貴方の『好きな人』の代わりをするのはもうやめます!

皇 翼

文字の大きさ
20 / 31

19.

改めて、アレン=ロスティシアと向き合う。睨みつけるように彼の出来物やシミが一つもない完璧に美しい顔を見つめると、彼はそれが気に食わなかったのか、ベッと舌を出してこちらに喧嘩を売ってくる。

「イルハルトも張り切っちゃってるみたいだけど、お前みたいな雑魚が俺に一撃なんて入れられるわけがないだろ」
「……貴方、本当に性格が悪いわね。いつかその鼻っ柱叩きおられるわよ?」
「いつか?じゃあ、今やってみろよ。ザ・コ」

本当にイラつく男だと感じた。そういえば昔の事が話題になると、現代のアレンは話すことを嫌がっていたが、きっとこれが原因だったのだろうと今更ながらその理由が分かった気がした。あまりにも態度も性格も全てが悪い。未来のアレンとは似ても似つかない。

「貴方の方が雑魚だって証明してあげますよ」

私が強気に出るのには理由があった。
現代のアレンがいくら嫌がると言っても、話していれば多少は昔の情報なんて出てくるものだ。ちょいちょい口を滑らせるアレンの話によって、学生時代の彼は『時間を止める魔法』が完全には覚醒していなかったということを知っていた。
止められても精々1分。それ以上は無理だった、と。だから私の実力であれば、確実に同じくらいの年齢の自分には勝てていただろうとも何度か言われたことがある。その言葉を心の奥底では信じていたからこそ、大口を叩くことが出来たのだ。

私の強みは、手数の多さ、そして馬鹿みたいに出る火力。これは、初めてアレンに褒められた時の技。

別に彼を殺したりなどというつもりはない。とりあえずの目標としては、雑魚呼ばわりだけはなんとかすると同時に、あの街の人達に対する仕打ちを後悔させてやりたいという気持ちで動いていた。

アレンの能力は時間を停止させること。正確には、自身の体と精神だけが時間を遡り続けることによって、止まっている時間に干渉する。その原理で時間を止めているのだ。
一見、最強の能力に見えるかもしれない。しかしどんな能力にだって弱点はあるものだ。

彼の最大の弱点は、『皮膚が触れた任意のものの時間だけ、自分と同じように時間を遡ってしまうこと』。
空気を吸うという行為や、他の物体を動かすと言った行為はこの仕組みのおかげでできている。だから、唯一の弱点とも言えるその部分を突くのだ。強制的に触れさせる状況を作る。
時間が止まっていたとしても、彼自身の身体には物理的力が働く。
空気や水、土などと言った自然物には彼の時間停止は効かない――否、生命活動に関わるため、自然と効かないように彼自身が無意識の内にしているのだ。だからそこが弱点になる。

最初に複数のあえて可視化しているカマイタチを生成し、それらを操ってアレンの方向に投げると同時。アレンを中心とした半径1キロ圏内に超巨大な水球を生成し、その水球の外側と敢えて空気を残すように作っていた自身の周囲を分厚い氷魔法で覆った。アレンがもし時間を止めたとしても、彼の身体にはこの水たちの性質が働き続ける。
でもこれだけでは足りない。
きっとアレンは内側のこの氷が魔法でどうにも出来ないと悟ると同時に、この水球の外に出ようとするだろう。だからこそその辺りの水には魔道具で電気を纏わせておいた。彼が想定通りに動けば、身体が麻痺して動かなくなるだろう。

そして決行。
体感最初の数十秒は、分厚い氷の向こう側から何かしら抵抗するような音が聞こえて来ていたが、それもすぐに止んだ。そして外側に張っておいた電気で麻痺する魔法が発動したのが魔道具から私に伝わってくる。
きっとアレンは私が魔道具で水魔法、氷魔法、雷魔法を発動させた直後に時間を止め、私に辿り着こうとしたのだろうが、途中でソレを断念。そして最終的にはこの魔法の圏外に出ようと外側に行ったのだろうことが、未来のアレンと無駄に付き合いが長い私には簡単に予測できた。

そうして決着がついたことを悟った私が、急いでイルハルトと共にアレンを助けに行った時には、彼は既にぐったりとしていた。
魔道具で少し増幅した回復魔法を施すと、麻痺が治ったのか、アレンは開口一番に怒鳴ってくる。

「ふっざけんな!!てめぇ、俺を殺す気か!!?」
「いや、別に殺す気はないですが。っていうか、時間を止めるなんて最強の能力を持ってるくせに、このくらいで死んじゃうの?」
「っぶふ!!……本当にステラは面白い子ですね」

イルハルトが笑ったことに、更に怒りが沸いてきたのだろう。アレンの蟀谷がぴくぴくと動いているのが見えた。
しかしながらこの戦略が簡単に通じたのも、アレンが若かったからこそだろう。実際、未来のアレンは毒で全身が痺れた状態のはずなのに、『今回は参ったよ』などと言いながら、平然と立っていやがったのだ。だから、今のアレンも似たような感じで出てきたとしても、死にはしないだろうと考えていた。けれど予想以上にアレンは麻痺でダメージを受けており、怒られて煽りはしたが、一番驚いていたのは私自身だった。

「お前……ステラ!!いつか、絶対倒してやるからな!!これで終わりだと思うなよ!」
「……はぁ?」

そう言って、アレンは魔法で一瞬のうちに目の前から消える。
上品さの欠片もない去り際だった。

「……君も目を付けられてしまいましたね」
「元はと言えば、貴方のせいでは??何、無関係を装っているんです?」

私は勢いでとはいえ、結局あのクソ生意気な昔のアレンと関わることになってしまったことを少しだけ後悔していた。

あなたにおすすめの小説

三度裏切られた私が、四度目で「離婚」を選ぶまで

狛犬
恋愛
三度、夫に裏切られた。 一度目は信じた。 二度目は耐えた。 三度目は――すべてを失った。 そして私は、屋上から身を投げた。 ……はずだった。 目を覚ますと、そこは過去。 すべてが壊れる前の、まだ何も起きていない時間。 ――四度目の人生。 これまでの三度、私は同じ選択を繰り返し、 同じように裏切られ、すべてを失ってきた。 だから今度は、もう決めている。 「もう、陸翔はいらない」 愛していた。 けれど、もう疲れた。 今度こそ―― 自分を守るために、家族を守るために、 私は、自分から手を放す。 これは、三度裏切られた女が、 四度目の人生で「選び直す」物語。

結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です

柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。 そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。 真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。 けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。 「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」 彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。 アンリは実は、亡き国王の婚外子。 皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。

戦場から帰らぬ夫は、隣国の姫君に恋文を送っていました

Mag_Mel
恋愛
しばらく床に臥せていたエルマが久方ぶりに参加した祝宴で、隣国の姫君ルーシアは戦地にいるはずの夫ジェイミーの名を口にした。 「彼から恋文をもらっていますの」。 二年もの間、自分には便りひとつ届かなかったのに? 真実を確かめるため、エルマは姫君の茶会へと足を運ぶ。 そこで待っていたのは「身を引いて欲しい」と別れを迫る、ルーシアの取り巻きたちだった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

【完結】好きでもない私とは婚約解消してください

里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。 そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。 婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。

【完結】愛されていた。手遅れな程に・・・

月白ヤトヒコ
恋愛
婚約してから長年彼女に酷い態度を取り続けていた。 けれどある日、婚約者の魅力に気付いてから、俺は心を入れ替えた。 謝罪をし、婚約者への態度を改めると誓った。そんな俺に婚約者は怒るでもなく、 「ああ……こんな日が来るだなんてっ……」 謝罪を受け入れた後、涙を浮かべて喜んでくれた。 それからは婚約者を溺愛し、順調に交際を重ね―――― 昨日、式を挙げた。 なのに・・・妻は昨夜。夫婦の寝室に来なかった。 初夜をすっぽかした妻の許へ向かうと、 「王太子殿下と寝所を共にするだなんておぞましい」 という声が聞こえた。 やはり、妻は婚約者時代のことを許してはいなかったのだと思ったが・・・ 「殿下のことを愛していますわ」と言った口で、「殿下と夫婦になるのは無理です」と言う。 なぜだと問い質す俺に、彼女は笑顔で答えてとどめを刺した。 愛されていた。手遅れな程に・・・という、後悔する王太子の話。 シリアス……に見せ掛けて、後半は多分コメディー。 設定はふわっと。

あなたの言うことが、すべて正しかったです

Mag_Mel
恋愛
「私に愛されるなどと勘違いしないでもらいたい。なにせ君は……そうだな。在庫処分間近の見切り品、というやつなのだから」  名ばかりの政略結婚の初夜、リディアは夫ナーシェン・トラヴィスにそう言い放たれた。しかも彼が愛しているのは、まだ十一歳の少女。彼女が成人する五年後には離縁するつもりだと、当然のように言い放たれる。  絶望と屈辱の中、病に倒れたことをきっかけにリディアは目を覚ます。放漫経営で傾いたトラヴィス商会の惨状を知り、持ち前の商才で立て直しに挑んだのだ。執事長ベネディクトの力を借りた彼女はやがて商会を支える柱となる。  そして、運命の五年後。  リディアに離縁を突きつけられたナーシェンは――かつて自らが吐いた「見切り品」という言葉に相応しい、哀れな姿となっていた。 *小説家になろうでも投稿中です

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。