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20.
人ごみを強引にかき分けるようにして、レオンハルトは私を連れて進む。
視界は彼の上着に覆われ、ほとんど見えない。ただ、布越しに感じる春の花の匂いと、彼の腕の確かな力強さだけが頼りだった。
「セルジュ!」
短く名を呼ぶと、すぐに応じる声がした。
「なるほど!わかりました!こちらです。いったん、路地へ」
次の瞬間、身体が横へ引かれてざわめきが遠ざかる。
石壁に囲まれた細い路地。ようやく上着が頭から外され、私は小さく息をついた。
目の前には、心配するような顔のレオンハルトと、周囲を警戒するセルジュ。
「……俺たちに何かできることはあるか?」
「そう、ですね。今の顔を隠したままでは何もできないので、魔道具を取り戻す――のは、できそうですか?他の人間から私の姿に対する認知を阻害する星の形を象ったブローチです」
「貴女の魔力探知の魔道具をいただければ、僕が探して、盗んだやつをきちんと絞めてきます」
その心強い言葉に頷き、そのまま魔道具を引き渡す。
「レオンハルト様、頼めますか?」
「ああ、もちろん」
セルジュが探しに行き、レオンハルトは私についていてくれるのだろう。その気遣いが有難かった。
セルジュが路地から出ていこうとしたところで、一つ、知っておかなければならないことを思いだす。
「それと私、なんだか指名手配されているようです。こんなところで言うのも変ですが、私の本名は、ミアータ=エスペランツァ。事情があって、フレストブルグのエスペランツァ侯爵家から逃げてきています」
「そう、だったのですね。何故指名手配をされているのかについても、一緒に調べてきます」
「……私が犯罪者の可能性を疑わないのですね」
「ええ。貴女は、自分を守ろうとするだけで、周囲の人間を傷付けようだなんて思う人間でありませんから。指名手配とやらも、冤罪かでっちあげでしょう」
何も詮索せずに協力してくれた上に、私のことを全面的に信じてくれている。その事実がとても嬉しかった。
そして、セルジュは調査、私とレオンハルトは引き続きこの人が全く入ってこない路地で身を潜め続けた。
***
「さっきはすまなかった」
「……え?」
「あんな道の端でうずくまって、自分が指名手配されていると勘付いたのは、誰かに襲われたからなのだろう?」
「そう、ですね。魔道具が取られた直後に、知らない男から急に襲われました」
「俺がミアータの名前を大声で呼んで、勘付かせたのもあるだろうと思ってな」
この人は、レオンハルトは、どこまでも優しい人間だった。
探してくれていたのも、私を心配してのことだ。それに別にフルネームも知らないくらいに私の事情を知らなかったのだ。追われているなんて、私も知らなかったし、彼も知るはずがない。
知らなかったから、仕方がないことだったのだ。
こんなところまで追われているのを知らなかった、そして魔道具を人ごみの中で手癖の悪い子供に盗まれた。不幸なことが重なっただけ。
「私は気にしていませんよ。むしろ、私のことを探して、見つけ出してくれてありがとうございました。私の容姿、全然違うはずなのに、よく見つけ出せましたね」
そう。今彼が認識しているであろう容姿は、長いプラチナブロンドの髪の毛に、瞳は深いエメラルドグリーンで、『初めて見る瞳の色だ』と家族以外の初対面の人からは良く言われていた。
そういえば、カイデンからもこの容姿は、『遠くからでも見つけられるくらいに綺麗だ』と言われていた。ただのお世辞かもしれないが。
でも、他の人からも目立つ容姿、顔立ちだと言われていたので、『目立つ』というのは本当なのだろう。
とにかく、きっと彼に見えていたのは、印象に残らないほどに薄い姿からは似ても似つかない姿かたちだったはずなのに、彼は最終的には私をきちんと見つけ出してくれた。
服は、その辺にも私と同じような白いシャツに黒いパンツスタイルの人はたくさんいた。体型は、160前後の女性は私だけではない。じゃあ、なんだったんだろう。私と魔道具を使った私の共通点――。
「ん?あー……絆の力、だな」
「はあ?」
意味の分からない、誤魔化されたような回答に、首をかしげる。
それ以降は、なんでわかったのか問い詰めても、ニヤニヤと笑うだけで全然答えてもらえなかった。きっと何かしらの情報で分かったのだろうが。
「俺はきっと、ミアータがどんな姿をしていたとしても、見つけられる」
急に真面目な表情になり、私を見つめてくるレオンハルト。さっきまでは、くだらない冗談を言っていたくせに、180度違うその言葉と態度に、少しだけきゅんとしてしまったのは秘密だ。
悔しいというか、漏らしたりしたら絶対にからかわれるからいってあげない。揶揄いの種にさせないためにも、さっきと同じように、流そうと思った。
「あー、はいはい。また冗談でしょう」
「いや、俺は――」
「捕まえてきましたよ!この子で間違いないですか?」
レオンハルトが何かを言いかけたところで、子供を抱きかかえたセルジュが現れた――。
視界は彼の上着に覆われ、ほとんど見えない。ただ、布越しに感じる春の花の匂いと、彼の腕の確かな力強さだけが頼りだった。
「セルジュ!」
短く名を呼ぶと、すぐに応じる声がした。
「なるほど!わかりました!こちらです。いったん、路地へ」
次の瞬間、身体が横へ引かれてざわめきが遠ざかる。
石壁に囲まれた細い路地。ようやく上着が頭から外され、私は小さく息をついた。
目の前には、心配するような顔のレオンハルトと、周囲を警戒するセルジュ。
「……俺たちに何かできることはあるか?」
「そう、ですね。今の顔を隠したままでは何もできないので、魔道具を取り戻す――のは、できそうですか?他の人間から私の姿に対する認知を阻害する星の形を象ったブローチです」
「貴女の魔力探知の魔道具をいただければ、僕が探して、盗んだやつをきちんと絞めてきます」
その心強い言葉に頷き、そのまま魔道具を引き渡す。
「レオンハルト様、頼めますか?」
「ああ、もちろん」
セルジュが探しに行き、レオンハルトは私についていてくれるのだろう。その気遣いが有難かった。
セルジュが路地から出ていこうとしたところで、一つ、知っておかなければならないことを思いだす。
「それと私、なんだか指名手配されているようです。こんなところで言うのも変ですが、私の本名は、ミアータ=エスペランツァ。事情があって、フレストブルグのエスペランツァ侯爵家から逃げてきています」
「そう、だったのですね。何故指名手配をされているのかについても、一緒に調べてきます」
「……私が犯罪者の可能性を疑わないのですね」
「ええ。貴女は、自分を守ろうとするだけで、周囲の人間を傷付けようだなんて思う人間でありませんから。指名手配とやらも、冤罪かでっちあげでしょう」
何も詮索せずに協力してくれた上に、私のことを全面的に信じてくれている。その事実がとても嬉しかった。
そして、セルジュは調査、私とレオンハルトは引き続きこの人が全く入ってこない路地で身を潜め続けた。
***
「さっきはすまなかった」
「……え?」
「あんな道の端でうずくまって、自分が指名手配されていると勘付いたのは、誰かに襲われたからなのだろう?」
「そう、ですね。魔道具が取られた直後に、知らない男から急に襲われました」
「俺がミアータの名前を大声で呼んで、勘付かせたのもあるだろうと思ってな」
この人は、レオンハルトは、どこまでも優しい人間だった。
探してくれていたのも、私を心配してのことだ。それに別にフルネームも知らないくらいに私の事情を知らなかったのだ。追われているなんて、私も知らなかったし、彼も知るはずがない。
知らなかったから、仕方がないことだったのだ。
こんなところまで追われているのを知らなかった、そして魔道具を人ごみの中で手癖の悪い子供に盗まれた。不幸なことが重なっただけ。
「私は気にしていませんよ。むしろ、私のことを探して、見つけ出してくれてありがとうございました。私の容姿、全然違うはずなのに、よく見つけ出せましたね」
そう。今彼が認識しているであろう容姿は、長いプラチナブロンドの髪の毛に、瞳は深いエメラルドグリーンで、『初めて見る瞳の色だ』と家族以外の初対面の人からは良く言われていた。
そういえば、カイデンからもこの容姿は、『遠くからでも見つけられるくらいに綺麗だ』と言われていた。ただのお世辞かもしれないが。
でも、他の人からも目立つ容姿、顔立ちだと言われていたので、『目立つ』というのは本当なのだろう。
とにかく、きっと彼に見えていたのは、印象に残らないほどに薄い姿からは似ても似つかない姿かたちだったはずなのに、彼は最終的には私をきちんと見つけ出してくれた。
服は、その辺にも私と同じような白いシャツに黒いパンツスタイルの人はたくさんいた。体型は、160前後の女性は私だけではない。じゃあ、なんだったんだろう。私と魔道具を使った私の共通点――。
「ん?あー……絆の力、だな」
「はあ?」
意味の分からない、誤魔化されたような回答に、首をかしげる。
それ以降は、なんでわかったのか問い詰めても、ニヤニヤと笑うだけで全然答えてもらえなかった。きっと何かしらの情報で分かったのだろうが。
「俺はきっと、ミアータがどんな姿をしていたとしても、見つけられる」
急に真面目な表情になり、私を見つめてくるレオンハルト。さっきまでは、くだらない冗談を言っていたくせに、180度違うその言葉と態度に、少しだけきゅんとしてしまったのは秘密だ。
悔しいというか、漏らしたりしたら絶対にからかわれるからいってあげない。揶揄いの種にさせないためにも、さっきと同じように、流そうと思った。
「あー、はいはい。また冗談でしょう」
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