好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼

文字の大きさ
23 / 39

23.

しおりを挟む
「返せっ、返せ返せ返せ!返せぇぇええええ!!!!」
「……すごい執着心だな。それにその魔力量――なるほど、私の魔法にかからなかっただけのことはある」

リオンは近接戦では風を纏った剣を振るい、距離を取れば連続する魔法と銃撃の合間に瞬間移動で距離を詰める。
しかし女は物理攻撃を軽くいなし、魔法を退けるだけだが、そんな攻防のせいで周囲の壁は傷つき、地面は抉れ、周囲は荒れ果てていた。いつの間にか城内に移動したその場所は、周囲の建造物に甚大な被害を出していた。
場は、リオンから放たれた濃厚な殺気で満たされている。

「だが、お前に用はない。そろそろ終わりに――」

女が手を翳して、強力な魔法を発動しようとした瞬間、何かに気を取られ、魔法は不発に終わる。
視線の方向を見ると、複数人の騎士に護衛されながら、転移ポートに移動しようとしているこの国の国王の姿があった。

「見つけた」

リオンが反応する間もない程の速度で女が何種類もの武具を国王に飛ばす。咄嗟に『しまった』と感じるリオンだったが、それらの攻撃は対象に当たる前に消滅した――。
リカルド=ハイラント。この国の白騎士団長が女の攻撃を無力化したのだ。

「リカルドさん!助かりました」
「ああ、仕事だからな。して、こいつが件の侵入者か。助太刀する」
「…………」

リオンはリカルドの参戦の言葉に何も答えることが出来なかった。クロエや自分と同じ団長格で且つ近い年齢の人間として、彼は交流が深かった。それなのに中身は違えど、彼女のことを憶えていないどころか敵として排除しようとしている。やはり誰も彼女を思い出すことはない。それにどうしようもなく心が痛む。

それと同時にもう一つの想いもあった。一拍置いて冷静になった今、正直この目の前にいる彼女に対して勝てる自信はない。そう思わせる程の化け物染みた力を感じる。その考えはリカルドという味方が加わっても変わらない、確信染みたものがあった。しかし、どうなるにしろ戦わないわけにはいかなかった。だってリオンが知る彼女は、他人を傷つけて笑顔でいられる人間ではなかったから。正気に戻った時に泣くのは彼女だ。だから彼は、今回の騒動で出たたくさんの範囲内の負傷者を治療し続け、同時に今もどんな絶望的な勝率であろうと闘うことを選択した。

***

そこからの戦いは一方的なものだった。
逃げようとしている国王を何故か殺そうと攻撃を繰り出す女に対して、ただただ攻撃をなんとか無効化するリオンとリカルド。二人は攻撃するどころか、女が攻撃してくる度に腕に足にと深い傷を負い、それをリオンの魔法で無理矢理治療することで戦っていた。

「お前達のせいで、私は――彼はっ」

女が深い恨みや怒りが籠った激情を言葉と共にぶつけると同時に魔力がどんどん膨らんでいく。女はリオンとは逆に先程まで保っていた冷静さがなくなり、直情的だが、例えるのなら天変地異と同等程の強力な攻撃を続けていた。
その状態が10分ほど続いた頃だろうか。ようやく国王を護りながら転送ポートまで数メートルのところに近づいた時だ。
ようやっと女の目がリオンとリカルドを捉える。獲物を逃がさないためにも、先に自分達を排除しようとしていると二人は咄嗟に察した。
剣やら槍やら複数の武器が四方八方から飛んでくるのを紙一重で躱していく。いつまでも終局しない武器の雨に、顔を歪めたその時だった。背後にいつの間にか女が現れ、リオンの首に刃を当てているという状態でピタリと止まった。

首を刎ねられる――。
薄皮一枚が切れ、隣にいたリカルドにもリオンの首が飛ぶビジョンが見えたが、瞬きの間にその構図は一転する。

「は?」

先程まで優勢だった筈なのに、今、女の首に剣を当てているのはリオンだ。
間抜けた一文字が女の口から漏れた。これは一種の賭け。きっと最後は背後から直接首を取りに来るだろうとリオンは準備していたのだ。流石に首周辺が負傷する覚悟はしていたが、何故か女の動きが直前で止まった事で思っていたよりもすんなりと成功させることができた。
彼は、自身の背後に戦闘中では気づかない程に小さく魔力でマーキングをし、いつでも位置の入れ替えが出来るように、所持している魔法の内の一つである空間転移系の魔法をいつでも発動できるようにしていたのだ。そうして今、女の首に剣を当てているのがリオンとなったのだ。まさに起死回生の一手。攻撃を緩めることなく、中々近付いてくることのなかった女が最後の最後にその手で直接首を取りに来るのを待ち続けていた故に発動出来た究極の一手だった。
そのままの勢いで、リオンは女の意識を刈り取った。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

花嫁に「君を愛することはできない」と伝えた結果

藍田ひびき
恋愛
「アンジェリカ、君を愛することはできない」 結婚式の後、侯爵家の騎士のレナード・フォーブズは妻へそう告げた。彼は主君の娘、キャロライン・リンスコット侯爵令嬢を愛していたのだ。 アンジェリカの言葉には耳を貸さず、キャロラインへの『真実の愛』を貫こうとするレナードだったが――。 ※ 他サイトにも投稿しています。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

平民とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の王と結婚しました

ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・ベルフォード、これまでの婚約は白紙に戻す」  その言葉を聞いた瞬間、私はようやく――心のどこかで予感していた結末に、静かに息を吐いた。  王太子アルベルト殿下。金糸の髪に、これ見よがしな笑み。彼の隣には、私が知っている顔がある。  ――侯爵令嬢、ミレーユ・カスタニア。  学園で何かと殿下に寄り添い、私を「高慢な婚約者」と陰で嘲っていた令嬢だ。 「殿下、どういうことでしょう?」  私の声は驚くほど落ち着いていた。 「わたくしは、あなたの婚約者としてこれまで――」

あなたの言うことが、すべて正しかったです

Mag_Mel
恋愛
「私に愛されるなどと勘違いしないでもらいたい。なにせ君は……そうだな。在庫処分間近の見切り品、というやつなのだから」  名ばかりの政略結婚の初夜、リディアは夫ナーシェン・トラヴィスにそう言い放たれた。しかも彼が愛しているのは、まだ十一歳の少女。彼女が成人する五年後には離縁するつもりだと、当然のように言い放たれる。  絶望と屈辱の中、病に倒れたことをきっかけにリディアは目を覚ます。放漫経営で傾いたトラヴィス商会の惨状を知り、持ち前の商才で立て直しに挑んだのだ。執事長ベネディクトの力を借りた彼女はやがて商会を支える柱となる。  そして、運命の五年後。  リディアに離縁を突きつけられたナーシェンは――かつて自らが吐いた「見切り品」という言葉に相応しい、哀れな姿となっていた。 *小説家になろうでも投稿中です

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」 結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は…… 短いお話です。 新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。 4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

白い結婚をめぐる二年の攻防

藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」 「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」 「え、いやその」  父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。  だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。    妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。 ※ なろうにも投稿しています。

処理中です...