どうやら婚約者の隣は私のものではなくなってしまったようなので、その場所、全てお譲りします。

皇 翼

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21.

「くそ!!!離せよ!!この!じじい!!!」
「ぶっ!!セルジュ、お前、『じじい』だってさー」
「何見てんだ、そっちのじじい!!!」
「おい、子供ガキ。お前、大人に対する口の利き方が分かっていないようだな」

あまりにも大人げない。
セルジュに対して子供が『じじい』と言った時には笑い転げたくせに、自分が言われると態度が一気に変わる。
実は、この人は、時々大人げない大人だ。以前は私に対して警戒していたのかもしれないが、最近はさっきのように、私に対しても揶揄ってくることがある。
まあ、その分、人間らしい面があって好ましいとも思うが。

「俺はまだ、22歳。まだまだ若いんだ。分かるか?」
「10個以上上じゃねえか!じじいだな!!あと、唾飛ばすなよな、ばっちい」
「ああ゛ん?」

この人、22歳だったんだ。今知った驚愕の事実に驚く。
親しくなると時々出てくる言動は子供っぽいが、普段はとても落ち着いた人だったので、そこまで年が離れていないことに驚いた。
私が17歳で、彼は5歳上ということになる。とはいっても、この子供に年齢を聞かれた上で『じじい』と言われてキレているところを見ると、年相応ではあるのかもしれない。

「その子供にブローチを盗まれたのは私ですよ。関係ない人がいつまでもキレているのはやめてくださいね」

このままではいつまでも話が進まないので、仲裁に入って無意味な喧嘩を終わらせる。そうして、屈んでそのまま子供に目線を合わせた。

「え……誰?」
「君、ブローチ持っているでしょう。そのブローチは、私にとっては命に係わる大事なものだから、返してもらえないかな?」
「でも、さっきの人と違うじゃん。俺が盗ったのは、もっと地味で、その辺のおばはんって感じのやつだったし――」
「それは、そのブローチの特性なの。私にとってはそれは必要な力だから、お願い」

そう、懇願するように頼み込むと、子供はすぐにポケットから取り出して、ブローチを私に差し出してくれた。

「ありがとう」

そのままブローチの魔道具を付け直して、再度魔法を発動させる。そうすると、私の元の姿からは違う容姿に変貌して、皆が元々私だと認識していたものが映ったのだろう。
少年も、『あ!』と声を出していたから、きっとわかったのだと思う。

「……大事なものを盗んだりして、ごめんなさい。綺麗だったから、高く売れると思って、盗んでしまいました」
「もう、やっちゃだめですよ」

そう……もうやらないようにと言いはしたが、みんながみんな、明日の食べ物に困らないような生活をしているわけではないことも分かっていた。
私もこの道中は、ひもじい生活を送ることもあったから。

そうしてそのまま、私の魔道具を盗んだ子供は解放した。セルジュとレオンハルトはまだ怒っていたが、私が宥めてそのまま逃がした。
貴族という階級の中に居た時は分からなかったが、人間の事情は様々だ。私はブローチが帰ってきた時点で、もうすでに良しとしていた。

***

「そういえば。ありましたよ、この街の掲示板や、ギルドの依頼板に、貴女について書かれた紙が貼ってありました」

セルジュの手には、『私の情報』が写っているらしい紙が一枚。
広げられたそれを見て、私は息を呑む。
そこに描かれていたのは――かつてカイデンと魔導射影機で撮った写真。まだ彼のことを信頼しきっていた私がそこには写っていた。

そしてその写真の横には、大きく記された文字。

『フレストブルグ侯爵家令嬢 ミアータ=エスペランツァ 行方不明につき、情報求む』

――賞金額……というか、報奨金の欄を見ると、かなりの金額が書いてあった。
情報提供時の報奨金、保護した際の報奨金、それぞれが一般市民にとっては途轍ない金額。これでは、まるで賞金首のようになるのも仕方がないのかもしれない。なんなら、その辺で指名手配されている犯罪者に比べても、とても多い金額。それくらいの額だった。

「……生死は問わない、などとは書かれていませんね。むしろ、傷をつけるなと書かれています」

セルジュが淡々と告げた。でも、さっきも無理矢理捕まえられそうになったし、それはきっと守られないのだろうことが容易に分かる。

「だが、この額だ。勘違いする者は出る。発行元は?誰がこんな悪趣味な、嫌がらせじみたことをしているんだ」

レオンハルトの声音が低く沈む。この声は、前に聞いたもの、怒りを抑えているときのものだ。私のために憤ってくれているようだった。

「……フレストベルク、カイデン・ロストーク。フレストベルクの王太子ですね」

その名に、私は凍りついた。
カイデン。かつて婚約して、そして――私が裏切られた、その人。

「どういうことだ……いや、待て。ミアータ=エスペランツァ。そういえば、その名前は聞いたことがある」

震える私に、レオンハルトが一歩近づく。
逃げ場は、もうない。祭りの音楽が高らかに鳴り響く中、私の秘密は、完全に暴かれてしまったのだった。

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