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「思い出した!ミアータ=エスペランツァ。それは確か、フレストベルクの王太子と婚約している令嬢の名前だったはずだ」
レオンハルトのその一言で、空気が凍りついた。
世界が絶望に染まる。
焦ったセルジュが、レオンハルトが見ていたその指名手配書改め、行方不明捜索願の紙を奪うようにして見つめる。
「王太子自らが『行方不明』扱いで探しているのですか?」
「ああ。王家の印章が入っている。きちんと本物のようだ」
――やめて。
それ以上、読まないで。何も、聞かないで。これから起こることへの恐怖から、喉がひくりと震える。
「ミアータ、お前は――」
レオンハルトが一歩近づく。
その一歩に、身体が強張る。少し近付いてきただけだったが、その距離ですら大きな恐怖を感じた。
捕まる。拘束される。『保護』される。そして、またあの場所に戻される――。
頭の中で最悪の未来が一瞬で組み上がる。
「何も言わないで!!!私に関わらないで!!」
「おい、待て!!話を――」
その手が伸びた瞬間、何も考えられなくなった私は反射的に風魔法を爆ぜさせた。相手が怪我をするかもしれないなんて、いつも考えるようなことは思考の隅にもなかった。いまあるのは、ただ、捕まらずにこの場所から逃げることだけ。
あの場所に連れていかれないことだけ。
脳内がジューサーで回転させられたように、ぐわぐわと回る。脳の神経が焼ききれそうになるほどの焦燥感に、身体から魔法が暴発していた。
「いっっつ!?」
突風が路地に吹き荒れる。
砂埃が舞い、セルジュが持っていた行方不明捜索願の紙が宙に飛ぶ。
二人も急な出来事に対応できるような余裕がないようだ。その隙に、私は身を翻して走り出していた。
彼らの言葉も、拘束しようとするその手も、全て振り払い、路地から出て逃げる。
「ミアータ!!!」
背後からは必死に呼び止めるような、もう耳に馴染んでしまったその声。
いつもであれば、名前を呼ばれて安心感すら感じるその声。でも、今は止まれない。
止まったら、全てが終わる。私の心も、人生も、これからの未来も、何もかも。
路地を抜け、再び祭りの大通りへ飛び出す。
花冠祭の喧騒。笑い声。音楽。そこら中に舞い散る色とりどりの花。振りそそぐ、ワイン。
その中を、私は全力で駆けた。
ブローチは既に付け直している。今は『印象の薄い顔』。しかし、追跡者は、手強い相手。
そして名前も、素性も知られている。
王太子の婚約者。逃亡者。報奨金付きの行方不明者。
「待て!ミアータ!話がまだ――」
「話なんて、ない!!」
レオンハルトの声が、ずっと追いかけてくる。
どうして追うの。あんなに信頼していたのに。捕まえる気でしょう。私を説得して、王都に送り届けるつもりでしょう。
祭りの祝祭を祝うご飯が売られる屋台の間をすり抜け、人混みの波に紛れ、街の中央にある橋を渡る。
背後の足音は、確実に迫っていた。
それはそうだろう。私は魔法特化の魔法使いで、彼は物理特化の戦士。私は風魔法で走る速度を底上げしているが、体力なんて、天と地ほど違うはずだ。分かっている。そんなこと、分かり切っている。それに、レオンハルトは本気を出せばもっと速いはずだ。
わざと距離を保って、追いかけてきている。まるで、獲物を追い詰める捕食者のように。
少しずつ、私の息が上がって、走る速度が落ちる。距離が縮まる。
肩にレオンハルトの手が掠ったのを感じた。捕まる――でも絶対に嫌だ。
私は広場中央の花冠の塔を回り込み、その裏手へ飛び込んだ……のだが、そこは建物に囲まれている行き止まり。
しまった、と思った瞬間、ついに身体を後ろから抱き留められた。
「捕まえた」
「……っ離して!」
振り払おうとするが、力のレベル――そもそもの筋肉量が違う。
「離して!私を王都に連れて行く気でしょう!?私は、死んでも、あんなところに帰ったりしない!!」
「はあ!?」
素っ頓狂な声を上げたのはレオンハルトの方だった。
「何を言ってる!?」
「だって!王太子の婚約者ですよ!?王家が探してるんです!捕まえれば大手柄でしょう!?でも、私は絶対に捕まってなんてやらない!!!」
息が乱れる。
こんなに叫んだのは、いつぶりだろうか。
全力で走って、息が上がっている状態からのこの叫びだ。喉が痛かった。
怖い。
本当は、レオンハルトを信じたいのに、信じられない。助けを求めたいのに、捕まえられるとしか思えない。
私の全力の拒絶に、レオンハルトは呆然とした顔をしたあと、額を押さえた。
「……俺が、報奨金や権力目当てに見えるか?」
「見えます!!」
セルジュも追いついてきたようで、肩で息をしながら言う。
「貴女を王都へ送り届けるような義理はありませんよ。捕まえる気もない。だから、僕らの話を聞いてください」
その言葉と共に、レオンハルトから解放された身体。
急に身体が自由になって、少し驚いたが、その驚きのお陰で冷静になれた――。
******
あとがき:
恋愛小説大賞に必要な残り8000文字ほど。今日中に書き上げてアップロードするので、応援いただけたら嬉しいです。
レオンハルトのその一言で、空気が凍りついた。
世界が絶望に染まる。
焦ったセルジュが、レオンハルトが見ていたその指名手配書改め、行方不明捜索願の紙を奪うようにして見つめる。
「王太子自らが『行方不明』扱いで探しているのですか?」
「ああ。王家の印章が入っている。きちんと本物のようだ」
――やめて。
それ以上、読まないで。何も、聞かないで。これから起こることへの恐怖から、喉がひくりと震える。
「ミアータ、お前は――」
レオンハルトが一歩近づく。
その一歩に、身体が強張る。少し近付いてきただけだったが、その距離ですら大きな恐怖を感じた。
捕まる。拘束される。『保護』される。そして、またあの場所に戻される――。
頭の中で最悪の未来が一瞬で組み上がる。
「何も言わないで!!!私に関わらないで!!」
「おい、待て!!話を――」
その手が伸びた瞬間、何も考えられなくなった私は反射的に風魔法を爆ぜさせた。相手が怪我をするかもしれないなんて、いつも考えるようなことは思考の隅にもなかった。いまあるのは、ただ、捕まらずにこの場所から逃げることだけ。
あの場所に連れていかれないことだけ。
脳内がジューサーで回転させられたように、ぐわぐわと回る。脳の神経が焼ききれそうになるほどの焦燥感に、身体から魔法が暴発していた。
「いっっつ!?」
突風が路地に吹き荒れる。
砂埃が舞い、セルジュが持っていた行方不明捜索願の紙が宙に飛ぶ。
二人も急な出来事に対応できるような余裕がないようだ。その隙に、私は身を翻して走り出していた。
彼らの言葉も、拘束しようとするその手も、全て振り払い、路地から出て逃げる。
「ミアータ!!!」
背後からは必死に呼び止めるような、もう耳に馴染んでしまったその声。
いつもであれば、名前を呼ばれて安心感すら感じるその声。でも、今は止まれない。
止まったら、全てが終わる。私の心も、人生も、これからの未来も、何もかも。
路地を抜け、再び祭りの大通りへ飛び出す。
花冠祭の喧騒。笑い声。音楽。そこら中に舞い散る色とりどりの花。振りそそぐ、ワイン。
その中を、私は全力で駆けた。
ブローチは既に付け直している。今は『印象の薄い顔』。しかし、追跡者は、手強い相手。
そして名前も、素性も知られている。
王太子の婚約者。逃亡者。報奨金付きの行方不明者。
「待て!ミアータ!話がまだ――」
「話なんて、ない!!」
レオンハルトの声が、ずっと追いかけてくる。
どうして追うの。あんなに信頼していたのに。捕まえる気でしょう。私を説得して、王都に送り届けるつもりでしょう。
祭りの祝祭を祝うご飯が売られる屋台の間をすり抜け、人混みの波に紛れ、街の中央にある橋を渡る。
背後の足音は、確実に迫っていた。
それはそうだろう。私は魔法特化の魔法使いで、彼は物理特化の戦士。私は風魔法で走る速度を底上げしているが、体力なんて、天と地ほど違うはずだ。分かっている。そんなこと、分かり切っている。それに、レオンハルトは本気を出せばもっと速いはずだ。
わざと距離を保って、追いかけてきている。まるで、獲物を追い詰める捕食者のように。
少しずつ、私の息が上がって、走る速度が落ちる。距離が縮まる。
肩にレオンハルトの手が掠ったのを感じた。捕まる――でも絶対に嫌だ。
私は広場中央の花冠の塔を回り込み、その裏手へ飛び込んだ……のだが、そこは建物に囲まれている行き止まり。
しまった、と思った瞬間、ついに身体を後ろから抱き留められた。
「捕まえた」
「……っ離して!」
振り払おうとするが、力のレベル――そもそもの筋肉量が違う。
「離して!私を王都に連れて行く気でしょう!?私は、死んでも、あんなところに帰ったりしない!!」
「はあ!?」
素っ頓狂な声を上げたのはレオンハルトの方だった。
「何を言ってる!?」
「だって!王太子の婚約者ですよ!?王家が探してるんです!捕まえれば大手柄でしょう!?でも、私は絶対に捕まってなんてやらない!!!」
息が乱れる。
こんなに叫んだのは、いつぶりだろうか。
全力で走って、息が上がっている状態からのこの叫びだ。喉が痛かった。
怖い。
本当は、レオンハルトを信じたいのに、信じられない。助けを求めたいのに、捕まえられるとしか思えない。
私の全力の拒絶に、レオンハルトは呆然とした顔をしたあと、額を押さえた。
「……俺が、報奨金や権力目当てに見えるか?」
「見えます!!」
セルジュも追いついてきたようで、肩で息をしながら言う。
「貴女を王都へ送り届けるような義理はありませんよ。捕まえる気もない。だから、僕らの話を聞いてください」
その言葉と共に、レオンハルトから解放された身体。
急に身体が自由になって、少し驚いたが、その驚きのお陰で冷静になれた――。
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あとがき:
恋愛小説大賞に必要な残り8000文字ほど。今日中に書き上げてアップロードするので、応援いただけたら嬉しいです。
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