない。
正直、私は侯爵令嬢というだけで、そこまで知名度はないはずだ。フレストブルグの貴族や、一部国民は知っているかもしれないが、この国で知られているはずがないのだ。こんな場所で知人だとしても、会うなんていうのは、かなり確率が低いだろう。
何故だ……と考えてみると、男は確か、『これで億万長者』だと言っていた。
もしかして私は――指名手配でもされているのか?
あの言動と捕まえようとしてきたところを鑑みると、ほぼ確実に指名手配されているで確定だろう。
ここにはレオンハルトたちもいるが、私の正体には気が付いておらず、孤立無援状態。
とりあえずは、道の端にうずくまるようにして、思考している間は顔を隠す。周囲が更にざわつくが、顔を見られるよりは体調が悪いと勘違いされた方がマシだろう。
大丈夫かと声を掛けてくる店主や通行人を『大丈夫』の言葉で退け、考える。
ここから切り抜けるには、盗まれたものと同じ魔道具を作り出すか、他の顔を隠せる何かで顔だけを覆いつくしてこの人ごみから逃げるのどちらかだろう。
レオンハルトとセルジュとの合流は考えない。そもそも気が付いてもらえないと思うから。
しかし、すぐに魔道具を作り出すことも難しい。ここでは、生成するために使う道具もないし、きちんと落ち着いた状態じゃないとあんな緻密なものは作り出せない。
けれど顔を隠すものを探して買うのも怖かった。どこの誰が自分のことを知って、追っているのかが分からないから。どのような理由で指名手配されているのかも、分からない。『生死を問わない』なんて条件だったりしたら、人間と戦わないといけないのだ。魔物ではなく、人間と。それが恐ろしかった。
「……ミアータ?」
「え……レオン、ハルト?」
「ん?その姿は――」
「魔道具が盗まれて!助けて欲しい……です」
その言葉で、私は彼に助けられた。
彼の羽織っていた服を頭からかぶせられて、手を引かれながら連れていかれる。
守られているようなその感覚に、私は先程まで抱いていた不安が全て消し去られて、とても強い安心感を覚えた。
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